東方想拾記   作:puc119

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第61話~たまには甘いものだって~

 

 

 ……さて、これはどうしたものだろうか。

 なんとも良い雰囲気となり、そんじゃ焼き芋を作りつつ、輝夜と雑談でもしようか、なんて思っていたらコレだ。

 

 何が起きているのか分からない、といった表情で俺と輝夜を見て固まる妹紅さん。

 そもそも俺は妹紅と一緒に焼き芋を作り食べるために来たのだから、こうして妹紅と出会えたことに文句は何もない。ただなぁ、タイミングがなぁ……

 

「あら、妹紅じゃない。貴方も焼き芋を食べに来たのかしら?」

 

 固まる妹紅と俺を他所にいつも通りといった感じの輝夜。なるほど、これが年長者の実力か。流石、永い時を生きてきているだけある。

 

「え? 焼きい……いや、なんで青と輝夜が……え?」

 

 まさに混乱状態といった様子の妹紅。

 お願いだから此処でドンパチ始めるのは止めてもらいたいと願うばかりだ。弾幕ごっこ程度なら可愛らしいものだが、このふたりがやるとなるとソレだけでは終わらないだろう。可愛らしい少女の殺し合いなど見たくもない。

 

 さってと、ホントどうしたものか。

 俺としてはこのまま三人で仲良く焼き芋大会と洒落込みたいところだが……なんだろう、そうなる気がしない。

 

「え、えと……そもそも青と輝夜はどんな関係なの?」

「あらあら、妹紅ったら変な口調ね。いつものぶっきらぼうなあの口調はどうしたのよ」

 

 コラ、煽るな煽るな。

 良いんだよ、口調なんて。原作でも永夜抄と深秘録じゃ全然違ったし。それに、俺的にはあの男らしい口調よりも今の妹紅の口調の方がしっくりくる。仕方無いでしょうが、あの時はまだ東方深秘録が頒布されていなかったのだから。

 まぁ、そんな話は置いておいて……そういえば、妹紅に俺と輝夜が知り合いってことを教えていなかったな。妹紅とは100年ほどの時間を一緒に過ごしたが、あの時は東方に関する記憶が戻っていなかった。もし、あの時、俺と輝夜が知り合いだってことを話していたら……どうなっていたんだろうな。穏やかなことにはならなかったのは確かだろうが。

 

「べ、別に、今はそんなこと良いだろ! それよりなんでお前が青と一緒にいるんだ」

 

 ちょいとばかし剣呑な雰囲気。胃が痛む。

 

「妹紅と一緒に焼き芋を食べようと思っていたら、たまたま輝夜と出会ったんだよ」

 

 できるだけ優し気な感じを出しつつ言葉を落としてみた。輝夜と出会ったのは本当にたまたまのこと。まぁ、せっかく迷いの竹林に行くのだし会えたら良いなぁ、なんて思っていたのは確かだが。

 てか、あれ? 妹紅ったら普通に俺の名前を呼んでくれているが記憶は戻っているのか? 前回会ったときはボッコボコにされた挙句、霊力切れで倒れてしまったせいで、その辺りのことをよく理解していない。

 

「……本当に焼き芋を作るつもりだったんだ」

 

 呆れた様子の妹紅。

 寒さが厳しくなり始めるこの季節。そりゃあ焼き芋くらい作りたくもなるさ。美味しいもんな、焼き芋。そんなわけで妹紅も一緒にどうですか? 恨み辛みもあるかもしれんが、それだけじゃあ焼き芋を食べないって理由にはならないだろう。美味しい食べ物だって良い雰囲気の中で食べなければ、美味しさが半減してしまう。

 

 ただ、輝夜がこのまま黙っているとも思えん。いつ爆弾を投下することやら……

 

「ふーん……えっと、青と私の関係だけど――婚約者みたいなものよ」

「おう、そういうことだ」

 

 ああ、しまった。ついつい魅力的な言葉に釣られ反射的に言葉を。この状況で今の輝夜の言葉はどう考えたって大きな爆弾じゃないか。

 

 

「…………は?」

 

 

 ほら見なさい。言わんこっちゃない。妹紅さんったらものすごい表情になっちゃったじゃないですか。誰が原因だ。俺が原因か、そうか。

 

「あー、待て待て、妹紅。今のはアレだ、語弊がある。別に輝夜とはそういう関係なわけじゃなんだ」

 

 今し方輝夜にはフラれたばかりで、そもそも婚約者なんて魅力的な関係では全くない。そりゃあ、輝夜のような可愛い少女と結婚できたら良いなぁとは心の底から思っているが。

 

「あら、私のことを1000年も想ってくれていたのは嘘だったのかしら?」

「そんなわけないだろうが。今でも心の底から君のことを想っているさ」

 

