まさか2回も殴られるとは思っていなかった。
殴られた頬が痛む。俺はただ一途な愛を伝えただけなんだけどなぁ。愛することが罪だなんて残酷じゃないか。
いや、まぁ、殴られることも嫌いじゃないが。
「……それで、あんたは何をしに来たのよ?」
誰が見てもわかるほど不機嫌な霊夢。なんでそんなに怒っているのだろうか。
「以前、霊夢の所へ行った時と同じ理由だよ」
まぁ、こっちの方は別に返してもらわなくても問題ないが。
だから今回は何方かと言えば、紅魔館のメンバーと会いに来たと言うことの方がメイン。
フランドールの奴、大丈夫だろうか。レミリアだってしっかりしている部分もあるが、やはり心配だった。
「また晒しを盗みに来たの?」
「いや違う。そうじゃない」
あの時だって別に晒しを盗みに行ったわけじゃないのだ。ただ偶々干してあった晒しが目に付いたから、ついつい手が出てしまった。あんな物が干されていたらそりゃあ手ぐらい出る。むしろ手が出ない方が失礼だろう。
一人の人間として、一人の漢として晒しが干してあったら、手に取り匂いを嗅ぐのが礼儀ってものだろう。まぁ、匂いを嗅ぐ前にぶっ飛ばされたが。
「なぁ、霊夢。博麗神社にこう……代々伝わるお酒みたいな奴ってないか? 瓢箪に入っていると思うんだが」
「ん~……ああ、なんかあった気がするわ。でも、ずっと昔のお酒だしたぶん酢にでもなっているわよ。それに全然美味しくないって聞いてる」
おお、まだ残っていてくれたか。
てか、日本酒は酢にはならんぞ。そりゃあ酸っぱくなることはあるが、そもそも菌が違った気がする。それに神からもらったお酒なんだ。そうそう悪くはならないだろう。
「そかそか、ちゃんと残っていてくれたか」
もしかしたら、もうなくなっているかもと思っていたが、ちゃんと残っていてくれたらしい。流石は神の酒だ。いくら不味くともそれなりの扱いは受けられるんだな。
「アレってそんなに良い物なの?」
「まぁ、そりゃあ神の酒だからな。悪い物じゃない」
俺がそう答えると、霊夢はふ~んと対して興味もなさそうな声を出した。
でも、どうせ返してくれないんだろうな。まぁ、正直なところ俺も必要かと聞かれても、別にそうではないってのが本音だけどさ。
だって、あの酒美味しくないし。美味しいお酒は好きだが、美味しくないお酒は好きじゃない。
ただ、あのお酒便利なんだよな。簡単に霊力の底上げができるし。それに飲めないほどの味ではなかった。
「さて、そんじゃそろそろ行くとするか」
いつまでも入口にいるわけにもいかない。
そう言えば魔理沙はまだ来ていないのだろうか?
「……あんたも来るの?」
なんですか? 俺と一緒にいるのがそんなに嫌なの? なるほどこれがツンデレか。まるでルーミアみたいじゃないか。ルーミアさんデレてくれたことないけど。
「途中までだけどな。どうせ霊夢は異変を解決するんだろ? 俺は異変解決に興味なんてないから、途中で別れることになると思うよ」
「そう、それは良かったわ」
……もう少しオブラートに包もうよ。そろそろ泣くぞ。
はぁ、霊夢の攻略には時間がかかりそうだ。
ま、攻略できたキャラなんて一人もいないんだけどさ。
ホント上手くいかないことばかり。でも人生なんてそんなもんだ。
俺が妖精メイドを捕まえようとしていたせいか、霊夢と一緒にいる間妖精メイドたちが襲ってくることはなかった。捕まえたかったんだけどなぁ……
「っと、んじゃあ霊夢。俺はちょいと寄り道していくよ」
俺がいた時とは少しばかり紅魔館の中が変わってしまっていたが、なんとか見つけることができた。それは、どことなく重苦しい雰囲気を感じる階段。
さてさて、あの引き籠もりはちゃんと元気でいてくれるだろうか?
