東方想拾記   作:puc119

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第22話~散るからこそ~

 

 

 今までだって同じような視線を何度も向けられることはあった。特にルーミアなどは毎日そんな視線を俺へ向けてくれる。

 

 そう……それはまるでゴミを見るような視線。

 

 別にその視線を向けられることは嫌いではない。むしろ興奮する。

 しかし、だ。俺だって何でもかんでも興奮するような性格はしていない。ルーミアみたいな奴からそんな視線を向けられれば興奮するが、そうじゃないときだってあるのだ。

 

 自慢話をするようで少々気は引けるが、俺と生前の幽々子との仲はそれなりに良好だったと思う。だって膝枕までしてもらったのだ。少なくとも劣悪な仲ではなかった。

 そう……そうだと言うのに、今の幽々子の視線はちょっとヤバい。さっきも言ったが、そんな視線には慣れている。慣れているけれども……なんだろうか。心が抉られる。

 

「……今、なんて?」

 

 トーンが低い。アレだけ一緒にお喋りしたと言うのに、こんな幽々子の声は初めて聞いた。

 誰が予想できただろうか。こんなことになるなんて。

 

「い、いや、そのですね……」

 

 ヤバいヤバい、幽々子さん超怖い。幽々子怖いよ、幽々子。もし俺の精神が弱ければきっとこの視線だけで死んでいることだろう。

 まぁ、どうせ生き返るが。

 

 さてさて、どうしたものか。

 いつもの俺ならば此処でもう一度莫迦なこと言い、ぶん殴られているところ。しかし、そんな俺だって成長はする。何時までも同じことを繰り返すような奴ではないのだ。

 

 一つ大きく深呼吸。

 

 そうやって取り乱した心を落ち着かせる。

 

 膝枕をしてもらいに来た、と言う理由は本当のこと。ただ言うタイミングが悪かった。初対面の相手にそんなことをいきなり言われたら誰だって驚くだろう。

 ぶん殴られなかっただけマシと言うもの。

 

 俺の目標は一つ。

 幽々子に膝枕をしてもらうことだけ。

 

 けれども、そんなことを言えば今度こそ殴られる。

 だから此処は慎重に放つ言葉を選ぶ必要がある。いつもみたく、結婚してくださいと言うわけにもいかないだろう。それくらいはわかる。

 

 だから此処は――

 

 

「まずはお友達から始めよっか」

 

 

 ぶん殴られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 どうして殴られたのか全くもってわからない。

 流石にこれには理不尽さを感じた。乙女心は難しい。長い時間を生きてきていると言うのに、ソレばっかりは理解できないことが多い。

 

 それにしても、まさか幽々子に殴られるとは思わなかった。昔はあんなにか弱そうだったのに……君も成長したのだな。此処は素直に君の成長を喜ぼうじゃないか。

 まぁ、ぶん殴られると言うより、引っぱたかれたと言った方が正しいかもしれないくらいだが。

 

 

「……本当は何の用事なの? 答えなさい」

 

 あの……正直に答えた結果が今なのですが、その場合はどうすれば……

 こんなのどうすれば良いのだろうか。正解が正解じゃない。まるで理不尽なこの世界を表しているようだ。

 

 ふむ、しかし困ったな。また此処で同じことを言っても繰り返しになるだけで、事態が好転するとは思えない。むしろ悪化するだろう。さらに無視でもされ始めたら流石に泣く。

 

 嘘をつくのも好きではないし……困ったな、おい。

 

 

「桜……咲いてるんだな」

 

 

 必殺話題反らし!

 こう、なんか意味深っぽいこと言うことで、今まで空気をなかったことにできる必殺技だ。ただ、多用すると頭のおかしい奴だと思われるため注意が必要。

 

「……ええ、だってそのために春を集めたんだもの」

 

 ふむ……しかし困った。此処からどう膝枕へ話題を戻していこうか。

 なんとなく真面目な雰囲気が漂い始めたが、ぶっちゃけ俺にはそんなこと関係ない。そりゃあ幽々子の封印が解かれ、この幽々子が消えてしまうのはよろしいことでないが、あの封印が解けるとも思えない。

 何と言ってもあの緑の彼女が手を加えてくれた物なのだ。簡単には解けないだろう。

 

「どうしてあの桜を咲かそうと?」

 

 ……そうだな、まずは座ってもらおう。立ったままでは膝枕などはできないのだから。

 ほら、お嬢さん彼処に丁度良い縁側もありますし、一休みしませんか?

 

 

「……貴方ならわかっているんじゃない?」

 

 

 っと。

 いきなりか。

 

 さて、どうしたものか。幽々子の記憶が戻っていることはまずないはず。そうだとしたら、今のセリフはただの勘だろう。しかし、幽々子が何の考えもなしにあんなセリフを言うとは思えない。

 

 じゃあ――何処かで俺のことでも聞いていたのか?

