東方想拾記   作:puc119

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第56話~おはようの代わりに~

 

 

「おー、すげー! 本当に何でも売ってるんだな!」

「あ、あの、青さん。もう少し落ち着いてもらえると……」

 

 私の隣には、心から嬉しそうにはしゃいでいる男の子がひとり。周りの視線も気になるし、私としてはもう少し静かにしていてもらいたいのですが……

 ただ、青さんのいた場所は私の住んでいる場所よりも文明が、百年も二百年も遅れているらしく、見るもの全てが珍しく見えるそうです。そうだというのなら仕方無い……のかな?

 

「ああ、それは失礼。たださ、俺のいた世界にはスーパーなんぞなかったから、騒ぎたくもなるんだ」

 

 私がいうのもアレですが、ホント何でもありますもんね。スーパーって。

 そして、青さんのいた世界というのは、どういう世界だったのでしょうか? 私の思っている田舎のイメージとも違うみたいですし、ちょっと想像できません。

 

 それにしても、青さんは不思議な方だ。どう見たって私と同じくらいの年齢にしか見えないのに、これで1500年も生きているなんて……

 それに、諏訪子様とはすごく仲が良いらしく、昨晩は朝まで諏訪子様と談笑をしていたみたいです。そのせいで、諏訪子様はお昼すぎまで寝ていましたが。あと、何故か青さんの顔には殴られた跡のようなものも。

 

 うーん、諏訪子様や神奈子様だって見た目は若々しいですが、あの御二方は神様。けれども、青さんは人間です(本人談)。人間がそれだけ長い時間を生きているということがもうおかしい。神様だとか、妖怪ならまだ分かりますが。

 

 とはいえ、これから一緒に生活するのだし、時間は充分にあるはず。それなら焦る必要なんてない。時間があるときに聞いてみれば良い。

 聞きたいことがたくさんあります。

 

「えっと、まずはジャガイモを買いたいのですが……あれ、いない」

 

 考え事をしていたせいで、ちょっと目を離したらもういない。それほど広くないスーパーだし、迷子センターのお世話になることはないと思うけれど、むぅ、何処に行ってしまったのやら……

 

 

 何処かへ行ってしまった青さんを探すため、スーパーの中を散策。お願いですから、変なことをしたりはしないでいてくださいよ。

 

 そして、それほど時間をかけることなく、青さんを見つけることはできた。

 そんな青さんは商品をじっと見つめ、何かを考えている様子。その場所は紙オムツを売っているエリア。

 いや、どうしてこんな場所に……てか、何をしているのでしょうか?

 

「ふむ、外の世界で大流行中のドロワーズだと言い張ればルーミアが履いてくれるかもしれん。そして、いずれは幻想郷中に――」

 

 何を、しているのでしょうか……

 

 青さんが何を思って紙オムツを眺めているのかは、すごく気になることでしたが、そのことは聞かないことに。何というか、聞いちゃダメな気がしたんです。そして、その予想は間違いじゃないと思う。

 

「あの、青さん?」

「あっ、すまん。心惹かれる商品があったから、つい」

 

 ……私からはノーコメントで。こんな状況で何を言えば良いんだ。

 

 諏訪子様から、青さんは変態だから気をつけるように。なんて何度も何度も言われた。その時は、その言葉の意味を真剣に考えなかったし、冗談だろうと思っていましたが……うん。なんとなくですが、青さんがどんな人なのか分かってきた気がします。

 はぁ、最初に見たときは、そんな人だなんて思わなかったのになぁ。むしろ、ミステリアスな感じでちょっと素敵だって思っていたのに……

 

「えっと、買い物を続けても大丈夫ですか?」

「うん、もう大丈夫だよ」

 

 なんともよく分からない人だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 千数百年ぶりに諏訪子たちと一緒に暮らし始めるようになった日の夜。早苗が寝てから、ふた柱と色々な話をしてみた。

 具体的にいうと、今後どうするのかとか、そういうことを。

 遠回しに伝えても仕様が無いし、そもそも俺の語彙力じゃあそんなに上手く伝えられない。そんなことで、もう隠すことなく、幻想郷のことをふた柱に説明してしまった。

 このまま外の世界にいたんじゃ、神奈子と諏訪子は消えてしまう。そんな悲しい未来だけはどうしても避けたい。だから、神奈子たちに幻想郷へ移るように提案する形での説明。

 

