「今年の冬はやたらと寒いな……」
じゃあ、家の中にでも篭ってろって話だが、真っ白に染まった幻想郷を歩くのも悪くないと思い、ふらふらと外へ出ることにした。まぁ、もう既に後悔し始めているわけですけど。
三日ほど振り続けた雪のおかげで、幻想郷はすっかり雪景色。俺がまだ小さかった頃……つまりこの世界へ来る前は雪が降ればその積もった雪で遊んだものだ。しかし、今となっては寒いっきりでそんな元気もない。せめてルーミアが一緒に遊んでくれれば良かったが――寒いのは嫌。とか言われて見事に断られた。
あの熊畜生なら雪遊びに付き合ってくれそうだが、アイツは絶賛冬眠中。暖かくなるまで起きてくることはないだろう。
「じゃあ、もしかしてアイツって雪のこと知らないのか?」
ああ、いや、違うか。アイツが冬眠するようになったのは、ヒトの形になってからだし。
さてっと。今日は何処へ行くとしようか。
冬と言えば、あの氷精――チルノが非常に元気な季節だ。しかし、アイツとは先日、霧の湖で御神渡りを作って遊んだばかり。今日も遊ぶ約束をしたような気もするが、多分、アイツも約束したことは忘れている。
それに、二日連続で同じ女の子と遊んでいることが、他の幻想郷の少女たちにバレてしまっては嫉妬されてしまう。それはよろしくないだろう。
ん~……どうしようかねぇ。
と、そんなことを考えながら、ボーッと飛んでいると、気づけば雲の上。風を遮るもののない上空は地上と比べてより一層寒く感じる。
ふむ。せっかくこんな場所まで来てしまったのだ。此処は久しぶりに白玉楼へ行ってみることにしようか。幽々子に対する手土産としては少々心もとないが、何処かで飲もうと思っていたお酒はある。それなら追い出されはしないだろう。……多分。
「はぁ……今日もお酒が美味しいわ」
「あっ、また昼間からお酒なんて飲んで」
ふらふらと上空を飛ぶこと暫く、ようやっと階段を見つけ、そのまま白玉楼へ行くと、今日も今日とて冥界コンビはのんびりとした時間を過ごしているようだった。
「だって雪が積もっているんだもの。いけないのは私じゃなくこの雪の方だわ」
「そんなこと言って昨日も飲んでいたじゃないですか!」
うむ、いつも通りのふたりだ。妖夢は妖夢で大変そうだが、それを苦にしているようには見えない。つまるところ、良いコンビと言ったところ。
「あら? これはまた珍しいお客さんね。今日はどうしたのかしら」
そして、幽々子が俺に気づいた。
「別にこれと言った用事があるわけじゃないよ。気がついたら近くまで来ていたから寄ってみただけ」
とは言え、こうやって幻想郷の少女たちの元を訪れるのは大切な俺の使命だ。それにこの白玉楼へ訪れる機会はあまりない。ちょっと遠いし、此処。だから行ける日にちゃんと行っておかないとな。
「そんな気軽に来て良いような場所じゃないのだけど……まぁ、いいわ。せっかく来てくれたんだもの歓迎するわよ」
予想以上の高待遇。正直、問答無用で叩き出されるんじゃないかとも思っていたのに、これは予想外。
「ほら、妖夢。お客様にお茶を」
「あっ、はい、分かりました」
一方、妖夢の方は俺に警戒しているらしい。妖夢に対して何かやった覚えはないんだけどなぁ。まぁ、そんな扱いなど慣れているから問題ないが。ただちょっと俺のメンタルが削られるくらいだ。
「さ、青も立ってないでこっちに来て座りなさいな」
「了解。そんじゃ、おじゃましますね。あっ、あとこれお土産」
縁側の幽々子の隣に腰掛けてから、持ってきたお酒を幽々子に。そんなに高いものではないけれど、味はなかなかだった。どうか味わって飲んでください。
さて、とりあえず落ち着いてしまったが、どんな話をしたものか。な~んも考えずに来てしまったが、正直なところ俺と幽々子の相性はあまりよろしくない。それは俺が一方的に思ってしまっているだけかもしれないけれど、今の幽々子との会話はなかなかに緊張する自分がいたりするんです。
昔はそんなこと思わなかったんだけどなぁ。
「ふふっ、何を緊張しているのよ?」
「あー、いや。何と言うか、何を話したものかなぁって思ってさ」
どうやら、気づかれていたようです。これはまたなんとも恥ずかしいことだ。可憐な少女を前に緊張するなんて柄じゃないってのにな。
「お喋りなんて考えてやるものでもないと思うわ。次の瞬間にはどんな会話をしていたのか忘れてしまう。その程度のことで良いんじゃないかしら?」
まぁ……それもそうか。
どうせ俺が一生懸命考えところで、それが裏目に出ることくらい分かっている。それならもう何も気にせず、思ったことを口にするくらいが丁度良いのかもしれない。
何気なく思ってしまうこと、か。
「なぁ、幽々子」
「何かしら」
「今日のパンツの色は?」
引っぱたかれた。
冬の寒さに当てられて赤くなっていた俺の頬が更に赤くなってしまった。
いや、そりゃあ考えないで喋ればこうなるさ。俺が無意識に考えていることなど、そんなものだ。
「……妖夢が相手なら叩き斬られていたわね」
「それはそれで嬉しいから問題ない」
妖夢とは本当に関わりがないんだ。此処でちょいと深い関係になっておくのもありだろう。ほら、非日常の出来事を共に過ごすことで恋が芽生えることもあるとかよく聞くし。
