「……起きる」
目が覚めた。
どれくらいの間、寝ていたのかはわからないけれど、漸く目が覚めてくれたらしい。
昔はそんなことなかったはずなのに、あの時はどうしてか眠くなってしまった。そのことを青は冬眠って言っていたと思う。
私が普通の熊だったらそれはおかしくない。でも私は普通とちょっと違う熊だから、この睡眠が冬眠だったのかはわからない。
それにしても――
「……お腹空いた」
寝起きは得意じゃないから暫くの間、ぼーっとしていようかと思ったけれど、私のお腹がきゅるきゅると鳴った。だから私はお腹が空いているんだと思う。
お腹が空いたのだから何かを食べたいのだけど、今は食べるものが見つからない。そして、どうせ食べるのなら美味しい物の方が良いなぁ。
……うん、探しに行こう。美味しいモノを。私の好きなモノを。
包んでくれていた布団を適当に押しのけてから、起き上がった。
でも、やっぱり寝起きは得意じゃないから、立ち上がっても直ぐ、またこてりと倒れてしまう私。なかなか上手くはいかないものだ。
そんな立ち上がってはまたこてりとなることを数回繰り返し、漸く私の身体はちゃんと動いてくれるように。頭はまだぼーっとするけれど、動けないほどじゃない。
私は前に進むのだ。
食べ物を探すため、部屋から出ると、直ぐにるーみあを発見した。
「あっ、久しぶり。やっと目を覚ましたんだ」
久しぶり? ああ、そっか。私は寝ていたからあんまり久しぶりじゃないけれど、るーみあは起きていたから久しぶりなのか。
「……うん、久しぶり」
るーみあは見つけたけれど、食べ物は見つからない。匂いも薄いし、たぶん外へ出ているんだとは思うけど。
「……青は?」
「えっと、神社へ行くとか言ってたと思う」
……神社? それは何処にあるんだろう。
う~ん、匂いを追いかければわかるかな。でも、なんだろう。薄く変な匂いが混じっているせいで、どうにも青の匂いがはっきりとわからない。
でもそんなこと、私には関係ない。何処にいようと見つけ出すことはできるから。
「ねぇ、るーみあ」
「どうしたの?」
ずずりと、お茶を飲みながらこてりと首を傾げたるーみあ。
「お腹すいたからちょっと出かけてくる」
「うん、わかった。あんたがいない間、アイツかなり調子に乗っていたから思う存分食べて良いよ」
うむうむ。るーみあの許可も貰えたし、これで大丈夫だ。
それじゃ、行こうかな。
待っててね青。直ぐに見つけてあげるから。
――――――――――
「色々な奴らを斬ってきたけれど……」
ちょいと面倒なことになった。
どうせこうなるんだろうなぁ。とは思っていたけれど、最近はこんなことばかりだ。
可愛い女の子に追いかけられるのは良い。しかし、追いかけられる理由が悪い。
「やっぱり貴方は怪しい」
楼観剣を抜き、此方を睨みつけるように立つ妖夢。その整った顔立ちから、あの堅苦しい門番との繋がりは見えてこない。
「だから俺は関係ないって」
霊夢に始まり、魔理沙、アリス、咲夜、パチュリーと俺の人気は上がりっぱなし。何が困るって俺から幻想郷の少女たちへ手を出せるはずがないから、一方的にボコボコにされる。それはそれで興奮するけれど、流石に疲れてきた。少しでも良いから愛をください。
てか、咲夜とパチュリーは俺が犯人じゃないとわかっていながら襲いかかってきやがった。異変と言う体の良い理由をつけてストレス発散に利用されただけ。なるほど、俺は都合の良い男ってわけか。なかなか良い響きだ。
「それも斬ってみればわかる」
斬らなくてもわかると思うんだがなぁ……はぁ、あの門番はこの娘に何を教えたのやら……
これじゃあただの辻斬りだ。
もう良い加減面倒になってきたから、萃香を探しに博麗神社へ来たところで妖夢と遭遇。俺の話なんて聞いちゃくれない。
「それに幽々子様も貴方が怪しいと言っていた。貴方みたいな奴を斬るのは楼観剣にも失礼だけど、仕方無い」
……ホント酷い言われようですね。
幽々子は妖夢に何を言ったのでしょうね?
