戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

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第2章 裏切りの旋律―あたしと戦え、響―
第十四話 歓喜或いは絶望への誘い


あたしが目覚めてから1か月半、始めのうちこそ慣れぬ

学院生活に戸惑ったが、2週間程でどうにかマシになったと思う。

クラスメイトもいいやつら多かったのも一因だろう。

 

だが、彼女たちのおせっかいは勘弁して欲しい。

響程じゃないが、学院の人間は善人が多い気がする。

特に綾野小路、五代由貴、鏑木乙女の3人は積極的に私を

クラスの輪に入れようとしてくる。

でもそんな空気を、あたしは嫌いにならなかった。

 

しかし、暮らせば暮らす程あたしの胸の底に暗い何かが溜まって

いくのがわかった。

始めは違和感すらなかった、気づいた時もさほど気にはならなかった。

だって、それはあたしにあって当然だった感情なんだから。

 

誰かを傷つけたい、痛めつけたい、踏み躙りたい、そんなフィーネと

一緒に居た頃は当たり前だった感情。

響と出会ってからはめっきり影を見せなかったそれらは、じわじわとあ

たしの奥深くを蝕んでいく。

 

こんな事は初めてだ、何時もなら別に発散しなくても心地よいものだった

のに、今ではわずらわしさしか感じない。

しかもこの思いは、ある1人に向けて日に日に強く感じるようになったのだ。

 

その人物とは、あたしの一番大切な友達である響に対してだった。

善良な響にこんな相談するわけにもいかず、かといってこんな暗い感情を

向けるわけにもいかず。

ちょくちょく、響をからかったり意地悪したりして発散を試みるが、生半可

な行動は黒い感情を助長させるに過ぎなかった。

ならばと、響に比較的穏便だと思う模擬戦をしようと相談するも…

 

 

「なぁ、響」

 

「どうしたの、クリス?」

 

「たまには、模擬戦とかしてみないか?ここ最近ノイズも少ないし、風鳴先輩と3人でよ」

 

「駄目だよ!この力は守る為の物なんだ。今でも十分ノイズと戦えてるし、連携の訓練は

よくしてるんだから、そんな危ないこと言わないでよクリス」

 

「そうだな、悪いかったよ」

 

「ううん。クリスが分かってくれるなら、私は嬉しいよ」

 

 

この調子で、響は頑なに首を縦には振ってくれなかった。

おかげであたしの日常は充実してはいるが、心に溜まる淀んだ感情は確実に蝕み…

そんな時に、あたしはあの男と遭遇することになる。

 

 

 

 

 

あの事件からちょうど100日が過ぎた今日、あたし達は山口県・岩国の米軍基地に対して

現状起動している最後の完全聖遺物ソロモンの杖の輸送を護衛する為、列車に乗り込ん

でいた。

 

護衛対象であるソロモンの杖はアタッシュケースに入れられ、米国から派遣された博士

ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスなる人物が管理している。

だが、あたしにはどうもこいつが胡散臭くて仕方がない。

いつだったか、フィーネが米国に向かった帰りに零した言葉の中に出てきた人物と

似ているのだ。

 

別に、あたしはソロモンの杖がどうなろうが知った事ではない。

あの杖はあたしが起動したものだが、あたしにとっては今は無価値と言っていいだろう。

だからあいつがフィーネの零した人物だとしても不都合は無いのだが、何故か興味が湧き

上がってきたのだ。

 

あたしが思っている人物と仮定して、この場に現れた目的はなんだ?

ただソロモンの杖を偶々政府に言われて運んでるだけなのか?

それとも、独自の目的の為に強奪でも企んでるのでは?

まぁ、あたしがまったく知らないと思っての行動かもしれないが、少々不用心すぎないだろうか?

一度湧き上がる疑念を晴らすべく、2人で話す機会を伺うがそのタイミングは直ぐやってきた。

何と、向こうの方からのお願いで私達1人1人と話してみたいと言ってきたのだ。

 

あたしは自分のギアの事を、響は現在の状態等を聞きたいとの事らしいが明らかに怪しい。

こんな要求断られるのが普通だが、あたしが乗り気だった為渋々受け入れる事になった。

そして、不可解な行動の真意をあたしは知る事になる。

それは甘美な誘惑であり、あたしを破滅へ導く誘いでもあった。

 

 

 

 

 

「あたしに話って、何を話すつもりだ」

 

「時間もありませんし、前置きは無しで話すとしましょう。雪音クリスさん、私と

一緒に来ませんか?」

 

「おいおい、何の脈略も無く「一緒に来ませんか?」なんて言われても、意味がわかんねぇよ」

 

「これは失礼、少し飛躍しすぎてしまいましたね。では言い直しましょう、私と一緒に

基地に着いた夜に始まるライブで宣言されるテロ組織「フィーネ」に一緒に来ません

か…、とね?」

 

「!」

 

「聞き覚えが無いはずありませんよね、貴女は彼女に育てられたのだから。そのテロ組織

のトップは組織名と同じくフィーネです。少しは興味を持っていただけたでしょか?」

 

 

この不気味な博士から齎された情報は、まさにメガトン級の爆弾だった。

ライブでテロ表明、しかもトップがフィーネというおまけつき。

確かに、フィーネはアウフヴァッヘン波形がある限り転生すると本人が言っていた。

だがこれは、早すぎやしないだろうか?

それともあの参加してない戦いで、フィーネは諦めきれなかったのだろうか?

あたしは響から、フィーネの最後の言葉を聞いてない。

一体どのような言葉だったのか、知る機会になるのではないか?

