東方想拾記   作:puc119

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第62話~冷たい季節が始まる前に~

 

 

「ふははは、どこへ行こうというのかね?」

「ちょっ……くるな! この変態っ!」

 

 肌寒い日々は増え始め、もう直ぐにでもあの冷たい季節がやってくることだろう。過行く季節に少しの想いと、来る季節へ大きな想い。

 昔は冬という季節が好きじゃなかった。どこまでも冷たく、寂しさを感じるあの季節が。けれどもで、ここ最近になって冬っていうのは悪い季節じゃないと思い始めている。人間変わるものですね。

 

「そんな逃げなくて大丈夫だって、ちょっとだけ、そうちょっとだけ触るだけだから」

「だまれ変態! ああもう、あんたなんかに頼んだ私がバカだった」

 

 さて、今の状況だが、別段おかしなことが起きているわけじゃなく、ただ俺のお嫁さんであるルーミアを追いかけまわしているだけだ。誰だってそんな経験はあるだろう。

 傍から見たら可憐な少女を追いかけているヤバい奴だと思われるかもしれんが、実際は違う。なんてたってそこには愛があるのだから。

 そもそもとして、最初に頼んできたのはルーミアなんだ。つい先ほどのこと、日課のお散歩をしていたら雨に降られたらしく、びしょ濡れの状態でルーミアが帰ってきた。

 そしてルーミアが言ったんだ。

 

『ねぇ、冷たくなっちゃったから……あたためて』

 

 と。

 

 ……いやまぁ、もう少し違うセリフだったかもしれないが、だいたいそんな感じのセリフだったはずだ。

 そんなことを言われてしまったらもう俺の御柱がエクスパンデッドでフジヤマがボルケーノになるわけで……自分の能力でルーミアの身体を冷やしている水分を飛ばすためにそっと抱きしめることにした。

 正直なところ、服の水分を飛ばすくらいなら直接触らなくてもできることだが、そのことはルーミアも知らないし、正当な理由でルーミアを抱きしめることができるこの機会を逃すような愚か者じゃない。

 そんなわけで合法的にルーミアをギュッと抱きしめ、まずは雨に打たれたおかげでいつもよりもずっと芳醇なルーミアの匂いを十分に堪能し、その慎ましい胸をそっと触……ろうとしたところでぶん殴られた。

 そして今に至るわけだが……恥ずかしがったルーミアが逃げまわっている。ここは自分の家で他に見ているやつもいない。そんな恥ずかしがるようなことじゃないと思うんだが。

 

 さて、このままじゃ埒が明かない。ルーミアとの鬼ごっこだって十分楽しいが、それよりも今はここ最近で空っ穴となったルーミア成分を補充しておきたい。

 

 一瞬だけ目を閉じ、少しだけ集中。

 なんとも成長の遅い俺ではあるけれど、まったく成長しないわけじゃない。自分の弱さに気づいたあの日から続けてきた成果ってやつを見せなきゃいけない時が来た。

 精神を統一し湧き上げた霊力を一気に解放。

 

 さて、俺の戦いを始め――

 

 

「……神剣『クマさんソード』」

 

 

 冬という季節は好きだ。

 

 だって、クマさんいないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前も言ったが家中で傘を使うのはやめなさいって」

「……でも、るーみあ困ってた」

「うん、ありがとね」

 

 ルーミアとのいちゃいちゃ鬼ごっこは理不尽なまでの暴力によって強制終了させられた。平和主義の俺としては何でもかんでも暴力で解決しようとするこの畜生に苦言を呈したい。もうヤダ、このクマさん。

 スペカのつもりだかなんが知らんが、わけのわからない技名とともに唐傘でぶん殴られ、家の壁を突き破り外まで吹き飛ばされた。これからあの寒い季節が始まるというのにどうすんだよ、家にぽっかりと空いてしまったこの大穴は。

 俺が直すしかないのだが、萃香を見つけたら修理をお願いするとしよう。毎度毎度文句を言いつつもしっかりと仕事をしてくれる萃香は本当に良い奴だと思う。結婚してくれないだろうか。俺には既にルーミアというお嫁さんがいるもののこの幻想郷なら重婚だって許されるはず。

 

「まったく、お前は毎度毎度いらんことばかりしやがって……そもそもお前はもう冬眠する時期だろ?」

「……今年はもうすこしがんばれそう」

 

 頑張らんでいい、頑張らんで。

 あーあ、この畜生が邪魔をしなかったら、あと4000文字ほどかけてルーミアとのきゃっきゃうふふなシーンを並べて今回は終わりだったというのに……

 

「……だいじょうぶ、代わり私が青をむしゃむしゃするめしテロなお話にするから」

 

