東方想拾記   作:puc119

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第23話~1000年越しの想いは外れて~

 

 

 例年よりも遅れて訪れた春は、お酒と桜の香りがした。

 

 楽しげな声と楽しげな雰囲気。

 今回、異変解決の宴会へ初めて参加させてもらったが、この雰囲気は悪くないかもしれない。

 

 宴会に参加するかどうかは悩んだ。宴会に参加するのは、別に会いに行こうと思えば会いに行くことのできる奴らばかり。それでも、一度くらいは参加してみようかと思い、今回は参加することに。

 そんなことを霊夢に伝え、宴会の日にちを聞いたが、なかなか教えてくれず少しばかり苦労した。もしかしたら、俺に日にちを教えずサプライズ的なノリなのかもしれないと思ったりもしたが、今までの俺と霊夢の関係を考えるにそれはないだろう。

 

 宴会の日にちを教えようとしない霊夢に反抗して――

 

『じゃあ、宴会のある日まで博麗神社で過ごすわ』

 

 と、言ったところあっさりと日にちを教えてくれた。

 日にちを教えてくれたことは嬉しいが、それに負けないくらいの悲しみが俺へ襲いかかった。この幻想郷の少女たちは誰も皆攻略難易度が高すぎる。

 

 よくある物語の主人公なんかは、ヒロインの頭をちょっと撫でる程度でヒロインはその頬を染め、簡単に攻略していくが、そんなことを俺がしてみろ。バッドエンドにまっしぐらだ。いくら優しい言葉をかけたところで、好感度などは上がらない。てか、むしろ下がる。

 もし、この世界に嫌感度メーターなどがあれば、ほとんどのヒロインはそれがマックスだろう。やはり上手くはいかない世の中だ。

 

 そんな現実にはめげず、今日はルーミアと一緒に宴会へ参加。因みにだが畜生はまだ眠っていた。そろそろ起きる頃ではあると思うのだが……

 そしてルーミアに手を繋いでもらえないか頼んではみたものの、当たり前のように断られた。あと、宴会中は私に近づかないことと、約束までさせられた。まるで周囲の奴らに付き合っていることがバレないよう頑張る付き合いたてのカップルのようだ。

 全く……どうせバレてしまうのだから堂々とすれば良いのにな。ルーミアさんってばシャイなんだから。

 

 そんなことを考えると涙は溢れそうになったが、上を見上げたためソレが溢れることはなかった。

 

 

 そして、宴会の時間が来た。

 満開となった博麗神社の桜木。それは白玉楼の桜木にだって負けないくらいに綺麗なもの。そしてそんな見事の桜に囲まれた幻想郷の少女たち。

 何故か俺の周りに人は見えないが、桜やあの少女たちを見ることができただけで、今日は十分なのかもしれない。

 

 そっと目を閉じ、お酒に口をつける。

 お酒の詳しい味はわからないが、肴に困らない今、喉へ流したお酒は確かに美味しかった。

 

 そうして空になった器を少しばかり上へ。すると、何故か器にはお酒が注がれた。

 そんなお酒を注いだ人物の姿は見えない。

 

 最初は咲夜かなと思っていたが、注がれたお酒を口にしてそうではないことがわかった。それはきっと宴会好きなあの子鬼の仕業。全く……せっかくの宴会なのだし、姿くらい見せれば良いのに。

 

「ありがとう」

 

 姿の見えない相手にお礼の言葉を落とす。

 返杯の一つでもやりたいところではあるが、相手の姿が見えないんじゃあ返しようもない。

 

 俺が言葉を落とすと、静かな笑い声のようなものが聞こえた気がした。うむ、この雰囲気も嫌いじゃない。宴会と言えば騒いでなんぼなところはあるが、たまにはこんな雰囲気だって良いじゃないか。

 

 

「あんたは向こうへ行かないのかい?」

 

 

 漸く、ちゃんとした声が聞こえた。

 けれども、やはりその姿は見えない。

 

「俺が行ったらお前が一人になるだろ?」

「むっ……私は良いよ。一人は慣れてるし」

 

 また、そんなことを言う……コイツは寂しがり屋なくせして無駄に強がる。

 その結果がこの先の未来で起こる異変なのだろう。

 

 予想でしかないが、次の異変が起きたとき、たぶん真っ先に狙われるのは俺なんだろうな。可愛い女の子たちに追いかけられると言えば聞こえは良いが、実際はそんな優しいものとならないだろう。

 

「それに、俺にとって向こうはまだ早そうだ」

 

 今はこれだけで充分。

 これ以上は贅沢と言うもの。

 

「もしかしたら、待ってるかもしれないよ?」

 

 そんな奴が居てくれれば良いんだけどね。そうそう上手くはいかない。

 なに、焦る必要はない。待たせている相手には申し訳ないが、此処は自分のペースで行かせてもらおう。それくらいが丁度良い。

 

「なぁ、萃香」

「なにさ?」

 

 姿の見えない相手に言葉を落とす、傍から見ればそれはどんな光景なんだろうな。今更、人目を気にして生きようとなんて思いはしないが、少しだけ気になった。

 

「お前は俺のこと覚えてる?」

 

 そのことを今、聞く必要はなかったかもしれない。それでも、此処まで萃香が俺と一緒に居てくれることが少しだけ気になった。

 まぁ、萃香の姿は見えないのだけどさ。

 

「……教えない」

 

 そっか。

 それじゃあ仕方無いな。

 

