休日の短い時間の中で嫌と言うほど思い知った少女たちだった。
※艦これx戦艦少女Rのクロスオーバー作品です。
主砲の着弾が巻き起こした爆炎と水飛沫が晴れると、そこには傷一つなく立ち尽くす肇和と初雪の姿があった。二人を包んでいた淡い光のバリアが、役目を終えたかのように静かに消えていく。自分たちが生きているという事実をすぐには理解できず、二人はただ呆然と、先ほどまで死の恐怖が迫っていた川面を見つめていた。
「——無事ですのね、お二人とも」
凛とした、しかしどこまでも慈愛に満ちた声が背後から聞こえ、二人ははっとして振り返った。そこに立っていたのは、美しい焦茶色のチャイナドレスにに、軽巡洋艦としての艤装を完全に展開した逸仙の姿だった。彼女の隣には、同じく戦闘態勢を整えたアトランタとZ16が、片や猫のようなしなやかさで、片やドイツ艦らしい精悍さで佇んでいる。
「逸仙さん……それに、アトランタさんとフレデリカちゃんまで……どうしてここに……?」
吹雪が驚愕の声を上げる。その時、彼女たちの後方、ショッピングモールの別の通用口から一人の男性が駆け寄ってきた。
「みんな、無事か!」
「アドミラル!」「提督!」
現れたのは、息を切らした提督だった。彼の顔には安堵と、そして隠しきれない怒りが複雑に浮かんでいる。
提督の姿を見て、安堵とそしてこれから叱られるであろうという恐怖がない交ぜになった複雑な表情を浮かべる肇和と初雪。提督は二人の無事を確かめると、すぐに逸仙へと視線を移した。
「逸仙、奴らの注意を十分に引きつけられるか?」
「お任せください、あなた様。アトランタ、Z16、準備はよろしいですか」
「いつでもOKにゃ!」
「アドミラルと逸仙さんの頼みとあらば、このZ16、いつでも全力を尽くすわ!」
アトランタとZ16は、もはや遊びのない、プロの戦士の顔つきになっていた。逸仙が告げる。
「お二人にお任せします。敵をこれ以上内陸で暴れさせてはなりません。海上まで誘導し、確実に仕留めてください」
「「了解!」」
逸仙の合図とともに、アトランタとZ16が動いた。アトランタが猫のようなしなやかさで水面に躍り出ると、その両腕に備えられた連装砲が一斉に火を噴く。無数の砲弾が、深海棲艦の注意を引くように、その周囲の水面を激しく叩いた。
「こっちだにゃ、化け物! このアトランタがお相手してあげるにゃ!」
続けざまに、Z16が魚雷を発射。水面を切り裂いて進む軌跡は、深海棲艦をより沖合、海へと続く川下へと巧みに誘導していく。
「よし、食いついたわ! アドミラル、あとは任せて!」
二人は深海棲艦を惹きつけながら、器用に海の方角へと後退していく。街への被害を最小限に抑えるための、見事な連携だった。
***
事の経緯は、数十分前に遡る。
最初の爆発が起きた直後、逸仙は即座に鎮守府へ連絡を入れた。その際、通信担当から告げられたのは、衝撃の事実だった。
『――逸仙さん! 大変です! 工廠の自動管理システムから緊急アラートが! 肇和さんと初雪さんのコアユニットが、無断で持ち出されています!』
その報告を聞いた瞬間、提督と逸仙の脳裏に、最悪のシナリオが浮かんだ。あの二人なら、やりかねない。いや、きっとやる。
(あの子たちを、叱らなければ。でも、それ以上に……心配だ)
提督の心を読んだかのように、逸仙が冷静に、しかし迅速に進言した。
「あなた様。もし、あの子たちがコアユニットと同調さえしていれば、わたくしの『初志貫徹』で、最低限の防御シールドを展開してあげられます。完全に無防備な状態よりは、遥かに安全です」
逸仙の特殊能力は、周囲の味方の防御力や継戦能力を向上させるサポート系の能力だ。たとえ不完全な艦娘状態であっても、コアユニットを通じて同調反応さえあれば、その効果を限定的に付与することができる。
