嘘っぱちの月が輝く空の下。本物の月を取り返すため、多くの少女が集まった。博麗の巫女と妖怪賢者。魔法の森に住む普通の魔法使いと七色の人形使い。紅魔館のメイドと紅い悪魔。幽人の庭師と亡霊の姫君。
これはまた随分と愉快な夜になりそうだ。
うん? この中で誰がお前の嫁さんなのかって? ふふっ、そんなこと聞かなくたってわかるだろうに。
誰とは言わない――皆だよ。
「霊符『夢想妙珠』」
「恋符『マスタースパーク』」
「魔符『アーティフルサクリファイス』」
「幻符『殺人ドール』」
少女たちの声が一斉に響いた。
視界を埋めつくような弾幕。針やら霊弾やら魔弾やら魔砲やらナイフやらともうなんでもありだ。
やはり弾幕ごっこと言うのは可憐な少女たちによく似合う。遥か上の方では嘘っぱちの月が輝く、なんとも寂し気な夜となってしまっているけれど、そんなものこの少女たちの輝きと比べたら些細なもの。誰とは言わない。誰でも良いから結婚してください。一生大切にします。
そんな弾幕ごっこが行われている最中なわけだが……何だかおかしいのね。
何故か少女たちの放つ霊弾妖弾魔弾の全てが俺の方へ飛んでくるんだ。弾幕ごっこはそう言う遊びじゃあないと思うんだが……まぁ、アレだ。そんなちょっとしたお茶目心をこの少女たちが持っているってことだろう。
マリアリ詠唱組からは明らかな殺気のようなものを感じないでもないが、そんなものを感じたところで興奮しかしない。
パッと見、俺が少女たちから襲われているように感じるかもしれない。しかしこれは違うんだ。此処、幻想郷の少女たちと言うのは、皆独占欲がかなり強いらしく、また恥ずかしがり屋なせいで、こうして他の少女たちがいると俺をめぐって直ぐに争いが起きてしまう。俺のために争うのは悲しいことだが、これも仕方のないことなのだろうか……
なんてことを最近、考えるようになってからは心の痛みが少なくなったように感じる。
ただ、流れ出る涙が止まることはない。涙越しに見えるぼやけた世界は弾幕でいっぱいだ。
「ホント、俺が受けるのは歪んだ愛情ばかりだよ。おい畜生。逃げるぞ」
「がってんだー」
てか、どうして咲夜と霊夢まで一緒になって俺を攻撃してくるのだろうか。いや、魔理沙やアリスは普段が普段だけにまだ分かる。しかし、残りの二人にはそれほど変なことをしていないと思うんだが……昔のことがある咲夜はもちろん。霊夢とだって実はそれなりに仲が良かったりするんだ。毎度毎度嫌そうな顔をされるものの、博麗神社の縁側でぶん殴られるまで二人のんびり過ごす日もあったりするわけだし。
まぁ、どうせアレだ。皆がいる前だと恥ずかしいとかそう言うことなんだろう。頼むからそうであってくれ。
霊力を込めた氷壁を創り出し、少女たちの弾幕を防ぐ。此処で少女たちからボコボコにされるのも吝かでないが、今回はやらなきゃいけないこと。会わなきゃいけない奴がいる。
こんなところで止まっている時間はない。
畜生の手を取り、少女たちが集まっている場所から離脱。残念ではあるけれど、きっとまた会える。だから少しの間お別れといきましょうか。
「……何処へ行くの?」
ん~……何処へ行けば良いんかね? 勢いとノリだけで出てきてしまったが、正直何も考えていない。まぁ、つまりいつも通りってことだが、止まっているよりはよっぽど良いはず。
「人間……と言うか綺麗っぽい生き物の匂いとかお前ならわからないか?」
正直、このままじゃ永遠亭へたどり着ける気はしない。それにせっかくコイツを連れて来たのだし、これくらいは活躍してくれ。期待しているぞ。
「うん、なんとなくならわかる。今までは感じなかったけど」
あら、そうだったのか。少しくらいは活躍できるんだな。俺には全くわからないが、つまり、それなりに近づいていたってことだろう。
「んじゃあ、その方向へ道案内頼んだわ」
ゲームなら次はてゐなはずだが、今までだってゲーム通りに進んだことはない。そんな状況ではてさて、誰が待っているのやら。
相変わらず攻撃を止めてくれない、妖精や精霊を受け流しながら畜生に続いて永遠亭を目指す。迷うことなくどんどん進んでいっているが、本当に大丈夫だろうか……いや、まぁ、他に頼れることなんてないのだから、この畜生を信用するしかないのだが。
「……見つけた」
そんな心配はあったものの、竹林を抜け、どうにか永遠亭らしき場所へたどり着いた。
おおー、この畜生に任せるのは正直不安だったが、やればできるじゃないか。少しだけ見直した。
「彼処からそう言う匂いがする」
「おう、わかった。よくやったぞ」
ふむ……さて、これからどうしたものか。永遠亭にも俺のお嫁さん候補は沢山いるが、過去の俺と何かしらの関わりがあるのは輝夜だけなんだよなぁ。
まぁ、とりあえず中へ入って行くとしよう。目指すはもちろんグッドエンドだが、まだノーマルエンドすら経験していない。一応、此処まで被弾もなくノーコン……ああいや、そう言えばこの畜生に何度か殺されたからノーコンではないのか。はぁ、どんなものかねぇ。
ちょいとお邪魔しますね。なに、心配はいらない。未来の旦那さんが帰って来ただけさ。
「なんか、ぐにゃぐにゃする……」
