東方想拾記   作:puc119

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のんびりいきましょう




第7話~しょっぱい思い出~

 

 

「あの、フランドール?」

「どうしたの?」

 

 フランドールがいただきますから、ごちそうさまでしたするまで待ち、声をかける。途中で俺に少し分けてあげようか? なんて聞かれたがそれは丁重にお断りした。材料に人間が使われている料理なんて食べたくはない。お気持ちだけ充分だ。

 

「この縛ってあるの解いてくれないか?」

 

 そうしてもらわないと何もできない。

 だいたい俺を縛ってどうしようと言うのか。野郎を縛ったところで何も面白くはないだろうに。

 

「逃げたりしない?」

 

 するわけがないだろう。むしろ自分から捕まりへ行きたいくらいだ。いや、もう捕まっているんだけどさ。

 

「しないよ」

「うん、わかった」

 

 俺の返事にフランドールはそう答えてから、右手を握った。そして俺の腕を縛っていた何かが壊れた感覚。なるほど俺もこうやって殺されたのか。

 それにしてもとんでもない能力だ。ただその右手を握るだけで物を壊すことができるとは。

 

 ありとあらゆる物を壊すことができるってどんな気分なんだろうな。

 

 

 両腕を一度ぐるりと回して状態の確認。

 うむ、どうやらしっかりと動いてくれるようだ。

 

 さて、これからどうするか。どう言うことなのかわからないが、俺は今フランドールの物らしい。たぶん、フランドール専門の執事的な意味だとは思うが……

 とは言っても何をすれば良いのかわからん。そしてきっとフランドールもわかっていない。客観的に見ると意味のわからない状況だよな。

 

「そう言えばさ、どうしてフランドールは俺を連れてきたんだ?」

 

 記憶が戻ったならまだわからなくもないが、フランドールの記憶はまだ戻っていない。そうだと言うのに何故俺を助けたのだろうか? まさか目が覚めたら此処にいるとは思っていなかった。

 

「青とお話をしたかったから」

 

 ああ、そう言うことですか。

 なんだか懐かしい気分だ。あの時だって、喉が枯れるまでフランドールにはお話をしてあげたもんな。

 

「なんかね、変なんだ。昔、自分が何をやっていたのか急に思い出せなくなっちゃって。今まではそんなこと気にしなかったけど、今はそれがなんか不安で……」

 

 なんとなくその感情はわかる気がした。自分の記憶が無くなると言うことは、辛いことだって俺も知っていたから。自分が誰なのかもわからず、あの不安の闇に飲み込まれそうになる感覚。それは決して良い物なんかではなかった。

 まぁ、俺の場合は全ての記憶がなかったのだから、フランドールとは違うだろうけどさ。

 

「ねぇ、青」

「うん?」

「お話を聞かせて、貴方のお話」

 

 

 そんなフランドールの言葉に頷いてから俺はいつかのように話を始めた。

 

 

 それは――玩具と呼ばれた人間と可愛い引き籠もりの女の子の話。200年以上かけ、漸く女の子が外へ出ることができるようになった話。

 そんな話をフランドールにしてあげた。ゆっくりと時間をかけて。

 

 

 

「……その女の子が私、なの?」

「まぁ、そうだな。どう? 何か思い出せそう?」

 

 時間はあるのだし別に焦る必要なんてないが、やはり思い出せてもらえれば嬉しい。忘れられるのはやっぱり悲しいことだから。

 

「ううん、何も思い出せない……ごめんなさい」

 

 顔を下に落とし、謝罪の言葉を口にするフランドール。んもう、フランドールさんってば直ぐに謝るんだから。

 思い出せないのは仕方無いこと。それくらいは俺だってわかっている。

 

 そんな顔じゃなくて、俺は笑顔を見たいんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞き終わったあと、フランドールはこてりと寝てしまった。まぁ、今日はいっぱい身体を動かしたのだし、いつもより疲れていたんだろう。

 すやすやと眠るフランドールはやはり可愛い。こう、ギュッと抱きしめたくなるような可愛らしさだ。流石にそれは我慢するが。

 

 さて、どうするか。フランドールが寝始めてしまったと言うことは、そろそろ夜が明けると言うことだろう。日が沈むまでフランドールは起きないだろうし……

 この部屋から出ても大丈夫だろうか? それに紅霧異変がどうなったのかも気になる。まぁ、霊夢がレミリアを倒してはいると思うが。

 そんじゃ、紅魔館の中をフラフラさせてもらうとするかな。他の紅魔館メンバーとも会いたいところだ。

 

 

 重苦しいあの扉を開け、薄暗い階段を登って上へ。

 俺とフランドールが暴れたせいか、やはり紅魔館の中は所々壁に穴が空いていたり、床が抉られたりしていた。それでも、瓦礫などが見つからないのはきっと咲夜のおかげだろう。

 

 さてさて、まずは誰の所へ行こうか。ん~……ああ、もしかしてレミリアももう寝ちゃったか? それならパチュリーか咲夜の所だが……

 

 

「何か用事でもありますか青様」

 

 ああ、やっぱり来てくれたか。

 目の前に突然現れた瀟洒なメイド。その姿は俺がいた頃と変わっていない。てか、咲夜って人間だよな。なんで見た目が変わってないんだ?