 表情が見えないせいで、萃香が何を考えているのかはわからない。でも、まぁ、これはこれで良いのかもな。この子鬼が主人公となるのはもう少しだけ先のお話。その時にまた聞けば良いのだから。

 

「ああ一応、言っておくけど、お前のためのハーレム枠はちゃんと空けてあるから、安心してくれ」

「何が安心なのか全くわからないんだけど……」

 

 そんな呆れたような声。

 けれどもいつかの時みたく、その声は何処か楽し気に聞こえた。

 

 

 

 そして暫くの間、姿の見えない相手とお酒を呑みながら会話をしている時だった。

 

「楽しそうなところ悪いけれど、隣良いかしら?」

 

 あの幽々子がそんな声をかけてきた。

 はてさて、幽々子に此処に萃香がいることはわかっているのだろうか? 幽々子を封印した時、萃香もいたわけなのだが……

 

 ああ、そう言えば紫とまだ会っていなかったな。紫のことだし、俺のことも覚えてくれていそうではある。まぁ、神出鬼没な彼女のことだ。そのうち現れてくれるとは思う。

 

「ああ、かまわないよ」

 

 そう俺が言葉を落とすと、幽々子は俺の隣に座った。

 

 瞬間――ふわりと桜の香りがした。

 

「ありがとう。この宴会の主催者は私だから、一応全員に声をかけているところなの」

 

 ……へ、へぇ。そうですか。別に俺に興味があったとかそう言うことではないのね。

 まぁ、それくらいはわかっていました。

 

「そう言えばさ、幽々子は何処であの桜の下に誰かが封印されているって知ったんだ?」

 

 幽々子の言葉を聞き、切なくなってしまった気分を変えるため、慌てるように会話を広げてみた。

 

「……どうしてそのことを? 貴方にそのことは教えていないはずだけど」

 

 はい、広げ方をミスりました。

 焦ると碌なことにならない。そんなことわかっているはずなのに、相変わらず学習しない奴だ。

 

「霊夢から聞いたんだよ」

 

 此方のミスを悟られないよう、お酒に口をつけてからそんな言葉を落とした。

 

「……あの巫女にも教えていないわよ?」

 

 ああ、ダメだ。これは詰んだわ。落とす言葉全てが俺を追い込んでいる。

 別に悪いことをした覚えはないが、嫌な汗が吹き出す。なんでこんなに緊張せにゃならんのだ。

 

「どう言うことなのかしら?」

 

 此方をじっと見つめる幽々子。

 そんな幽々子に俺は目を逸らした。この勝負は完敗です。まぁ、自滅しただけなわけだが。

 

「ただの勘……ってことでどうですか?」

「3点ね」

 

 何点満点なのか非常に気になるが、まぁ、高得点でないことは確かだ。せめて60点は欲しいところ。

 

「……誰が書いたのかはわからないけれど、手紙を見つけたのよ」

 

 ポツポツと話を始めてくれた幽々子。

 

 手紙? それに西行妖の下に誰かが封印されていると書いてあったと言うことか? しかし、そのことを知っているのは、俺と紫、萃香にあの門番、そして緑の彼女だけはず。

 

 その中でそんなことを書きそうなのは……あれ? いや、ちょっと待て。

 ああそうだ、思い出したわ。その手紙を書いたの俺じゃん。

 

「……その手紙に何かが書いてあったのか?」

「ええ、そうね」

 

 つまり、今回の異変の原因を辿っていけば……俺に辿り着くのか。それはなんだか申し訳に気分になる。

 その手紙を書いたときは、生前の幽々子ことを覚えていられるように……なんて考えていたが、まさかこんなことになるとは思わなかった。

 1000年越しの伏線を回収。そんなこと誰も覚えてないってんだよ。

 

「明らかに男性の書く文字だったけれど、いったい誰が書いたんでしょうね? あの妖忌が書いたとも思えない。そして私に男性の知り合いなんていないと言うのに、不思議ね」

 

 クスクスと笑を浮かべながら幽々子はそんな言葉を落とした。

 たぶん、もう誤魔化すことはできないだろう。それでも、此処で全てを喋ることだけは止めておいた。

 

「さぁ? どうせ、どっかのおっちょこちょいが書いたんだろ。俺にはわからんけどさ」

 

 言い訳をさせてもらうが、記憶を消されていたせいで、あの時の俺は東方Projectのことなんて知らなかったのだ。

 それにしてもでき過ぎた話だとは思う。

 

「ふふっ、きっとそうね。……ねぇ、貴方と私って何処かで会ったことがあるんじゃない?」

 

 そりゃあ、ある。

 あの時のことを忘れるハズがない。それほどに幽々子は大切な人物なのだ。

 

 けれども、今ばかりは――

 

 

「いや、初対面だよ」

 

 

 ちっぽけなプライドを優先させてもらおう。

 それは引かれ者の小唄であるけれど、やられっぱなしと言うのも趣味ではないのだから。

 

 俺が落としたそんな言葉に幽々子は何も答えず、また静かに笑った。

 

 お互い記憶に振り回される人生。君と俺は違うけれど、もしかしたら共感できることだってあるかもしれない。

 けれども、結局のところ過去なんて気にせず今を楽しんだ方が良いに決まっているのだ。

 人生なんてそんなものだと思う。

 

 

 






これで春雪異変のエピローグも終わりと言ったところでしょうか?

と、言うことで第23話でした
一応前作の伏線を回収
そのお話を書いたのが今から8ヶ月前となります
随分と昔のお話ですね

次話は……そろそろクマさんも起きることですし、その辺の話でしょうか?
では、次話でお会いしましょう
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