鎮守府Aの物語 - 短編集   作:lumis

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クリスマスパーティー前の鎮守府

 鎮守府Aが設立されて以降、毎年年末に近隣の市民と鎮守府Aの合同でクリスマスパーティーが開催されている。

 とある日、鎮守府内に近隣住民を招いてパーティーの実行委員会の打ち合わせが開かれた。それに鎮守府代表として参加したのは妙高と逸仙の二人だ。

 二人は住民の帰り道を見送った後、本館に戻る道すがら打ち合わせ中に触れられた話題を口にし合った。

 

「では飾り付けの道具は○日に住民の方々が運んでくるのを受け取ればいいのですね?」

「えぇ。お願いできますか逸仙さん。私、ちょうどその日はどうしても外せない用事があって鎮守府に来られないので。」

「かしこまりました。それにしても……提督が参加できそうにないというだけであそこまで落胆されるなんて思いもよりませんでした。」

「昨年もその前も提督は必ず参加なさっていましたからね。区の方にイベントの開催を掛け合ったのも提督でしたし、なんだかんだでこれまでの様々な催し物には提督はほぼ顔を出して住民の皆さんと交流なさっていましたから。結構信頼は厚いかと。」

「フフ、さすが提督ですね。」

 妙高が回想する提督の姿に、強く感心をする逸仙。口にした妙高も同意しかえして二人はほんわかとしたまるで主婦の井戸端会議のような雰囲気を作り出す。とはいえそう感心してのんびり思いにふけっている場合ではないことは二人とも現実問題として認識していた。

 鎮守府の最高責任者、イベントの発起人が参加できないとなると地域への印象悪化や艦娘達のイベントにかける士気が下がりかねない。そう考えたのだ。

 

「でも提督が当日参加できないとなると、やはり問題でしょうね。」と妙高。

「私もそう思います。」

 逸仙は、一部の艦娘が文句を言うかもと思い浮かべながら同意した。

 

 C部署の秘書艦である妙高、そして現在N部署の秘書艦の一人であるである逸仙の二人は、パーティー開催の連絡を鎮守府内でするにあたりタイミングや言い方などが気がかりであった。

 

--

 

 翌日、提督が鎮守府に出勤してきた。妙高と逸仙は提督にパーティーの実行委員会での打ち合わせ内容を伝え、鎮守府内での連絡の仕方について確認しあった。

 

「そうか。二人ともご苦労様。鎮守府内での全体の告知ねぇ~。別にいつやってくれてもかまわないですよ。というか俺の口からみんなに言うつもりです。準備は出来る限り手伝うけど、俺当日参加できそうにないからせめて上司らしくキリッと言わないとね。皆に示しがつかないよ。」

「提督……それもそうでしょうが、多分皆は怒るか愚痴るかしてくると思いますよ。」

「そうです。あなたを身内のように慕っている娘もいるのですし、クリスマスパーティーという特別なイベントであなたが参加できないとなると……どうフォローしたらよいか検討もつきません。」

 妙高と逸仙のW口撃に提督は咄嗟に慌てだした。

「え!? いや~前も俺参加できないイベント事ありましたけど、皆なんだかんだで仲良くやれて楽しく過ごせたって聞いてますよ? 俺いなくても大丈夫でしょ?」

 

 提督の驚き様に妙高はため息をつきながら言った。

「それでは試しにご自身の口で連絡してください。私達の考え過ぎならそれはそれで良いと思いますが。」

「わ、わかりました……。」

 

 二人とも考えすぎだよ、と提督は思ったが、同じ懸念は数日前に五月雨とN白雪との何気ない会話の中での反応でも有ったことをふと思い出した。

 

 

--

 

