東方想拾記   作:puc119

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第26話~ざまあみろって笑ってやるんだ~

 

 

 博麗神社から見上げた空は、吸い込まれてしまうんじゃないかってくらいの青色が何処までも広がっていた。

 

「それにしても……なんで青は抵抗しないのさ。青だって少しは戦えるだろう?」

 

 仰向けに寝転がり、自分の名前の由来ともなったソレを眺めていると、ため息と共にそんな声が届いた。

 

「そりゃあ、戦うことくらいはできる。しかしだな、俺じゃあ霊夢のような可愛い女の子に攻撃なんてできるわけがない」

 

 先日、漸く冬眠からあの熊畜生が目を覚ましやがった。そのせいで、ルーミアを畜生に取られてしまい、俺は暇に。んでさらに、今日は二人で遊ぶんだってさ。

 俺もそれに混ぜて欲しかったが、其処はルーミアの恥ずかしがり屋な性格もあり俺はダメらしい。取り付く島もなかった。

 

「じゃあ、なんで此処へ来たのさ……此処へ来れば弾幕ごっこが始まることくらいわかっていただろうに」

 

 そんな呆れたような声。

 何時までも上を見ていたって仕方が無いため、状態を起こすことに。そして、声の方を向くと今日は珍しくその姿を消してはいなかった。今までもこうやって話をすることはあったが、その姿を見るのは本当に久しぶりだ。前回見たのは……ああ、さとりやこいしちゃん達と一緒に生活をしていた時か。

 ……ふむ、つまり300年近く前のことだな。

 

 長い薄茶色の髪に頭から生えた2つの大きな角。

 両手には球や三角錐の分銅のついた鎖をぶら下げ、くぴくぴと伊吹瓢のお酒を仰ぐ。

 それが鬼の頭である酒呑童子――伊吹萃香の容姿だった。

 

 ちょっと角とか生えちゃってるけど、幼子にしか見えないような容姿から怖さなど微塵も感じない。実際、性格だって幼いような時あるし。でもそれが超可愛い。

 しかし現実は違う。幻想郷からも忘れ去られた存在となってしまったが、萃香の種族は鬼だ。それは魑魅魍魎どもの代表と言っても良いような存在。ただの人間とは比べ物にならないほどの力を持ち、普通に戦えばまず勝つことはできないだろう。

 

 そんな存在が目の前にいる。

 だからとりあえずそっと抱きしめた。

 

「…………なにやってんの?」

「いや、ほら。再会を祝してのハグ……みたいな?」

 

 

 ぶん殴られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 ……ついつい勢いに任せて殴ってしまった。

 

「く、首から聞こえちゃいけない音が……」

「じゃあ、次は反対側を殴ってあげる」

 

 正直なところ、別に嫌ではなかった。

 そりゃあいきなり抱きしめられたのだし、驚きはした。けれども私は青のことを嫌っちゃいない。

 

 ただ……まぁ、なんか此処は殴らなきゃいけない場面なのかなぁ。なんて思ったから、勢いに任せてみた。

 

「やめてください。流石に死にます」

「どうせ生き返るでしょ?」

 

 私が殴った頬を抑えながら、懇願してくる一人の人間。その表情は何処か嬉しそうに見えた。殴られて喜ぶなんて変な奴だ。

 

 そんな変な奴が、私にとって命の恩人であり、大切な友人だったりするものだから手に負えない。少なくとも青がいなければあの時、私は殺されていた。恥ずかしくて直接口に出すことはできないけれど、そのことには感謝している。

 それに青のことはその性格も含めて嫌ってはいない。むしろ気に入っている方だ。

 

「いくら生き返ると言っても痛いものは痛いのです」

「でも、それが嬉しいんでしょ?」

「……ちょっ、ちょっとだけね?」

 

 ……うん、まだ大丈夫。嫌いにはなっていない。

 

 ただ、青の言葉が真実なのかはわからなかった。青は嘘をつくような奴じゃない。そうではないけれど……青って臆病だからなぁ。

 

「それにしてもいきなり殴らなくても良いじゃないか。なんだ? 結婚してくれるのか?」

「どうしたらそんな考えになるのさ……」

 

 こうやって直ぐに相手を口説くくせして、相手が近づいてきたら青は直ぐに逃げてしまう。もし此処で私が青の言葉を受け入れれば、青は絶対に狼狽え、誤魔化そうとする。そんな青の行動は矛盾だらけだ。これじゃあまるで自分から嫌われようとしている風にしか見えない。

