鎮守府Aの物語 - 短編集   作:lumis

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提督のいないクリスマスパーティー

 25日クリスマスパーティー当日、鎮守府の正門は艦娘以外の人たちの立ち入りを全面的に許可した。本館の正面玄関前に設置された屋台は、周辺住民の手によるものである。普段はほとんど使われないロータリーではあるが、この日だけはその姿と雰囲気を一変させた。鎮守府本館内と裏口広場は艦娘達の手によりお手製ながら豪華な会場と化していた。

 

 クリスマスパーティーの第一部は夕方開かれた。夜に開かれる第二部に参加できない艦娘らが集まり、ミニゲームや軽食を参加者全員に振る舞われた。他には周辺住民によるアートコーナーやクリスマス用のリースやアクセサリーなどの制作体験会などが、鎮守府本館の空き部屋で開かれ、住民だけでなく艦娘達をも楽しませていた。

 

 パーティーを日中から楽しむ艦娘達もいるが、クリスマス前後とはいえ定例の哨戒任務もある。そのメンツは楽しんでいる面々を若干恨めしそうに見ながら、出撃用水路のある工廠へと足取り重く歩いていった。C部署から6人、N部署から6人の計12人の2艦隊が鎮守府Aの担当海域を二分して哨戒することになっていた。

 合計12人の中で一番しつこく愚痴を言っていたのはティルピッツだ。一緒にいたNビスマルクに静かながらも頑として強くなだめられていた。

 

(独)「パーティー、ただで食事~羨ましい。にゃん姉ちゃんなんであたしもなのさ?」

(独)「くじで決まったんだ仕方ないだろう。その代わり夜のメインのパーティーには参加できるんだ。我慢しろ。」

 

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 ただ、そう諭しながらもNビスマルクの拳が若干プルプルと震えていたのを、僚艦になったN大淀そしてC部署の艦隊のC大淀が横目で見て心の中をなんとなく察した。

 

「N大淀さん、そちらの艦隊の統率お任せしましたよ。」

「はい先輩。でも……あのお二人とどーやって意思疎通図ればいいんですかぁ? 私ドイツ語なんてわかりませんよぉ~!」

「うち独自の指示方法あるんだから困らないはずよ。それにNビスマルクさんは日本語多少できたはずよ。ティルピッツさんだって喋れはしないけどヒアリングだけはある程度できるらしいから問題ないわ。しっかりなさい、同じ大淀担当でしょ?」

「うぅ……なんとかやってみますけどぉ~、でもさっきからティルピッツさんの語気が強くて怖くて~。こんなことなら仲良いC初雪ちゃんとティルピッツさん組ませればよかったんじゃ……。」

「それやったら共闘して反乱起こされかねないからって、秘書艦勢の間ではタブーとのお達しなの忘れたの?」

 真面目で責任感が強い二人の大淀は冷静で辛抱強い。そんな彼女らの頭を悩ますのは僚艦の不満の危険水域をいかにして超えさせないで済むかの一点だった。

 他の寮監もまた、パーティー当日の哨戒任務を嫌がっていた口である。

 

「はぁ~~~なんであたしクリスマスに艦娘の仕事してんだろー。先輩そう思わない!?」

「ほんっとだよね~~!そっちの熊野ちゃんとうちのくまのんなんか、平海ちゃん連れて早々にどっか別のクリパに遊びに行ったし。鎮守府のクリパですらないってどーいうことよ!」

 深く大きくため息を吐くN鈴谷にC鈴谷が不満で愚痴を爆発させていた。完全に二人の気持ちは通じ合っていた。

 

 もう一組不満を吐く組み合わせがいる。陽炎だ。

「主人公のあたしがパーティーに出ないってどー言うことなのさ!」

「はいはい。主人公は基本無口なものよ。黙ってなさい。」

「うーおぃ!先輩! パーティー出たくないの!?楽しみたくないのぉ!?」

「あたしだってパーティー出たいし楽しみたいわよ! けどクジ引いて決まっちゃったんだからグチグチ言ったって仕方ないでしょ! 同じ陽炎担当なんだからいつまでも文句言ってみっともない姿晒さないでよね!」