 その日のC部署の秘書艦は五月雨、N部署の秘書艦はN白雪だった。二人を伴って工廠への顔出しから本館に戻る途中、五月雨が話題を振ってきた。

「そういえば、今年もクリスマスパーティーするんですよね?」

「あぁ、やるつもりだよ。」

「うわぁ~今から楽しみです!」

 提督の短い肯定を受けて五月雨は笑顔を120%発揮して喜びを表す。二人の会話にワンテンポ遅れて反応したN白雪が尋ねた。

「あの……クリスマスパーティーって?」

「あぁ白雪は知らないんだっけゴメンゴメン。うちが出来た初年度から毎年年末に鎮守府とこの辺りの住民の皆とでクリスマスパーティーを開いているんだ。」

「へぇ~、素敵ですねぇ~!」

「だろ?艦娘や周辺住民だけじゃもったいないから、白雪もぜひお友達を誘ってきてくれ。」

「はい!お姉ちゃんや初雪たちもきっと誰かしら誘ってくると思います。」

 提督が説明すると、やっと白雪も笑顔を満開にさせる。

 

 その後も続く説明や思い出語り。ふと五月雨が過去の話に触れた。

「そういえば、最初に提案したのって提督と、あの時の……那珂さんですよね。二人で美浜区役所に乗り込んでいったの覚えてますよ~。」

「那珂……あぁ。あいつはほんっとイベント事好きだし皆を引っ張っていったな。実はほとんどのイベントの提案ってあいつ発起なんだよ。俺はただハイハイって圧倒されてただけだわ。」

「フフッ、提督ってば那珂さんに頭上がらなかった感じでしたね~。」

 提督と五月雨が思い出話に更け始めると、話題に乗れないN白雪はただ微笑を浮かべて二人を見つめるのみだった。その視線のよろしく無さに気づいた提督は咳払いをしてすぐに話題を戻す。

「んん! 過ぎた話は置いといて。ともかく近いうちに皆に話すよ。一応このあたりの住民との共同イベントだから、区のほうにきちんと情報載せてもらわないといけないし、いざやるとなると準備大変だ。」

「それじゃあ私準備の音頭は私にお任せください!」

「あぁ、よろしく頼むよ五月雨。他の秘書艦の皆と役割分担も任せるから。」

「あ、あの! それでしたら私も何かさせてください!」

 提督に指示を受けた五月雨が意気込み、それに提督が頷いて意思疎通が見られると、N白雪が顔を上げて叫んだ。すると提督は微笑みながら言った。

「もちろん白雪にも手伝ってもらいたい。N部署は外国出身の人もいるから、日本語のできる逸仙さんやレナウンさん達とうまく相談しながらやってくれ。まぁ全体的な取り仕切りは五月雨がやってくれるから、このベテラン艦娘になんでも聞いて頼っちゃってくれていいぞ~。」

「ふぇっ!? も~提督ってばぁ~~! 私にだってキャパの限界ありますってば~!」

「ア、アハハ……五月雨さんは頼りになるので、私にとっては頼れるもう一人のお姉ちゃんって感じです。」

「も~~白雪ちゃんまで!」

 

 五月雨を右から左から突っ込んでからかいまくる提督とN白雪。五月雨はアタフタオロオロするしかできなかった。

 

「あ、そうそう。俺23日から25日まで本業の方の仕事が大詰めで来られそうにないから、よろしく頼むよ。」

「え?」「え……?」

「まぁ君たち学生は学校が冬休みに入って時間があるだろうから、できれば俺の代わりにクリスマスパーティーの準備の指揮をとってくれるとありがたいな。」

 にこやかにそう口にする提督だったが、五月雨とN白雪がまったく言葉を発さなくなり、互いに顔を見合わせているのに気づいた。

「あれ? どうしたのさ二人とも。」

 そう提督が尋ねると、二人はまったく同じ返しをした。

「提督、参加してくれないんですかぁ……?」と五月雨。

「提督は参加してくださらないのですか……?」とN白雪。

 

【挿絵表示】

 

 提督は二人の雰囲気に戸惑いつつも頷いて返事をした。その後二人は提督が話題を切り替えて振っても曖昧な受け答えしかしなかった。提督としては準備や取り仕切りを任せ自分はやらないと捉えられて悄気てしまったのかと思い、何度か謝ったがそれでも両隣の少女は暗い雰囲気を拭い去ろうとしなかった。

 

 逸仙達そして五月雨達それぞれの雰囲気をピースとして当てはめてみて、提督は嫌な予感を覚えた。自分がいないことはそんなまさか違う方向で艦娘達の士気に関わっていたのかとようやく実感が湧いてきた。しかし実際に反応を見るまでは信じられない。

