「そんじゃ、俺は行くけどお前らは宴会、楽しんできてくれ」
偽物の月が浮かんだあの異変も終わり、今日はその異変が終わったことによる宴会のある日。既に外の景色は暗くなっているし、そろそろ宴会が始まる時間だろう。
「あれ? あんたはいかないの?」
コテリ首を傾げ、そう聞いてきたのは俺のお嫁さんであるルーミアだった。うん、今日も可愛いよ。
「ああ、ちょいと行きたいところがあるんだ」
別にこのタイミングで行く必要はどこにもない。むしろ、輝夜なんかが来てくれる宴会へ行った方が絶対に良いはず。けれども今までのことを考えるに、どうせ行ったところで……なんて卑屈に考えてしまう自分がいたりする。
それにほら、たまには裏を取ってみるのも悪くはないだろう。このひねくれた性格じゃ真っ直ぐ進むことなんてできやしない。それなら、曲がりながら寄り道しながら自分なりの道を歩んでいこう。
「あの月の奴だっているんでしょ?」
ああ、そう言えばルーミアも輝夜と会ったことがあるんだったか。
「そうなんだが……まぁ、今回はやめておくよ。てか、なんだ? そんなに俺と一緒に行きたかったのか?」
「ううん。全然」
……でしょうね。このツンデレさんめ。
さてさて、それじゃあ、そろそろ俺も行くとしようか。きっと楽しい宴会が開かれる今日だってアイツはひとり寂しくしているのだろうし。そんなアイツに同情しているとかそう言うわけではないけれど、こんな日くらいは会ってあげたい。そして記憶が戻ってくれれば素敵。
「んじゃ、行ってくるわ」
「ん、でも、どこへ行くの?」
時刻は夜。
一緒に太陽の下を歩くことはできないとしても、月の下なら並んで歩くことだってできるはず。例え俺のことを思い出せないとしても、変わることのないこの気持ちを届けてみるとしよう。
それくらいしか俺にはできないのだから。
「紅魔館だよ」
月明かりに照らされた霧は薄ぼんやりと光り、どうにも不気味に感じてしまう。まぁ、少し前の異変のときみたく真っ赤な霧よりはまだマシに感じるが。
そんな霧の出る湖を抜けると、直ぐにまた不気味な館が見えてきた。その館に住んでいるのは吸血鬼や魔女といかにもと言った奴ら。色々と危ない奴らのいるこの幻想郷の中でも、此処はかなり危険度の高い場所だろう。
まぁ、俺には危険度なんて関係ないが。だって、此処の住民皆可愛いし。
綺麗な花に刺があると言うのなら多少の危険は仕様が無い。
そして、紅魔館へ到着したわけだが、珍しく今日は門番である美鈴の姿がなかった。美鈴は数少ない記憶を覚えてくれている組なため、会話をしたかったんだがなぁ。何より美鈴の優しさは本当に癒される。最近の幻想郷の少女たちは皆冷たい。そんな冷え切った身体を美鈴の優しさで温めて欲しかったのだが……まぁ、いないのなら仕方無い。
門を飛び越え、庭を抜けて紅魔館の中へ。お邪魔します。
いや、“ただいま”と言った方が合っているかもしれない。なんともくすぐったく感じてしまうけれど、レミリアや咲夜曰く俺も一応は紅魔館のメンバーらしい。
――確かに、お嬢様や妹様は青様のことを覚えていません。ですが私や美鈴は覚えていますし、それに鬱陶しいことではありますが、貴方は私たちの大切な家族です。
あの終わらない冬の異変の時に言ってくれた咲夜の言葉を思い出す。それが咲夜の本心だったのかなんて分からない。分からないけれど……家族、か。
やはり悪い気はしなかった。
「え……えっ? ど、どうして青がいるの?」
そうやって俺には似合わないようなことを考えつつ、真っ赤な真っ赤な館の中へ入ると、直ぐに声をかけられた。金色の髪がよく似合う少女の姿。その右手には見覚えのある傘。
今回この紅魔館へ訪れたのはこの彼女と会うため。うむ、やはり可愛いな。
「よ、フランドール。遊びに来たぞ」
てか、フランドールもあの部屋を出ることがあるんだな。ずっと部屋の中にいるものだと思っていた。
「あっ、え、えと……あのね、今日は皆出かけちゃってて、でも……だから私ひとりで、えと……」
急に俺が訪れたものだから、どうにも混乱させてしまったらしい。わたわたと手を動かしている姿がマジ可愛い。
まぁ、こうやって実際に会うのは一年ぶりだもんな。また来るなんて言っておきながら随分と待たせてしまった。
「ああ、知ってるよ。だから今日来たんだ」
フランドールへ俺がそう言うと、首を傾げられた。
ただ、よくよく考えると、まるで付き合いたてのカップルが両親がいない日を狙って相手の家へ訪れているかのように感じる。それはまた、なかなかの背徳感だ。
まぁ、俺とフランドールはカップルでもなんでもないんだけどさ。