 そんな説明を聞いたふた柱の様子だが、神奈子はかなり乗り気っぽかった。諏訪子は……どうなんだろうか、嫌がっている様子ではなかったが、乗り気ってわけでもなかったと思う。

 とはいえ、諏訪子が乗り気になれないのは仕方の無いこと。神奈子とは違い、諏訪子は土着神だ。その性質ゆえ、土地から離れればかなりの量の力は失われるだろうし、何よりずっと自分が守り続けてきた土地を離れるのは簡単なことじゃない。

 その気持ちを俺は完全に理解することはできないが、そんな気持ちが全く分からないわけでもないんだ。

 

 ただ、そうだとしても、諏訪子を消させることだけは絶対に防がなきゃいけない。

 偽善だ、エゴだと後ろ指を指されようが、それだけはさせない。そのために俺は此処へ来たのだから。

 

 なんてことを思ってはいるんだが……まぁ、そんな簡単にいくものでもないよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 ふた柱との話し合いを終え、諏訪子にお風呂のお誘いを断られてから暫く。いくら外の世界に来ようが、夜寝なくても良いこの体質は変わらない。

 この世界へ転生したばかり……つまり俺がまだ諏訪で生活をしていた時は、この体質に慣れていなかったせいかなかなかに苦労したし、諏訪子や神奈子に迷惑をかけてしまった。

 そんな思い出があるものの、今じゃ夜に寝ないことは当たり前となってしまっている。それに明日は早苗と一緒に買い物へ行く約束をした。これはもう、デートといって良いだろう。明日になるのが楽しみ。ワクワクして寝ている場合じゃない。

 まぁ、そんなことがなかったとしても、どうせ寝られないだろうが。完全にそういう体質となってしまったのだから。

 

 そんなわけで、今日はこの春夜を楽しむとしましょうか。

 

 なんてことを思っていたが――

 

 

「やっぱり青は夜、寝ないの?」

 

 

 そんな声をかけられてしまった。

 今からもう1500年も前の記憶だというのに、どうしてか鮮明に思い出すことができた。あの時は今よりも寒く、春が待ち遠しい季節だったかな。

 

「別に眠るのが怖いわけじゃないよ。けれども、夜っていう時間は色々と考えるのに便利な時間なんだ」

 

 最近はあの熊畜生と戯れてばかりだが、この時間はひとりで過ごすことの方が多かった。

 んでさ、ひとりでいるとやっぱり色々なことを考えてしまうんだ。能力の練習だったり、霊力を高める特訓のようなことをしていても、やはり考えてしまう。

 きっと、それくらいには後悔の続く人生を歩んできているってことなんだろう。

 

 縁側に腰掛けながら水を創造し、それを凍らせる。そして、また水に戻す。

 そんなことを繰り返している俺の横に座ったひと柱。

 

 そのひと柱からは、ふわりと石鹸の香りがした。

 はぁ、一緒にお風呂へ入りたかったなぁ。

 

「そういうものなの?」

「そういうものなの」

 

 ああ、本当に懐かしい。あの時もこんな内容も何もない会話を朝まで続けたっけかな。

 それは遠い遠い昔の記憶。そうだというのに、懐かしいと思えてしまうくらいには最近の出来事だったってことなんだろう。

 それか、そう思えてしまうほど記憶に残る出来事だったってこと。

 

 記憶……か。

 

「諏訪子はさ、やっぱり幻想郷に行きたくないの?」

 

 今、俺のいる世界は現実の世界だ。忘れられたモノが集まる、あの夢の世界ではなく、現実の世界。

 それだのに、なんとも夢見心地な気分になってしまう。何が原因でそうなってしまうのかは分からないが、ふわふわと浮くようなこの感覚はなんだろうか。

 そんな感覚のせいで、想いが溢れ、つい言葉として出てしまう。

 

「……最初はさ。消えても良いって思っていたんだ」

 

 春夜の下、ぽつりぽつり落ちる小さな言の葉は、やたらと響いているように感じた。

 

「人間が私を必要としなくなったんだもん。それならもう仕方無いって思ってた」

 

 土着神として信仰され、国の王として振る舞い、戦いに敗れてもなお、この土地の神として有り続けた。そんな諏訪子の気持ちを、俺なんかが理解することはできないだろう。

 ただまぁ、そうだとしても、その想いを聞くくらいはきっと神様だって許してくれるはず。

 

「でもね……やっぱり怖いよ。誰からも忘れられ、人知れず自分が消えていくのはさ……」

 

