東方想拾記   作:puc119

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第58話~容赦ない~

 

 

 息が上がる。呼吸が苦しい。

 

「なんだ、思ったよりも粘るじゃないか。とはいえ、そろそろ限界だろう? 良い加減諦めてみてはどうだい?」

 

 相手が相手だ。簡単に抜けられるとは思っていなかったが、まさか此処まで厄介な奴だとも思っていなかった。どうやら、ただの変態ではなかったってことらしい。いや、ただの変態ってなんだよ。

 

「……それは、無茶ってもんだぜ」

 

 火力だけは自信のある全力で打ち込んだ魔法も、コイツの氷壁を壊すことはできない。多少、削ることができても直ぐに元の形に戻ってしまう。一体、どれほどの霊力が込められているのやら。

 

 私の弾幕を避けるだけで、最初にコイツが言っていたように、コイツからの攻撃は一切ない。

 この後のことなど何も考えず、私だって全力で戦っている。そうだというのに、私の攻撃は届かなかった。さらに、ふよふよと空中を漂う白濁した水球の動きも地味に面倒なんだ。そればかりは当たってやるものかと思っているけれど……そろそろヤバいかもな。

 

「お前は、何が目的なんだ?」

 

 コイツが今回の異変に関わっているのは確かだと思う。

 しかし、何をしたいのかが全く分からない。こんな足止めのようなことをして何になるってんだ。

 

「ただの足止めさ」

 

 私とは対照的に、何処までも余裕そうなアイツ。

 私にできる全力を打ち込んだ。それでも、コイツを倒すどころか、一発の魔法を当てることすらできていない。

 

 ホント、私の周りにいるのは巫山戯た奴らばかりだよ……

 

「私のか?」

「もちろん、それもある。ただ、メインはそうじゃあない。俺なんかに止められるとは思っていないが、この異変ばかりはぶっ壊させるわけにはいかないんだ」

 

 要領を得ない会話。コイツとする会話はそんなことばかりだ。いつだって。

 そもそも、コイツに関して私は知らないことが多すぎる。いや、まぁ、知りたくもないってこともあるんだけど。

 

 ああ、魔力の限界が近い。例え、次の一発でコイツを倒すことができても先に進むのは難しいだろう。こりゃあ今回も霊夢に負けてしまいそうだ。何がボーナスステージだ。どう考えたって、貧乏くじを引いたよなぁ。

 それでも、やっぱり諦めたくはなかったから、最後に一発でかいのをお見舞いしてやろうと、八卦炉へ魔力を込め始めた時だった。

 

「ああ、残念。時間切れ、か。おめでとう、魔理沙。ステージクリアだよ」

 

 急にアイツの動きが止まったかと思えば、そんな言葉を落とし、私たちを囲んでいた氷壁が消えた。

 

 意味が分からない。なんだってんだ。

 

 私から少し離れた場所で、何かを諦めたように笑ったアイツ。

 そして、私とアイツの間に何かが着弾し、轟音が響いた。

 

「……会いたかった」

「俺は会いたくなかったかな」

 

 砂埃でボヤける景色の中から聞こえてきた誰かと誰かの会話。

 

「さて、魔理沙は進むと良い。此処から真っ直ぐ進めば神様が君のことを待ってくれているよ」

 

 晴れた景色の先、私に向かって言葉を落としたアイツは、真っ直ぐと何処かを指差した。そして、私とアイツの間にはひとりの少女の姿。その少女からは目を逸らしたくなるほどの妖気。

 

「……お前は行かないのか?」

「そりゃあ、俺だって行きたいところだが……やらなきゃいけないことがあるからなぁ」

 

 静かに笑う。まるで自嘲しているように。

 

 ……そうかい。それなら有り難く行かせてもらうとするよ。どうせもう間に合わないだろうが、この異変に興味がないと言ったら嘘になるのだから。

 

「それじゃ……またな」

 

 どうしてなのかは自分でも分からない。コイツのことは嫌っている。それは確かなこと。

 そうだというのに、私から落ちたのはそんな言葉だった。

 

「ああ、またな」

 

 そんな私の言葉に少しだけ驚いたような表情をしてから、アイツはやっぱり笑った。

 

 ホント、何者なんだろうな。お前って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 魔理沙が行ってしまった。

 流石というべきか、俺が頑張って用意した粘性を帯びた白濁色の水球は、結局一発も当てることができないまま。

 できることなら、ぶっかかってほしかったんだがなぁ。その後、上目遣いで俺を見つめてくれたらもう最高だ。それだけでこの先も生きていく希望を持てる。

 

 ……さて、さてさて。

 できなかったものは仕様が無い。過去を変えることなどできやしないのだから。そうだというのなら、今できることを全力でやるべきだろう。

 