 

--

 

 鎮守府創設初期の頃、提督はすべての艦娘に対して等しく接し交流できていたが、もともと鎮守府全体組織だったC部署も人数が30~40人程を超えたあたりから提督の社交性キャパシティに限界が生じ始め、ほとんど話したことがない艦娘も出始めた。その傾向はN部署にあたる次世代型艤装の艦娘達の着任が一気に増えてさらに顕著になっていった。

 それでもどうにかして艦娘となった人らと交流を図ろうと努力し続ける提督の姿は、組織化されて久しい秘書艦達の心を打った。提督の社交性スキルの補完と交流の志を継ぎ、提督があまり話したことがない艦娘との対話は秘書艦達の仕事の一つとなり、提督を支えている。

 

 そのような状況ゆえ、提督は自分がいなくても、あまり艦娘達は困らないだろうと高をくくっていた。その結果、会議室に集まった艦娘達、そしてSNSのメッセージ機能を使って在籍する艦娘全員にクリスマスパーティーと自分のスケジュールを告知した時、その反応に度肝を抜かれ圧倒されることとなった。

 

「えええええーーー!!? 提督クリパ出ないのーーー!?」

「提督参加されないんですか!? なんでなんで???」

「提督くん参加しないんじゃ誰を頼ればいいのさーーー!?」

「司令官……。」

「お兄ちゃんがいないと私ボッチだよぉう……。」

(伊)「あ、あんたがいなくたって別に問題ない……けど、いてくれたっていいのよ? ふん!」

(独)「ふむ、アドミラルは参加しないと。トップとはかくも大変なのだな……。私達だけで楽しむのはさすがにな。」

(独)「アドミラルもとい日本の大人も大変ね~。」

(仏)「よし、アミラルの会社に掛け合おう! 行くぞ、グラース、ファンタスク、ヴォークラン!」

 

 非難や嘆きなど喜怒哀楽の怒哀だけが渦巻く、ちょっとした炎上状態になってしまった。会議室の場では秘書艦の妙高や逸仙、C高雄やN高雄らが聴者たる艦娘達をなだめ、チャット上ではC夕張とN夕張ら情報システム秘書艦やC青葉ら広報秘書艦らが火消しにてんやわんやしていた。

 

 100%とはいえないがなんとかなだめ終わり、執務室に戻った提督と秘書艦一同。提督は荒げた呼吸を整えて吐露した。

「はぁ~~。まさかあんなに騒がれるなんて思わなかったよ。なんつうか……今までこんなにモテたことないからどうしたらいいかわからなかったよ。」

「モテてる、というのとはちょっと違うと思うけど。」とN夕張。それにC夕張もウンウンと頷く。

「皆提督を純粋に身内のように慕って頼っているのだと思いますよ。」と妙高。

「そう、ですね。たとえどんな形であれ、あなたがいてくれるというのは精神的支柱になるのでしょう。」

「んなマジな返しで俺を過大評価しなくても……。俺普通の会社員ですよ?」

 提督が逸仙にツッコミを入れると、逸仙は頬をやや赤らめて顔を背けてしまった。その際、何か逸仙が言ったような気がしたが、小声であったことと中国語だったこともあり提督はそれを聞き取ることはできなかった。

 

「なんだかんだでその表現は合ってるかもしれませんねぇ~。ただま~一部はそれ以上に慕ってる人たちもいるようですけど。」

 そう口にしたのはC青葉だ。この部屋にいるその一部の一部の人たる逸仙を暗にからかいつつ、本来の話題としては妙高の言葉に同意を示した。

「とりあえず青葉は密かにマイク有効にしてるのをやめておこうか。この部屋の会話まであんたのところの番組ネタにしないでくれよ。」

「アハハ~! 弊社のネタはこちらの鎮守府の密着リアルタイムドキュメンタリー型ですから。大目に見ましょうよ。」

 C青葉の台詞に提督は大きくため息をついた。提督をやり込める彼女は社会人で、提督やC高雄、明石の会社とも違い、ネットテレビ局からの派遣社員だ。かれこれ2年以上も鎮守府Aの広報担当として活躍している彼女とそのネットテレビ局のおかげで、鎮守府Aの宣伝力・情報処理能力は飛躍的に高まり、周辺住民への知名度や評判向上に一役買っている。