 ……再会したとき、あんなにも強い雨の降る中、諏訪子はしゃがみこんでいた。その時はどうしてそんなことになっていたのか分からなかったが、今となって何に苦しんでいたのか、その理由のひと欠片を掴むことができる。

 どれほど多くの者から神として崇められようが、感情はあるんだ。だから、思ってしまうことはあるのだろう。神だろうが、妖怪だろうが、人間だろうが、きっと同じことはあるはず。0と1だけで表せないことだってあるんだ。

 

「だから、私はまだ消えたくない。もっともっとこの世界を歩んでいたい」

 

 多分、これが諏訪子の本音なんだろう。けれども、俺の提案に乗り気ではなかったあの態度のことを思うにきっと……

 

「でもさ、そんな簡単に割り切れないよ。それに、簡単にこの土地を捨てるなんて私は言えない。だって私はこの土地で生まれ、ずっとずっとこの土地で生きてきたんだもの。だから私は、神奈子みたいに青の提案を素直に受けることができないんだ」

 

 チラリ、諏訪子の顔を見ると、本当に悲しそうな顔をしながら笑っていた。

 

 うん、分かってる。それに、諏訪子はそれで良いと思っているよ。

 姿を見せることができなくなろうが、声が届かなくなろうが、願われなくなろうが、忘れられようが……それでも諏訪子はこの土地が好きなんだろう。

 そうでもなきゃ、こんなにも長く神様なんて続けない。

 

「……そっか。それでも、俺は諏訪子に消えてほしくないんだ。だから俺は連れて行くよ。例え嫌がろうがなんだろうが、俺は諏訪子を幻想郷に連れて行く」

 

 無理やり連れて行かれたとなれば、仕方無いって思ってもらえるはず。

 俺にそんな大役が務まるか分からんが、こじつけくらいにはなってくれるだろう。

 

「強引だね」

「それくらいで丁度良いんだよ」

 

 もちろん、できるだけ多くの可愛い女の子を幻想郷へ連れて行きたいという私欲はある。

 けれども、諏訪子にはそれ以上の恩があるんだ。恩返しなんて綺麗なものでもない。俺にはどうせそんな綺麗なものなんて似合わないのだし。

 そうだとしても、何かを返してあげたいんだ。俺にできる限りの何かを。

 

「ふふっ、アレから1500年も経ったのに青は青のままだ。ちょっと飛べるようになって、ちょっと霊力が増えただけ」

 

 中身まで変わるのは難しいからなぁ。

 

「変わった方が良かったか?」

「ううん、そのままでいい。その方が私はいいかな」

 

 そっか。それなら俺はこのままでいるよ。

 

「幻想郷かぁ……其処はどんな世界なんだろうね。全然想像できないや」

「そうだなぁ。あそこは本当に特殊な場所だから、その特徴全てを伝えるとこはできんが、強いて言うのなら――可愛い女の子がたくさんいる場所だよ」

 

 そして、その中に諏訪子が入ってくれれば嬉しいと思っている。

 

「そればっかだね」

「そればっかだよ」

 

 俺の世界の中心はいつだって可愛い女の子だ。だから、そればっかになってしまうのも仕方無い。

 

 

 

 それからも諏訪子とは他愛ない会話をダラダラと続けた。

 次の日になったらその内容なんて忘れてしまうような会話を。遠い遠い昔にしたあの時と同じように。朝まで。ずっと。

 

 そんな何てこともないことが、やたらと幸せに感じるのはなんでだろうな。

 

 ん~っと、大きな伸びをひとつ。

 夜通し喋っていたせいか、身体は固まり気味だ。

 

 ふと気が付けば、東の空は明るくなり始めていた。どうやら、また今日も一日が始まるらしい。

 

 そうだというのなら、出さなきゃいけない言葉があるだろう。

 

 今日というこの日が始まることを伝えるために。

 今日もまた良き日となるよう精一杯の願いも込めて。

 

 

「キスしよっか」

 

 

 ぶん殴られた。

 

 







のんびりしたいなぁとは思っていましたが、気付いたらもう7話も諏訪にいるんですね
流石に焦り始めましたが、主人公がなかなか動きません

前作で書いた諏訪のお話は今からもう2年と5ヶ月も前のことです
そんなこともあり、主人公も懐かしさとかも含めて楽しんでいるのかなって思います

とはいえ、そろそろ幻想郷へ戻ってきてもらいたいところです

では、次話でお会いしましょう
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