「わかった。すぐにアトランタとZ16を緊急出撃させてくれ! それと……君の艤装も、彼女たちに持ってこさせるんだ!」
秘書艦は、提督の護衛という名目で、例外的に艤装の持ち出しが許可されている。提督の即断を受け、逸仙はすぐさま鎮守府へ指示を飛ばした。ショッピングモールの地下駐車場で、派遣されてきたアトランタたちから自身の艤装を受け取ると、逸仙はすぐさま同調を完了させ、誰よりも早く戦場へと駆けつけたのだった。
***
荒々しい戦闘音が遠ざかっていく。やがて、アトランタから『敵艦、完全に海域へ誘導完了。これより、撃滅作戦に移行するにゃ』との短い通信が入り、提督と逸仙は深く安堵の息をついた。
脅威が去ったことを確認し、提督は厳しい表情で、未だ立ち尽くす肇和と初雪のもとへ歩み寄った。後方からは、應瑞たち、そしてモールに残っていた五月雨たちも、心配そうな顔で駆け寄ってくる。全員の視線が、問題を起こした二人に突き刺さった。
「肇和! 初雪!」
提督が、重々しく口を開こうとした、その時だった。
「肇和ッ!!」
雷鳴のような叫び声が、提督の言葉を遮った。声の主は、應瑞だった。彼女は血の気の引いた顔で妹のもとへ駆け寄ると、その両肩を掴んで激しく揺さぶった。いつもは穏やかで上品な彼女からは想像もつかない、鬼のような形相だった。
「あなた!自分が何をしたかわかっていますのッ!?どれだけ、どれだけ心配したと思っているんですか!もし、もし逸仙さんたちが間に合わなかったら、あなたは……!」
言葉の最後は、嗚咽に変わっていた。怒りと恐怖と安堵が綯い交ぜになった、魂からの叫びだった。
「姉、さん……」
肇和は、姉の見たこともない姿に完全に気圧されていた。いつもは鬱陶しいとさえ思う姉の過保護が、今は自分をどれだけ深く想ってくれていたかの証左となって、胸に突き刺さる。
「初雪ッ!」
今度は、吹雪だった。彼女もまた、泣き出しそうな顔を怒りで歪ませ、妹の前に立ちはだかる。
「あなたもよ!どうしてあんな無茶をしたの!?私たちに相談もなしに!私たち、姉妹でしょ!?一人で危険なことに飛び込んで、それで満足なの!?」
「おねえ、ちゃん……ごめ、なさ……」
提督と逸仙は、そのあまりに痛切な光景を前にして、言葉を失っていた。自分たちが叱るよりも先に、姉たちが、こんなにも妹を想っていた。これが、彼女たちの家族の形なのだ。二人は、静かにその様子を見守ることにした。
姉たちの悲痛な叫びは、ついに肇和と初雪の心の最後の砦を打ち砕いた。
「う……うわあああああああん!」
「ごめんなざいぃぃ……ごめんなさぁい!」
二人は、子供のように声を上げて泣きじゃくり始めた。自分たちの行為がいかに浅はかで、危険で、そして大切な人たちをどれだけ傷つけたか、骨の髄まで理解したのだ。
肇和は、たまらず姉の胸に顔をうずめて泣き崩れた。應瑞は、そんな妹を強く、強く抱きしめる。初雪もまた、吹雪に抱きつき、その肩を涙で濡らした。吹雪は、妹の頭を何度も何度も撫でながら、自分も静かに涙を流していた。
他の艦娘たちも、もらい泣きする者、静かに俯く者、それぞれがこの姉妹たちの絆の深さに胸を打たれ、ただ黙ってその光景を見つめていた。
***
少女たちの嗚咽がようやく落ち着きを取り戻した頃、提督と逸仙は、改めて全員に向き直った。
「……落ち着いたかい」
提督が静かに問いかけると、泣き腫らした顔の肇和と初雪が、こくりと小さく頷いた。
「今回の件、まずは君たちの無事を喜びたい。逸仙の機転と、アトランタ、Z16の迅速な対応のおかげだ」
提督の言葉に、逸仙は静かに首を振る。
「わたくしは、秘書艦として当然のことをしたまでですわ。ですが……」
彼女の視線が、再び肇和と初雪を捉える。その瞳は、もはや怒りではなく、深い悲しみを湛えていた。
