GOD EATER〜Dual sniper〜 作:CiAn.
「突然の招集に混乱している者もいるとは思うが、今から話すことは最重要項目だ。よく聞いてほしい」
早朝にエントランスに呼び出された私たちは雨宮大尉の登場とともに気を引き締めた。用件はだいたい予想がついている。
「約1ヶ月前にアラガミ化したと報告された『山吹蒼葉』の討伐命令が出された」
「そんな……」
アリサが驚きの声を発しているのも無理はない。なぜなら蒼葉はアラガミとしての人的被害を未だに出していない。それどころか人であった時のようにアラガミを討っているらしく、一部のカルトからは神格化されていた。
ではなぜ彼が討伐対象になるのか?それは『最悪の可能性』を考慮してのことだった。
通常のアラガミ化は本来人としての意識など残ってはいない。例外があったとしたらリンドウさんくらいだ。その時も時間が進むにつれてゴッドイーターにも攻撃を加えるようになった。その時のことを本人は体の自由がきかなかった、と言っていてその後からは長い間人としての意識は表に出てなかったらしい。
危惧されているのはそういうことだ。完全なるアラガミ化が訪れる前に彼を討つ。おそらく蒼葉は私たちの意図を汲み、向けられる刃を受け入れるだろう。
(だとしても複雑な気分ね……)
雨宮大尉の説明が続く。
「なお、これらの情報は基本的に極東支部外での漏洩は故意であってもなくても処罰の対象となる。注意するように」
「あの、質問いいですか?」
そう言ったのは極東支部第一部隊隊長の藤木コウタだった。コウタも部隊長としての責任からか真剣味を帯びている。
「なんだ?」
「基本的にっていうのはどういうことなのかなーって……」
「ああ、それも説明しようとしていたところだ。入れ」
その言葉と共に現れたのはしっかりと切りそろえたブロンドの髪の青年を筆頭にした6人の少年少女。その後ろにはエリナとエミールがいた。
「フェンリル極致化技術開発局、特殊部隊ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ、以下5名到着しました」
文句のつけようがない綺麗な敬礼をして見せた青年の名はジュリウスというらしい。その後ろに控えた5人もあどけない表情ではあるが使命感に燃えた目をしている。
「山吹蒼葉がアラガミ化した個体だが、これは以後『ツクヨミ侵食種』と呼ぶことになった。しかしその戦い方は他の個体とは違い精密な射撃、腹部にある6本の爪のような部位で素早い斬撃を繰り出す。遠近双方手強い敵だ、注意するように」
「「「了解」」」
「すみません、あなたがジーナ・ディキンソンさんですか?」
討伐班に選ばれた私は出撃前にバレットの調整をしていた。後ろから声をかけられ振り向くと先ほどのブラッドのメンバーがいた。
「ブラッド副隊長のクノー・レイノースです」
「防衛班所属のジーナ・ディキンソンよ。これからはよろしく」
ブラッドの副隊長と名乗ったその女性は私の言葉を聞き終わるとよろしく、と手を差し出してきた。その手を取って握り握手をする。
しかし、彼女は何のために私のところに来たのだろう。
「今回の任務はおそらく長期間に渡るものになるわ。その理由の1つでもあるのが対象の偏食場パルス」
「ええ、聞いているわ。そこにいると神機が正常に機能しなくなるんでしょう?」
「その通り」
しかもこれに対処できるのはブラッドの隊員だけだと言うのだから手に負えない。どうにも彼らの偏食因子は私たちのものと構造が異なるようで、そのおかげか影響を受けないらしい。便利なものだ。
「それと、ここからは内密に話したいんだけど……」
「何かしら?」
声のトーンを落とし軽く周りを警戒してから女性はもう一度口を開いた。
「今回の任務、あなたは本当に討伐を望んでいるの?」
「いいえ」
自分でも驚くほど早く答えが出ていた。相手も面食らった表情をしている。
「さすが歴戦のゴッドイーターは答えを出すのが早いわね。エリナから少し話は聞いてるの。彼は取っ付きにくい部分はあるけどいい人だって。それにあの子も言いたいことがあるって」
「そうね。私もまだ蒼葉と倒してないアラガミがたくさんいるし、ここで別れる気はないわね」
「私も可能ならばアラガミ化したゴッドイーターを救いたい。幸い、極東にはその前例があるわ。異例ではあるけれど」
おそらくクレイドルの彼のことを言っているのだろう。確かに不可能ではないのかもしれないが、最低でも同じ条件を揃えて挑む必要がある。1番難しいのは……
「蒼葉の神機を使えるゴッドイーターを探す必要があるわ。あの特異例と条件をそろえるなら」
「でも、それ以外に方法もないのも事実でしょ?」
それは分かっている。しかし上手くいくかどうかは別ではないだろうか?
「私はエリナから聞いたことででしか彼を知らないけど、助けたいと思っているわ。今まで誰かのために戦ってきたゴッドイーターを手にかけることが当たり前だなんて悲しいわ……」
「優しいのね」
「ただの夢想屋よ。どうしようもない、ね」
そう言って自嘲気味に笑うクノーはどこかで見たような世話好きな顔をしていた。いったいどこで見たのだろうか?
「それに、そういう夢想屋を慕ってるやつもいるしな」
「ギルも手伝ってくれるの!?」
「俺だけじゃない。他のやつらも討伐なんて望んでないしな」
ギルと呼ばれた男性がそう言って振り返ると先ほどのブラッドのメンツが立ち並んでいた。
「我々人類はいかなる時代においても訪れた苦難を退け、あるいは乗り越えてきた。その人類の守護者である俺たちゴッドイーターならこれくらいの壁は乗り越えられるだろう」
「ジュリウス……。ありがとう、認めてくれるんだ」
「私はクノーが初めての友達でした。自分が慕う人を失うなんて、経験は幸いしたことがありませんが誰にもそんな悲劇を味わってほしくはありません」
「そうそう。みんな幸せでご飯を食べるのが一番だからね!」
「シエル、ナナ……」
そう言ってクノーは2人に抱きついた。どれだけ感動しているのだろうか?
「まったく……。そうは言っても命令違反に変わりないんだからもう少し緊張感を持てよー」
「分かってるよ、ロミオ先輩」
そんな彼女らのようすが気になり聞いてみた。
「みんな乗り気なのね。事前に話してたの?」
「さすがに私1人でどうにかなる問題じゃないしね」
こんな無茶をする人がいたな、と少し前の極東支部を思い出す。このクノーも後のことを考えないでその時正しいと思うことをするのだろう。
「それじゃあ、私からもお願いしてもいいかしら?」
「ええ、もちろん」
目的は変わった。今はただ彼にもう一度寄り添うために、彼の心の穴を埋めるために、もう一度会わなくてはならない。
「蒼葉を救いたいの。協力してくれるかしら?」
「「「了解!!」」」
その声は討伐任務を受けた時よりも大きく、綺麗に声が重なっていた。
「ふふっ、こんな所にいたんですね」
病室の一角、この世の者とは思えないほどの美貌を持った女性の遺体が眠っている場所に1人の女性が訪れた。その表情は恍惚というに相応しいほどの喜びをたたえていた。
「素晴らしい神の器。この世界の新たな秩序を生み出す者……」
不敵に笑うその女性は眠り続ける美しき骸に手を伸ばした。未だに艶を保った肌に指を這わせるように。
あと1,2話で終わりになります。それまではジーナさんとのイチャコラはないですすみません!(初めからなかった)
しかしジーナさんって何に興味があるんでしょうね?個人的にパーカーとか似合いそうだなーと思います