鎮守府Aの物語 - 短編集   作:lumis

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鎮守府のマスコット猫オスカーが起こす大騒動!
艦娘たちと提督のギャグとシリアスが維持交じる、心温まる鎮守府の一日をどうぞお楽しみください。

※艦これ×戦艦少女Rのクロスオーバー作品です。



鎮守府猫捕物小話
本編


 鎮守府の午後というのは、概ね二つのパターンに分類される。一つは、出撃や遠征の準備に追われる、活気と緊張感に満ちた喧騒。そしてもう一つは、特に大きな作戦行動もなく、書類仕事や訓練、あるいはただの休息に時間が費やされる、穏やかで微睡むような静寂だ。

 

 その日の午後は、紛れもなく後者であった。執務室の窓から差し込む陽光は埃をきらきらと輝かせ、西脇提督は山積みの書類を片付ける傍ら、愛猫家の同志である軽巡洋艦アトランタと、鎮守府のマスコット猫オスカーの近況について微笑ましく語らっていた。

 

「最近のオスカーは、どうやらN部署の倉庫がお気に入りの昼寝スポットらしいですよ。昨日も、段ボール箱の中で丸くなってて、すごく気持ちよさそうだったにゃあ」

「ほう、N部署の倉庫か。あそこは日当たりもいいし、静かだからな。あいつは本当に快適な場所を見つける天才だな」

 

※N部署:戦艦少女Rの艦の担当者が所属する部署

※C部署:艦これの艦の担当者が所属する部署

 

 提督が目を細め、まるで自分の手柄のように得意げに頷いた、まさにその時だった。

 執務室の扉が、ノックもそこそこに凄まじい勢いで開かれたのだ。そこに立っていたのは、C部署所属の事務担当の艦娘で、その顔からは血の気が失せ、肩で大きく息をしていた。尋常ではないその様子に、提督とアトランタの和やかな空気は一瞬で凍り付く。

 

「て、提督!た、大変です!」

「どうした、落ち着け。何があった?」

 

 提督が冷静を装って促すが、事務艦娘から発せられた次の言葉は、その冷静さを木っ端微塵に粉砕する威力を持っていた。

 

「オ、オスカーが……!オスカーが、第一弾薬庫に……!」

「――は?」

 

 一瞬の沈黙。提督の口から漏れたのは、意味をなさない単音だった。第一弾薬庫。そこは、艦娘たちの艤装に用いられる実弾や魚雷、爆雷などが厳重に保管されている、鎮守府内で最も危険な区画の一つだ。関係者以外の立ち入りは固く禁じられ、火気厳禁は言うに及ばず、静電気対策まで施されているような場所である。そこに、猫が?

 

「……にゃ、にゃんですってええええええっ!?」

 

 アトランタの甲高い絶叫が、提督の思考を現実へと引き戻した。彼女の頭からは猫耳のような幻影が見えるほどに、その動揺は顕著だった。

 

「いつだ!いつからだ!」

「さ、先ほど、弾薬の在庫チェックに向かった担当者が、開けた扉の隙間から黒い影が滑り込むのを見たと……!間違いなく、オスカーかと……!」

 

 提督は椅子を蹴立てるように立ち上がった。その顔は、先ほどまでの柔和な猫好きのそれから、最高責任者としての厳しいものへと完全に切り替わっていた――いや、切り替わっているはずだった。実際には、その表情には明らかなパニックの色が浮かび、声は僅かに震えていた。

 

「全艦に通達!緊急事態発生!鎮守府のマスコット、コードネーム『オスカー』が、第一弾薬庫内に侵入!繰り返す、オスカーが第一弾薬庫内に侵入した!全部署はただちに現有戦力を以てオスカーの捜索および安全確保にあたれ!これは提督命令である!」

 

 司令官席のマイクに向かって叫ぶその声は、深海棲艦との決戦を前にした檄よりも、遥かに必死さが滲んでいた。鎮守府Aの歴史上、最も平和で、最もくだらない、そして最も切実な非常事態の幕が、こうして切って落とされたのである。

 

 第一弾薬庫の前には、通達を受けて駆けつけた艦娘たちが、不安げな面持ちで集結していた。屈強な戦艦から小柄な駆逐艦まで、その顔ぶれは様々だが、誰もが事の重大さ(と、その馬鹿馬鹿しさ)を理解している。

 