……なんかちょっと違う気もするが、妖夢と仲良くなりたいのは本当のことです。
「はぁ……学習しなさいよ。いえ、そもそも学習する気がないみたいね」
酷い言われようだ。
こうしてわざわざ雲の上まで来たと言うのに、何故か怒られている。これじゃあ興奮してしまうのも仕方無い。
「青はもう少し自覚を持った方が良いと思うわ」
「……自覚?」
はて、何の自覚だろうか。別にプレッシャーのかかるような立場にはいないと思うが。異変の解決には毎回関わっているものの、活躍したことなんてない。そもそも俺には弾幕ごっこができない。
「そう自覚。貴方はあの子を始め、吸血鬼に私や紫。そして鬼とすら繋がりがあるんだもの。今はまだ問題ないけれど、貴方の行動によってはこの幻想郷も危ない。その自覚を持った方が良いってこと」
ん~……それは別に大丈夫だと思うが。確かに、色々な奴らと関わりを持っているものの、俺に影響される奴なんていないだろう。あの畜生はまた別だが、アイツだけはちゃんと面倒を見る。
とは言え、そう言われると確かに俺は変な立場かもしれない。これと言った集団に所属していないが、毎日のようにふらふらと色々な奴らの場所へ訪れている。それはただ俺が幻想郷の少女たちと仲良くなりたいと言う理由だが、そんな見方をされても仕方無い。
「了解。俺にそんな力があるとは思えんが、できるだけ気をつけてみるよ」
俺だって可憐な少女たちが過ごすこの幻想郷を滅茶苦茶にしたくはない。まぁ、そうさせないために何をすれば良いのかなんて分からんが。
それが自覚のないってことなのかねぇ?
「ま、青に言っても仕様が無いか。ただ、利用されないようには気をつけた方が良いと思うわよ」
……俺を利用しようとする奴なんているのだろうか。そんな大きな力を持っているわけでもないってのに。
「お茶をお持ちしました」
幽々子となんとも曖昧な会話をしていると妖夢が戻ってきてくれた。冷えてきたこの身体にお茶は有り難い。
「あら、丁度良いわ。妖夢、やっぱりお酒をお願い」
「えー……わかりました。持ってきます」
幽々子の命令を受け、渋々と言った様子の妖夢。きっと毎日こんな感じなんだろうなぁ。ただ……これはこれで悪くない景色だ。
「……今年の春は騒がしくなりそうね」
誰に言うでもなく、独り言のように幽々子が言葉を落とした。
今年は花々が狂い咲く60周期の年。多分、幽々子はそのことを言っているんだと思う。異変と呼ぶのには少々華やかすぎるものだが、今年の春が騒がしくなるのは確かなこと。
「そうだな。でも、やっぱり俺は季節に合った花が好きだよ」
咲いた花は綺麗なものだけど、やはりその季節を楽しみたい。春に桜。夏に向日葵。秋に彼岸花。長い時間を生きてきてより一層そう思うようになってしまった。
「そうねぇ、私もそう思うわ。それに、どれだけ周りの花々が開こうが、どうせあの桜は咲かないでしょうし」
むぅ、まだ西行妖のことを諦めていなかったのだろうか? あの桜が咲いたところで良いことなんて何もないんだけどなぁ。あの桜が完全に咲いてしまったら幽々子、消えちゃうし。
「別に咲かない桜があっても良いだろうさ。1本くらい抗う奴がいた方がきっと面白い」
「ふふっ、それもそうね。ただ、残念に思っていることがあるの。あの時、あの西行妖を咲かせてやり残してしまったことが」
やり残してしまったこと? どうにも危険な香りがするじゃあないか。また変なことを考えていなきゃ良いけど……
「何をさ?」
そんな俺の言葉に幽々子は静かに笑ってから、ゆっくりと目を閉じた。
目を閉じたのだし、キスをするなら今がチャンスだけど、此処は流石に我慢しよう。どうか止まってくれ、俺の身体よ。
そして、閉じていた目をゆっくりと開けてから幽々子は――
「あの桜を使った桜餅をね、食べたかったの」
なんて、可愛らしく笑いながら言葉を落とした。
残念なことに、俺と今の幽々子の仲は良いものではないだろう。それに、そんなセリフは昔の幽々子に想像もできないようなもの。
ただ、何と言うか……いかにも幽々子らしいセリフだな。なんて思った。
そしてそれ以上に、そんなセリフを笑いながら言ってくれるようになってくれたことが嬉しかった。だって、幽々子はもう死んでしまっているけれど、それでもこうしてまたその笑顔を見ることができたのだから。悲しくなるような笑顔じゃなく、可愛らしい普通の笑顔が。
きっと俺は幽々子のそんな笑顔を見たかったんだろう。1000年前からずっと、ずっと。
その笑顔を見ることができただけで、今日は満足。だって1000年越しの想いはきっと届いてくれたのだ。わざわざ雲の上まで来たかいもあったと言うもの。
「さて、それじゃあ雪見酒といきましょうか。せっかく雪があるんだもの。お酒を飲まないともったいないわ」
「ああ、有り難くいただくよ」
あれだけ寒いと思っていたこの季節。
どうしてなのやら、いつの間にかその寒さは和らいでいた。
このお話で丁度50話目だそうです
早いものですね
と、言うことで第46話でした
そろそろ狂い咲く花のお話に入ってもらいたいですが、どうなることやら……
次話は未定です
では、次話でお会いしましょう