「いーやーだーっ!」
まぁ、嫌がるだろうなぁとは思っていたが、予想以上にフランドールは嫌がってしまった。心配しなくても大丈夫。とか、別に怖がることなんてない。とか言ってみても全く聞いてくれない。行きたくないの一点張りだ。駄々っ子みたいでちょっと可愛いなんて思ってしまうけれど、今回ばかりはフランドールに頑張ってもらいたい。
「もう! 私は絶対に行かないからっ!」
そして、結局そんな言葉を落としながら部屋を飛び出していってしまった。オマケとして大量の妖弾を俺へ放ちながら。直撃しました。吹き飛ばされました。フランドールさんマジ容赦ない。
……さて、どうしたものか。
俺のことを怖がって近づいてくれない妖精メイドたちのことは知らんが、他の紅魔館メンバーがフランドールを避けているとは思えない。むしろ大事に思ってくれているはず。
そんなことくらいフランドールだってわかっていそうなものなんだが……
確かにフランドールの過去には色々とあった。それはフランドールに少しだけ勇気が足りなかったせいでもあるけれど、怖がられていたのは事実だろう。あの時のフランドールも今と変わらず可愛らしかったが、ちょいとやんちゃだったし。
しかし、フランドールは自分でそれを乗り越えることができたんだ。長い長い時間がかかってしまっても自分で壁を壊し、一歩前へ踏み出すことができたはず。そうだと言うのに、フランドールはまた止まってしまっている。あの広い広い世界を、小さな小さな自分だけの世界から眺めることしかできていない。
そんなこと良いはずがない。
あんな狭い世界で物語を止めていたんじゃあ面白くない。やっぱり眺めるだけじゃなく、自分の足で歩いてみたいよな。
そんじゃま、捕まえて無理やりでも外へ連れ出すとしましょうか。
――――――――――
青が急に紅魔館へ来たものだから、最初はすごく驚いた。
だって、私は青に酷いことをしてしまったし、もう会えないんじゃないかとすら思っていたのだから。それはすごくすごく悲しいことだけど、私が青に酷いことをしてしまったのは本当のこと。だから、もう会えないんだろうなぁって。もう一度会いたいけれど、多分ダメなんだろうなぁって。
けれども、去年のとある冬の日。私が夜目を覚ますと
――フランドールへ。Merry Christmas.
なんて書かれた一枚の紙が置いてあった。そして、その傍には数冊の本。
紙に書かれた言葉の意味はわからないし、これを誰が置いてくれたのかもわからない。もしかしたらお姉様が用意してくれたのかもしれないけど、やっぱりわからない。だから、最初は置いてあった本も無視しようと思った。
けれども、私が起きてから暫くすると咲夜が部屋へ入ってきたから、これは誰がくれたのか聞いてみることに。
そして、咲夜が言うには
――サンタクロースと名乗る、妹様のことを大切に想ってくれている方からの贈り物ですよ。
ってことみたい。
咲夜は優しく笑いながら私へそう教えてくれた。
でも、私は“さんたくろーす”なんて奴は知らない。そもそも私に知り合いなんてほとんどいないもの。そんな私なんかに贈り物をしてくれるさんたくろーすって奴は何者なんだろう。
「そうですね……悪い人ですよ。変態で、馬鹿で、阿呆でどう仕様も無いような方です」
とんでもない奴だった。
このプレゼントはどうしよう。呪いのひとつや二つくらいかかっていてもおかしくなさそうだ。
「……そんな人ではありますが――私は嫌いじゃありませんよ。ですので、どうか妹様もその贈り物を受け取ってもらえれば、と」
咲夜の言葉はよく、わからなかった。
さんたくろーすは悪い奴。でも、そんな奴を咲夜は嫌いじゃない。だからきっと、さんたくろーすは良い奴で悪い奴なんだと思う。そんなよくわからない奴。
そんなことを考えると、とあるひとりの人間の顔が私の頭の中に浮かんだ。
それはきっと私にとって大切な人で、でも、私にはよくわからない人。また、会いたいな。会えたら良いな。
「ねぇ、咲夜。このプレゼントってさ……」
それは私の願望。都合の良い願い。
そうであったら良いな。そうであってほしいな。そんなことを思ってしまう。私には思い出すことができないけれど、きっと私の中の何処かにその思い出があって、それが私の心を揺さぶる。激しく揺さぶってくる。