「弾薬庫に猫、ですか……。冗談であってほしいのですが」

 冷静沈着な吹雪が、こめかみを押さえながら呟く。彼女の隣では、妹の白雪が「オスカーちゃん、大丈夫でしょうか……」と本気で心配そうな顔をしていた。その喧騒を聞きつけて、時雨と夕立に連れられてやってきた村雨も、呆れたように腕を組んでいた。

「ちょっと、何この騒ぎ。まるで戦争でも始まるみたいじゃない。原因が猫一匹って、うちの鎮守府、平和すぎない?」

 村雨の現実的なツッコミに、時雨がこくりと頷く。

 

「全くもって、ますみちゃんの言う通りだよ。でも、場所が場所だからね。笑い事じゃ済まないんだ」

「大丈夫だよ!あたしが、びゅーんって行って、ささって捕まえてくるっぽい!」

 

夕立がやる気満々で拳を突き上げるが、即座に時雨と村雨の両方から腕を掴まれる。

「君は絶対に行動しちゃだめ。弾薬庫で走り回るなんて、何が起こるか分からないんだから。むしろ、君が一番の危険物だよ」と時雨。

「そうよ、ゆう。あなたの『びゅーん』で魚雷の信管が『ドカーン』になったら、洒落にならないんだからね」と村雨。

「むー!しぐもますみんもひどい!」

 

 そんなやり取りが繰り広げられる中、提督とアトランタが現場に到着した。その手には、捕獲用の網や猫じゃらし、そしてオスカーが何よりも好きな高級カリカリの入った袋まで握られている。もはや、どちらが猫なのか分からない。

 

「状況はどうなっている!?」

 

「提督!現在、弾薬庫の扉は封鎖。内部の監視カメラを確認していますが、死角が多く、オスカーの姿は確認できていません」

 報告する艦娘の声も硬い。その時、提督の持つ無線機から、切羽詰まったような声が響いた。

 

『こちら工作艦明石!提督、大変です!第一射撃管制室のシミュレーターの照準データが、めちゃくちゃになってます!昨日の時点では正常だったのに、今確認したら、全部ありえない方向に……!これじゃ演習になりません!』

「なんだと!?原因は!?」

『それが、全く……。まるで、誰かがコンソールの上で寝たみたいな、ランダムなデータ入力が……』

 提督はこめかみを押さえた。「猫一匹で手一杯だというのに……!」その愚痴まじりの呟きは、誰の耳にも届かない。

 

「よし……。これより、我々は弾薬庫に突入し、オスカーの身柄を確保する。いいか、絶対に騒ぐな。大きな音を立てるな。そして、何があっても走るな。オスカーを驚かせたら、パニックになってどこに逃げ込むか分からん」

 

 提督の言葉に、全員がごくりと喉を鳴らした。普段はマイペースで人懐っこいオスカーだが、猫は猫だ。追い詰められれば、普段は考えられないような隙間に潜り込んだり、信じられない高さまで飛び上がったりする。そして、その先にあるのが九一式徹甲弾の信管や、酸素魚雷の炸薬だったら?想像しただけで、全員の背筋が凍る思いだった。

 

「捜索はチームに分かれて行う。アトランタ、君は俺と来い。猫の気持ちが一番わかるのは、我々猫好きだからな」

「了解です!提督!猫の思考をトレースするにゃ!」

 提督とアトランタは、真剣な顔で頷き合う。その異様な光景に、村雨は「あの二人、ちょっと見てられないわね……」と小声で時雨に囁いた。

 

「吹雪、君は白雪たちを連れて、棚卸用のリストを元に、区画を一つずつ潰していってくれ。体系的な捜索が重要だ」

「はい、お任せください。白雪、初雪、深雪、行くわよ」

 

「時雨、村雨、そして夕立。」提督が三人を指す。「君たちは西側通路から捜索を頼む。頼むから、夕立を抑えておいてくれ」

「「了解」」と時雨と村雨が敬礼する横で、夕立は「任せてっぽい!」と元気よく返事をした。一体何が任せられるのか、誰にも分からなかったが。

 

 重々しい鉄の扉の向こうに広がるのは、ひんやりとした空気と、火薬と油の匂いが混じり合った独特の空間だった。薄暗い照明に照らされた通路の両脇には、天井まで届くほどの高さの棚が並び、そこには木箱や金属製のコンテナが整然と、しかし威圧的に積み上げられている。一つ一つの箱の中身が、街一つを吹き飛ばしかねない破壊力を秘めているのだ。