 荒れるN陽炎をC陽炎が強くピシャリと叱る光景が続く。叱りながらC陽炎は、中学生時代だったら自分もきっとこうやって周囲に不満をだだ漏らししていただろうなと心の中で遠い目をしていた。

 二人の陽炎の後ろをついていくC不知火とN不知火は互いに無言で顔を見合わせ、前方の10人の人間模様を観察して密かに楽しんでいるのだった。

 

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 パーティーの第一部が終わり、撤収する屋台・これから入る屋台の準備、第一部の片付けなどが慌ただしく行われる。

 艦娘達の顔ぶれも若干変わる。クリスマスは家族と過ごすことが多い外国出身の艦娘達は片付けを手伝った後着替えて名実ともに普通の少女・女性に戻り、帰路に着いていった。代わりに出勤してきた少女・女性達は着替えて艦娘になり、第二部の準備を引き継いで作業を始めた。

 第二部がクリスマスパーティーのメインということもあり、入れ替えの時間帯になると鎮守府の敷地内に入ってくる周辺住民の数が一気に増えた。身内に艦娘がいなければ普段関わりなく、内情を一般市民が知ることができない艦娘制度・国の関連組織の施設・敷地内なだけに、奥まで見学を望む人々もいる。もちろん勝手に鎮守府敷地内を歩くことは禁止されているがこの日だけは別だ。本館敷地の一部、工廠内部だけは立ち入られないように立入禁止のベルトポールとパーティションが設置され、それ以外は自由に入っていいことにしてある。

 艦娘の一部には、入れ替えの時間帯のミニイベントとして、周辺住民に艦娘のアクションを見て楽しんでもらうための企画を設ける者達もいた。彼女らは見学希望者を案内して堤防沿いに集め、自分達はその先の海に姿を見せて住民を楽しませた。

 

--

 

 第二部が始まる前、五月雨は各秘書艦とともに執務室にいた。第二部には本来であれば提督の挨拶が最初にあり、それからメインのパーティーの開始という手順が第一回目からの伝統になっている。しかしこの場に提督の姿はないためその手順が行えない。

 五月雨は秘書艦達の前に立ち、意気込みを述べた後相談した。

「みなさん、これからクリスマスパーティーの本番、メインです!参加する人みんなに楽しんでもらえるように頑張りましょ! それから提督は残念ながら今年は間に合いそうにないです……いつも最初に提督が始まりの言葉を言うんですけど、今年はどうしましょう?」

 五月雨の始めこそ元気一杯ではあったが次第にトーンが落ちていく声色の言葉を聞き、顔を見合わせる秘書艦達。程なくして全員五月雨の顔を見る。口に出して知らせたのは妙高だった。

「五月雨さんでいいのではないかしら。もう3回もイベントやっているし、参加してくださる住民の方々の中で五月雨さんのこと知らない人はもういないと思いますし、誰も文句や冷やかしは言いませんよ。」

「え、えぇ? でも……私大勢の人前で喋ったことないんですよぅ。」

「自信を持ってください。五月雨さんならきっと出来ます。」と逸仙。

「そうですよ。この数日間、五月雨ちゃんは立派に鎮守府のトップを務めましたし、いまさら人前での演説なんて楽勝でしょ。」

 C高雄が鼓舞すると他の秘書艦達も強く相槌を打った。

 

 こんな時初代那珂がいてくれたら、と五月雨はないものねだりをして現実逃避を試みるが、引きずっても虚しいだけなのですぐに思考を切り替えた。慌てた表情からすぅっと考え込む表情になりそして数秒後、顔を上げて目の前の(ほぼ全員自身より遥かに年上の)秘書艦達に向かって宣言した。

 