 

 C青葉の企みを冷静なツッコミで未然に防ぎ、艦娘達からの評価の気恥ずかしさをどうにか紛らわそうとする提督。周りの秘書艦達もいつまでもその話題を引っ張る気はないのか、目下現実問題の方に話題をシフトさせた。

 

--

 

 提督の本業の都合上、艦娘制度の仕事に時間を割けないのは仕方ない。提督の全体指揮がない分は、総秘書艦である五月雨に出張ってもらうことに満場一致で決まった。

 クリスマスパーティー当日までは総秘書艦五月雨の下、秘書艦達は本来の担当分野の区別なく一丸となる決意をした。イベントに向けて準備の分担をし、それぞれの担当を指揮することになった。各秘書監の下にはC部署もN部署も関係ない。積極的に協力を名乗り出てきたり面倒臭がる艦娘もいたりと様々だが、ほぼすべての艦娘が集った。

 

 

--

 

 日中は五月雨が各秘書監と実作業担当の艦娘達の様子を見て回った。なお、鎮守府の通常業務もせねばならない分は妙高あるいは逸仙が提督代行として出撃する者達の管理をした。

 

 五月雨が本館を歩いていると、本館2階の中央の間を巡洋戦艦艦娘のレナウンが掃除をしていた。彼女はイギリスの国立の深海棲艦対策組織から派遣されてきた女性だ。巡洋戦艦レナウンの資格と艤装を持って日本に派遣され、鎮守府Aに在籍している。

 

「レナウンさ~ん。いつもありがとうございます。」

「あ、お嬢様。いえ。艦娘として勤める前は本国でメイドの仕事をしていたこともあって、こうしている方が性に合っているのです。ですから鎮守府内のお手入れは私とレパルスにお任せください。」

 

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「なんか申し訳ないですよ~。どうせなら私たちも使ってくれていいんですよ?」

「フフ、そのお言葉だけで結構です。それにたまにN部署だけでなくC部署の駆逐艦たちも手伝ってくれるので問題ありません。お嬢様は私たち艦娘の総代表として常にどっしり構えていてくだされば良いのです。」

「大丈夫ならいいんですけど。それにしてもレナウンさん……いい加減私を”お嬢様”って呼ぶの止めませんかぁ?なんか恥ずかしいです。」

「ご主人様であるMr.西脇に常に寄り添うあなたは、私から見れば女主人です。お歳を考慮して”お嬢様”とお呼びするのは当然です。」

「うぅ~~……未だに慣れませんよぅ。」

 真面目で優しく優雅なレナウンのことは人間としても艦娘としても好みで理想の一つと感じているが、彼女の自分への応対に関しては未だに慣れず勘弁して欲しいと懇願したい部分なのであった。

 レナウンは五月雨との会話をしとやかに終え、清掃に集中すべく一礼して方向転換をした。五月雨もそれ以上彼女を邪魔するのは気が引けたため、会釈をしてからその場を後にした。

 

 

--

 

「あ、さみ!やっと来たっぽい!!」

「ゆうちゃん……とN部署の方の夕立ちゃんと綾波ちゃんと敷波ちゃんも。」

 五月雨は階段を降りて1階ロビー手前の玄関の飾り付けをしているC夕立・N夕立、N綾波・N敷波にばったり会った。

 

「あ~、五月雨さぁん!来たっぽい!「うぅ~あたしの真似するなぁ~!」

 N夕立がぴょんぴょん跳ねながらC夕立の口癖を真似るとC夕立はすかさずツッコむ。その頬や表情はやや恥ずかしげだ。

「五月雨先輩、お疲れ様です。」

「五月雨さん、こっちの準備は順調ですよ。」

 N綾波そしてN敷波は丁度手が離せないのか、顔と上半身だけだけ五月雨の方に振り向けて挨拶をした。

 