「そっちには何があるの?」
「俺のお嫁さん」
「…………」
いや、黙るなよ。どうして良いかわからないじゃないか。
でも、まぁ、もしかしたらそんな未来もあったのかもな。たらればを言い出せば切りがない。けれども、それほど悪い仲じゃなかったはず。
「ああ、そうだ。一応言っておくけど、此処の主は強いぜ。ま、頑張って解決してみなよ博麗の巫女さん」
「あんたに言われなくてもやるわよ」
そりゃあそうか。
霊夢の戦っている姿は見ていない。それにレミリアだってかなり強いはず。でも霊夢には勝てないんだろうなぁ。それだけははっきりとわかった。
霊夢にまた会おうと声をかけたが見事に無視された。
現実はいつだって厳しい。
ま、しゃーないな。時間はあるんだ。焦る必要なんてない。
そして俺は地下へと続く薄暗い階段を下りていった。
――――――――
いつもの傘を手に持ち、ベッドに腰掛け足をプラプラさせてみる。
今日はなんだか上の方が騒がしかった。私も行ってみようかな。なんて思ったけれど、何が起きているのかわからないし、もしかしたら迷惑になるかもしれないからやめておいた。
でも、やっぱり気になる。
う~ん、私も行こうかな。久しぶりにこの部屋から出るのも悪くないし。
そう思ったとき、あの扉が開いた。
私の部屋に訪れる奴はほとんどいない。食事の時間は別だけど、あとはお姉様がたまに訪れるくらい。
でも、今は食事の時間ではないはず。
誰だろう? そんな少しの期待と少しの不安。
「う~ん、相変わらずこの部屋は薄暗いんだな」
扉を開け入ってきた奴は男の人間だった。その人間の見覚えはない。
「貴方はだあれ?」
私がその人間に聞くと、ソイツは一つため息を落とした。
「……傘、まだ持っていてくれたんだな」
私の質問には答えず、ソイツは言った。
少しだけむぅっとしたけど、此処はぐっと我慢する。人間は直ぐに壊れてしまうから、私は我慢しないといけないのだ。壊れた玩具は直らないから。
「だってこれは大切な傘だもの」
それに、この傘を持っていると安心できる。
大切な人からもらった大切な……あれ? そう言えばこの傘って誰からもらったんだっけ。大切な、人? ……うん?
「そかそか、そりゃあ良かったよ」
そう言ってアイツが笑った。
心がチクリと痛んだ気がした。
何か――おかしい。
「……貴方は何をしに此処へ来たの?」
心がざわつく。これはあまり良い気分じゃない。
「フランドールに会いに来たんだよ。また戻って来るって約束したしな」
カラカラとアイツは笑う。
そんなアイツの顔を見ると、私の心はチクチクと痛む。
やだなぁ、私はどうしちゃったんだろう。
傘を強く握ってみた。余計に心が痛んだ。
「私はそんな約束してないわよ?」
「あ~……まぁ、そうなんだけどさ。俺はしたんだよ」
笑っていたアイツが悲しそうな顔をした。
それなのに心はさらに痛む。
チクチクと心に何かが刺さって、頭の奥で何かが蠢く。
まずいなぁ、そろそろ限界が近い。ヒクヒクと右手が何かを握ろうとし始めている。でも、それはいけないこと。だって私が握ってしまったら壊れてしまうから。壊れてしまったらもう直らないから。
「ねぇ、貴方は誰?」
私の質問に答えてよ。
「……青だよ」
右手を握った。
ソイツは壊れた。
息が荒い。
心臓が暴れる。
頭の中で何かがグルグル、グルグルと回る。
必死になって傘を握ってみる。でも心は痛む。痛い……どうして? どうしてこんなに痛いの?
「……っつ。まさかいきなり来るとはねぇ」
アイツが立ち上がった。
壊したはずなのにアイツは直った。でもそれはおかしい。壊れた玩具は直らないから。
息が苦しい。いくら空気を吸っても、苦しさが終わらない。
心臓が暴れる。その音が、五月蝿い。
「……ねぇ、青」
「うん? どうした?」
どうしてこんなに痛いのか貴方ならわかるかな?
「私と一緒に遊びましょ?」
「まぁ、構わんけど何して遊ぶ?」
壊れても直る玩具。
今度は大切にすることができるかな?
「殺し合い」
貴方はそんな私を受け入れてくれますか?
「……そりゃあ楽しそうだな」
そんなアイツの言葉に乾いた笑いが一つ落ちた。