 ああもう、ちょっとコラ。だから、反射的にそういうこと言うのは止めなさいって。良い加減にしないとフジヤマがヴォルケイノする。ツッコミ役がいないせいでさっきから流れがおかしなことになっている。こんなことになるのなら無理やりにでもルーミアを連れてくるべきだった。

 

 ……なんかもう色々と手遅れの気しかしない。癒しを求めてきたはずなのにおかしいね。

 

「ま、まぁ、それは良いとして、せっかくなんだし焼き芋食べようぜ、焼き芋」

 

 怒っているのだか悲しんでいるのだか、なんだかよく分からない表情の妹紅。心から楽しそうにコロコロと笑う輝夜。そんなふたりに挟まれた俺は……どんな表情をしていたんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 その後、なんだかんで妹紅もこの焼き芋大会に参加はしてくれ、上手に焼けた焼き芋を三人で食べることに。

 そうして妹紅が参加してくれたのは良かったのだが……焼き芋を作っている時も、焼き芋を食べている時も輝夜は爆弾を投下し続け、俺はいつ妹紅が爆発するのか気が気でなかった。

 せっかく上手くできた焼き芋の味が分からなかったのも仕方の無いことだと思う。

 

 そして、焼き芋をひとつ食べたところで、『焼き芋美味しかったわ。ありがとう、それじゃ私はこれで帰ろうかしら』なんて言ってさっさと輝夜は帰っていってしまった。荒らすだけ荒らし、楽しむだけ楽しむ。まさに台風のような人間だ。

 人生を楽しんでいそうで何よりだよ。それが永い時を生きる秘訣なのかねぇ。

 

 因みにだが、焼き芋はまだかなり残っている。ルーミアへのお土産の分を考えたとしても、これはちょいと用意しすぎたな。捨てるのももったいないし、余った分はあの熊畜生にでもあげるとしよう。それによって今晩のむしゃむしゃ回数だって減るかもしれん。

 

「ああ、そうだ。そういやさ、妹紅」

 

 胃が痛む原因でもあった輝夜が帰ったことで、漸く落ち着いた。そして、今は妹紅とふたりきり。きっとこんな機会はなかなかないだろう。焼き芋はまだまだたくさんあるんだ。先程はちゃんと楽しむことができなかったけれど、今ならその味を楽しむこともできる。

 そんなわけで雑談といきましょうか。

 

「へっ? あ、うん。どうしたの?」

 

 急に声をかけたせいか、やたらと驚かれた。

 ん~……これはどうなんだ? 多分、妹紅の記憶も戻ってくれていると思うが、やはり何処か余所余所しいな。

 

 

「俺のこと、思い出した?」

 

 

 余計な言葉は加えない。単刀直入。ど真ん中のストレート。このひねくれ者には珍しいこと。

 

 妹紅の顔は見ず、そんな言葉を落としてから、焼き芋をひと口。口の中に広がる少しばかりの焦げたような香りと確かな甘味。うむ、おいしい。やはり焼き芋は良いものだ。

 

「……あの時はごめん。謝って済むようなことじゃないけれど、ごめん」

 

 妹紅の表情は見なかった。

 何に対して? とも聞かなかった。

 今、妹紅がどんな表情で、何に対してそんな言葉を落としたのかくらいは流石の俺でも分かることだったから。この妹紅とだってそれくらいの付き合いはしてきたんだ。

 

 ただ、こうしてちゃんと話せるようになったのに、最初の言葉が謝罪ってのは寂しく思ってしまうよ。ま、昔っから妹紅は謝ってばかりだったけどさ。

 そんなことが懐かしく、何処か面白く、妹紅に気づかれないよう、静かにそっと笑ってみた。

 

「良いさ、気にしてない。またこうして妹紅と一緒に美味しい物を食べることができているんだ。それだけ十分だよ」

 

 気にしていないってのは本当のこと。『嫌いだ』なんて言われたのはかなりショックだったが、アレが妹紅の本心だとは思っていない。頼むからそうであってくれ。

 それに殺されることは慣れている。たまには、ごめんで済ませて警察に楽させてあげようぜ。

 

 ……何より、あの時は俺も悪かったんだ。もっと良い方法はあったはずだというのに、妹紅が傷つくことは分かっていたというのに……謝らなければいけないのはきっと俺なんだろう。

 

 ただ、それもこれも昔のこと。昔のことが大切じゃないとはいわないが、ただの失敗談ってことで、笑い話のひとつってことで終わらせるくらいが丁度良い。

 

 大丈夫、例え過去が消えたってどうにかなるさ。

 現在や未来ってのは過去に負けないくらい大きなモノなのだから。

 

「でも、私は……」

 

 妹紅の口から零れ落ちる寂し気な言葉が、よりいっそう口の中に広がる焼き芋の味を甘く感じさせた。

 

