――東方永夜抄。
なんとも曖昧な知識しか持っていないが、それは明けない夜の異変でもあると同時に、本物の月を取り戻す異変でもあるはず。
正直なところ、俺は異変解決など全くもって興味がない。だって、例え俺が異変を解決したところで、可愛い女の子からモテるわけではないのだから。それくらいの特典はあっても良いと思うんだがなぁ。
まぁ、そんなことは良いとして……じゃあ、全く異変解決に参加しなくても良いかと聞かれるとそれも違う。それはきっかけ程度にしかならないだろうけれど、異変が起きれば必ずあの幻想郷の可憐な少女たちは動く。異変を起こした側も、その異変を解決する側も。それならば俺だって動く必要があるだろう。
ほら、一緒にピンチをくぐり抜ければその分好感度だって上がりそうだし。吊り橋効果……みたいな?
だから、異変解決に参加したいところだけど――
「パートナーどうすっかね」
別にいなくともなんとかなる気もするが、自機組たちはどうせ妖怪やら亡霊やら魔法使いやらと一緒に異変解決に動くはず。そんな中で俺が一人で動いているのは少々寂しいものがある。
そんなんだから、俺も皆に習ってパートナーが欲しいところだけど、俺なんかと誰が一緒に来てくれるのやら……
まず思い浮かんだのは俺のお嫁さんでもあるルーミアだ。
ルーミアとはかなり長い時間を一緒に過ごしているため、相性はバッチリ。だからパートナーを決めようと思ってからは真っ先に声を掛けてみたわけだが――
『いや。面倒だもの』
なんて言って断られた。
まぁ、異変解決中は危ないし、其処へルーミアを連れて行くのもなぁ。と思っていたところではある。それに一緒に来てくれるとも思っていなかった。
そうなってくると選択肢はかなり減ってしまうわけで、残っているのは萃香に紅魔館組の美鈴、フランドール、パチュリーくらいだ。思った以上に俺の交友関係は狭い。しかし、紅魔館組は咲夜とレミリアが動いているわけだからどうにも誘い辛い。それに、フランドールと一緒に解決するのはどっかの誰かがやっているし。東方酒迷録もよろしくね。
んじゃあ、萃香にお願いしようと思っていたが、こんな時に限って萃香が見つからなかった。異変だってもう起こり始めていると言うのに。
つまり、俺のパートナー決めはほぼ詰みかけているわけですよ。けれどもできれば、永遠亭のメンバーとは今のうちに会っておきたい。
ん~……ホント、どうすっかね?
そんなことを考えていると、あの畜生の腕が俺の頭を吹き飛ばした。
「……何を考えていたの?」
十数回ほど俺を食べて満足したのか、なんともご機嫌な様子であの畜生がそう声をかけてきた。
そろそろ異変が起きようとしていると言うのに、どうして俺はコイツと遊んでなきゃいけないんだ。まぁ、今日は割と早く満足してくれたらしいし、それほど文句はないが。
「上で輝いている月、お前にはどう見える?」
もう一人で行っちゃおうかな。このまま此処にいたところで何かが起こるわけでもないんだ。それにまだ夜は始まったばかりで、妖精たちだってそれほど興奮していないと思う。
まぁ、妖精はこの家にほとんど近づいて来ないんだけどさ。きっとこの畜生が怖いのだろう。決して俺が怖いわけではないと信じたい。できれば妖精の一匹くらい捕まえておきたいんだがなぁ。
「……欠けてる。あの偽物の月は好きじゃない」
ああ、妖怪にはやっぱりわかるものなのか。俺はさっぱりわからんが。
秋の満月の日だから、異変が起きるのは多分今日だろうと思っていたが、どうやらその予想は当たっていたらしい。自機組もそろそろ動き出す時間だろうか? 魔理沙とアリスの魔法使い組以外なら俺に向かっていきなり攻撃することはないと思う。ああ、でも亡霊組も……てか、よくよく考えると皆面白がって攻撃してきそうだ。咲夜とかは特に。
「それでな。本物の月を隠しあの偽物の月を出している奴のところへ行こうと思っていたんだが、一人じゃなぁ、と思っていたんだよ」
何と言っても、一人であの迷いの竹林を抜け、永遠亭までたどり着ける自信がない。そんなこともあってパートナーが欲しいのだが……もう一度、ルーミアに頼んでみようか。ルーミアの鼻の良さなら永遠亭まで辿り着けるんじゃないかって気がする。