顔を下へ向け、ぽそりとそうであることを願いながら咲夜に聞いてみた。
アレだけのことをしておいて、そんな都合良くいくわけがないって思ってる。でも……それでもあの人ならって思う私がやっぱりいて願ってしまう。
ゆっくりと顔を上げ、咲夜を見ると、片目を瞑り立てた人差し指を自分の口へ当てていた。
その行為は、その行動の意味は……
「ふふっ、どうでしょうか。私は口止めされてしまっているので教えることができません」
クスクスと笑いながら、咲夜はそう答えてくれた。
つまり、きっと、この贈り物は――
「……私なんかがもらっても良いのかな」
トクトクと私の中で何かが跳ねる。
まだ寝起きで遅いはずの血は早く流れる。
「妹様だからもらって良いんですよ」
……そっか。そうなんだ。私なんかがもらっても良いんだ。
そう思えてしまった。
それから青がまた私の所へ訪れてくれることはなかった。
あのプレゼントを私にしてくれたのは青で間違いないと思う。だから、もしかしたらまだ嫌われてないのかなって思えるけれど、本当のところはどうなのかがわからない。
そして何より
――嫌われるのは辛い。
向けられるあの視線や態度はいつまで経っても慣れない。だから、知らないままでいた方が良いんじゃないかって思う。思ってしまう。
だって、今はまだ青からあの視線や態度を向けられたことはないのだから。会わなければ、あの視線や態度を向けられることはないし、知らないままでいられる。そっちの方が良いのかなって思ってしまう。
けれども、今日、青が私のところへ来てしまった。
こうやって私のところへ来てくれたことは本当に嬉しいし、お話したいこと、聞きたいことがたくさんある。
でも、私には青の本当の気持ちを聞く勇気がない。あんなことをしてしまって、それでも私を嫌わないでいてもらえるなんて思えない。それでも、青と一緒にいられるのは嬉しいと思ってしまう自分がいるものだから手に負えない。
そして、青の一緒に宴会へ行こうなんて言葉。
流石に無理でした。ダメでした。逃げました。
青が私のために言ってくれていることはわかる。でも、私には勇気がない。皆から嫌われたく、ない。
それに私は今に満足している。たまに部屋から出てフラフラ歩いて、たまにお姉様に美鈴や咲夜、パチュリーと少しだけ会話をするこの生活で満足している。そう……きっと私はこれで良いんだって思えている。
満足しているんだ。だから、これ以上は考えたくない。考えちゃいけない。
廊下の端で座り込み。顔を下へ向け、膝を両手で抱え小さく小さくなって、自分に言い聞かせる。望んじゃダメだって。私にそんな権利はないんだって。
瞬間――ふわりと冷たい風が私の身体を撫でた。
「っと、漸く見つけたぞコノヤロー」
あの声が聞こえた。
トクトクと私の中の何かがやっぱり跳ねた。
怒ってるかな? 怒ってるよね……ごめん、ごめんなさい。でも、私にはやっぱり無理だよ。この紅魔館の外にすらほとんど出たことのない私が宴会に行くのなんてやっぱり無理。
それに、私なんかが行っちゃダメだもの。
「ごめんね、青。でも私はやっぱり……」
良いんだ。これで良い。私の物語はこれで良い。だって、やっぱりお話の世界みたいに上手くいくことなんてないもの。
今まで続いてきた私の物語を読み返すだけで私は良いの。これ以上先には進まなくて良い。青が私にくれた本みたいに、幸せな終わり方なんかじゃないけれど、私の物語だって決して不幸なものじゃなかった。だから、私の物語はそんな終わり方で……
「ページをめくれフランドール! お前の物語はまだ終わっちゃいないだろ!」
私に叩きつけられた青の言葉。
私の物語のページをめくる……それは、つまり私がまた前へ進まないといけないと言うこと。止まっていた物語の続きをもう一度書き始めないといけないと言うこと。
そこにどんな物語が綴られるのかなんてわからない。絶対に青のくれた本のお話のような物語にはならない。
それは――
「怖いよ、青……」
顔を上げた。
けれども、視界が濁ってしまっているせいで、青の顔をちゃんと見ることができない。ポタポタと私の目から何かが落ちる。それが全然、止まってくれない。
「嫌われるのは、いやだよぉ……」
それでも私は物語を進めないといけないのかな? また皆から嫌われてしまっても私は続けないといけないのかな?