「なぜ、あのような危険なものが、こんな内陸の河川に出現したのか……。今のところ、その原因は全くの謎だ。鎮守府のレーダーにも、海上保安庁の警戒網にも、何の兆候もなかった。当面、鎮守府として空母部隊の偵察機を投入し、この一帯の河川と市街地の上空監視を強化することを決定する」
提督が告げる公式見解に、少女たちは真剣な表情で耳を傾ける。しかし、誰も知らない。今回の異常事態の引き金が、他ならぬ肇和と初雪の無許可の同調反応であったことなど。彼女たちが放った微弱なエネルギー信号が、潜伏していた斥候型の深海棲艦を呼び寄せてしまったという真実を、この場の誰もが知る由もなかった。
「……せっかくの、みんなでのお出かけだったのに、ごめんなさい」
五月雨が、しゅんとして謝る。
「ううん、さみのせいじゃないよ。……でも、本当に、めちゃくちゃになっちゃったね」
村雨がため息をつく。楽しいはずだった休日は、期せずして悪夢のような戦闘と、涙の再会で幕を閉じることになった。
「今日のところは、全員直ちに鎮守府へ帰投する。……この埋め合わせは、また日を改めて、必ず」
提督がそう締めくくると、全員が静かに頷いた。その時、提督のスマートフォンに、アトランタから短い報告が入った。「対象二隻、完全撃沈。これより帰投する、にゃ」。短いながらも頼もしいその報告に、ようやく、全員の心に本当の安堵が訪れた。
「よし。帰ろう、俺たちの鎮守府へ」
提督の言葉に、少女たちは力強く頷いた。
***
数日後、鎮守府の工廠は、普段の活気とは少し違う、ピリピリとした空気に包まれていた。その中心には、二人の少女が直立不動の姿勢で立たされている。
「——で?あなたたちは、この精密機器がただのゲームのブースターか何かだと思っていたんですか~?」
腕を組み、心底呆れ果てた顔で二人を睨めつけているのは、工廠長の明石だった。若いながら工廠長でもある彼女の気迫は単なる艦娘としてではなく、一技師・責任者としての怒りが灯っている。彼女の背後には、同じように厳しい顔つきの技術者たちが何人も控えている。
「コアユニットは艦娘の命そのものだ。それを許可なく持ち出して、挙げ句の果てに私用で同調?一歩間違えば、副作用で廃人になってた可能性だってあるんだぞ!分かってるのか!」
「……はい。申し訳、ありませんでした……」
肇和も初雪も、うなだれたまま、か細い声で謝ることしかできなかった。自分たちの命だけでなく、この工廠で働く人々の心血が注がれた装備を軽んじたことへの罪悪感が、重くのしかかっていた。
さらにその翌日、二人は提督室に呼び出された。
「今回の件、君たちの無断でのコアユニット持ち出しと使用は、服務規程に対する重大な違反行為だ。よって、本日より一週間、君たち二人の演習、任務、および単独での出撃を一切禁ずる」
提督が下した処分に、二人は静かに「はい」と答える。当初、提督は最低でも一ヶ月の謹慎を考えていた。しかし、逸仙が「二人とも、今回の件で命の重さと仲間の大切さを、誰よりも痛感したはずです。罰よりも、反省し、次に活かすための時間を与えてあげてはいただけませんでしょうか」と、そっと口添えしてくれたことで、処分は大幅に軽減されたのだった。
それから数日。鎮守府の本館にあるラウンジの窓際で、二人の少女が、肘をつきながらぼんやりと外を眺めていた。仲間たちが訓練や任務で海へと駆けていくのを、ただ見送ることしかできない。
「……暇だなぁ」
「……うん、暇だね」
ぽつり、ぽつりと交わされる言葉には、いつもの元気は全くなかった。退屈そうに見えるその横顔には、しかし、以前にはなかった深い反省の色が、確かに刻まれているのだった。
※SeaArtのAI小説創作ツールと、Gemini CLIの小説創作で展開を肉付けしています。
※世界観やキャラクター設定は、自作小説の世界観のもと手動で考案したものです。
※公式や他の方の設定とは異なる場合がございます。ご了承ください。