ルーミアから家を追い出された。
あの家は俺が建てたものだし、家主は俺と言っても良いのかもしれない。そうだと言うのに、追い出されてしまった。ルーミアから家を出ていくことはあったが、俺から家を出ていくのは初めて。
これからどうすっかなぁ。
香りの良い紅茶へ口をつけながら、これからのことをボーッと考えてみる。
毎日のように俺のことを嫌いだとか、顔も見たくないとかルーミアは言ってくるが、ルーミアは優しい奴だと思う。きっと内心は俺にベタ惚れなはず。
そんなルーミアではあるけれど、今回ばかりは冗談ではないだろう。このまま何もせずのこのこと家へ帰ったところで、また追い出されるだろうし、今度こそ本当にルーミアが家を出ていってしまうかもしれない。
あの熊畜生にならいくら嫌われたところでどうも思わんが、ルーミアに嫌われるのはマズイ。なんてったって1000年以上もの付き合いなんだ。其処らの仲良しカップルなんかとは、比べ物にならないほどの太い縁の糸で結ばれているはず。熊畜生は知らん。アイツが勝手に結びつけてきただけだ。俺が結んだわけじゃない。
そんなルーミアとの関係に傷をつけないためにも、俺が頑張らないといけないわけだが……ホント、どうすっかね?
そんな考え事に集中していたせいか、ティーカップの中にあったはずの紅茶は既になくなっていた。
「おかわりを頼む」
「いや、帰れよ」
う~ん、そもそも記憶ってどうすれば戻るんだろうな? 現時点で俺の記憶が戻ってきているのは、ルーミア、美鈴、咲夜。そして萃香と紫も多分戻ってきていると思う。
そんな感じで一応、記憶が戻ってくれた奴はいる。けれども、レミリアやフランドールのようにアレだけ会話をしたのにも関わらず、記憶が戻ってくれない奴も。そして、記憶が戻ってくれた奴らとそうじゃない奴らの差はわからない。
俺だって記憶が戻ってくれれば嬉しい。特に妹紅なんかとはアレだけの時間を一緒に過ごしたんだ。それを忘れられるってのはなかなかに辛い。どうにかならないものか。
文句を言いつつも、2杯目の紅茶をいれてくれたことに感謝し、またティーカップへ口を付けた。
うん、紅茶には詳しくないが、今日も美味しいよ。
「……それで、あんたは何をしに来たのよ? てか、さっさと帰れ」
眉間にはシワ。
声のトーンも低く、明らかに不機嫌な様子。
そんな中でもちゃんと紅茶を出してくれる彼女の優しさが好きだ。
「何言ってんだ。快く招き入れてくれたのはアリスじゃないか」
最初から嫌がっていたような気がしないでもないが、きっとそれもアリスなりの照れ隠しだったんだろう。
ツンデレも嫌いではないけれど、俺の周りの少女達はツンデレだらけなせいで、たまにはデレデレな少女とも会いたいものだ。
「記憶を捏造するな! 私は全力で拒んだのに、あんたが無理矢理入ってきたんじゃない」
そう言えば沢山の人形と、視界を埋め尽くすほどの弾幕でお出迎えされた気もする。俺にとってはそんなのご褒美でしかないが。そもそも熊畜生の攻撃と比べれば、あのくらいなら何てことない。
さてさて、どうして俺が今、アリスの家にいるのかだが……まぁ、アレだ。一言で表すと、逃げているってことですよ。
「そんなことを言いながらも美味しい紅茶を出してくれるアリスが大好きだよ」
「死ね」
ルーミアには頑張ってみると言ったのは良いが、それからどうにも一歩踏み出すことができず、こうやって時間稼ぎをしている。そんな自分が情けないことくらいわかっているし、時間稼ぎをしたところでどうにかなるものではないってのもわかっている。
だからと言ってどうすれば良いのかがわからない。
「はぁ……何か悩みでもあるんでしょ? さっさと話しなさいって」
……うん?
今、なんか、アリスの口から全くもって予想していなかった言葉が聞こえたぞ。
「アリスさん。今、なんと?」
「だから、その悩み事をさっさと話せって言ったの」
あら? 悩んでいることがあるなんて俺は言ってないぞ。そもそも俺がアリスの家へ訪れたのは、アリスの顔を見て、紅茶の一杯でもいただければ頑張れるんじゃないかって思ったからだし。
そうだと言うのに……どうしたのだろうか?