「……それなら私が一緒に行くよ?」
「冗談は存在だけにしてくれ」
ぶん殴られた。即死でした。ホント、お前は容赦ないな……
直ぐに生き返ってとりあえず大きく深呼吸。
「私が一緒に行く」
これは困ったなおい。どうしてこうなった。
流石にお前はダメだろ。いや、そりゃあ正直、お前ほど頼もしい奴はいないさ。
「私、強いよ?」
それはわかっている。わかっているけど、ソレがまずいんだって。手加減とかできそうにないし、そもそもお前じゃ弾幕ごっこできないだろ? お前の攻撃って基本殴るか蹴るだもんな。俺の幻想郷の少女たちが危ない。
しっかし、本当に困ったぞ。俺じゃあコイツを止めることができない。実力が違いすぎるのだ。そうなると、コイツと一緒に行くか、そもそも俺がこの異変を諦めるしかないわけだが……
やっぱり諦めたくはないよなぁ。永遠亭のメンバーと会っておきたいのはもちろん、何より此処で異変解決に参加しておけば、この先にあるだろう妹紅とのイベントにも参加しやすいはず。結局あの後、妹紅とは会っていない。それはこの臆病な性格のせいでもあるけれど……ほら、やっぱりあの後だと会い難いじゃん。何かしらの理由がないとこの身体は動いてくれやしないのだ。
「お前ってさ、弾幕ごっこできる?」
「るーみあと練習したからできる」
えっ? できるの? てか、ルーミアと練習したって……ルーミアも何故そんな危ないことをしたんだ。
まぁ、それは良いとして……う、う~ん、これなら大丈夫なのか? 正直不安しかないが。
「……少なくとも、殺すことはないと思う」
むぅ、これは悩むな。此処でコイツがちゃんと弾幕ごっこを覚えてくれれば、絶対にコイツのためにもなる。しかし、どうしたって不安はある。
コイツは強い。本当に強い。決して弱くないはずの俺が全力で霊力を高め、身体能力を限界まで上げたところで、結局コイツの軽いパンチで即死する。この畜生は次元が違いすぎるんだ。
「それに……」
「うん?」
「青が嫌がるようなことを私はしない」
俺の目をじっと見つめながら、畜生がそんな言葉を落とした。
……俺の嫌がること、か。
「いやじゃあお前、俺を食べるのやめろよ」
「……それはまた別のこと」
目を逸らされた。一応、俺を食べることに関して何かしら思っていることはあるらしい。
う~ん、確かに異変が起きたとき、お前はいつもいつも仲間外れだったもんな。そんなことを考えると、一緒に連れて行ってやりたいと思うが……
はぁ、しゃーない。もしもの時は何がなんでも俺が止めれば良いんだ。
「基本的にお前から攻撃するのはダメだぞ? 弾幕ごっこも」
「うん、わかった。じゃあ青が良いって言うまで攻撃はしない」
コイツは嘘をつくような奴じゃない。だから、大丈夫だとは思う。今までだって俺以外の奴に何かをしたこともないし。たぶん、俺以外の奴らには興味がないってだけだと思うけれど。
「例え、目の前で俺が殺されても我慢できるか?」
「……うん、我慢する」
……わかった。
コイツのためにも、今回は連れて行くとしよう。いつか訪れるかもしれない未来で俺がいなくなったときでも、コイツがちゃんと生きていけるように。
「はぁ……そんじゃ、一緒に行くか」
俺がそう言うと、畜生は本当に嬉しそうに笑ってから、コクりと頷いた。
……ホント、憎たらしいほどに可愛いことで。
こんなんじゃあ嫌いになれるわけがないってんだよ……
鬱陶しいことに、この畜生とも長い付き合いだ。けれども、今回みたいに共闘するのは初めてのこと。俺にとってコイツは捕食者で、コイツにとって俺は食料でしかない。昔からずっと。
そんな関係だと言うのに、まさかこんなことになるとはねぇ。
数百年前の俺が知ったらどう思うのやら……
さてはて、今回の異変どうなるんでしょうね?
前作の34話はクマさんにアイツがボコボコにされているお話みたいです
それがこんなことになるとは……わからないものですね
と、言うことで第34話でした
ちょっとだけ妹紅さんはおいて異変に突入
あのクマさん暴れなきゃ良いですけど……
では、次話でお会いしましょう