※艦これ×戦艦少女Rのクロスオーバー作品です。
※自作小説の世界観で展開しているため、一部キャラの設定が公式や他の作品と異なることがございます。
本編
鎮守府Aに新設されたN部署のオフィスは、まだペンキの匂いが新しく、備品も真新しい輝きを放っていた。窓から差し込む陽光が、埃一つない床を照らし、壁にかけられた世界地図だけが、この部署の国際的な性格を静かに物語っている。そんなオフィスに、駆逐艦「吹雪」を中心とした初期メンバーたちの、まだどこかぎこちない、しかし活気に満ちた声が響いていた。
「皆さん、おはようございます! 今日も一日、笑顔の魔法を振るって、活躍を目指して頑張りましょう!」
吹雪は、まるで魔法少女のように大げさな身振り手振りで挨拶をする。そのキラキラとした笑顔と芝居がかった口調は、彼女が自らに課した「頼れる先輩」の理想像だった。N部署の初期艦に選ばれた責任感と、海外から来た後輩たちを導かねばという気負いが、彼女をそうさせていた。
「グーテンモルゲン、フブキ。今日もよろしく」
ドイツ出身のZ16は、少し背伸びをして大人びた口調で応じるが、その口元から覗く八重歯が隠しきれない子供っぽさを醸し出す。
「グッモーニン、フブキ! わたしも、がんばりゅ!」
アメリカ出身のギアリングは、元気いっぱいに手を挙げる。舌足らずな日本語が、彼女の純粋な意気込みを伝えていた。
「…おはようございます、フブキお姉さま。今日の風は、東からの聖なる息吹を感じます…」
イギリス出身のグローウォームは、窓の外をうっとりと眺めながら、独自のファンタジー世界に浸っている。
(…よし、今日もみんな元気そうで何より。私が、この個性豊かなメンバーをしっかりまとめないと!)
吹雪は内心で拳を握りしめた。しかし、彼女たちの日本での生活は、吹雪の理想通りには進んでいないようだった。文化や習慣の違いからくる、小さくて微笑ましい失敗談が、ここのところ鎮守府のあちこちで囁かれていた。
例えばZ16は、「大人の女性はブラックコーヒーを嗜むもの」という謎の知識をどこからか仕入れ、執務室で初めてブラックコーヒーに挑戦した。一口飲んだ瞬間、彼女の顔は見たこともないほど歪み、「にっ…が…!こんなの毒よ、毒!」と叫びながら給湯室に駆け込み、砂糖とミルクを山のように投入してようやく飲み干したという。その一部始終を見ていた高雄は、後で「あんなに分かりやすく顔に出るなんて、まだまだお子様ね」と微笑ましそうに語っていた。
ギアリングは、鎮守府の庭で迷子の子猫を見つけ、「大丈夫、私がセーフハウスに連れて行ってあげる!」と追いかけ回した結果、自分が鎮守府の広大な敷地内で完全に迷子になってしまった。最終的に、非番のため鎮守府のグラウンドで走り込みをしていた空母のC赤城に、泣きべそをかきながら保護された。
そしてグローウォームは、日本の自動販売機に興味津々だった。20xx年代ではすっかり珍しくなった硬貨を入れれば飲み物が出てくる仕組みが、彼女にはどうしても「古代文明のからくり」に見えたらしい。ある日、彼女は、自動販売機に向かって「開け、ゴマ! 我が魔力に応え、聖なる霊水を我に与えたまえ!」と真剣な顔で呪文を唱え続けた。その不思議な光景は、偶然通りかかった明石によって一部始終が録画され、工廠のスタッフたちの間で伝説となっている。
そんな彼女たちを、吹雪は温かくも心配な目で見守っていた。艦娘としての任務は皆真面目に取り組んでいる。しかし、一歩鎮守府の外に出れば、あるいはプライベートな時間では、まだまだ不安なことばかりだろう。
(私が、もっと力になってあげないと。戦いのことだけじゃなくて、日本での生活も、楽しく過ごせるように…!)