「わ、わかりました! なんだかんだで一番経験長いのだけがとりえですし、私頑張っちゃいます! けど、せめてどなたか一緒に傍にいてほしいです。」

 決意した五月雨の唯一の要望。その台詞に皆しばらく沈黙する。程なくしてして妙高が口を開いた。

「そうですね。それでは白雪さん、いかがでしょう?」

「ふぇっ!? わ、私ですか!?」

 妙高が率先して推薦したのはN白雪だった。大人達の間に隠れるように立って目の前のやりとりを他人事のように聞いていたN白雪だったが、急に会話の主役に近い位置に立たされたことで体温が急上昇した感覚を覚え、顔を真赤にしてうつむいてしまう。

 

「私も白雪ちゃんがいいと思いますよ。こういうときは若い子が務めたほうがいいんですよ~。経験にもなりますし、住民の人達の反応も違うと思います。」

 そうフォローしたのはC青葉だ。カラカラと笑いながら明るく言った。概ね同意を得られたが、一つだけ妙高が釘を差した。

「そうですね。私もそれがいいかと。ところで青葉さんは五月雨さんと白雪さんのスピーチをまさか録音録画して自分のテレビ局に持ち込んだりはしないですよね……?」

「え!? あ~、アハハ~。アハハハ~……」

 乾いた笑いをするC青葉。その反応だけですぐに察した妙高は額を抑えて小さくため息を吐いて小声でC青葉に返した。

「放送を考えてるなら後で二人に顔出しの許可くらいはもらっておいてくださいね。」

「は、はい……。」

 相変わらず提督以上に侮れねぇ、そう反省するC青葉であった。

 

--

 

「どうかしら? やってみる気はない?」

 N白雪の背中にそっと手を添えて優しく尋ねるC高雄。N白雪はうつむくが、すぐに顔を上げて視線を五月雨に向ける。五月雨は彼女に視線を合わせて、ニッコリと笑顔を返す。

 その笑顔を見てN白雪は決心した。

「は、はい。こんな私で良ければ、五月雨さんと一緒にやらせてください。」

「ありがと~~! よろしくね白雪ちゃん!」

 

 こうして、パーティー第二部のはじまりの言葉・挨拶は五月雨とN白雪が務めることになった。

 

--

 

 あっという間に時間になった。

 挨拶は本館裏口から出た広場で行うことになっている。裏口を出ると右手側にクリスマスツリーがそびえ立っている。その手前に小さな壇上が設置されている。そして向かいは立食用のテーブルが幾つか並べられ、挨拶を聞く住民や艦娘達でごった返していた。

 12月も末に近く吹きすさぶ風がチクリチクリと突き刺さるように冷たい。そんな中でも会場の熱気はたっぷりで、寒い外が意外とそれほどでもなくちょうどよい体感気温の空間になっていた。

 

 五月雨とN白雪がツリーの前の壇上に立った。少し離れて音楽演奏担当の英駆逐艦リージョン、軽巡エディンバラとベルファストが自分達の出番を待ち構えている。彼女らに演奏開始の合図をするのはC五十鈴の役目だ。

 

(英)「五月雨と白雪のスピーチが終わって、私が合図したら演奏をはじめて頂戴。いいわね?」

(英)「りょーかいしましたわイスズ!軍歌でも賛美歌でもなんでもOKなんだから!」と手を挙げながら元気いっぱいに叫ぶリージョン。

(英)「今日は頑張るっすよ~。ベルファストになんか負けてられないんだから。それに空の星の影から見守ってくれてる指揮官のためにも始まりの演奏を成功させて皆に喜んでもらうっす!」

(英)「姉さん……指揮官は別に死んでないから。まぁ、皆に喜んでもらえる演奏という点は同意しますけどね。ところでイスズ、あなたは本当に演奏参加しなくていいのですか?」

