終わらない冬は終わり、三日のおきの百鬼夜行も終わった。原作通りなら次は明けない夜の異変なはず。しかし、その異変まではまだ時間がある。まぁ、そんなポンポン異変が起きても困るが。
今はいつも通り人里で、焼き魚やら氷などを売っているところ。その日はしとしとと雨の降り続く梅雨の時期を過ぎた、雲一つない晴れの日だった。
照りつける太陽は鬱陶しく、雨でも降らせれば多少は涼しくなるのではと考えないでもなかったが、いきなり雨でも降らせたものなら人里へ迷惑がかかる。それはあまりよろしくない。これ以上、好感度的なものを下げるわけにはいかないのだ。
最近の幻想郷の少女達は怒ると俺が喜ぶのに気がついたのか、怒ってもくれないことが多い。無表情無言容赦無しにぶん殴られる。流石にそれじゃあ興奮できない。
そんな俺の様子を見て萃香なんかは哀れみの視線を送ってくるし。
少しでも涼しくなれば良いと思いながら、氷の柱を一本新しく造る。いつの時代になっても夏の暑さは変わらないものだね。
そんな夏の暑さのことばかりを気にしていたせいで、周りの様子がおかしなことに時間がかかった。幻想郷の人里の人口は決して多くはない。それでも、昼間ともなれば人々の話し声やらで、それなりの賑わいはある。
そうだと言うのに、その時は賑やかさが全く感じられなかった。
そして、ゾワリと得体の知れない何かに身体を舐められたかのような感覚。
「何か冷たい飲みものでもいただけるかしら?」
そんな言葉とともに、幻想郷の妖怪賢者。八雲紫がその姿を現した。
別に人避けなんてしなくとも良いだろうに。もしかしてアレだろうか。周りに人がいると恥ずかしくてできないようなことでもしてくれるのか? 俺としては見られていた方が興奮するんだがなぁ。しかし、紫が嫌だと言うのなら仕方無い。それにこっそりやるってのも、それはそれでアリだ。
さて、まずは何から始めようか?
引っぱたかれた。
パシンと乾いた良い音が人気の少ない人里に響く。
「…………」
そしてまるでゴミでも見るような視線。興奮する。
でも俺はまだ何も喋ってないんだよなぁ……
「悪いけど、飲み物はないんだ。水くらいなら出せるけど飲む?」
「それじゃあ、いただこうかしら」
かしこまりました。
適当に氷でコップのような器を造り、その中へ水を創造。そうしてできた物へ自分の口をつけてから紫に渡す。サービスだ。お題はいらないよ。
渡した水と愛情入りの氷のコップは地面へ叩きつけられた。
「あっ、口移しの方が良かっ――」
ぶん殴られた。
最近の少女達は口より先に手の出ることが多すぎると思うんだ。この世界はいつだって俺に厳しい。
「んで、今日はどうしたのよ? 何か用事があるんだろ?」
こうして紫とちゃんと話ができるのは久しぶりだったため、ちょいと巫山戯過ぎた。萃香と霊夢が弾幕ごっこをしていた時も話をする機会はあったが、あの時の紫は直ぐに何処かへ行ってしまったし。
それに紫とはなんだかんだで長い付き合いとなる。記憶が戻っているのかはわからないが、気を使わなくても良い相手と言うのは貴重だ。
「暇だったからふらっと立ち寄ってみただけよ」
「えっ、俺との結婚がなんだって?」
引っぱたかれた。
うん、もうやめよう。これはこれで楽しいが、これじゃあ話は進まない。
ふむ……立ち寄ってみただけねぇ。少しばかり深く読むと、それは俺と会いたかったってわけだが、紫がそんな理由で来るとは考え難い。それくらいのことはわかっている。
となると、目的はなんだろうか。俺なんかが紫の考えていることをわかるわけはないが、少しばかり気になる。
「貴方と一緒に暮らしているあの娘……いえ、あの山神はどうしてまだ生きているの?」
「それは俺にもわからんよ。確かにあの時、俺が殺したはずなんだけどなぁ」
とは言え、自分だってどうして此処にいるのかがわからない。やっぱり其の辺のことが関係あるのかねぇ。事前に教えてくれても良かっただろうに。この世界は色々なことが急に起きすぎる。