その強い思いを胸に、吹雪は提督の執務室のドアをノックした。
「失礼します、提督! N部署の吹雪、ご相談したいことがあって参りました!」
「おう、吹雪か。どうした?」
西脇提督は、デスクに山積みの書類から顔を上げた。吹雪は背筋を伸ばし、練習してきた通りの、ハキハキとした口調で切り出した。
「はい! 我が隊の新しい仲間たちが、一日も早くこの地に馴染めるよう、私に何かお手伝いできることはないかと思いまして! 彼女たちの笑顔の魔法は、我が鎮守府の勝利の光となるのです!」
提督は内心で吹雪のコミカルな仕草に苦笑しつつも、彼女の真剣な瞳を見て、真面目に耳を傾けることにした。吹雪の言葉は回りくどかったが、要約すれば「海外から来た三人が心配だから、もっと仲良くなれるように何か企画したい」ということらしかった。
「なるほどな。いい心がけだ。」
提督のそばにはその日の秘書艦である五月雨と妙高がいる。二人もうんうんと頷きながら、親身になって聞いてくれる。
「なるほど、吹雪ちゃんの言う通りですね。慣れない土地での生活は、きっと心細いと思います」
五月雨が深く同意する。
「ええ。でしたら、日本の文化に親しんでもらうのが一番じゃありませんか? あまり肩肘張らずに楽しめる……例えば、日本のお茶と和菓子をいただいたり…」
妙高も、優しく目を細めて口にした。
「あ! あとは、みんなでカラオケに行くのどうですか?流行りの歌を歌えば打ち解けますよきっと。」
「まあ、素敵ね!他にも……」
次々と出てくるアイデアに、吹雪の目は輝いた。
「ありがとうございます、五月雨さん、妙高さん! さすがはC部署の秘書艦、素晴らしいアイデアです! この吹雪、お二人の補助魔法を受けて、早速実行に移してみせます!」
希望に満ち溢れ、吹雪は意気揚々と執務室を後にした。その背中を見送りながら、提督はぽつりと呟いた。
「…まあ、やる気があるのはいいことなんだが…あの調子で大丈夫なのかねぇ…」
五月雨と妙高は、顔を見合わせて苦笑するだけだった。
***
吹雪の「日本文化に親しむ大作戦」は、しかし、初日から暗礁に乗り上げた。
最初の挑戦は、五月雨のアイデアだった「カラオケ」だ。吹雪は鎮守府近くのカラオケボックスにZ16たちを連れて行くと、満面の笑みでマイクを握った。
「さあ、皆さん! ここは歌という魔法で、心を一つにする聖なる儀式の場! まずは私がお手本をお見せします! 聞いてください、『勝利のファンファーレ』!」
吹雪が選んだのは、人気アニメの主題歌だった。完璧な振り付けと共に熱唱する吹雪。しかし、Z16、ギアリング、グローウォームの三人は、薄暗い部屋で激しく明滅するサイケデリックな照明と、大音量で流れる理解できない日本語の歌に、ただただ目を白黒させるばかりだった。
「……フブキ、これは…少し私には強すぎる衝撃よ…?」
「耳が…耳が…自由の女神しゃま、助けて……」
「…闇の眷属を呼び出す儀式…なのでしょうか…?」
三者三様の困惑した呟きは、熱唱する吹雪の耳には届かなかった。
その後、吹雪は「さあ、次はZ16さんの番です! さあ、歌の翼を広げて!」とZ16にマイクを渡したが、Z16は「わ、私、こういうのはちょっと…」と顔を真っ赤にして固まってしまった。
ギアリングは日本の童謡を歌ってみたものの、サビ以外はうろ覚えで、すぐに気まずい沈黙が流れた。
グローウォームに至っては、マイクを杖のように構え、「いでよ、音の精霊たち!」と叫んだまま、歌う気配がなかった。
外へ出ると、港からの湿った風が4人の頬を撫でる。さっきまでの色と音が、耳の奥でようやく薄まっていく。結果、親睦会は吹雪のワンマンショーと化し、気まずい空気のまま解散となった。
次の挑戦は「茶道体験」。今度は妙高のアイデアだ。鎮守府内にある和室を借り、吹雪はどこからか借りてきた着物を慣れない手つきで着付け、三人を出迎えた。
「ようこそ…ここは、静寂と侘び寂びの精神宇宙…。一杯のお茶に、宇宙の真理を見出すのです…」
