ゆっくりしている場合じゃないって気付いた
「……ねぇ、さっきの続きやろ?」
「いや、流石に疲れたんだよ。寝かせてくれ」
……なんだこれ。
家に帰って思ったことがまずそんなことだった。
博麗神社で開かれた宴会は美味しい食べ物も多く、私もなかなかに満足することができた。お酒も嫌いじゃないけれど、食べ物の方がやっぱり好きだ。
美味しい物も食べることができ、幸せな気分で帰宅。そして家の中に入ると、知らない少女が居た。えと、誰?
「……むぅ、いつも青は寝なかった」
「あの時は能力使ってなかったからな、でも今は霊力切れ、もう無理動けない。寝たい」
寝転がった変態に跨り、変態の両肩をゆさゆさと揺する少女。なんだこれ。何が起きているのかさっぱりわからない。
それにしても、なんだか変態の様子がおかしい。変態の上に乗っている少女は、10人いたら10人が可愛いと言うような容姿。そんな可愛らしい少女がいると言うのに、変態が暴れていない。
いや、暴れられても困るんだけどさ。
「……私はまだ眠くない」
「そんなこと知るか。って、あら? おお、ルーミアじゃん、帰ってきてたんだ」
うつ伏せに寝ていた変態が顔だけあげて、私にそう声をかけてきた。
何も見なかったことにして、今日のところは寝てしまおうかとも考えていたけれど、声をかけられたのなら仕方無い。
「ただいま」
「おう、お帰り」
「……おかえり」
変態に続いてあの少女もそう声をかけてくれた。
ホント、誰なんだろう?
「そっちにいるのは?」
「俺も詳しくはわからんが……まぁ、ようはただの熊畜生だよ」
つまり熊の妖怪ってことなのね。妖力なんて全く感じなかったから、わからなかった。
てか、なんでそんな妖怪がいるんだろう。悪いことは言わないから、その変態と関わるのは止めておいた方が良いよ?
「……また畜生って言った」
突然だった。
馬鹿げている程の妖力が熊少女から溢れ出した。それは肌を突き刺すような、全身を締め付けるようなほどの力。ギシギシと柱が軋む音がする。呼吸が上手くできない。
……勘弁して欲しい。私のような弱小妖怪じゃこれだけでも辛いのだから。それにこれは妖力だけじゃなくて……神、力?
「おい、こら。家の中では妖力禁止だって言っただろうが。早く戻しなさい」
「……青が私のこと畜生って呼ぶからいけない」
そんな声が聞こえたと思ったら、あの妖力はなくなった。
なんだか面倒なことになっちゃったなぁ……
私はただ平穏な生活を送りたいだけなのに。
――――――――
霊力は既に空。体も疲れが抜けず絶不調だ。
だから寝て回復しようとしたが、困ったことにあの熊畜生が俺を寝かせてくれない。
『……今夜は寝かせない』
とかなんとか畜生は言いやがった。響きだけならなんとも素敵なセリフだが、其処に甘露な意味など込められてはいない。だって『朝まで甚振り殺してあげるね』と言っているのと何ら変わらないのだから。
宴会で疲れたのかルーミアは寝るそうで、帰って来て早々に自室へ行ってしまった。俺も寝かせてほしいんだけどなぁ。
そんなことを畜生は許してくれず、家の中で騒ぎルーミアを起こしてもいけないから家の外へ出ることにした。
「……やっぱり夜の方が気持ちいい」
目を閉じ、風でも感じているかのように畜生が言葉を落とした。
季節は夏ど真ん中。それでも幻想郷の夜は、涼しいと感じられる程度に過ごしやすかった。
そんな畜生へ視線を移す。
整った顔立ち。長い綺麗な黒髪。身長は俺よりも少し低い程度。膨らみがわかる程度の胸。つまりどう見ても美少女。本当はこれが、あの体長4m近い熊畜生だと言っても信じられる奴はいないだろう。
わからない世の中だ。
わからないことだらけで嫌になる。
「んで、何をするんだ? さっきも言ったように俺の身体は動かんぞ」
空を飛ぶことだってできやしないだろう。正直、今直ぐにでも倒れそうなくらいなんだ。
「……じゃあ、遊べないの?」
「ちょっと無理だな」
俺がそう応えると、畜生は酷く悲しそうな顔をした。
いや、そんな顔をされても……。何ですか? 人のことそんなに殺したかったの?