これはいったいどう言う状況なんだ?
「……相談に乗ってくれるのか?」
「鼻で笑ってあげるわ」
まぁ、そうでしょうね。
悲しいことではあるけれど、俺とアリスの仲なんてそんなものだ。ちょっとだけ期待していた自分がいたりいなかったり。
ホント、何を考えているのやら。此処でアリスに話せば何か変わったりするのだろうか? 今のままじゃダメだってのはわかっているけれど、フランドールの時に一度失敗している手前、どうにも前へ進むのが怖くなってしまっている。
妹紅もフランドールのように記憶が戻らなかったら……なんて考えてしまう。いつからこんな臆病になってしまったのやら……
「……また同じ顔してる」
「うん?」
「別にあんたがどうなろうと私は知らないけれど、その顔は見ていて愉快なものじゃないわね」
むぅ、そんな顔をしてしまっていたのか。そんなつもりはなかったのだが、それは申し訳ない。
「何を悩んでいるのか知らないし、あんたのことなんて知りたくもない」
酷い言われようだった。
でも、ちょっと興ふ……うむ。これは傷つくな。
「だからいつものあんたがどんな奴なのかも知らない。……けれども、今のあんたはあんたらしくない」
……俺らしくない、か。
俺らしさってなんだろうか? 他人からは変態だとか、バカだとかよく言われるが、それが俺ってことなのかねぇ。
罵られることに慣れすぎてしまったせいか、そんなことを言われると反応に困ってしまう。いつもの俺と今の俺、どっちが良いんだろうね?
「そんなのどっちも嫌よ」
そ、そうですか。
そうなってしまうと、もうどう仕様も無い。何方へ転んだとしても、良いことじゃないのだから。
……うん。それならもう、好き勝手やらせてもらおう。どうせダメだと言うのなら、自分の好きなようにやった方が良いに決まっている。
昔からそうだ。俺は迷ってばかり。いつもいつも、周りの人に助けてもらってばかり。自分の力だけじゃ進めやしない。ホント、いつまで経っても成長してくれないね。
よしっ。言い訳終了。良い加減、動き出そうじゃあないか。
飲みかけだった紅茶を一気に喉へ流し込む。
俺の人生が上手くいかないことくらい知っている。失敗の連続で、後悔ばかり。けれども、アリスのような可愛い女の子たちと出会えたってことだけで、十分すぎるくらいのお釣りがくる。
失敗と後悔だらけの人生だけど、胸張っていこうじゃないか。今までだってきっとそうやって生きてきたはずなんだ。
だって、それくらいしか俺にはできないのだから。
「なぁ、アリス」
「なに?」
こんな俺に紅茶をありがとう。美味しかった。
俺に何ができるのかわからないけれど、困ったことがあったらなんでも言ってくれ。何があろうと強力することを誓うよ。
「俺のこと好き?」
「大っ嫌いに決まってるでしょうが」
そっか。
相変わらずの辛辣さだけど、どうしてなのやら悪い気分ではない。望んだ答えじゃなかったけれど、今はその言葉だけで十分だ。
「そんじゃ、そろそろ行くよ。また来る」
「はいはい、さっさと行ってきなさい。次来るときはお土産の一つでも持ってきなさいよ?」
了解、特上の日本酒でも持ってくる。
どうすれば妹紅の記憶が戻るのか結局、答えは出なかった。けれども、まぁ、とりあえず動いてみよう。考えたって何の答えは出ちゃくれない。
身体が丈夫ってくらいしか取り柄がない。当たって砕けるくらいで丁度良い。
妹紅には迷惑をかけることになるだろうが、あの優しい妹紅ならきっと許してくれるはず。
それじゃ、数百年前に置いてきてしまった記憶を拾い集めに行くとしようか。
アリスさんは優しい人だと思っています
そしてアイツは、はよ動いてください
と、言うことで第31話でした
いきなり妹紅さんの所へ行かせたら、面倒なことになりそうでしたのでワンクッション挟みました
ごめんね、アリスさん
次話は頼んだぞ
では、次話でお会いしましょう