さてさて、紫の目的はなんだろうか? 思い当たる節が多すぎるせいで、目的が見えてこない。
「貴方に頼みたいことがあるの」
頼みたいことねぇ。
あまり難しい頼み事じゃなければ良いが。あの畜生を殺せとか頼まれても俺にはできん。ずるいよなぁ。可愛いって。それだけで此方は手を出すことができなくなるのだから。
「最近……と言うかあの山神がまた姿を現してからだけど――」
――――――――――
紫との会話を終え、帰宅。
「ただいま」
居間でくつろいでいた二人にそんな言葉を落した。帰ってきたよー。
どうやら今日は畜生も起きてくれていたらしい。手間が省けた。
「お帰り」
「……おかえり」
とりあえずお土産をルーミアに渡す。すると、見ていて此方も嬉しくなるような笑顔でソレを受け取るルーミア。その笑顔を少しでも良いから俺に向けて欲しいと願う今日この頃。
お土産として渡したのは、いつものお団子。たまには違う物をと思わないでもないが、結局いつも団子を買ってしまう。まぁ、ルーミアも毎回喜んでくれているし、これで良いのかもしれない。
そんな団子を美味しそうに頬張るルーミアと畜生。見ていて和む。
「……どうしたの?」
コテりと首を傾げながら畜生が尋ねてきた。
さて、そろそろ本題に入らないと。せっかく紫から頼まれたんだ。紫の好感度を上げるためにも、早めに動きたい。
「なぁ、畜生」
「……だからその畜生って呼ぶの嫌い」
むっ、とした表情。今にも殺されそうだ。熊怖いよ、熊。
とは言ってもねぇ。名前なぞつけたら後に引けなくなる気がしてどうにも……ただでさえ、この畜生ルートしか残っていないのに、これ以上コイツと仲良くなりたくはない。
「それでどうしたの?」
「デートしようぜ」
随分と導入が長くなったが、今回はそんなお話。
「でえとはいいけど、どこ行くの?」
「妖怪の山だよ」
ルーミアも誘ってはみたが、お団子を食べて眠くなってしまったらしく、これからお昼寝をするんだと。そんなわけで、畜生と二人で出かけることに。
妖怪の山と言えば、天狗や河童。後は秋姉妹や厄神なんかがいる場所。東方のキャラも多く、早めに訪れておきたい場所ではあるけれど、あの山で異変が起きるのはまだ先のこと。だから、山へ行くのは諏訪の二柱が訪れてからでも良いかななんて考えていた。
んで、紫からの頼みごとは、その妖怪の山でおかしなことが起きているから様子を見てきてくれ。とのことだった。そしてどうやらソレは、この畜生がいたあの場所で起きているらしい。
まぁ、コイツだって一応神様だったんだ。ソレがいきなり消え、またいきなり現れたせいで、ちょっとごたついているのだろう。そんなことでこの畜生をつれて行くことに。
問題ごとが起きなきゃ良いけど……。文や椛には会いたいが、天狗は五月蝿そうなんだよなぁ。
「山で何が起きてるの?」
「詳しくは俺も知らん。たぶんお前のせいで何かあったんだろ」
全く、迷惑かけちゃダメでしょうが。
「私、何もしてない……」
いや、まぁ、そうなんだけどさ。だから別にお前がいけないってわけではないんだろう。偶然に偶然が重なってとか、そんな感じだと思う。
いつも通りの適当な会話を交わしつつ、ふよふよと妖怪の山を二人で目指す。この山へ訪れるのも久しぶりだ。文と会ったのは一度だけ。それにアレはあまり良い記憶ではないし、忘れてもらっても構わない。大切なのはこれからだ。
「でも、青と一緒だから私は楽しい」
クルクルと楽しそうな表情を浮かべる畜生。
そうかい、そりゃあ良かったよ。
コイツの面倒はちゃんと見ると決めたんだ。何が待っているのか知らんが、少しくらいは頑張るとしよう。
この先、コイツがどんな存在になろうとも
1話で終わらなかったので後半へ続きます
文さん辺りには登場してもらいたいところ
と、言うことで第28話でした
クマさんメイン回にするつもりです
次話はこの続きですが、どうなるのかはまだ考えていません
では、次話でお会いしましょう