――人符「現世斬」
そんな言葉を落とし、ぐっと僅かに姿勢を低くしてからまっすぐ此方へ斬りかかってくる妖夢。あらヤダ、この娘マジ容赦ない。
いつもみたくさっさと攻撃を受け、倒れてしまおうとも考えたけれど、今回は少しだけ抵抗させてもらおう。どうせ無駄な抵抗にしかならないとしても偶には良いじゃあないか。
とりあえず、横に避け突進斬りを躱す。いくら速いとは言え直線的な攻撃くらいは躱すことができます。
「くそっ、当たりなさいよ!」
無茶言わんでくださいよ。
さてさて躱したのは良いけれど、どうすっかなぁ。
例え此処で逃げたとしても、どうせまた襲われるだけ。それじゃあ意味がない。ベストなのは俺が犯人じゃないと妖夢に理解してもらい、さらに結婚してもらうこと。う~ん、なかなか難易度の高いクエストだ。
まぁ、とりあえず雨を降らせよう。雨に濡れると可愛さが増すと言うし。
右腕を振る。
瞬間、バケツをひっくり返したような痛いほどの雨が降り始めた。
「……これは貴方が?」
五月蝿すぎる雨音のせいで妖夢の声がどうにも聞こえ難い。この雨音の中なら多少のセクハラ発言くらいはかき消してくれそうだ。
白いシャツは透け、ピタリと肌に張り付きなんとも淫猥な雰囲気を醸し出す妖夢。ただ、アレだ。青緑色のベストがない方がベス……最高だったな。
足元には既に数センチほどの水溜まり。
漸く場が整ってきた。
「さぁねぇ。たまたま雨が降ったんじゃないか?」
そんな俺の言葉に妖夢は眉を顰めた。
怒らせてしまっただろうか。でも、そんな怒った妖夢も可愛いよ。
再び姿勢を低くした妖夢。う~ん、また突っ込んで来るよなぁ。やっぱりサクッとやられてしまった方が良かっただろうか。空を飛びながらの戦いなら、相手のスカートの中を見ると言うボーナスがあるけれど、地上で戦っている場合そんなものはない。
だからもう諦めようと思った。
これ以上足掻く理由が見つからなかったから。
けれども、ピリリと何かが俺の肌に触れた。妖夢じゃなく、もっとドス黒い何かが。
……ああ、そっか。
春なんてもうとっくに過ぎていたもんな。そりゃあアイツだって目を覚ますはずだ。
真っ直ぐに斬りかかってきた妖夢をもう一度躱し、その莫迦みたいな大量の妖力隠そうともしていない奴へ視線を向けた。
「ああ、もう! だから当たりなさいって……な、なんですか? この妖力は」
いや、困ったなおい。
今は妖夢が近くにいる。あまりカッコ悪い姿は見せたくないんだが……まぁ、どう考えたって勝てないよな。いつもみたく一方的にボコボコにされる。
「よう、もう目が覚めたのか?」
ふわふわと飛び、俺の前へふわりと降りて来た畜生に声をかける。
髪と服が雨に濡れた姿はいつもよりもアイツを大人びて見えさせた。
さてさて、何の用事が合って俺の所へ来たのかわからんが……まぁ、碌なことじゃないのは確かだ。
「んで、どうしたのよ?」
俺が聞いた。
「…………お腹すいたん」
アイツが答えた。
お腹を両手で抑え、上目遣いで言葉を落とす畜生の姿は腹立たしいほど可愛かった。ただ、現実はちょっとヤバい。
一つ深呼吸。
気持ちを落ち着かせねば。
つまりアレだろ? 要は俺を食べに来たってことだろ?
「なぁ、妖夢」
「何ですか?」
いきなり現れた畜生へ警戒心剥き出しと言った様子の妖夢。でもソイツ危ないから放っておいた方が良いと思うよ。
「また今度遊ぼっか」
妖夢へそんな言葉を伝えてから、霊力を全開。振り続ける雨を止め、地上に溜まった水を畜生へ近くに集めてから一気に凍らせた。
「……は?」
間の抜けた妖夢の声が聞こえる。
でもすまんな、今は構っている時間も惜しいんだ。
お願いです、少しでも良いので止まっていてください。
そんなことを願いながら、全力でその場を飛んで離脱。少しでも良いから離れねば。
そうやって博麗神社を飛び立ち、たぶん数秒くらいだと思う。爆発音みたいな音が後ろから聞こえた。もう怖くて後ろを振り返ることができない。全力を出したにも関わらず数秒しかアイツを足止めすることができないとは……まさに規格外。
とりあえず、霧の湖を目指そう。もしかしたらチルノが巻き込まれるかもしれないけれど、きっとあの自称最強なら問題ない。
そう思ったとき、背中からの衝撃が全身へ広がり、空中から森の中へ叩き落された。地面へぶつかったところで視界が暗転。もう追いついたんですか……
暫くの間意識が飛び、それが戻ってきてから目を開けた。
そして目の前にはあの畜生の顔。
あらクマさん。またお会いしましたね。
「……いただきます」
お、おいしく食べてね。
アレだ。冬眠明けの熊もちょっとヤバい。
やっとこさ更新できました
クマさん可愛いよ、クマさん
メインヒロイン(?)が漸く帰ってきてくれたようです
次話は……宴会のお話とかでしょうか?
そろそろ紫さんなんかにも登場してもらいたいところですが……何も考えていません
では、次話でお会いしましょう