東方想拾記   作:puc119

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ちょっとだけしっぽりとした感じっぽいです




第30話~臆病者なりの~

 

 

「あー身体が重い……」

 

 まだ一日が始まったばかりだと言うのに、どうにも調子がよろしくない。

 それもこれも、あの畜生がいけない。妖怪の山へあの畜生と出かけた晩。まぁ、いつものように俺は畜生と戦ったわけだが、何故かその時の畜生は容赦なかった。いつもむしゃむしゃされているわけだし、いつだって容赦ないわけだけど、その時はいつもに増してと言った感じ。

 いつもなら多くても、数十回程の捕食で済む。けれども、昨晩は久しぶりに100の大台を超えたんじゃないだろうか。どうして昨晩はそんなに荒れていたのかは知らないが、此方としてはたまったものじゃない。熊怖いよ、熊。

 

 そんなこともあり、今日は朝からどうにも身体の調子が悪かった。

 一方、あの畜生はと言うと、俺を沢山食べて満足したのか、今は気持ちよさそうに寝ている。たぶん夕方になるくらいまでは起きないんじゃないだろうか。ホント、のんきなものだ。

 

 そうなると、現在この家にいるのは実質俺とルーミアの二人だけ。最近不足となりがちなルーミア成分を補給するのには丁度良い。

 そんなことを考えるだけで、身体が軽くなるような気がした。

 

「おはよう」

「ん、おはよう」

 

 少しばかり重く感じる身体を動かして居間へ行くと、其処にはいつものようにお茶を啜っているルーミアの姿。うん、俺のお嫁さんは今日も可愛い。

 

 今日はこのままルーミアとの愛を育んでも良いのだけど、ちょいとばかしやっておきたいことがあった。あの畜生も寝ていることだし丁度良い。

 

「なあ、ルーミア」

「どうしたの?」

 

 昔はなかなかの時間を一緒に過ごしたけれど、会うのは久しぶりだ。どうせアイツは俺のことなんて覚えてやいないだろう。それでも、せっかくの機会だし様子を見るだけでも良いのかな。なんて思った。

 次の異変が始まってしまえば、どうせまた忙しくなってしまう。だからその前にせめて様子だけでも。

 

 

「妹紅のこと覚えてる?」

 

 

 今回はそんなお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――迷いの竹林。

 

 そんな名前で呼ばれる場所は人里の直ぐ傍にあるくせして、人の気配なんて全くしなかった。立ち込めた深い霧と、緩やかな傾斜のせいで方向感覚がどうにも狂わされる。それでいて竹の成長速度も早く、目印なんて何もない。

 これじゃあ、人間はおろか妖怪だって近づきやしないだろう。

 

「ルーミアも妹紅と会うのは久しぶりなのか?」

「うん。少なくともあんたが消えてからは会ってない」

 

 あら、そうだったのか。もう300年近くも昔のこととなってしまうが、あの時の妹紅とルーミアの仲は良さそうに見えた。

 まぁ、ルーミアの活動範囲はそれほど広くないし、妹紅だってあまり動き回るイメージはない。それならそうなってしまうのも仕方の無いことなのかな。

 

「……会いにいくなら一人で行けば良いのに」

 

 ちょいとばかし不機嫌そうなルーミア。それでもこうやって俺に付き合ってくれるのはルーミアなりの優しさなんだろう。

 

「なんだ? 妹紅と会いたくなかったのか?」

「そういうわけじゃないけど……」

 

 会いに行くだけなら俺一人でも良い。

 ただ、妹紅だって俺のことは忘れてしまっているだろう。つまり妹紅から見ると俺は初対面の相手なわけで、あの妹紅の性格を考えるとまともな会話なんて絶対にできない。むしろ、会ってくれるのかすら怪しい。

 だから今回はルーミアを利用させてもらうことに。いつもいつも迷惑かけてごめんな。

 

 一応、手土産としてお酒と干し肉は持ってきている。一緒にお酒でも飲めれば良いけれど、どうなることやら……

 

「そう言えば、ルーミアは妹紅の住んでいる場所わかるのか?」

 

 そんな肝心なことを忘れていた。時間をかければ見つかると思うが、迷いの竹林は広くなんの宛もなく探すのは大変だろう。

 もう少し俺が器用なら妹紅の霊力を探知するとかできるのかもしれないけれど、生憎その辺のことはさっぱりだ。

 あの畜生はそう言うことが得意なのに。

 

「家は知らないけど、見つかると思う。霊力をたどるだけだし」

 

 あら、ルーミアさんったら優秀なのね。いつの間にそんなことができるようになったのやら。いや、昔からできたのか?

