縁側へ座り、お茶を啜る。
秋の香りはし始めているが、まだまだ暑い季節が続く。それだからこそ熱いお茶はよりいっそう美味しく感じられた。
こうやって縁側へ座り、お茶を啜っているとゆっくりとした時の流れを感じることができる。
それは嫌いじゃない。
「……なんであんたが当たり前のように家にいるのよ」
ため息とともにそんな言葉が聞こえた。
「何言ってんだ。俺と霊夢の仲だろ?」
「帰れ」
取り付く島もない。相変わらず辛辣だ。
いや、だってねぇ……
あの熊畜生と一緒に暮らすようになって早10日。
そんな新しい生活は毎日が修羅場だ。
夜となる度に畜生は俺へ襲いかかってくる。夜の営み的な襲いかかるならいつでもウェルカムだが、そうではない。問答無用で殺される。
見てくれだけなら悪くはないのに、やることがえげつない。流石の俺でも、可愛い女の子に食べられるのは勘弁してもらいたい。熊怖いよ、熊。
おとなしくしていてくれれば、ただ可愛いだけなんだけどなぁ。
そんな畜生の蛮行に俺だって抵抗はしている。しかし、俺と熊畜生の間には力の差がありすぎる。俺じゃあアイツに勝てません。だって熊さん超強いもん。
畜生の身体は随分と小さくなった。そのせいか俊敏さがヤバい。そのくせ、力の強さは全く変わっていないらしい。軽いジャブで死にます。
「なんだよ、随分と冷たいじゃないか」
「暑いのだからちょうど良いわね」
癒し成分の塊であるルーミアも畜生とばかり遊んでいるせいで、最近は俺を構ってくれない。そんな生活を続けていれば、良い加減俺の心が死ぬ。
そうならないよう、今日は博麗神社へ行くことにした。霊夢の脇を見ればまた頑張れる気がしたから。癒しをください。
そうだと言うのに、肝心の霊夢が冷たい。これじゃあ、脇を見せてくださいだなんてとてもじゃないが頼めない。
まぁ、お茶をいただけただけでも充分か。
「ああ、そうだ。なぁ霊夢。この前言っていた、博麗神社へ代々伝わるお酒を俺にくれないか?」
俺が渡した物だから、もらうと言うより返してもらうと言った方が正しいが。
まぁ、元々は俺が頼光たちから奪っただけなんだけどさ。
「嫌。いくら美味しくないお酒だろうと、ただであげるわけないでしょ」
そりゃあそうか。博麗神社に代々伝わるお酒なんだ、そんな簡単にはくれないか。
かと言って何かあげられる物なんて何もない。体で払うとか言ってみたいが、絶対に殴られる。霊夢さん容赦ないし。霊夢の好感度を下げるわけにはいかないのだ。
「てか、霊夢ってあのお酒飲んだの?」
「飲んでないわよ。あんたに言われて飲んでみようと思ったけど、香りがもう不味そうだったからやめた」
香りは……どうだったかな? 昔のこと過ぎてそんなことも覚えていない。もう300年は前のことだもんな。
とは言ってもなぁ、あのお酒があれば畜生にも多少は抵抗できる気がする。もしかしたら意味はないかもしれないが、できることはやりたいじゃないか。負けっぱなしは趣味じゃないのだ。
しかし、俺はあの畜生をどうしたいんだろうな?
正直、あの畜生を殺すことは難しくない。寝ているところを殺れば良いだけなのだから。けれども、どうしてもそんな気にはなれなかった。
ずるいよなぁ……だって、アイツ滅茶苦茶可愛いんだもん。手なんて出せるわけがない。
そう言えばあの畜生ってまだ神様なのか? 残念ながら俺は神力や妖力を見極めることはできない。けれども、確かあの畜生って山神だったよな。山には戻らなくても良いのだろうか?