 詰まるところ、青は臆病なのだ。自分からは一方的かつ容赦なく近づくくせに、相手から近づいて来ると直ぐに逃げる。それは青の優しさでもあり、残酷さでもある。一方的に近づいて来られた相手はどうなると言うのだ。

 

 はぁ……あんたは昔から変わらないねぇ。相手のことを想い過ぎてソレが裏目に出ていたんじゃあ世話がない。

 

「うん? ため息なんてしてどったの?」

 

 別に、なんでもない。

 

 ただ、青が此処まで慎重になってしまうのも仕方無いことなのかなとも思う。

 だって2000年近くもの時間を生きてきたこの人間のことを覚えているのは、たった数人程度しかいないのだから。宵闇の妖怪にあの山神。紅魔の門番にメイドと魔女。あとは私くらいだ。たぶん紫も思い出してはいると思うけれど、詳しいところはわかんない。

 今だって底抜けたような笑顔をしているものの、皆から忘れられるってのはそんなに楽なことじゃないはず。少なくとも私は遠慮したい。

 

 とは言え、それだって仕方無いことかもしれない。

 何があって青の記憶が消えたのかはわからないけれど、私が青のことを思い出したのはつい昨年のことなのだから。

 人里の収穫祭で一人お酒を口にする青の姿を見た時、やっと思い出すことができた。

 それまでも、なんだか面白い奴がいるなぁって思って観察してはいたけれど、声をかけたのはその時が始めて。どうして忘れちゃったのかなぁって思う。それでも思い出すことができたのだし、まぁ、良しとしよう。

 

「それしてもアイツらも情けないね」

「ん~……なんのことだ?」

 

 青には返しきれないほどの恩がある。青が相手なら別に返さなくても良いんじゃないかなぁって思うときもあるけれど、やっぱりそれは違う。

 

「誰も彼もが的外れ。私はずっと此処にいるってのにだ~れも気づかない」

 

 けれども厄介なことに青は私が恩を返そうとしても絶対受け取らない。

 青は相手に気を遣い過ぎなのだ。

 

「そりゃあ、アレだけ薄くなっていれば気づかないだろ。なんだ? 気づいてほしかったのか?」

 

 だから私はこっそりと気づかれないよう、青に恩を返すんだ。そしてそのことに青が気づいたとき、ざまあみろって笑ってやるんだ。それでやっと私は青のことを真っ直ぐに見ることができると思う。

 

「あっ、いや……別に気づいてほしいわけじゃないけど……ほら、張り合いがないと言うか」

「要するに寂しいんだろ?」

 

 だからそれまでは、私なりのやり方で青の手助けができれば良いと思う。

 

「そう……なのかなぁ」

「さぁ、どうだろうな? ただ、そろそろだとは思うよ」

 

 そろそろ? 何のことだろうか。話の流れ的に私のことを気づく奴が出てくるってことだとは思うけれど、今のところそんな奴はいない。一番近いのは紅魔館の吸血鬼だけど、アイツは自分から動く気がないしなぁ。あとは、あの亡霊姫も気づいてはいるみたいだけど、彼女も彼女で自分から動かなそうだ。

 そうなると……誰だろうか。

 

「誰のこと?」

「そりゃまぁ――」

 

 それは、そうやって青が言葉を続けようとした時。

 

 

「やっと見つけた。あんたでしょ? この妖霧の原因って」

 

 

 あの博麗の巫女が私たちの方を真っ直ぐと見ながら言葉を落した。

 あら、終に見つかっちゃったか。ん~……でもこれは青のせいじゃないだろうか。だってもし青がいなければ私が姿を現すこともなかったし。

 そして博麗の巫女の隣には、胡散臭い笑を隠すように扇子を口に当てている妖怪賢者の姿。

 

 なるほど。紫も噛んでいたのか。んもう、なんで紫はそんなことをするのさ。せっかく私は宴会を楽しんでいたのに……

 

「それになによ。やっぱりあんたも関係していたんじゃない」

「いや、直接関係していたわけじゃないぞ? そりゃあ、コイツが犯人ってことは知っていたけれど、俺が何かをしたってわけではない」

 

 うん、そうだね。青はほとんど無関係だよね。

 そうだと言うのに、出会う奴皆から犯人扱いされてボコボコにされていた。それは青の性格のせいでもあるけれど、流石に同情する。

 