 姉エディンバラにツッコミつつ、ある種演奏指揮者の立場である五十鈴に確認するベルファスト。彼女の問いかけに五十鈴はサラリと答えた。

(英)「あなた達の本場のクリスマス曲の演奏に水を差す気はないわ。今回は聴者側に立たせてもらうわ。」

 

 鎮守府A草創期からいるC五十鈴は、着任当時高校生だったが今や大学生だ。彼女は大学で英米文学を学んでいる。N部署ができて鎮守府に外国人が増えた今は身近な勉強場所として積極的に通訳を担当したり彼ら彼女らから文化を聞き大学の課題に活かすなどしている。

 

--

 

 五月雨がマイクの電源をONにする。一瞬キーンという音が響き渡り、そのおかげで会場のお喋りは途切れて静かになる。自然と視線がマイクの持ち主である五月雨に集中する。

((うぅ……緊張でお腹が……。でも、提督の代わりきちんと務めなくちゃ))

 

「お集まりの皆さん、お待たせしました! これより……

 

 五月雨のスピーチが始まった。五月雨の同級生であるC時雨達は彼女の性格の一端を昔から痛いほど知っているため、いつ大ポカをやらかさないかヒヤヒヤしながら見守っていた。しかし危なげな様子は最初の水準のままでスピーチが終始したことに、次第に安堵し笑顔を取り戻した。

 

 五月雨のスピーチの内容に追加するようにN白雪がこの後の時間割を説明し始めた。五月雨よりも安定した口調で終始するも、細かい説明を気にしすぎて概要としてまとめる能力にまだ欠けるきらいがある彼女に危機感を覚えたのか、パーティーの空気の雰囲気が気になったのか、五月雨がやんわりと口を挟み軌道修正をかけてあげた。その様子はまるで3年前の那珂と五月雨のようであるとは、草創期からいる艦娘達の誰もが思い浮かべたことだった。

 

 恥ずかしそうに一歩下がるN白雪の行動と五月雨の口挟みというやり取りをボケとツッコミと捉えた会場はドッと笑い、二人の少女を励ます声援を送った。

 そしてタイミングを見計らったC五十鈴がベルファスト達に合図をして演奏を始めさせた。するとにこやかな笑いでほんのり温まった屋外会場が、英艦の艦娘達の本場仕込みの演奏でノった参加者の熱気でさらに温まりを見せた。これから始まるパーティーの予熱は万全といったところである。

 

 

--

 

 開始してしばらく経った頃、五月雨は各テーブルやコーナーへN白雪を連れて歩き回った。目的は住民に挨拶をして回るためだ。

 

「お~五月雨ちゃん! こんばんは!」

「あ、○○さん! それに✕✕さん達も! いらっしゃってくださったんですね!」

「あぁ、毎年楽しませてもらってるぜ~! 美人ぞろいの艦娘の花園に来られるとあっちゃあクリスマスもいいもんだぁ~」

「もー、○○さんったら……そんな目で見たらメッ、ですよ?」

「ハハハハハ! すまんすまん!」

 

 

「五月雨さん、今日はお招きありがとうね。うちの子たちもあそこで同い年くらいの艦娘の娘たちと仲良く遊んでるわ。」

「△△さんもぜひ楽しんでいってくださいね!」

「フフッ、ありがとうね。」

 

「五月雨ちゃん、今日は西脇さん来られないんだって? かわいそうねぇ。」

「そうなんです……。でも、提督の分まで私達頑張って皆さんをもてなしてあげますね!」

「うんうん、その意気その意気。五月雨ちゃんはやっぱそうやって明るくしてるほうが似合ってるわよ。」

「エヘヘ。ありがとうございます。」

 