 

 提督とアトランタは、まるで不発弾処理班のように、抜き足差し足で通路を進んでいた。

「提督、猫が高いところを好む習性を考慮すると、棚の上が怪しいにゃ」

「うむ。だが暗くて狭い場所も好む。コンテナと壁の隙間なども重点的にチェックする必要があるな」

 アトランタが実物の猫のように四つん這いになりかけて「いや、さすがにこれは…」と自重したのは、後ろの提督が妙に目を逸らしたからだった。

 二人は、まるで熟練の刑事コンビのように、プロファイリングを進めていく。と、またしても無線がけたたましく鳴った。

 

『こちらN部署、逸仙です!提督、緊急の報告です!先日、明石さんから試作品として預かっていた、特殊栄養補給バーが……一本、研究室から忽然と姿を消しました!厳重に保管していたはずなのですが……!』

 

「栄養バーだと!?そんなもの、今どうでも……いや、待て。どんなものだ?」

『高カロリー高タンパク、そして、またたびエキスが少量配合されていると聞いています……疲労回復効果を高めるためだと……』

「またたび……だと……!?」提督の顔がさらに青くなる。アトランタも「にゃ、にゃんですって!?」と耳(のような幻影)をそばだてた。酔っぱらった猫が弾薬庫で何を仕出かすか、想像もしたくなかった。

 

「おーい!オスカー!カリカリだぞー!」

 

 提督が小声で(しかし本人は大声のつもりで)呼びかけながら袋を振ると、カシャカシャと乾いた音が響く。その音に、どこからか「提督、静かにと……」という時雨の呆れた声が無線で飛んできた。

「こ、これはオスカーを誘い出すための戦略的音響だ!」

 苦しい言い訳をしながら、提督は懐中電灯で棚の奥を照らす。照らし出されたのは、埃をかぶった砲弾の先端と、それを眺める提督自身の絶望的な顔だけだった。

 

 最もカオスを極めていたのは、もちろん夕立、時雨、村雨のトリオだった。

「オスカー!どこだっぽーい!鬼さんこちら、手の鳴るほうへ!」

 夕立は弾薬庫の中を、まるで自分の部屋のように駆け回っている。そのたびに、積み上げられた弾薬箱が僅かに揺れ、時雨と村雨の心臓を縮み上がらせた。

「ゆうってば!だから走るなって言ってるでしょ!そこ、魚雷の調整区画なんだから!」

「そうよゆう!あんまりはしゃぐと、静電気でドカンよ、ドカン!」村雨が少し大げさに脅かす。

「大丈夫だって!あたし、運動神経には自信あるし!」

 自信満々にそう言った夕立は、次の瞬間、床に落ちていたケーブルに足を引っかけ、見事なまでに前のめりに転倒した。

「うわっ!」

 彼女の身体は、ドミノ倒しのように弾薬箱の列へと突っ込んでいく――かに見えた。しかし、その寸前、夕立の首根っこを掴んで強引に引き戻す影があった。時雨だ。

「……だから、言わんこっちゃない」

 

 息を切らしながらも冷静さを失わない時雨は、夕立をその場に座らせると、一つ大きなため息をついた。

「いいかい、ゆう。君はもうここでじっとしてて。ぼくとますみちゃんで探してくるから」

「えー、つまんないー」

「君がいると、捜索対象が猫一匹から、猫一匹と駆逐艦一隻に増えるんだよ。わかる?」時雨がしゃがみこんで、諭すように夕立の頬をつついた。

 

 捜索開始から三十分。未だオスカー発見の報はなく、艦娘たちの間には焦りと疲労の色が濃くなっていた。

「ダメだ、どこにもいない……。まさか、本当に魚雷発射管の中に……?」

 提督が青ざめた顔で呟く。

 

「提督、諦めたらダメです!猫は液体にゃ!我々の想像もつかないような隙間に入り込んでいるはず!」

 アトランタが根拠のない理論で彼を励ます。捜索隊は、弾薬庫の最も奥、普段は誰も立ち入らない予備兵装の保管エリアにまで到達していた。そこは、旧式の、今ではほとんど使われることのない兵装が、静かに眠りについている場所だった。

 

「もう、ここが最後だな……」

 提督が諦めかけた、その時だった。

「……ん?」

 