「大丈夫だって。例えお前に何があろうと絶対に俺がまた救ってやる。だからさ、もう一度進んでみようぜ? それに安心しとけ。この世界がフランドールみたいな可愛い女の子に優しくないはずがない」
曇り、濁り、見え難い視線の先、確かに青は笑っていた。
私の頭に手を乗せ、優しい優しい言葉を私へ落としながら。
「ど、どうして……青は私にそこまでしてくれるの?」
私には青との記憶がない。でも、その消えてしまった記憶の中でも私は青に酷いことをいっぱいしてしまったはず。200年もこの部屋で私なんかと一緒に過ごし、あの時の私を助けてくれた。きっとその間、私は青に対して何度も何度も酷いことしてしまったはず。
恨まれたっておかしくない。殺されたって文句は言えない。
「んなもん決まってる」
そうだと言うのに、青はこうして私をまた助けようとしてくれる。
それがわからなかった。だから聞いてみる。あの時はお姉様が来て聞けなかったことをもう一度、聞いてみる。
どんな返事をされるのかわからない。怖い。でも、もしかしたら……小さな小さな可能性を拾い上げることができるのなら、青の言葉で私は――前に進むことができる。
「お前のことが好きだからだよ」
優しそうな笑顔でゆっくりと言葉を落としてくれた青。
それはあまりにも出来すぎた物語で、青のくれたあの本たちに負けないくらい素敵な素敵な物語。そんなものを私なんかが綴っても良いのかな……
「私は人間じゃないよ?」
「関係ない」
「私はまた乱暴しちゃうかもしれないよ?」
「ごほうb……大丈夫、気にしないから」
「私は我が儘だよ?」
「そんくらい、いくらでも付き合ってやるよ」
「私は弱虫で臆病者で……青に迷惑かけちゃうよ?」
「迷惑なんていくらでもかけろ」
そんな私なのに、そんな私ですが……
それでも……それでも貴方は――
「私を好きと言ってくれますか?」
「胸張って言えるさ。フランドールのことが……お前のことが大好きだって」
どうして青が私なんかのことをそこまで想ってくれるのかはやっぱりわからない。私みたいに酷い奴にどうして好きって言ってくれるのか。それはわからない。
もしかしたら、青の言葉は全部嘘なのかもしれないし、その可能性はすごく高いと思う。
それでも、青の言葉は嬉しくて……本当に嬉しくてぐちゃぐちゃになってしまった感情のまま、青に抱きつき私は泣いた。わんわんと声を出し、全力で泣いてみた。
ごめんなさい。こんな私で。
ありがとう。こんな私に。
未来なんて私にはわからないから、先のページは真っ白。
怖いです。不安でいっぱいです。
でも、青と一緒なら私の物語の続きを書き進められるって思うんだ。
……進みませんでしたね、お話
と、言うことで第41話でした
書いていてあっ、これヤバいやつだ、なんて思いましたが気にせず書き続けた結果がこれです
まぁ、これから先どう進めていくかは未来の私に任せるとしましょうか
では、次話でお会いしましょう