「おー五月雨ちゃん。そういや西脇くんは来られないんだっけ。」

「はい、そうなんです。☆☆さんは確か……毎年提督と飲み比べしてますよね~。」

「西脇くんの酒飲みっぷりを鍛えてあげてるのがおじさん達の楽しみでねぇ~。」

「も~~。クリスマスってガンガン飲む場じゃありませんよぉ。それに提督そんなにお酒強くないんですからぁ~。」

「ガハハ! すまんなぁ。でも今回は残念だわ~。」

「ウフフ。でもお酒に強い人は戦艦艦娘の人には大勢いますから、ぜひいかがですかぁ?」

「ハハッ!そりゃいいや。それじゃあ今年は外人の姉ちゃんたちと飲み比べでもしてみようかねぇ~。」

 

 

「ふぅ……後はあの人とあの人……あ、あの人もまだ会ってないや。」

 五月雨が指を宙で動かして人数を数えていると、隣にいたN白雪がそうっと話しかけた。

「あの……五月雨さん。」

「ん? なぁに?」

「色んな方に話しかけられるなんて、すごいですね。私にはとても無理です。」

「そーお? 私だって、昔はこうして話しかけるなんて無理だったよ。」

「とてもそうは見えません。私なんてお姉ちゃんや妹達、それから交流のある艦娘くらいにしか話しかけられません。」

「なんていうのかなー。経験だと思うなぁ。後は単純に一度お話したことある人たちばかりだったから私も話しかけられるの。最初は大体提督についていってお話聞いて、それから紹介してもらってって感じ。」

 軽く語る五月雨にN白雪は感嘆のため息を吐いて絞り込むような声で言った。

「それでも、すごいです。」

 年下に褒められて五月雨は照れくさくなり、横髪の先をくるくる指で回して気を紛らわせながら言葉を返した。

「そーかなぁ~。私あまり実感ないんだけどなぁ。それじゃあ白雪ちゃんにもこういう風に町の人にお話する機会作ってあげるね。あ~!そっかぁ。今紹介しとけばよかったんだぁ~……ゴメン! 私白雪ちゃんのこと皆に紹介するの忘れてた! ちょっと戻るよ?」

「え、あ? あのー……。」

 

 五月雨は挨拶にばかりかまけていてN白雪を紹介することを忘れていたため、彼女の手を引き慌てて今まで挨拶した住民らの下へと戻っていった。

 クリスマスパーティーのワンシーンにある、秘書艦の少女たちの光景である。

 

 

--

 

 パーティーは各場所で異なる盛り上がりを見せた。クリスマスツリーのある屋外では立食用のテーブルでは大人達が酒とつまみを時々口に運びながら歓談に更ける。ツリーの傍では子供達が写真を撮ったり、飾り付けを弄りながらおしゃべりしている。その中には艦娘とくに駆逐艦達も混じっていた。海外艦担当の艦娘達には日本語ができない娘が多かったが、言葉がわからなくても子供同士フィーリングで仲良くし合う光景がそこにあった。

 通訳と子供達の見守りのためにそばにいたレナウンとレパルスそしてネルソン・ロドニー姉妹らはその光景を酒の肴にパーティーを楽しんでいた。

 

(英)「フフッ、私たちの助けはどうやら要らないみたいですね。」とレナウン。

(英)「日本の人たちとこうして楽しむクリスマスもなかなか良いものですね。姉さん、ネルソンさんにロドニーちゃん。私たちも飲みましょう。」

(英)「そうね。ただ……本業の仕事で来られない閣下や夜間哨戒担当になってしまったフッドやアリシューザたちの事を思うと素直に飲めないわね。」としんみりとした雰囲気を作って口にするネルソンの手にはワイングラスが存在する。

(英)「お姉ちゃん……そう言いながらさっきからワイン進みすぎよ。指揮官もしかしたら来られるかもって秘書艦の皆さんがおっしゃってたじゃない。指揮官がもし間に合った時に酔っ払っていたら英国淑女としてはしたないわ。」

 

 英国戦艦担当の艦娘達にも様々なやり取りが存在するが、他の者が知る由もない。

 

 

--

 

