GOD EATER〜Dual sniper〜   作:CiAn.

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決して触れ合うことは許されない


連鎖

人の心がこんなにも脆いものとは思わなかった。

憩がいなくなってからもう何日経っただろうか。あの日から俺はずっとベッドで息絶えた憩の顔を眺めていた。神の死体はいつまでも朽ちることがなく綺麗なままだった。

「なんで生きてないんだよ……」

せめて骸となってくれれば現実を見れたかもしれないのに、これでは望みを捨てきれない。

「ねえ、お兄さんはどうしてここにいるの?」

隣のベッドにいる入院患者の女の子が俺に話しかけてきた。その頭に手を置きながらその問いに答える。

「大切な人がまだここにいるから、出るに出られないんだ……」

「お兄さん、私のこと触っていいの?」

なぜこんなことを聞くのか。その答えは単純、この子は黒蛛病という病気にかかっているからだ。触れるだけでも感染するので家族の面会も制限が付く。

「ああ、大丈夫だ」

ただ、俺はこの子に触れても問題はない。同じ病を患った俺には関係ないのだ。

「えへへ……。嬉しいな、みんな離れていっちゃったから寂しくて……」

「そうだな、1人は寂しい」

どうすれば俺は2人で暮らす未来を作れたのだろうか。もっと早く気付くことはできなかったのだろうか。

「そろそろ、任務に行かなきゃな……」

力がうまく入らない脚を叱咤して無理やり立ち上がる。

風邪の初期症状に似ているがこれは黒蛛病だ。世界中からの患者のデータで個人により症状の進行具合は異なるらしく、俺を含めて極東支部の黒蛛病患者は著しく進行が遅かった。

しかしいずれ、吐血や嘔吐感に苦しみ体に蜘蛛のような黒い跡が浮かんでくるだろう。そうなると死は免れられない。

俺の逝き先に憩はいるのだろうか?

 

 

 

 

「エリナ、1度離脱する。支援してくれ」

「了解!」

敵のボルグ・カムランと戦いの最中、俺は激しい痛みに襲われた。

別に攻撃を受けたわけじゃない。身体中が熱を持って痛むのだ。まともに神機を振るうことすらできない。

おそらく黒蛛病の初期症状だろう。まさかこんな時に発症するとは……。

しかし、それは相手には関係なく無情にもボルグ・カムランの針が俺を貫かんと迫っていた。

とっさに横に逃げたがいつもより動きが遅くなり肩にかすめてしまった。出血を自覚すると同時に痛みが俺を襲った。これが直撃していたら腕が飛んでいたかもしれない。

(無様なもんだな、俺も)

「逃げるよ、蒼葉!」

エリナがスタングレネードを使い、ボルグ・カムランが目を眩ませているうちに戦線から離脱する。

首の皮一枚、命を繋ぐことができた。この任務に1人で来なくてよかった。

千鳥足で安全圏まで移動した俺の顔をエリナが覗き込んできた。その表情はこちらを心配しているものだった。

「大丈夫なの?顔色すごく悪いけど……」

そう言って手を伸ばしてきたエリナに俺はハッとする。

「触るな!」

その言葉は怒気が含まれていて自分でも驚いた。エリナは一歩後ずさってこちらを見ていた。

「な、なにいきなり……」

「……悪い」

場の空気に耐えられず俺は1人で帰投することにした。神機はいつもより重く感じられ、地面に切っ先をつけて引きずりながら歩いた。

 

 

 

 

「……蒼葉」

任務の前のように憩のもとへ向かおうとしていると、廊下にいるジーナさんに話しかけられた。

「どうかしましたか……?」

「あなた、赤い雨に当たったんじゃない?」

「……まさか。そんなはずありませんよ」

そう言ってもジーナさんは俺から目を離さなかった。隠し事はできないようだ。

「……すみません。憩のところに行ってきます」

「あなたが目をそらしたくなる気持ちも分かるわ。それでも、今は向き合いなさい、……神の死と自分の未来に」

「いいえ、あいつは俺の姉ですよ」

でなきゃ、こんなに悲しむこともない。自分でも知らないうちに家族と認めていたんだ。

この世界でたった1人の家族だと。

「それに、俺は死にません。どんな手を使ってでも黒蛛病を治してみせます」

「頼もしいわね」

そう言うとジーナさんは俺の手を握ってきた。グローブ越しに優しい手つきが伝わってくる。

「それなら、約束よ。この手をいつか、しっかりと握らせてくれるかしら。もちろん何も着けずに」

「……はい。約束します」

俺の言葉に満足したのか、ジーナさんは手を離した。

「黒蛛病になったと明かしてしまえば、戦場に出ることはできないわ。でも戦えば負担は大きくなるでしょうね。これからどうするの?」

「もちろん戦いますよ。それがこの世界で俺がすべきことですから」

「そう言うと思ったわ」

口元に手を当てて笑うジーナさんにもう不安の色はない。俺もいつまでも足踏みはしていられないな……。また心配かけても悪いし。

「あ、それと、エリナとエミールがブラッドの方で少し働くそうよ。明日には出発らしいわ」

「そうですか、なら一言かけておかなければなりませんね」

ブラッドのことは少しだけ聞いている。なんでも俺たちとは若干異なる偏食因子を取り込んだ神機と適合者の集団らしい。そのため適合は極めて難しく、人数自体が少ないのが現在の問題らしい。

しかし、それを差し引いても「血の力」と呼ばれる覚醒系の能力は羨ましい。戦況を有利に運ぶことができるのは強みだ。

(ま、それはさておき)

「じゃあ憩の所に行くので俺はこれで」

「そう……」

ジーナさんの声を背中で聞きながら俺は何度目かも分からない、静かな面会に向かった。

そろそろケジメを付けなければならない。

 

 

 

 

「恋の期間が長いのはおそらく人間だけなのだろうね」

私のことなど意に介さず、榊支部長は突然自論を展開し始めた。自分から足を運んだ身であるので一応聞いておく。

「動物の恋はあまりにも短い。なぜならそれは繁殖が1番の使命だからだ。求愛もほわんのわずかで終わり、後は子孫を残すことのみを考えるんだ」

「そうね」

「だが、人は違う。人生の伴侶を決めるために長い年月をかけて恋をする。実に面白いと思わないかい?」

はっきり言って面白くはない。これが当たり前だと思ってしまっているから興味自体が薄れている。

「ディキンソン君。君は恋をしてどう思ったかい?」

「そうね……、初めてだからよく分からないけど放って置けなくなるわ」

そう、私はいつからか彼を気にかけるようになっていた。これが恋という確信はないけれど、他の人に対して抱いたことのないものだというのは分かった。

スコープを通さずに肉眼で捉えた彼は今は衰弱している状態というところか。アラガミとは違う、命の関わらない交流を少しばかり楽しむ私がいた。この時間をまだ終わらせたくはない。そのために

「でも、嬉しいよ。赤い雨の研究の協力に願い出てくれたのは君が初めてだ」




話的にはやっと動き始めた感じです。
この作品のコンセプトである運命への抵抗。これを存分に活かせられたらと、思います。
あと、更新遅くなってすみません!
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