多分だが、俺だって弱くはないはずだ。霊力だってかなり多いだろうし、能力も弱いものではない。まぁ、要はこの畜生がおかしいのだ。アレだけ暴れておいて、どうしてまだ余裕なんだよ。
「……でも私は青と一緒にいたい」
あ~……なんだろうな。
此処までストレートに好意的なものを向けられることはなかったから、その……どうして良いのかわからない。
かなり歪んではいるが、畜生の好意が偽りだとも思えないし……どうしたものか。
「お前はいつ寝るの?」
「昼間、夜のが好き。あと冬は嫌い」
ああ、一応睡眠はするのか。もしかしたら寝ないんじゃないかと思ったが、良かった。どうやらちゃんと寝てくれるらしい。四六時中コイツに付きまとわられたら、ストレスでハゲそうだ。
それに冬が嫌いってことは冬眠でもするのか? 昔はしていなかったと思うが……まぁ、冬眠してくれる分には構わない。その間は晴れて自由の身となるわけだし。
むぅ、ダメだ。頭が回らない。目蓋が重い。本当に疲れが来ている。
「やっぱり限界。すまんけど、ちょっと寝るわ」
「……うん、わかった」
視界がぼやけ始める。ま、たまには外で寝るのも悪くはないかもしれない。
悪いな。
本当はもう少し構ってやりたいんだけどさ。どうにもこのひねくれた性格が邪魔をするんだよ。もう少しくらい素直になれたら良いんだけどなぁ……
――――――――
青のことは好きだ。好きだけども、あの“畜生”と呼ばれるのは好きじゃない。確かに私は畜生だけども、それじゃあ寂しい。
もし私に名前があったら、青はその名前を呼んでくれるのかな? 呼んでくれたら嬉しいな。
そんな青が寝ちゃった。
ちょっと悲しい。久しぶりに青と会えて私は嬉しかった。久しぶりに一緒に遊んで私は楽しかった。満足できたわけじゃないけれど、今日はこれで良しとしよう。
それにこれからは青と一緒にいるのだし、機会なんていくらでもあるはず。
そう考えると、クスリと笑が溢れた。
暫くの間、風の音を聞きながらボーっと青を眺めてみる。すぅすぅと寝息を立てて眠る青。目の前に私がいると言うのに、その姿はあまりにも無防備。食べちゃうよ? 食べちゃおうかな。
でも、それはやめておいた。別に青が私のことをどう思っていようが、気にはしないけれどやっぱり嫌われたくはなかったから。だから青を食べる時は、青が起きている時にしようと決めた。
とは言っても、青が寝てしまうと私はやることがなくなる。
るーみあも寝ているみたいだし……
困った。やることが何もない。
名前、考えようかな。青にその名前で呼んでもらえるように。
でも良い名前なんて何も思い浮かばない。これは困る。
ああ、そうか。青に名前を決めてもらえば良いんだ。そうすればきっと私の名前を呼んでくれる。うん、それが良い。それが素敵な名前だと嬉しいな。
そう考えがまとまったところで、私は青の隣で眠ることにした。背中からぎゅっと抱きつけば、青の匂いが良くわかる。
ずっとこんな生活が続けば良いだなんて、贅沢なことを考えながら私の意識は落ちた。
――――――――
ようやっと寝られると思ったら、身体に激痛が走った。
マジ意味わからん。何? 何事ですか?
ミシミシと嫌な音を出し続ける俺の体。圧迫された肺は空気を吸い込むこともできず、声も出すことができない。
後ろから腕を回されがっちりと固定。たぶんあの畜生が抱きついてきたのだろう。冗談ではない。勘弁してください。
いつもの俺なら、背中に感じられる柔らかな感触を楽しむところだが、今はそれどころではない。死が刻一刻と迫ってきている。両腕の感覚は既に怪しい。誰か……誰か助けてください。
まぁ、ダメでした。
でも4回くらいで済んだから、まだ良い方なんじゃないかなって思います。
畜生のホールドから逃れる頃には、もう東の空が明るくなり始めていた。結局ほとんど寝ていない。それもこれも全部この畜生がいけない。
「気持ち良さそうに寝やがって……」
すぅすぅと寝息を立て、気持ち良さそうに眠る畜生。
今の俺ならコイツを殺すことができる。前回のように能力を使用すれば良いだけなのだから。
……まぁ、そんなことできるわけがないんだけどさ。
可愛い女の子を外へ寝かせておくわけにもいかなかったため、仕方無しに畜生を抱え、家の中へ移してやることにした。持ち上げた畜生は驚くほどに軽く、違和感がパない。
こんな軽い身体にどれだけの力が入っているんだか……
俺の布団の上まで移す間、畜生が動くことはなく、気持ち良さそうに眠り続けた。のんきなものだ。
これからどうなるのなんてわからない。
けれども、悪くはないのかもしれない。な~んて畜生の寝顔を見ながら思った。
もう14話だそうです
そ、そろそろ物語を進めねば
と、言うことで第13話でした
クマさんを書いているのが楽しくて、こうなりました
デレてくれたヒロインはよく消えてしまいますが、クマさんはどうでしょうね?
次話もこんな感じになりそうです
東方キャラは誰を出そう……
では次話でお会いしましょう