 四人は玄関の飾り付けの担当だ。四人だけでなく、他にもメンツはいるが鎮守府に出勤する時間が異なるため、今の時間帯では主に彼女らが担当だ。

「あれ、白雪ちゃんと時雨ちゃんは?」いないメンツに気づいて五月雨が尋ねる。

「はい、時雨さんは消耗品が切れたとかで買い出しに行かれました。白雪姉さんはサボろうと逃げかけてた初雪とC部署の初雪さん、それからティルピッツさんを従えて倉庫に。」

 状況説明をするN綾波。それにN敷波は愚痴るように言った。

「三人ともサボることに関しては妙に気が合うんですよね……。初雪は白雪姉さんのリアル妹だから首根っこ掴まれても仕方ないとしても、C初雪さんやティルピッツさんまで叱りつけて首根っこ捕まえて連れていく白雪姉さんはさすがだなと感心しました。」

「あ、アハハ……さすが白雪ちゃん。やるときはやるね~。」

 N敷波の台詞に苦笑しながら五月雨は今ここにいない、秘書艦の一人たるN白雪の意外な一面に感心するのだった。

 

「ま~、C初雪ちゃんは高校生でN初雪ちゃんは中学生だし仕方ないとしても、ティルピッツさんは大人なのにだいじょーぶっぽい?」とC夕立。

「あの人文句言いながらも白雪姉さんに本気では逆らおうとしないあたり、根っからの妹資質なんでしょうね。それにビスマルクさんっていうリアルお姉さんもそばにいますし。」

 N敷波の言葉の的確さに全員同時に相槌を打った。

 

「あたし姉妹いないからわからないけど、姉とか妹ってそんなもんなの?」とC夕立。

「うーん、家庭によるんじゃない? ビスマルクさんとティルピッツさんはドイツ人だし、ドイツの家庭のことはわからないけど、きっとどこも妹は姉に逆らえないのかもね。」

「さすがさみ。頼りないけどれっきとした姉やってるだけあるっぽい~~!」

「も~~ゆうちゃん! からかわないでよぉ~!」

 同級生で気の置けない間柄のC夕立の問いかけに漠然とした回答をする五月雨。C夕立のツッコミには弱々しくもプリプリと怒ってみせるのだった。

 

 

--

 

 別の日の夕方、モミの木が鎮守府に到着した。普通に運ばれるのであれば物が巨大ゆえ大変な作業になるが、艦娘がその作業場にいると、さほど大した労力にはならない。

 全体の艤装とコアユニットが格納されるパーツが分離して装備しやすいタイプの艦娘勢が地上で同調し腕力アップさせた後、トラックの荷台からモミの木を運び出していた。

 現場の直接的な監督役はアトランタ。彼女の前でモミの木を持ち上げているのは、ジュノー・サンディエゴ・サンファンと彼女の姉妹+メリーランドだ。

 各現場を見回っているのは五月雨と逸仙だ。

 

(英)「アトランタさん~!作業の方はいかがですかー?」

(英)「あ、サミダレ~!、逸仙~!」

 五月雨が英語で問いかけると、それにアトランタが返してきた。しかし五月雨はそれ以上の英会話はできないため、後の通訳は日本語も英語もできる逸仙が行って会話を補助した。

 

(英)「モミの木はどこに持っていけばいいの?」とアトランタ。

「立てるのはあそこです。本館の第一会議室の前にあたる広場にツリースタンドを設置しているので。」

(英)「OK、わかった。後は任せて。」

 五月雨がイルミネーションの設置資料を確認しながら実際の場所を指差して指示すると、アトランタはそれを受けて只今運搬中の姉妹達+メリーランドに合図する。

 