 

「すぐ迷子になるアイツのせい」

 

 ああ、なるほど。そう言うことか。ルーミアも苦労してたんだな……

 

 そんなルーミアの案内で迷いの竹林を歩くこと数十分。家……と言えば家だけど、あばら家という言葉が非常に似合う建物へたどり着いた。

 一応、家ではあるけれど、もう少しくらい良い家に住めば良いのにな。相変わらず自分のことには無頓着な性格らしい。

 

「此処に妹紅がいるのか?」

「たぶん」

 

 しっかし、これじゃあ俺一人だけで会いに行くのは難しいな。立て看板でもあれば良いのだけど。

 まぁ、それはまた今度考えれば良いか。

 

 強い風でも吹けば壊れてしまうのではって感じの家。そんな家の玄関と思われる扉を3回ほどノックした。家の中に居てくれれば良いが。

 そんなことを思っていると、家の中から……

 

 ――はいよー。

 

 なんて言う声が聞こえた。

 ああ、そっか。そう言えばこんな声だったな。300年も会っていなかったと言うのに、聞こえてきたものが妹紅の声だとは直ぐにわかった。

 

「全く、誰だか知らないけど迷子にでも……って、なんだ。ルーミアじゃないか」

 

 そんな言葉を落としながら、妹紅が家の中から登場。

 服装は変わってしまったし、纏っている雰囲気も違う。けれども、その真っ白で綺麗な髪はあの頃と何も変わっていなかった。

 

 ……良かった。どうやら元気にしていたみたいだ。

 

「うん、久しぶり」

「ああ、久しぶりだな。それで……えと、今日はどうしたんだ? それにルーミアの隣にいる奴は?」

 

 ……うん。まぁ、そうだよな。妹紅だって俺のことを覚えてはいないか。正直なところ、少しだけ期待していたが……人生そんな上手くいかないことも知っていた。

 

 てか、しまったな。妹紅と会おうとは思っていたけれど、その理由を考えてはいなかった。何の理由もなしに会いに来たってのは流石におかしい。はてさて、なんて言い訳をしたものか。

 

 そんなことを考えていると、一瞬だけルーミアが俺の方を向いた。

 そうしてから――

 

「コイツは今、私と一緒に住んでる奴。久しぶりに会いに行こうと思ったとき、コイツが暇そうにしてたから連れてきた」

 

 なんてルーミアのセリフ。

 そんなことを予想していなかったせいで、思わず声が出そうになったが、どうにかその声を飲み込む。いや、しかし驚いたな。まさかルーミアがフォローしてくれるとは。

 

「ああ、そうだったのか。まぁ、とりあえず上がりな。家の中には何もないけれど歓迎するよ」

 

 そう言ってから妹紅は家の中へ入って言った。気さくそうな感はあるけれど、妹紅さんったら一度も俺と目を合わせてくれてないのよね。まぁ、妹紅にとっては初対面の相手なのだし、それも仕方無いか。

 

 そして、チラリとルーミアの方へ視線を向ける。けれども、ルーミアが俺の方を向くことはなく、家の中へ入って行く妹紅を見つめていた。

 ルーミアが何を考えているのかわからないけれど……たぶん、悪いことではないと思う。

 

 

 妹紅の家の中だけど、外見こそアレだったが中はそれほど酷いことになっていなかった。結界がなんたらとか言っていたし、見た目以上にちゃんとした建物なのかもしれない。

 そんなの家にお邪魔させてもらった後は、持ってきたお酒を一緒に飲むことに。妹紅も――お酒なんて久しぶりだ。と言って喜んでいた。

 

 お酒を飲んでいる間は主にルーミアと妹紅の二人が雑談をして、偶に俺が口を挟むと言った感じ。ルーミアの話す言葉の9割は俺への悪口であったけれど、俺の分まで妹紅と会話をしてくれていることはわかった。どうやら今回は色々と気を使わせてしまっているらしい。