 微かな、しかし確かに聞こえる音に、時雨が耳を澄ませた。それは、機械の駆動音でも、風の音でもない。もっと有機的で、リズミカルな音。

 

「……ゴロゴロ……ゴロゴロ……」

 

 全員が、音のする方へと視線を向ける。音源は、壁際に無造作に置かれた、旧式の艦長用のヘルメットだった。埃をかぶったその白いヘルメットの中から、確かにその音が聞こえてくる。ヘルメットの横には、見覚えのある銀色の包み紙が落ちていた。『特殊栄養補給バー・試作品』と書かれている。

 提督が、まるで聖櫃に触れるかのように、恐る恐るそのヘルメットに近づいていく。艦娘たちも固唾をのんで見守っている。

 

 彼はそっとヘルメットを持ち上げた。

 

 そこには狭いヘルメットの内側にすっぽりと収まり、身体を綺麗なアンモナイト状に丸め、世界で一番幸せそうな顔をして、高らかに喉を鳴らしながら熟睡している黒猫、オスカーの姿があった。

 

「…………」

 

 提督は、持ち上げたヘルメットをそのままに、固まった。

 アトランタは、口を半開きにして、固まった。

 吹雪は、呆れたように額に手を当てた。

 時雨と村雨は、この日一番深いため息を同時についた。

 夕立だけが、「あ!オスカーいたっぽい!かわいいー!」と屈託のない声を上げた。

 

 弾薬庫内に響き渡ったのは、爆発音ではなかった。鎮守府の最高責任者と、数十人の艦娘たちが、同時に漏らした、気の抜けた、しかし心からの安堵のため息だった。提督はゆっくりとヘルメットを床に戻すと、その場にへなへなと座り込んだ。「……心臓に悪い……」その呟きは、その場にいた全員の気持ちを代弁していた。

 

「よし、確保!」

 

 夕立が真っ先にオスカーを抱き上げようとするが、時雨と村雨がそれを制止する。

「待って。この状況、どう考えても余罪は全部この子でしょ」村雨が呆れ顔でオスカーの鼻先をつん、とつつく。

 

「管制室のコンソール、栄養バーの窃盗……全部、この子の仕業だったというわけか……」提督ががっくりと項垂れる。

 

「こーら、オスカー!なんて悪い子なの!みんながどれだけ心配したと思って!」アトランタがオスカーのお腹をわしゃわしゃと撫で回しながら叱る。しかしその声はデレデレに甘い。

 

「夕立も叱ってあげるっぽい!めっ!なんだぞ!」夕立も負けじとオスカーの柔らかい毛皮に顔をうずめる。

 

「あんまり猫をワシャワシャ撫ですぎるのは……。まあ、なにはともあれ無事でよかったけど」時雨も、結局は指先でオスカーの顎の下を優しく掻いてやっていた。村雨も苦笑しながら、そのふかふかの背中を撫でている。

 

「お前というやつは……本当に……!」

 提督も、最終的にはそのモフモフの誘惑には勝てず、一緒になってオスカーを撫で回し始めた。叱責の言葉は、ゴロゴロという満足げな喉の音にかき消されていく。本人(本猫)は、自分に都合のいいことしか聞こえていないようだった。

 ひとしきりモフモフタイムが終わり、満足したオスカーは、ふぁあ、と大きなあくびを一つすると、提督の腕からひらりと飛び降りた。そして、集まった艦娘たちの足元を優雅にすり抜け、誰からの制止も意に介さず、悠然と歩き出す。

 

 

「お、おい、どこへ行くんだ、オスカー!」

 

 

 提督の呼びかけも無視して、オスカーは弾薬庫の出口へと向かう。

 しかし、彼は執務室や居住区画のある方角には向かわなかった。彼の向かう先は、普段はごく一部の技師や研究員しか立ち入らない、N部署の艤装研究開発棟へと続く、薄暗い連絡通路だった。その迷いのない足取りは、まるで最初からそこが目的地だったかのようで、艦娘たちはただ、その小さな黒い背中が闇に消えていくのを見送ることしかできなかった。




※本作品はSeaArtAIのAI小説創作ツールを使って作成しました、AI創作の実験作です。

キャラクター設定・原案は私自身が考えたものをベースとしています。基本的には自作小説の世界観を踏襲しているので、公式および他の方の白露型艦娘とは印象が異なる場合がございます。ご了承ください。
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