そう言って、ぎこちない手つきで茶を点てる吹雪。しかし、正座に慣れない三人は、開始五分で足の痺れに悲鳴を上げた。Z16は「足が!足が折れるわ!」と半泣きになり、ギアリングは痺れをごまかそうと身体を揺すった結果、目の前の和菓子をお茶の中に落としてしまった。グローウォームは、茶筅の動きを真剣な顔で見つめ、「…魔力を練るための、高度な攪拌魔法のようです」と一人納得していた。
そして、出された抹茶を一口飲んだZ16とギアリングは、その強烈な苦さに「「ぶふぉっ!?」」と盛大に噴き出した。吹雪が点てたお茶は2人の口から噴出して残りの二人の顔面にかかり、白い顔を緑色に染め上げた。茶道体験は、もはや阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
実のところ、妙高から提案されていたのはお茶と和菓子をみんなで食べてみてはというだけで、何も本気で茶道ばりにお茶会をしろというわけではないのだった。
「うーん。次はうまくやるより、笑い合って楽しむことを目標にしてみましょうか?」
妙高に報告しに行った吹雪はアドバイスを得たが、いまいち理解ができなかった。
失敗は続く。
ダンス会場に行って踊って心を一つにしようと試みた。しかしギアリングが60年代アメリカのレトロなダンス、Z16がドイツの伝統的なステップ、グローウォームがファンタジー映画に出てきたコミカルなダンスをあっさりと披露する。むしろ吹雪が一番ダンスできずに醜態をさらした。
さらに日本のボードゲームで遊ぼうとすれば、ルールが複雑すぎて誰も理解できず、結局グローウォームがコマを並べて魔法陣を作り始める始末。
いずれも、普段の吹雪の趣味ではない内容を勧め続けていた。
何をしても、空回る。良かれと思ってやることが、ことごとく裏目に出る。吹雪の心は、日に日に曇っていった。
***
その夜、吹雪は一人、N部署のオフィスで頭を抱えていた。机の上には、失敗に終わった企画の数々が記されたノートが広げられている。
どれも企画としては問題なかったはず。C部署の五月雨や妙高にもらったアドバイスどおりにした。彼女らにその後伝えたら、言葉を濁して苦笑されるだけだった。
吹雪は企画書が散乱した机に頭を突っ伏した。
壁の時計の針は、とうに深夜を指している。静まり返ったオフィスに、彼女の小さなため息だけが響いた。その時だった。
「…まだ残ってたのか、吹雪」
背後からかけられた声に、吹雪はびくりと肩を震わせた。振り返ると、そこには2つのマグカップを手にして、呆れたような顔をした提督が立っていた。
「あ、提督さん!いえ、その……少し、考え事をしていただけでして……」
吹雪は慌てて笑顔を作ろうとするが、疲労の色は隠せない。
「考え事?しかし、随分と深刻な顔をしているようだが」
提督はマグカップの一つを吹雪の近くに置くと、彼女の机の上の書類に目をやった。
「い、いえ、そんなことはございません!私は、いつでもポジティブシンキング!明日になれば、きっと解決策が見つかりますよ!魔法の力で、ね!」
吹雪は、いつもの「魔法少女」のキャラクターを演じようとするが、その声は心なしか震えていた。 提督は静かに吹雪の前に座ると、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「もういいよ、それ」
提督の静かだが、有無を言わせぬ声が、吹雪の言葉を遮った。
「え…?」
「その芝居がかった喋り方、もういいって言ったんだ。疲れるだろ、お互い」
提督はそう言うと、近くの椅子を引き寄せ、どかりと腰を下ろした。吹雪は、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と提督を見つめる。
全身の血が、さっと引いていくのが分かった。隠してきた素顔を、一番見られたくない相手に見抜かれていた。その羞恥と衝撃に、吹雪は言葉を失う。
「なあ、吹雪。お前、なんであいつらと上手くいかないか、本気で分かんないのか?」
提督は、机の上のノートを一瞥してから、まっすぐに吹雪の目を見た。その真剣な眼差しから、吹雪は逃れることができない。
「そ、それは…私の導きの魔法が…未熟で…」
「違う」