 

 さて。

 

 さてさて。

 

 見つかってしまったと言うことは、そう言うことになるだろう。

 うん、まぁ、最近身体を動かすことは少なかったし、久しぶりに運動してみるのも悪くはない。

 

「まぁ、もうどうでもいいけど……それじゃさっさと終わらせましょ」

 

 最近の人間は随分と血の気が多くなったねぇ。ただまぁ、そんな人間も嫌いじゃあない。

 

 いつの間にか忘れられた鬼退治。

 そんな状態で人間のあんたが私に勝つことはできるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 どんぱちと始まってしまった二人の少女による弾幕ごっこ。もうちょっと高く飛んでくれればスカートの中を見ることができるんだがなぁ。いや、仰向けに寝転がれば見えるか? うむ、なんだかいけそうな気がする。

 

 そんなことを考えてから、仰向けになって空を飛ぶ少女たちを観察しようとした時、ペシリと顔に何かが当たった。……痛い。

 

「初めましてと久しぶりのどっちが良いかしら?」

 

 クスクスと笑いながら、懐かしい声が聞こえた。

 顔に当たったのはどうやら誰かの扇子らしい。その扇子からはふわりと甘い香りがした。有り難くいただこう。

 

「いや、返しなさいよ」

 

 再び懐かしい声。

 其方へ視線を向けると、この幻想郷を創った妖怪である八雲紫が仰向けに寝ている俺を見下ろしていた。

 

 さてはて、紫は俺のことを覚えているのかねぇ? まぁ、紫の性格的にどうせ教えてくれないだろうが。

 何はともあれ、フリル付きのスカートへ手を伸ばし、その中身を確認。しかし、光が届いていないのか、その中は真っ暗で何も見えはしなかった。

 おい、物理法則どうなってんだ。これからゆかりんのスカートの中身について詳細を極めた説明をしようとしたのに、これじゃあ何もできないじゃないか。責任者呼んでこい。

 

「…………」

 

 そして無言で紫に顔面を踏まれた。

 やめてください。興奮します。

 

「……とりあえず起きなさい」

 

 ふむ、不本意であるが此処は仕方無い。素直に従うことにしよう。

 

「よ、久しぶり」

 

 紫の御御足を退かし、起き上がってから声をかけてみる。事実、紫とこうやって会話をするのは本当に久しぶりだ。

 紫なら俺の存在くらい気づいていただろうに……全く寂しかったじゃないか。

 

「はいはい。久しぶりね。それにしても……何があったの?」

 

 はて、何のことだろうか? いきなりそんなことを言われても困るのだが。

 

「何がさ?」

「記憶のことよ」

 

 ああ、そのことか。

 とは言ってもなぁ……説明し難いったらありゃしない。だってそもそもの始まりは2000年も前のことなのだから。

 それにどうして俺がまた戻ってきたのかもわからない。俺は全ての課題をクリアしたあの時に消えたはず。そうだと言うのに、どうして今俺がいるのかねぇ?

 

「詳しいことは俺もわからん。神様の気まぐれだとは思うが」

「……巫山戯ているの?」

「俺はいつだって真面目だよ」

 

 紫に睨まれた。ゾクゾクする。

 

「まぁ、こうして無事戻って来たんだ。その過程はどうだって良いだろう?」

 

 今の生活だって充分過ぎるくらいだ。それは強がりなんかじゃない。

 そりゃあ皆から忘れられてしまったことは辛い。けれども、ちゃんと俺のことを思い出してくれた奴だっている。それだけでも俺は救われる。

 

「……そうね。おかえりなさい」

 

 そう言ってあの紫には似合わない素直な笑顔を向けられた。いきなりそんな顔をされると反応に困る。

 呆れながら愚痴でも言われるものかと思っていたから、どうして良いのかがわからない。何? 紫さんったら俺のこと好きなの?

 

 しょうがねぇな。好きです。結婚してください。

 

 引っぱたかれた。

 

「調子に乗るな」

 

 そう言う性格なもので。

 

 

 






矛盾してるくらいの人生が丁度良い気がします
真っ直ぐじゃ直ぐ壁にぶつかっちゃいますし

と、言うことで第26話でした
あっさりと紫を登場させてしまいましたが、特に何も考えていません

次話は萃夢想のエピローグ的な感じとなりそうです
お酒の香りがしますね

では、次話でお会いしましょう
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