 食欲が消えうせるわ。全くもって大丈夫じゃない、どんな飯テロ作品だ。

 

 いつもの居間でいつものように机を囲みお茶をすすりながら雑談。そんないつもの時間にこの熊畜生の存在が当たり前となってしまっている。運命なんて誰にもわからないことではあるけれど、あの素敵な吸血鬼さんならその運命を操ることもできたのだろうか。

 

「さて、暇になったけど今日はどうする? せっかくだしルーミア、挙式でもしとこっか」

「死ね。私はもう少しゆっくりしているからあんたはどっかに行ってきていいよ」

 

 相変わらず容赦のない言葉の暴力だ。でも、そんなルーミアも可愛いよ。

 ちなみにだけど、ルーミアの服はちゃんと乾燥させておいてある。ただ、熊畜生に監視されながらであったため残念ながらルーミア成分を補給できなかった。クソが。

 

 さてさて、本当はルーミアとデートでもしたいところではあるが、家でのんびりしたいというのなら仕方ない。パンツ一枚でちょいとアリスの家にでも行ってくるとしよう。あの優しいアリスならそんな俺を受け入れてくるはずだ。ついでに魔理沙がいてくれると嬉しい。

 なんだか一年半ほど昔のことのように感じるが、つい先日妹紅と一緒に焼き芋を楽しんだときは真面目モードだったせいでいろいろと溜まっているんだ。

 アリスの住む魔法の森はたださえ暗いというのに、この天気じゃほとんど夜と変わらない状態なはず。雨で憂鬱な気分となり暗い世界で独り過ごす時間は楽しいものじゃないだろう。そんなとき、パンツ一枚の俺がアリスの家を訪れる……うむ、完璧だ。きっと惚れ直してくれる。

 まぁ、そんな上手くいかないとしても、なんかもう口汚く罵ってくれるだけで俺は満足だ。あのアリスの冷めた視線を向けてもらうだけでも……おっし、テンション上がってきたぞ。そうとなれば早々に動く必要があるだろう。

 

 そして、上がりきったテンションそのままに着ていた服へ手をかけ、本能の赴くままに飛び出そうとした時のこと。

 俺たちが囲んでいた机の上にパさっと一枚の封筒が落ちてきた。

 

「招待状? なんだろ、これ」

 

 落ちてきた封筒を手に取り、ルーミアがぽそり言葉を落とす。

 いや、俺にもわからんが、こんなことができるのはあの妖怪賢者か時を操るメイドさんくらいのはず。もしかしたらまだ見ぬ可愛い女の子の仕業かもしれんがその可能性は薄い。そして、あの紫がこういうことをするとも思えない。そうなるともう答えはひとつだ。

 全く、せっかく俺の家まで来たのなら少しはゆっくりしていけば良いのにな。

 

「なんて書いてあるんだ?」

「よくわかんないけど、あんたに遊びに来てほしいみたい。気でも狂ったのかな」

「……るーみあ、私も読みたい」

 

 今日のルーミアさんったらホント容赦ない。まぁ、多分アレだ。嫉妬とかそういう感情があるのだろう。そう思うことにしよう。

 

「……むぅ、読めない。青、読んで」

「読めないならわざわざもらうなよ……ほれ、貸してみろ」

 

 そういや、まだ文字を教えていなかったか。面倒ではあるけれど、それくらいは教えておいておかないとだよなぁ。

 

 熊畜生から手紙を受け取り、内容を確認。

 そこに書かれていたのは、決して読みやすい文字ではなかった。けれども、どうにか自分の意志を伝えようとするもの。きっと何度も何度も書き直しをしたのだろう。そんなことが想像できる。

 飾りのない簡潔な文章。姉の文字ではない。それくらいのことは分かる程度の仲なんだ。

 

「……だれからの手紙?」

 

 ――次に月の満ちる晩。紅魔館へ遊びに来ませんか?

 

 そんな内容だった。

 毎日のように幻想郷のかわいい少女たちと遊んでいるが、こういう形で誘われたのはなんだかんだで初めてかもしれない。俺から誘ったことはもう数えきれないくらいあるのだが、誘われたことなぞほとんどない。不思議なものだ。まぁ、幻想郷の少女たちは皆ツンデレだしそれも仕方の無いことなのだろう。

 

「かわいい俺の妹からの手紙だよ」

 

 ルーミアや萃香に妹紅、諏訪の神々など家族と言える存在のひとつ。冷たい季節が始まる前に心温まる家族の元へちょいと訪ねてみることにしてみよう。

 

 






本当に久しぶりの本編更新となります、お久しぶりです

とはいえ、どうやらちょいと寄り道気味のお話となりそうですね
次は早めに更新できればいいなぁ

では、次話でお会いしましょう


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