「よ、俺がいない間もちゃんとおとなしくしていたか?」

 

 長い間、この幻想郷から離れてしまっていた。例え俺が消えていようが、この幻想郷にそれほどの影響があるとは思えんが、例外ってものもある。

 

 そして、目の前にはその例外がいた。

 

「……さみしかった」

 

 そりゃあ、悪かったな。

 

 本当は、俺だって神奈子たちと同じ場所にいたかったんだ。

 残念ながら、この俺に幻想郷の可憐な少女たちの繰り広げるごっこ遊びはできないが、その場所にいるだけで意味は十分あるだろうから。

 けれども、そんなことができないことはよくよく分かっていた。

 

 幾本ものぶっとい糸で結び付けられたコイツと俺との縁がソレを許してくれるはずがないのだから。

 それでいて、今まで幻想郷を離れていたことを考えると、もう無理だ。コイツがおとなしくしているはずがない。せっかく幻想郷へ移ってきた守矢神社が崩壊する。

 

「ホント、モテる男は大変だよ」

 

 贅沢な悩み。自虐ネタ。乾いた笑いも出てこない。

 

「……ねぇ、青」

「ん? どうした?」

 

 とはいえ、全くこの異変に関わらないってもの寂しいものだ。それに、今回の異変が起きた原因は俺にもある。

 そんなことで、俺にできることはやったつもり。結局、ただの足止め程度にしかならなかったが……まぁ、やらないよりは良いだろうさ。

 

 

「お腹空いた」

 

 

 霊力を更に強化。全力で霊力を込めた水弾を想像。

 

 どうせ、無駄な抵抗にしかならないだろうが、ただでやられるほど安い男ではないつもりだ。

 相手が規格外なことはよく分かっている。それでも、精一杯抗わせてもらおうか。あの魔理沙にだって俺の力は十分通用したんだ。

 自信を持て。負けることなど考えるな。

 

 さて、それじゃ、今此処で下克上といかせてもらおうか。

 

「かかってこいや、熊畜s――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。おいしかった」

 

 むしゃむしゃされた。

 

 何も抵抗できなかった。気合を入れようと、決め台詞っぽいことを言っている途中で腹を貫かれた。分かっちゃいたが、クマさんマジ容赦ない。

 一度殺された後もマウントを取られ続け、もう悲惨のひと言。いったいこの短い時間で、俺は何度殺されたのだろうか。それなりに長い人生を歩んでいるが、俺の死因の九割九分はこの熊畜生だろう。どんな人生だよ。

 

 魔理沙を先に行かせたのは正解だった。あんな惨状魔理沙のような可愛い女の子に見せるわけにはいかないのだから。

 

「ああ、うん。そりゃあ、良かったよ……」

 

 満足してくれたのか、ようやっと解放。

 幻想郷へ戻ってきたと思ったらこれだよ。平和な日常とさようなら。もうヤダ、この幻想郷。

 

 ため息をひとつ落としてから、辺りを確認すれば、既に日が沈み始めている。もう異変だって解決してしまっただろうし……ホント、お前には振り回されっぱなしだよ。昔ら。ずっと。それも俺が原因なのかねぇ。

 

「……帰ろ。るーみあも待ってる」

「はぁ。そうだな、帰るとするか」

 

 神奈子たちの様子も気になるが、それはまた今度ってことで。今は帰らなきゃいけない場所があるのだから。それは本当に幸せなことだと思う。

 

 

 思う存分、俺を食べることもでき満足したのか、何とも機嫌の良さそうな畜生とともに久しぶりの我が家へ帰宅。

 そんな我が家では、いつもの場所でいつものように、俺の嫁さんであるルーミアがお茶を飲んでいた。

 

「どこ行ってたの?」

「外の世界だよ」

「そう」

 

 そして、そんな会話。

 半年振りの再会にしては、何とも寂しいように思えるが、大丈夫、ルーミアの俺へ対する深い愛はちゃんと伝わっているから。ああ、今日も今日とてルーミアは可愛い。

 

 とはいえ、言葉だけというのもやはり寂しく、また今の俺にはルーミア成分が明らか不足している。そんなわけで、ルーミアの後ろへ回り込んでから、そっと抱きしめてあげた。ぶん殴られた。

 どうやら選択肢を間違えたらしい。ここは頭を撫でてあげるのが正解だったのか。

 

「私もお腹が空いた」

「あいよ、そんじゃ飯にするか」

 

 幻想郷に新しい少女たちも加わり、やることがまた増えた。きっと今回の異変を終えたことで、また宴会も開かれることだろう。

 

 この先の未来にはどんな物語が待っているんだろうな。

 

 

 

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