 けれども、その咲夜の視線が少しだけ冷めて見えたのは気のせいだろうか。それは、俺が咲夜に下ネタを飛ばした時に向けられるあの視線とはまた違う冷たさ。あの視線が好きだったんだがなぁ。

 

「用事は特にないけど、暇になったからフラフラしているだけだよ」

「そうでしたか。それでしたら紅茶でも飲みますか?」

 

 あら、随分と優しいじゃないか。俺がいた頃は喉が乾いたと言ったら、塩水を持ってくるような人だったのに。塩水なんて飲んだら余計に喉が渇く。

 

「うん、じゃあお願いするよ」

「かしこまりました」

 

 そう咲夜が言い終わった瞬間、目の前にテーブルと椅子、そしてティーポットとティーカップが現れた。そんな突然の光景を見て、そう言えば初めて咲夜と会った時もこんな感じだったな、なんて思いなんとも懐かし感じになる。

 

「おお、ありがとう」

 

 きっと時間を止め、一生懸命運んでくれたのだろう。そんな咲夜へ素直に感謝。

 

「…………」

 

 そしてあの時と同じように黙ってしまった咲夜。その顔は不満そうに見える。

 ああ、そっか。そうだったな。あのセリフを言っていなかったもんな。

 

「わーっ驚いたー」

 

 引張たかれた。

 

 ありがとうございます!

 

「……な、なぜ叩く?」

「あっ、すみません。無性に腹が立ったので、つい」

 

 いつかしたような会話。俺が巫山戯るとこのメイドさんは必ず俺を叩きナイフで刺した。

 ああ、懐かしいな。なんて思って一人で笑った。

 

 

「……何がおかしいのですか?」

 

 

 怒っているような、困っているような咲夜の顔。そりゃあ叩いた相手が笑いだしたら、どんな顔をして良いのかわからなくなりもする。

 

「いんや、なんでもないよ。ただ――懐かしいなって思っただけ」

 

 時間にすればそんなに昔と言うわけではない。けれども時間以上に大きな壁ができてしまった。

 ホント、難しいものだよ。

 

 

「っーー……そ、そうですか、変な人ですね」

 

 

 まぁ、普通の人と言われたことはないな。

 

 椅子に腰掛け、紅茶の入ったティーカップを手に取る。

 俺は紅茶に詳しくはないから、この紅茶がどんな物かはわからないが、良い香りのする紅茶であることは確かだった。

 

 香りを楽しんでから、そっと紅茶に口をつける。

 

 

 

「なにコレ、しょっぱ!!」

 

 

 おい、コラ。咲夜、お前塩入れただろ。

 

「あら、それは失礼しました。どうやら砂糖と塩を間違えたらしいですね。でも、貴方みたいな変態にはそれくらいがちょうど良いのでは?」

 

 クスクスと意地の悪い笑を浮かべる咲夜。

 

 その表情はいつか見たソレと――

 

「さて、私は仕事に戻りますね。ああ、それは置いておいてもらえば片付けておきます。お嬢様はもう寝てしまいましたが、パチュリー様は起きているのでお会いしてみてはどうでしょうか? 試したい実験があるそうですし」

 

 なんですか? 試したい実験って……それはちょっと遠慮したい。

 せっかく帰ってきたのに、いきなりモルモットは勘弁だ。

 

 

 

「……お帰りなさいませ、青様」

 

 

 

 そう言ってから咲夜は姿を消した。姿を消す前の顔は、優しく笑っているようにも見えた。

 

 相変わらず素直な性格じゃないことで。全く、誰の影響を受けたのやら。

 

 

「ああ、ただいま」

 

 誰もいない廊下にそんな俺の声だけが響いた。

 

 






これで紅魔組は二人目クリアです
パチュリーさんも書きたかったんだけどなぁ……

と、言うことで第7話でした
前作より少し何処かしんみりとしていますね
シリアスはちょいと勘弁していただきたいものです

次話はそろそろ紅魔館から出てもらいたいですが、どうなることやら……
では、次話でお会いしましょう
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