 妹紅も俺へ話かけてくれたが、何処かぎこちない。一応、自然に振舞おうとしてくれているみたいだったけれど、アレだけ長い時間を一緒にしてきたんだ。無理していることくらいは直ぐにわかる。

 

 そのことが少しばかり切なかった。そんなのわかっていたことなのに。

 

 持ってきたお酒も多い量ではなかったため、お別れの時間は直ぐに訪れた。結局、最後の最後まで妹紅は俺と目を合わせてはくれなかったし、俺の名前だって伝えていない。

 まぁ、名前を伝えたところで、妹紅の記憶が戻るとも思えないが。

 

 とは言え、妹紅も妹紅で元気そうだったし、それだけで今回は充分なんだろう。そりゃあ記憶が戻って昔みたいに仲良くできれば嬉しいけれど、それは望み過ぎだ。大丈夫。まだ焦る必要なんてない。時間はきっとあるはずだから。

 

 

「よかったの?」

 

 妹紅の家を出て直ぐ、ルーミアが言葉を落した。そんなルーミアはかなり不機嫌そうだった。

 

「ああ、妹紅の様子も見れたしな。それだけで充分だよ」

 

 なんて強がってみる。

 

「……おくびょうもの」

 

 おっしゃる通りで。

 

 でもさ、俺だってどうすれば良いのかわからないんだ。そりゃあ、記憶が戻ってくれれば俺は嬉しい。でも、そのことを妹紅がどう思っているのかがわからない。

 だって、もしかしたら妹紅にとっての俺の記憶ってのはいらないものなのかもしれないのだから。それに、俺のことを思い出せず、悲しそうな顔をしたあのフランドールの顔がどうしても浮かんでしまう。それも怖かった。

 

「いつだってそうだ。あんたは肝心なところで引く。いつもはバカみたいに近づいて来るくせして、最後の最後で引く」

 

 ……今日のルーミアの言葉は随分と心に響く。

 自分でもわかっちゃいるんだけどなぁ。こんな中途半端なことばかりじゃダメだって。なりふり構わないくらいじゃないとダメなんだって。

 けれども、そんな勇気が俺にはなかった。

 

「……よし、決めた」

「ん? 何をさ?」

 

 此方をじっと見つめるルーミア。

 そして、右手を真っ直ぐに伸ばし、その人差し指で俺を指しながら言葉を落した。

 

 

「あのこの記憶が戻るまで、あんたは帰ってくるな」

 

 

 ……マジですか。

 

「えっ、い、いや、でも、記憶が戻るかどうかは本当にわからないぞ? そりゃあ、戻ってくれた奴もいるけど、フランドールなんてもどる気配が全然ないし」

「そんなの私は知らない。とにかく記憶が戻るまで帰ってきちゃダメ」

 

 流石に冗談ではなさそうだ。これはまたとんでもないことになってしまった……

 記憶を戻す方法なんて全くわからないから、どうして良いのかわからない。けれども、ルーミアと会えなくなるのはマズイ。心が死ぬ。まさに死活問題だ。

 

 この先に訪れるであろう未来には絶望しか感じない。ただでさえ沈んでいた感情が、ルーミアの提案によりどん底まで落ちた。

 

「……すくなくとも」

「うん?」

 

 もうどうすりゃ良いんだよ……なんて思っていると、またルーミアが言葉を落した。どうしたのだろうか?

 

 

「私は記憶が戻ってよかった」

 

 

 またルーミアと一緒に生活をし始めて、それなりの時が流れた。ルーミアとは毎日、会話をしているから、数え切れない量の言葉を交わしたと思う。

 

 けれども、今、落された言葉は確かに初めてのものだった。

 

 毎日のように罵られているし、今日だって悪口ばかり言われた。それに、今のルーミアの言葉だって本音ではないのかもしれない。心の中では、俺に対して恨み辛みばかりなのかもしれない。

 

 それでも――

 

「……ありがとう。ちょっと頑張ってみるわ」

 

 なんて思えるくらいには価値のある言葉だった。

 

 ホント、我ながら単純なことで。

 

 

 






ルーミアさんがいてくれて心から良かったと思います

と、言うことで第30話でした
もう少しだけ妹紅さんとお話が続きそうです
はてさて、どうなるのやら……

次話は、あの臆病者のことですしどうせ……なんて思います
では、次話でお会いしましょう


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