(英)「ねぇ!あそこだって! サンディエゴは先に三脚を立てておいて。起き上がらせるのはメリーランドさんを中心にお願いします!」

(英)「はーい!」とサンディエゴは元気よく返事してモミの木から手を離し、指し示された芝生の場所まで小走りで行った。

(英)「任せなさい。ビッグセブンが一人メリーランドを担当する名誉に預かった私が先陣を切って見せるわ! 続きなさい、妹たちよ!」

 アトランタの指示に鼻息荒く決意を表明するメリーランド。一緒に持っているジュノーとサンファンに強く発破をかける。

(英)「私たち、メリーランドさんの妹じゃないんだけど……。」

(英)「しっ!聞こえるわよジュノー姉さん。メリーランドさんって、自分より年下はみんな妹呼ばわりらしいから。」

 一緒に運んでいるジュノーとサンファンはメリーランドのテンションの高さに辟易気味だったが、仮にも同じ国出身でおなおかつ姉妹が通うインターナショナルスクールの講師としても顔見知りであるため、黙って従うしかなかった。

 とはいえそんな様々な思いを含んだ作業現場の真意など、当人達以外にはおよそ関係ない事情なのであった。

 

 妹達の作業を見ながらアトランタが五月雨に尋ねた。

(英)「司令官いないとなんか変な感じですね。サミダレも寂しいでしょ?」

「ふえっ!? うー……まぁ、はい。」

(英)「アハハ! サミダレってば正直だね。私だって司令官いないと寂しいよ。同じ同じ。」

 アトランタがクスクス笑う。しかしその指摘がまったくの的外れでないことを感じていた五月雨は彼女の言葉に対し、コクンと頷いた。

 

(英)「きっと司令官もさ、私達に会えなくて寂しいと思うよ。」

「え? それって……。」

(英)「私の艤装のレーダーがビビビッと察知したのです。それにきっともうすぐ司令官帰ってきますね~。それで私に泣きついて来るんです。」

 

【挿絵表示】

 

「アハハ……相変わらずの自信だね~アトランタさん。」

 アトランタの妙な自信に五月雨は呆れつつも感服してみせた。ただ若干皮肉めいていた表現は逸仙の翻訳により無難な表現で伝えられた。

 

 

--

 

 一通り見回り終わり、夜の帳が降りて暗くなってきた。五月雨と逸仙が本館外をグルリと周りながら表玄関へと向かうと、正門から見知った姿の人物が歩いてくるのに気がついた。

「あ、提督!」

「あなた様!」

「やぁ~二人とも。ご苦労様。」

 提督はやや重そうな声で二人に挨拶をする。五月雨と逸仙は駆け寄って提督に挨拶し返した。

「今日はもうコンピュータのお仕事いいんですか?」

「あぁ、今日は俺の担当分の作業は終わったから、もう帰っていいと言われたからね。」

「……それじゃあもう明日からは!?」

 そう五月雨が期待を込めて問いかける。しかし提督の言葉は彼女の期待に沿わない。

「ゴメンな。明日は明日のタスクとスケジュールがあるんだ。それらまで前詰めで終わらせられるよう頑張ってるんだけど。」

「そ、そうですかぁ……。」

 素直に悄気げる五月雨の肩を撫でながら、逸仙が言った。

「五月雨さん、会社員である西脇さんにもそれなりの都合がございます。鎮守府という家で待つ私たちは彼の頑張りに期待するしかありません。」

「は、はい……。提督、頑張って欲しいけど無理だけはしないでくださいね。私たち、提督のこと待ってますから。」

「お、おぅ……。」

「ホラ、もうちょっと言葉をかけてあげてください。あなたと五月雨さんの仲でしょう?」

「い、いや~~、まぁ。寒いからと、とりあえず中に入らせてくれ。君たちから報告も聞かなくちゃいけないし皆の様子も見ておきたいからさ。」

「……かしこまりました。お茶淹れてあげますから、一息ついてください。」

「わ、私皆に提督が出勤してきたの知らせてきますね!」

 五月雨は見るからに浮足立ってパタパタと駆けていった。

 

 提督は一足早く本館に入っていく五月雨の姿を見て、ふぅ……と一息つく。その頬は二人に優しさのためか緩んでいた。

 

 

--

 

 その夜、未成年である艦娘達はすでに帰り、本館内の作業の続きおよび夜間の哨戒には成人しているメンツのみが残って行っていた。

 執務室には提督の他、逸仙そしてC高雄がいた。五月雨とほぼ同格の総秘書艦である妙高は家事のためすでに帰宅している。

 