 本館1階ロビーでは暖房の効いた空間でゆったり落ち着いて食事や歓談ができるよう、テーブルと椅子が増設されていた。食事が進むテーブルもあれば、艦娘達がミニイベントを開いて住民の子供達を集めて盛り上がっているテーブルもあった。

 

 日中に哨戒任務で出撃していたNビスマルクとティルピッツらは、やっと本格的に休んで楽しめるとあって、酒と食事が進んでいた。同じテーブルを囲むのは、同じドイツ艦担当のCビスマルクやアドミラル・ヒッパーらだ。

 当然ティルピッツもいるが、彼女は一口二口飲食した後さっさと食事の席を離れてしまった。彼女が向かったのはとある一室である。

 

(独)「お、お待たせ。うぉ!?」

「ん。みんな待ってた、よ。」

 そう”日本語で”言ったのはC初雪だ。彼女の周りには数人の艦娘と住民の子供達がいる。そしてその部屋には2台のテレビといくつかのテレビゲーム機が設置されていた。

(独)「なんでこの辺の子供達がいるのさ……あたし大勢は嫌なのに……。」

 ティルピッツは自分だけ大人で周りが子供という状況のため険しい顔をして露骨に嫌がる。

「……だそうで。」

「私が鎮守府に来た時によく遊ぶこの辺の子供達。みんな優秀なゲーマーだよ。クリパにゲーム大会やるって話したらやりたいってせがまれたから……今日くらい一般の子いたっていいでしょ?」

(独)「……。……?」

(独)「うー、わかった。けど最初にプレイするのはあたしだからね。それだけは譲れないから。」

「……だそうで。」

「オッケィ。……皆、このティルピッツお姉ちゃんに最初は譲ってあげて。」

「いいよー!」「うわー、この外人のお姉ちゃんもゲームするんだーすげー!」

「日本語わかんのこの人?」「すっごい美人さん……私憧れちゃうー。」

 

 子供達の反応は様々だったが、このメンツでのゲーム大会の進行は概ね好意的に受け入れられた。

 

「はぁ……私ゲームとか興味ないんですけど、そろそろ食事しにいっていいですか?」

 そうため息混じりに愚痴ったのは、伊8だ。C部署の艦娘の中でドイツ語が堪能なので、ドイツ艦担当の艦娘達との通訳に引っ張りだこな彼女は、今このクリスマスパーティーの場ではパーティーの中心地ではなく本館のとある一室になぜかいさせられていた。

 帰る意思を示す伊8の上着の裾を引っ張ってC初雪が引き止めた。

「待って。行かないで! 私ドイツ語話せないから、はっちゃんいなかったらティルピッツさんと意思疎通図れないよ。子供達も困っちゃう。」

「初雪……あなたよくティルピッツさんと仲良くなれたね……。」

「それは……ふ、普段は翻訳アプリ使ってる、から。」

 やや反り返って自慢げに口にするC初雪。それに対し伊8は額を抑えそして顔をC初雪に向けて強くピシャリと言った。

「じゃあそれでいいじゃないの!」

「き、今日は携帯忘れたから……。」

 そう言ってバッグを見せるC初雪。彼女のバッグの中には、たんまりとゲームソフトや携帯ゲーム機、攻略本やカードゲームが入っていた。伊8はチラッと彼女のバッグを覗くいなや大きくため息を吐いて色々な物事を諦めた。

「……。」

 

 クリスマスパーティーが開かれている鎮守府本館の一室では、閉幕のその時間を過ぎてもゲームで遊び続ける艦娘と住民の子供達の姿があった。その後子供達は親に引っ張られ、初雪とティルピッツはNビスマルクに引っ張られて外に放り出される光景があった。

 この光景もまた、クリスマスパーティーのワンシーンなのである。

 

 

--

 

 そんな1階ではなく、2・3階の広間で食事とおしゃべりに更ける者達もいる。さすがに2階から先は一般人の立ち入りを禁じているため、その場には艦娘の姿しかない。

 3階の広場に設置されたテーブルとソファーでは、五月雨達とN白雪たちがガールズトークを楽しんでいた。

 