 

「いんや、知らないよ」

 

 できるだけ自然な流れで嘘を吐く。先程、嘘をつくのは好きではないとか言った気もするが、これはアレだ。俺の中ではセーフだ。

 やはり幽々子が俺のことを詳しく知っているとは思えない。もしかしたら誰かから俺のことを聞いていたのかも知れない。それでも、詳しくは知らないだろう。と、なると先ほどのセリフはただの釣り餌なはず。だが、残念ながら釣り針の見えている餌に食いつこうとは思わない。

 まぁ、此処で本当のことを言ったところで俺には何のデメリットもないが。しかし、アレだ。この駆け引きには負けたくない。

 

「本当?」

「ああ、そうだよ」

 

 何かを探るような視線を俺に向ける幽々子。

 今なら極々自然な流れで、そっと抱きしめてからキスできそうだった。

 

「はぁ……わかったわ。これ以上はもう聞かない。ただ、私の邪魔はしないでもらえるかしら?」

 

 結果、幽々子が先に折れた。

 別に勝負事をしていたわけでもないが、ちょっと嬉しい。

 

 それにしても、邪魔をしないで、ねぇ……別に俺は邪魔をするつもりなんてないけれど――

 

 

「……あんたが、この異変の原因?」

 

 

 彼女たちはそうもいかないだろう。

 楽園の素敵な巫女さんの声がした。どうやら自機組が到着したらしい。後ろを振り返れば、美少女が三人。全員とは言わない。一人でも良いから結婚してください。

 

「まぁ、そうね。それで貴方たちは?」

 

 どうにも機嫌の悪そうな幽々子。まぁ、立て続けに侵入者がこう何人も現れたらそれも仕方無いだろう。

 しかし、異変を起こすと言うのはそう言うことなのだ。この少女たちを敵に回さなければいけない。それが此処のルール。

 

「別に誰だって良いでしょ? それよりもさっさと春を返してもらえるかしら。良い加減寒いのもうんざり」

 

 いかにも霊夢らしい返事。

 そんな何とも自分勝手な言葉ではあるけれど、その行動は全て幻想郷のため。しっかり仕事をしているんだな。

 

 あと、魔理沙さん俺に八卦炉を向けるの止めてもらえますか? 俺は春なんか奪っていないので。

 

「青様、お怪我は?」

 

 霊夢と幽々子が会話をしていると、咲夜が此方へ近づいてきてそんな言葉をかけてくれた。

 ああ、いつもは刺だらけの言葉しか向けてくれないが、今回は優しいんだな。もうこれは愛の誓いと言っても過言ではないだろう。ありがとう、俺も君のことを愛しているよ。

 

「うん、大丈夫だよ。特に怪我もしていない」

 

 そして俺がそう答えると舌打ちをされた。

 

 ……もう何も信じられない。

 と言うか、俺の体質的に軽い怪我くらいなら直ぐに治る。ドギツイ奴もリスタートすれば良い。そんな便利な体質なのだ。まぁ、心の方ばかりはそうもいかないが。

 

「……それで、結局お前は何の目的で此処へ来たんだ?」

 

 魔理沙の声。

 相変わらず、八卦炉は此方に向いている。霊夢と幽々子はいつの間にやら弾幕ごっこを始めているし、冥界も随分と賑やかになってきた。

 

「目的ねぇ……まぁ、君たちのように異変を解決するためではないよ。そうだな。強いて言うなら彼処で霊夢と戦っている幽々子と会うため……かな」

 

 二人の弾幕ごっこによって飛んできた溢れ弾を、氷の壁を作ることで防ぎながらの返事。なんかやたらと二人の霊弾が俺の方へ飛んでくる気がするけど、これは気のせいだろうか? 実は弾幕ごっこをしているように見せかけ、俺に攻撃をしているとかだったらどうしよう。

 

「……アイツと知り合いなのか?」

「元、だけどね」

 

 亡霊となった幽々子と会うのはこれが2回目。そして更に幽々子は俺のことを覚えていない。だから俺と幽々子の関係は、初対面と言っても間違いではないのかもしれない。

 それは悲しいことではあるけれど、事実だ。

 

 そんな俺の言葉を聞いたところで、漸く魔理沙は俺に向けていた八卦炉を下ろしてくれた。うむ、やはり平和にいこうじゃないか。

 華麗な弾幕ごっこは君たちみたいな少女にしか似合わないのだしさ。

 

「あの方も記憶が?」

 

 そんな言葉をぽそりと咲夜が呟いた。

 

「うん、そうだろうね。でもまぁ、良いさ。戻ったところで何かが変わるとも思えない。今回は顔を見ることができただけで充分だよ」

 

 それ以上望むのは流石に贅沢と言う奴。

 そりゃあ、望みはしたいが、今回は此処までにしておこう。人生、それくらいが丁度良い。

 

 

 

 

 そうやって咲夜や魔理沙と話をしていると、強く――しかし暖かい風が一気に吹き抜けた。

 どうやら、幻想郷へ春が帰って来てくれたらしい。

 

 あの妖怪桜の方へ視線を移すと、その花びらは一斉に舞い散り始めていた。

 

「……綺麗ですね」

 

 咲夜の声。

 

「ああ、憎たらしいほどな」

 

 本当なら、君の方が綺麗だよ。とでも言えば良かっただろうが、約千年ぶりに見たあの桜吹雪は、そんな言葉を出させないほどには綺麗だった。

 

 散るからこそに美しい桜。

 あの妖怪桜のことを考えると、どうにも負の感情が沸き起こる。それでも、その桜が散り終わるまで視線を動かすことはなかった。

 

 






と、言うことで第22話でした
ようやっと春雪異変の終わりです
長かったですね、色々と

次話は宴会のお話でしょうか? 今度は主人公にも参加してもらいたいところ
では、次話でお会いしましょう

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