或いは、再びあたしが必要になったのだろうか?

だからこの博士をあたしの前に寄越したのか?

あたしは次々湧き上がる疑問を無理やり押し込め、博士に対して言葉を発した。

 

 

「おいおい、そんな事あたしに言っていいのか?あたしがばらせば、計画に支障が出るん

じゃないのか?」

 

「ええ。それをされた場合、最悪決起するまでも無く内部から瓦解するでしょう。なにせ、組織

は色々不安定ですからね」

 

「なら、なんであたしに話したんだよ?あたしがホイホイあんたについていく、尻軽にでも

見えたのか?」

 

「簡単ですよ、貴女は私についてくる。そう、一目見て確信しましたからね」

 

「へぇ、ならその確信とやらを教えてもらおうか」

 

「貴女の内に溜まった欲求、私達と共に歩めばそれが解消はずですよ?」

 

 

いきなり心の内に押し込めた感情を覗きこまれたみたいで、あたしは動揺する。

ここで言い返さねば肯定している様なものだが、口から出た言葉は上ずっていた。

 

 

「な、何のことだ?」

 

「隠したって無駄ですよ。貴女の視線は、時折熱く彼女に向いていたじゃないですか。彼女、立花

響と戦いたい。泣かせたい。傷つけたい。もしかしたら、壊したいもあるかもしれませんね。違いますか?」

 

「…全部お見通しと言うわけか」

 

「貴女は隠し事が向いてないですよ。いえ、私にとって”分かりやすかった”と

言った方がいいかもしれませんね」

 

「だが、あんたについていくメリットにしては弱すぎるぜ?」

 

「そうですか?私と共に来れば、戦うには最高の舞台を用意できると思うのですが。貴女は

適当な舞台で、本当に満足できるのですか?」

 

 

本当に痛い所を突いてくる。

こいつが言ってる事は、恐らく真実だろう。

なにせフィーネが動いてるんだ、カ・ディンギルみたいに派手な事になるのは間違いない。

 

その場で、今度は味方ではなく敵として響と対峙する。

言葉にするのは簡単だが、その舞台をあたし一人で用意するのは到底不可能だろう。

そして、その言葉はなんて甘美な響きなのだろうか。

 

あたしの一番の友達と、最高の舞台で全力を出しあう。

その時、あたしはどんな気持ちだろう?

響はどんな気持ちだろう?

考えるだけで、胸が震えてくる。

 

この感情は、間違いなく響を傷つけるものだ。

響の性格から応じてくれるか分からない。

でも、今のあたしには無視するには甘美な誘惑過ぎた。

響があたしの事を思って、苦しんでくれる。

その瞬間はあたしの事だけを考えてくれる。

あたしと響、2人だけの世界だ。

 

今なら、フィーネの言っていた「愛」が分かるかもしれない。

この思いが「愛」であるなら、フィーネがあそこまで焦がれるわけだ。

この感情に抗う術なんて、あたしは知らない。

例えフィーネが関わってなくても、この提案を蹴るなんて今のあたしには出来ないだろう。

だから、あたしはこの博士の提案に乗る事にした。

 

 

「いいぜ、あたしは何をすればいい博士?あたしの事は、雪音でもクリスでも好きに呼びな」

 

「なら雪音さん。初めにもうすぐこの列車をノイズに襲わせるので、それを2人で

撃退して頂けませんか?」

 

「おいおい、いいのかよ?博士が疑われるかもしれないぜ?」

 

「ええ、いいデータ捕りになるので問題ないです。それに基地に着いた後に私も合流する

予定ですので、疑われる前に逃げれますよ」

 

「はっ、とんだ悪人だ」

 

「そう言わないでください、私も必要だからしているのですから。ルナアタックの

英雄、そのデータを少しでも集めないと今後に触りますからね」

 

「なるほどね。でもあたしは、月の欠片やフィーネとの決戦には参加してないからな。全部

あの2人でやった事だからどこまで参考になるやら」

 

 

確かに、響達2人はフィーネを下し月の欠片の落下を阻止してみせた。

だがそこに、あたしの姿は無い。

それを勘違いされても困るので、一応釘を刺した。

 

 

「貴女達2人でのデータも十分貴重ですよ。後、できればで構いませんが、用意できる

なら現金と聖遺物に関する物、難しいでしょうがデータではなくギアの出来そこない等

を持ってきてはくれませんか?」

 

「現金は分かるけど、後者はなんでだ?一旦戻れれば両方用意できると思うが、後者は

あんまり使いたくないんだけど」

 

「少々私達の計画に必要なのですよ。恐らく途中で不足すると思うので、その際に言って

頂ければ周りの好感が稼げるんじゃないですか?」

 

「おいおい、それはいいのかよ。仲間を騙すことになるんじゃないか?」

 

「大丈夫ですよ。彼女達は単純ですし、聞かれなかったから出さなかったとでも言えば

いいじゃないですか」

 

「ま、そうだな」

 

 

この博士は欲望に忠実なのだろう。

恐らく博士は参加はしているが、自身の手駒になる人間が居ないのかもしれない。

だから、あたしを引き込んだ。

 

唯の推測にすぎないが、当たっているはずだ。

ただ、トップがフィーネだとあたしを手駒に数えれないと思うんだが。

まだ何か隠し事があるのか?

でもそんな事、あたしにはどうだっていい。

トップがフィーネだとしても舞台は用意されるだろうし、そこにあたしが居る事に

違いは無いだろうから。

だから、あたしは博士と打ち合わせに没頭していった。

 

 

 

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