「ふぅ……ちょっと休もうっと。」と五月雨。

「お疲れ様、さみ。色んなところに顔出ししてさすが総秘書艦様は違うね。」

「そりゃー、提督の代わりに皆にご挨拶しておかなきゃだも~ん。」

 C時雨がやや茶化すような口調で労う。その労いに乗ったのはN吹雪、相手は妹のN白雪だ。

「白雪もご苦労様。五月雨さんについていったのはいいけど、いろんな人と会うの疲れるでしょ? あんたはちょっと人見知りなところあるからお姉ちゃん心配だったんだよ?」

「アハハ……ありがとお姉ちゃん。でも基本的には五月雨さんがやってくれたから、私はただ愛想笑いしてただけ、かな。積極的に動けるところ、見習いたいです。」

 そう力無さげに口にするN白雪。感心された五月雨は照れながら言った。

「白雪ちゃんだって経験積めばすぐこういう立場になれると思うよ? 私、最初の頃はただ慌ててばっか。私がこうしていろんな人と話したり、人の話をちゃんと聞いて自分で考えまとめて動けるようになったのって、提督のおかげでもあるけれど、一番身近で教わったのは那珂さんのおかげ。あの人がいなかったら、きっと私はこうして皆の前に立ててなかったかも。」

「うん……そうだね。あの人は本当に強かったし皆の前に立って色々できる人だったから、さみはあの人の傍で学べて変わったって、友人の僕から見てもよく分かるよ。ただまぁ今でもドジ踏むときはあるけどね。それがまぁさみらしいといえばらしいけどさ。」

「も~~時雨ちゃん!」

「アハハ、からかってるんじゃないよ。むしろ褒めてるんだからね。」

 C時雨の台詞に恥ずかしさとほんの少しの憤りを感じて五月雨はプイッとそっぽを向いた。その仕草にその場の一同はクスクスと笑いを漏らす。

 

「へぇ~~、その那珂って人、そんなにすごい人だったんですか?」とN吹雪。

「あぁ。N部署ができた今じゃむしろ彼女の存在を知らない人のほうが増えてしまったから、もう誰も話題に触れることはないけどね。」

 

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「あの……その那珂さんは今どこに?」

 N白雪が尋ねると、五月雨もC時雨も一瞬表情に影を落とす。しかしすぐに笑顔に戻ってその質問に答えた。

「今は……遠いところ、かな。」と五月雨。

「隠しても仕方ないから言うけど、もうこの世にはいないはず。この鎮守府最初の殉職者だって言われてるんだ。」

「「え……?」」

 突然のワードにN吹雪とN白雪はその事情を理解することができずほとんど同時に言葉に詰まって表情を暗くした。

 二人とは対照的に五月雨とC時雨は明るく振る舞う。

「もう3年も前の話だからそんなに暗くならないでよ~二人とも。もう私達だって気持ちに整理つけたからこうして普通に話せるんだよ。」

「そうそう。」五月雨のセリフにウンウンと頷くC時雨。

 

「あの……いない”はず”って? 亡くなったということでいいんですよね?」

「白雪さん鋭いね。」とC時雨。

「実はね、那珂さんのはまだ見つかってないの。だから私達にとっては、まだ行方不明……かな。」

「気持ちに整理つけたとか言いながら未だに信じていないとか未練がましいってことになるけど……そこは知り合いだからどうしてもね。」

 五月雨が困り笑いで事情を明かすと、C時雨は肩をすくめ、代わりに自身らの気持ちの状態を明かした。

 N吹雪とN白雪は二人の語る話に対しうまく反応できなかった。

 自分たちが知らぬ鎮守府の顔、艦娘の姿。

 しかしこういう特別な雰囲気の時でしか聞くことが許されない気がして、二人とも意を決し失礼を承知でさらにいろいろ尋ねることにした。

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