「……これで終わりっと。提督、一昨日から今日にかけての哨戒任務のレポートを添削して整理しておきましたので、後で確認しておいてください。」

「あぁ、わかった。それじゃあ高雄さんはもう帰っていいよ。」

「はい。お疲れ様でした。……それじゃあここからは同じ会社の人間として言わせてもらいます。西脇先輩、あまり根を詰めないでくださいね。」

「ん、あぁわかってるよ。大丈夫。」

「先輩の出勤先の○○株式会社からこの鎮守府までかなり距離ありますし、在宅勤務申請なさってもいいんじゃないですか? それ使ってここで仕事すれば、私や足柄さんもこっそり仕事手伝えますし。同じ会社から来てる足柄さんや私をもっと使ってくれてもいいんですよ?」

「あ、あぁわかってるんだけどね。現場でしかできないこともあるし、あまりこっちの仕事場に本業のこと持ち込むのもどうかと思ってさ。本業や本分から離れてまで体張って戦ってくれてる皆に失礼だろ。」

「その気持ちわかりますけど……。先輩だって身体張ってるじゃないですか。あっちにこっちに。それに上に立つ人間なんですからきっと精神面でも気を張り詰めてるはずです。先輩相当疲れてますよね?」

「う……それは。でもそんな弱音を吐く資格は。」

「先輩が変に責任感あるのはもう大体わかってますけど、私が言いたいのはもっと周りを上手く使ってくださいってこと。子供達は働いてる大人の事を本当の意味で理解できてないとはよく言われてますから、こっちの未成年組の艦娘達の反応なんか、実のところあまり気にしないでいいんです。先輩の代わりに艦娘皆を見て回って気遣ってくれる秘書艦がいるんですし、彼女達に安心して任せっきりでもいいんです。」

 

 C高雄の叱りに言葉なく頷く提督。傍で口をつぐんで聞くだけにしていた逸仙はC高雄の言葉が数秒治まったタイミングで口を開いた。

「お二人の会社の事情については私はわかりかねますが、心配の点については私も同意見です。高雄さんの言うとおりです。あなたが自分の代わりにと役割をあてた私たち秘書艦がいるのです。本業の方でお忙しいのであればこちらは一切気にせず任せてください。日本のことわざにもあるでしょ。二兎を追う者は一兎をも得ずと。私たちのこと、信じていただけないのですか?」

「う……いやそんなわけじゃない、です。」

「クリスマスパーティーは私たちが必ず成功させて、住民の方々にも喜んでもらえるようにします。艦娘達へのフォローもきちんと行います。あなた様が参加できない埋め合わせは必ずして差し上げます。ですから、本業の方に専念なさってください。」

「は、はい。わかりました。」

 

 逸仙の真面目で献身深さは提督もわかっていた。そして逸仙自身は隠しているつもりなのだが、その行動の原動力たる気持ちに秘書艦達は全員気づいていた。(気づいていないのは提督、五月雨とN白雪の学生艦娘だけであった)

 C高雄も気づいている一人である。その手の感情を茶化すことは一切なく、そうっと応援するようにC高雄は逸仙に微笑んでそうっと言葉をかけ、続く流れで提督へ最後の忠言をした。

「逸仙さんの言葉が私たち秘書艦の思いのすべてを代弁してくださってます。なので私からは、あくまで会社の後輩として言わせていただきます。先輩、どうか客先での開発の仕事に専念なさってください。終わるまで鎮守府に来るなんて許しませんから。」

 

 C高雄の気迫、提督の身を案じているがゆえの逸仙の泣きそうな顔に提督はただただ頷いて返事をして素直に従うしかなかった。鎮守府に来ないことも艦娘達の思いを尊重することと察した提督は、翌日から25日クリスマスの日まで提督は鎮守府に姿を見せなかった。提督が毎日行ったことといえば、全秘書艦にメールあるいはメッセンジャーアプリでねぎらいの言葉を送ったことと、鎮守府にある配送を手配したことである。その物の受取は口が硬く大人の対応を完遂できると提督が信頼を置いた妙高と逸仙、C高雄の三人にのみ知らされた。

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