今度、聞いてみるとしよう。
「……あんた、あの異変が起こることを知っていたの?」
うん? ああ、紅霧異変のことか。
まぁ、そりゃあ知っていたけど、どうして知っていたのかなんて言えるわけがない。しまったな。最初に出会った時いらんことを言ったか。ちょっと格好つけてみたらこれだよ。呪われているんじゃないだろうか。
う~ん……はてさて、どうやって誤魔化したものか。
「まぁな」
「どうして知っていたのよ?」
正直に言ってしまうのは簡単だ。けれども、此処は言っていけない場面だろう。自分の生きている世界がゲームの中だなんて思いたくもない。
「レミリアから聞いていたんだよ」
「嘘ね」
「嘘だよ」
ダメか。誤魔化せないか。
流石は霊夢、良い勘をお持ちなことで。
「ま、俺だって色々あるんだよ」
「色々……ねぇ」
ヤバい、めっちゃ怪しまれてるよ。
「ほら、謎の多い男ってカッコイイだろ?」
「あんたは格好良くない」
……そうですか。
一度で良いから、可愛い女の子からカッコイイって言われてみたい。まぁ、俺には似合わんか。それくらいはわかっているさ。
それにしても博麗神社って居心地が良いんだな。
縁側へ腰掛け、お茶を啜る。偶に吹く風を感じながら、日がな一日過ごすのも良いかもしれない。今の俺の家が居心地悪いだけかもしれないが、できることなら此処で暮らしたいくらいだ。
もしかしたら霊夢だって一人で暮らしているのは、寂しいと思っているかもしれない。
まぁ、もしそうなってもあの畜生はどうせ俺の所へ来るだろうけどさ。モテる男は辛いのだ。
ずずりと未だ熱いお茶を啜る。
上を見上げれば、真っ青な空に飛び島のような積雲が見える。青い空に白い雲は良く映える。それはまさに夏の空。
秋空へと変わるにはもう少し時間がかかりそうだ。
ずっとずっと昔から、この景色は変わっていないのだろう。目まぐるしく変わるこの世界には珍しく、随分とのんきな奴だ。
一方、俺は少しくらい変わることができただろうか。
目を閉じる。
暑さがよりいっそう感じられる。
目を開け、残り僅かとなったお茶を一気に喉へ流し込む。うん、美味しい。
トンっと湯呑を縁側へ湯呑を置いてから立ち上がり、大きく伸びを一回。パキパキとなる骨の音が心地良い。
「さて、そんじゃ俺は帰るとするよ。お茶ありがとう」
「はいはい、どういたしまして。さっさと帰りなさいな」
此方に視線を向けることもなく手を振る霊夢。そんな霊夢の行動が少し面白かった。
ふむ、やはり霊夢の攻略には時間がかかりそうだ。できれば晒しの一つでもお土産にいただきたいところだが、そんなことを頼める雰囲気ではない。
「また来ても良いか?」
「ダメって言っても、どうせ来るんでしょ? 今度来るときは何か持ってきなさいよ」
ああ、忘れないよう持ってくるよ。
良かった。どうやらまた来ても良いらしい。嫌われていなければ助かるが……どうなんだろうか? どうにも幻想郷の少女たちは、真っ直ぐじゃあない娘が多いから勘違いしてしまう。
でも難しいよね。素直になるって。
日はまだ高く、畜生はどうせ寝ていることだろう。畜生が起き、騒がしくなるまではルーミアといちゃいちゃさせてもらうとしようか。
次の異変まではまだまだ時間がある。のんびり行かせてもらおう。
碌な過去を歩んできたわけでもないくせに、未来なんて何も見えない。相変わらずに行き当たりばったりな人生だ。
けれどもそんな人生は嫌いじゃない。胸張って意地張って歩いて行こうじゃないか。
とりあえず一区切り
のんびり書くぞ
と、言うことで第15話でした
書くことがなくなりました
困っちゃいますね
次話は未定です
誰を書こうかしら?
では、次話でお会いしましょう