「よくわかんないけど……うー、私はどうすればいいの?」
いや、別にどうする必要もないと思うが……俺が勝手に訪れただけなのだし。
とは言え、せっかく来たのだ。俺はこうやってフランドールと会えただけで十分満足だが、フランドールはやりたいことのひとつや二つくらいあるだろう。
「ん~……フランドールは何かやりたいこととかある?」
のんびりお茶でも飲みながら、朝までずっとおしゃべりをしているのも悪くないし、頑張れば弾幕ごっこもできなくもない。時間はたくさんあるのだし、のんびりいこうじゃないか。
「えと……と、とりあえず私の部屋にいこ」
かしこまりました。
どうやらまだ緊張しているらしい。フランドールは俺と会うのもまだ2回目。だからまだ色々と掴めていないのだろう。距離感とかそう言うことを。
それは悲しいことであるけれど、だからと言って俺の気持ちが変わることはない。それにフランドール曰く、俺はフランドールの物らしい。それなら、フランドールのため精一杯やってみよう。
フランドールの左手を右手で握り、フランドールの部屋を目指しふたりで真っ赤な館の中をお散歩。普段は妖精メイドなんかが忙しなく飛び回っているせいで、なかなかに騒がしい館内も今ばかりはふたりだけの静かな空間だった。
うん、たまにはこう言う雰囲気も悪くないかもしれない。
最初はどう見たって緊張しています、と言った様子だったフランドールも、自分の部屋へ戻る頃にはだいぶ落ち着いてくれたらしい。
そして、この紅魔館の中で俺が一番長い時間を過ごした部屋の中でまず目に付いたのは、ベッドの上に置かれている数冊の本だった。それは、去年のクリスマスの日に俺がフランドールに贈った物。どうやらちゃんと読んでくれているようで俺も一安心。
「あの本は?」
「あっ、えとね、さんたくろーすって奴がくれたの。咲夜が言うには、悪い奴なんだけどたまにこうやってプレゼントしてくれるんだって」
そっか。
どうやら、咲夜もちゃんと伝えてくれたらしい。若干刺が見えるけど。別にサンタは悪い奴じゃないだろ……いや、俺のことですね、わかってます。
もう一度その本へ視線を向けると、何度も何度も読んでくれたのかくたびれているように見える。気に入ってもらえたのかな? そうだと嬉しいな。
それから二人して大きなベッドへ腰掛けてみた。離してしまった手がなんとも名残惜しい。
「フランドールって普段もこの部屋を出てるのか? さっきみたいに」
「ううん。ほとんどこの部屋にいて、あんまり外へは出ないよ」
あら、そうだったのか。それじゃあ、さっき会えたのは運が良かったってことなのだろう。ただ、そうなるとどうしてあの時、フランドールは紅魔館の中を歩いていたんだろうな。どうやらフランドールも皆がいないことを知っているそうだし、レミリアの所へ行ったわけでもないだろう。
「んと、フランドールはさっき何をやってたんだ?」
皆がいないのを良いことにいたずらをしようとしていた。とかだったら面白い。たま~にぶっ飛ぶこともあるが、フランドールって基本おとなしいし、やんちゃな姿とか見てみたものだ。
「……今日は誰もいないから。……私が部屋を出ても迷惑かけないから」
……予想以上に重い答えだった。
あかん、まさかこんなことになるとは思わなかった。
えっ? なに? フランドールさんってば、まだそんなこと思ってたんですか? あの時、せっかく頑張って壁を壊したと言うのに、どうしてまたそんな自分から壁を作ろうとしているのやら。とは言え、さっきみたいに部屋を出て歩いていたと言うことは……まぁ、そう言うことなんだろう。
フランドールはもっと我が儘になって良いと思うんだがなぁ。
ん~……俺にできること、か。
「……なぁ、フランドール」
「なあに?」
本当は朝までのんびりフランドールと過ごす予定だった。けれども、ちょいとばかし動いてみるとしよう。他人のことばかりを考えるせいで、身動きが取れなくなったこの引きこもりのために頑張ってみよう。
そんなことをしたら何を言われるのかわかったものじゃないが、どうせこれ以上下がる好感度などない。それならば、俺は自由に動かせてもらうとしようか。
「宴会に行くぞ」
あの月明かりの下。
ちょいとデートと洒落込みましょうや。
早いもので、この東方想拾記を書き始めてもう1年だそうです
完結できるかなぁ……
と、言うことで第40話でした
前話でハッチャケさせてもらったので、今話はちょいとしんみりとした感じに
次回はフランドールを連れての宴会でしょうか?
では、次話でお会いしましょう