永遠亭の中へ入ったは良いものの、誰のお迎えもない。今回俺が此処へ来たのは異変を解決するためではなく、可憐な少女たちと会うため。そうだと言うのにこれじゃあなぁ……
なんてことを思いながら真っ直ぐに続いている長い廊下を飛んでいると、何故か床に突っ込んでしまった。マジ痛い。
いや、ホント何事だよ……って、ああそうか。そう言えばゲーム中でも鈴仙が何かを仕掛けていたような気がする。かなり昔の記憶なせいで会話の内容までは流石に覚えていないが。
「っつ! 誰! ……って、あんた達は地上の人、よね。こんな夜中に何の用よ?」
俺が盛大に床へ突っ込んだせいで大きな音が響き、それに気づいたらしき人物が現れた。
頭にはくたっとした兎耳。足元まで届きそうな長い薄紫色の髪。女子高校生を思わせるようなツーピースの制服。そして、真っ赤な瞳。
祝、鈴仙・優曇華院・イナバと遭遇することができました。
さて、ようやっとこうして永遠亭のメンバーと会うことができたわけだが……これからどうすっかね? 俺としては輝夜と会っておきたいのだが、どう考えたって会わせてくれるはずがない。そうなると、グッドエンドを目指さないといけないわけだ。
しっかし、俺は弾幕ごっこなぞできないし、この畜生にやらせるのもなぁ……
「いや、俺はちょっと散歩に訪れただけで決して怪しいものじゃなく、君のことが好きでした。結婚しよう」
「なるほど不審者ね。あんたみたいな奴はわかりやすくて助かるわ」
――波符「赤眼催眠(マインドシェイカー)」
どうしてこうなった。
いや、俺は侵入者なわけだが、もう少し話を聞いてくれたりしても良かっただろうに。マジ鈴仙さん容赦無い。
座薬などとよく馬鹿にされる妖弾だが、実際に見てみると大きさがちょっとヤバい。あんなモノを入れられたら大変だ。
いや、鈴仙が俺の尻を狙っているわけじゃないことくらい分かっていますよ? 狙われていたら狙われていたでまた興奮するが。
「……それで、どうするの?」
妖弾を避けつつ、どうしても避けられない弾は氷壁を創り出しガードしていると、畜生が聞いてきた。
多分、このまま粘っていれば自機組が到着してくれると思う。ただ、それで間に合うかと言うと……微妙なところだよな。
だから、まだ閉じられていない扉を探したいわけだが……そんなものさっぱりわからない。そもそもアレって物理的に開いているモノだっただろうか? そうじゃないと俺にはわからないわかだが。
「ハロー、青。なんとも愉快な夜ね」
鈴仙の弾幕を躱しつつ、開いている扉を探しているとそんな声。
「よ、紫。霊夢はいないみたいだが良いのか?」
ちゃんとペアで行動しないとダメじゃないか。それとも霊夢が誰かにやられたってことだろうか? 流石にそれは信じられんが。
「あの娘なら大丈夫よ。これくらいなら直ぐに来ると思うわ」
うん、俺もそう思う。流石は主人公と言えば良いのか、霊夢の強さはちょっとレベルが違う。弾幕ごっこでは本当にアイツに勝てる気がしない。
「ふふっ、ほら、青。彼処の扉が怪しいわよ?」
スキマから半身を出している紫が指差した方向にはひとつの扉。俺には他の扉と違いがさっぱりわからんが、紫が言うのだし、何かあるはず。
「あっ、ちょっ、その扉は……っ!」
慌てたような声が後ろから届いた。
ビンゴ。グッドエンドはもう目の前だ。ただ、やはりこのグニャグニャが鬱陶しい。
「へい、クマさん」
「なに?」
やっぱり一回くらいは活躍してもらわないとな。
「あの扉に向かってお前の弾幕ごっこの練習の成果を見せてくれ。ただ、手抜かりなく手は抜けよ? この建物を吹き飛ばしたりとかは絶対ダメだぞ?」
「うん、わかった」
俺の言葉に畜生がそんな返事をしてから、手を前へ突き出した。
そして、その手から魔理沙のマスパを思わせるような極太のレーザーが発射。
そんなレーザーはそのまま直撃し扉を吹き飛ばした。俺の言うことをちゃんと聞いてくれたのか、他に被害もなく完璧だ。
そんじゃ、先へ進むとしようか。
それにしても……
「今のは?」
「……クマスタースパーク」
パクリじゃねーか。隠す気が微塵も感じられない。違うのにしなさいよ。
いや、確かに特徴的で覚えやすい攻撃だと思うけどさ。ちゃんと自分で考えなって。
「ああ、扉が……うぅ、師匠にしかられる」
すまんな、鈴仙。ただ、安心して欲しい。もしもの時は俺も一緒に謝ってあげるから。
扉を吹き飛ばし、その先へ飛び込む。自機組も到着したのか、少し遠い場所からはなんとも騒がしい音が聞こえる。此処まで来たのなら、もう楽しんだ者勝ち。せいぜい踊って見せようか。
扉のあった場所を抜け、暫く進むと少しだけ広い部屋へたどり着いた。大きな月が見える不思議な部屋。
「まさか本当にここまで来る者がいるとは……」
そして、本当に懐かしい声が聞こえた。
きっと彼女は俺のことを覚えていないだろう。それでも、俺が彼女を忘れたことは一度だってなかった。遠い昔に言われ貴女のことを1000年間想い続けた。
話したいことが沢山ある。聞きたいことだって沢山ある。
けれども、まず言わなきゃいけないことがあるだろう。この気持ちと時間を乗せて伝えたいことがあるのだから。
そんな俺の言葉を聞いてもらえると嬉しいかな。
「こんばんは、なよ竹のかぐや姫。1000年前から貴方が好きでした。結婚してください」