 なんでかねぇ、せっかく記憶が戻ってくれ、こうして美味しい焼き芋を一緒に食べることだってできているんだ。ホント、それだけで十分じゃあないか。

 悲しさは甘さを増してくれる。けれども、俺はそんなものを求めていない。だから、どうかどうか笑ってくださいな。

 

「確かにさ。あの時、妹紅に殺された……のはどうでもいいや。気にしてない。あーえと、あの時、妹紅に『嫌いだ』なんて言われたのはショックだったよ。ただ、そんなちっぽけなことで俺と妹紅との関係が切れるわけがないって思っている」

 

 繋がった縁の糸ってやつは案外しぶといもんだ。たったそれだけのことで途切れてたまるか。

 

「だからこれからも、妹紅とは昔のような関係でいたいって俺は心の底から思っているよ。俺の願いはそれだけ。それ以上は望まない」

 

 そんな言葉を落としてから、ようやっと妹紅の方を向いてみた。

 其処には今にも泣きそうな顔。零れ落ちる涙の塩味も焼き芋の甘味を増してくれるだろうが、今ばかりはそれも遠慮したい。例え、甘味が薄れてしまうとしても、今は明るい表情が欲しいかな。

 

「……良いのかな。そんな都合の良いことをして」

「都合の悪いことなんぞ物語の中だけで十分だ。現実ぐらい都合良く無理やり通してやれば良い」

 

 失敗だらけの人生でした。

 甘くはない人生でした。

 そんなものはもう腹いっぱい。だから、そろそろ甘いものが欲しくなる。

 

「やっぱり優しいね、青は」

「んなことはない」

 

 それは、あの星空の下、背中へ妹紅を乗せたまま交わした会話と同じもの。

 あれから長い長い時が流れ、この臆病者も少しは変わることができたのだろうか。ま、どうせできていないんだろうなぁ。ホント、成長しない奴だよ。

 

 俺の言葉を受け、ようやっと顔を上げ、ぎこちなく笑ってくれた妹紅。超カワイイ。

 

 ……どうやらこんな人間でも、目の前にいるひとりの少女の表情を明るくするくらいはできるらしい。それが成長した証になんてなりはしないが、悪いことではないのだろう。

 

 

 

 妹紅にもいつか見せてくれたような明るい表情が戻り、改めて焼き芋を食べてみた。

 流れている空気が変わってしまったせいか、焼き芋の甘さは減ってしまったが、その分先ほどよりも美味しく感じる。俺は今の方が好きかな。

 甘くはないこの人生。せめて焼き芋くらいは甘くあって欲しいものだが、甘すぎるってのも考えもの。だから、今くらいの甘さが丁度良いと俺は思うんだ。

 

「そういえば、私と一緒に焼き芋を食べるつもりだったのなら、直接私の家まで来れば良かったんじゃないの?」

「本当はそうしたかったんだが、妹紅の家の場所が分からなかったんだよ」

 

 前回、妹紅と出会えたのは本当にたまたまだ。ルーミアやあの畜生ほど俺は感覚に優れていない。普通に迷子になった。

 こうして妹紅と会えたんだ。妹紅の家の場所を教えてもらいたいところだが……どうせまた迷子になるんだろうなぁ。

 

「ああ、そうか。んじゃあ今度は妹紅が俺の家に来てくれよ。妹紅が来たらルーミアも喜ぶだろうし」

 

 変な場所にあるわけでもないし、一度来れば覚えられるはず。俺の家にはあの畜生もいるが、昼間に来てくれればアイツも寝ているだろうから問題なし。うむ、良い考えだ。

 

「え? いいの?」

「そりゃあ、もちろん。全力で歓迎するぞ」

 

 なんならルーミアも誘って一緒にお風呂とか入るのもアリだ。ルーミアにはぶん殴られるだろうが、そうなれば俺のブジヤマもヴォルケイノするわけで……うむ、良いじゃないか。

 

「……ありがとう。うん、行く。きっと行く」

 

 おう、楽しみにしているよ。

 

 それから、俺の家の場所を教えたり、昔話に花を咲かせたりと、ふたりで焼き芋を頬張りつつ、まったりのんびりとした時間を過ごした。

 それはこの幻想郷でなかなか味わえないもの。ホント、贅沢してるよなぁ。ただ、たまには俺だってそういう気分を味わたって良いんじゃないだろうか。それくらい許してもらいたいかな。

 

 

 






これで次から妹紅さんを登場させやすくなりました
ただ、妹紅さんのアイツへの評価がちょっと高いせいで……ルーミアさんが一緒にいれば大丈夫かしら

次話もまた主人公にフラフラと何処かへ行ってもらいたいなぁと思っているところです

では、次話でお会いしましょう
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