提督は、吹雪の言葉を再び、今度はさらに強く否定した。
「お前が、『吹雪』じゃなくて、どっかの『魔法少女フブキちゃん』で接してるからだ。分かるか? あいつらは、お前のこと知りたいんだよ。お前が作った、よく分かんないキャラクターのことじゃなくて」
的を射る、というより、心のど真ん中を撃ち抜くような言葉だった。強固な鎧だと思っていた「魔法少女」のペルソナが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
「…だって…」
気づけば、吹雪の口からは、いつもの芝居がかった声ではない、か細く、震えた地声が漏れていた。
「…だって、私…ただの、吹雪だから…。何の取り柄もない…普通だから…。そんな私が、初期艦なんて大役…海外から来たすごい子たちの先輩なんて…務まるわけないって…思ったから…」
堰を切ったように、本音が溢れ出す。それは、ずっと心の奥底に押し込めていた、弱くて、情けない、素顔の自分の言葉だった。
「だから、すごい先輩や面白い"吹雪"を演じなきゃって…。ちゃんとしなきゃって…。でも、何をやってもダメで…カラオケはうるさいって言われるし、お茶はおいしくないって…顔にかけられるし…」
声は震え、瞳には薄く涙の膜が張っていた。演技ではない、素の平凡で素朴な口調が、そこにはあった。 提督は、何も言わずにその言葉を聞いていた。そして、吹雪がひとしきり泣きじゃくって、しゃくりあげるだけになった頃、静かに口を開いた。
「そっか。大変だったな」
その声は、驚くほど優しかった。
「まず、お茶を顔にかけられたのは普通に災難だったな。Z16とギアリングも悪気があったわけじゃないだろ。日本の抹茶が、あいつらの口に合わなかっただけだ。お前は何も悪くない」
提督は、吹雪が素の口調に戻ったことに安堵しながら、一つ一つ丁寧に言葉を紡いでいく。ようやく、彼も本質的なアドバイスができるようになったのだ。
「あと、カラオケ。いきなり知らんアニソン熱唱されても、意味も分からなきゃポルターガイストだ。俺だって興味ないアニソン強制的に聞かされたってうんざりするよ。まずは、あいつらが知ってそうな、洋楽とかから入ってみたらどうだ? ギアリングがアメリカのポップス好きだって言ってたぞ。」
「…え」
「Z16は、クラシックとか聴くらしい。意外だろ? グローウォームは…まあ、ファンタジー系の映画音楽とかなら食いつくんじゃないか? 共通の話題なんて、探せばいくらでもあるんだよ」
吹雪は、しゃくりあげながらも、ぽかんと提督の顔を見た。そんなこと、考えもしなかった。自分の「好き」を押し付けることしか、頭になかったのだ。
「お前が演じるのをやめれば、あいつらもお前のことをもっと知りたくなるはずだ。無理して『すごい先輩』になろうとしなくていい。お前はただの『吹雪』でいいんだ。格好悪くたっていいから三人のこと自体を教えてもらえよ。あいつらの『友達』であれば、それでいいんだよ」
提督はそう言うと、ぽん、と吹雪の頭に優しく手を置いた。その大きな手の温かさに、吹雪はまた、涙が溢れそうになるのを必死でこらえた。
***
数日後の昼休み。吹雪は、Z16、ギアリング、グローウォームの三人をラウンジに呼び出していた。三人は、また何か突拍子もない企画が始まるのではないかと、少しだけ身構えている。
深呼吸を一つして、吹雪は三人の前に立つと、深く、深く頭を下げた。
「…ごめんなさい」
その、今まで聞いたことのない、静かで、素朴な声。三人は、きょとんとして顔を見合わせる。
「今まで、ごめん。私…みんなと仲良くなりたくて、でも、どうしたらいいか分からなくて…変なキャラ、演じちゃってた。本当の私、あんなんじゃないんだ。ただの、普通の子で…だから、みんなをいっぱい、混乱させちゃったと思う。本当に、ごめんなさい」
拙いけれど、心の底からの言葉だった。日本語が完璧には分からない三人にも、その言葉に込められた誠実な響きは、はっきりと伝わった。彼女がずっと、何か無理をしていたことも、本当は感じ取っていたのだ。
三人が顔を見合わせる。
最初にZ16が、ふっと息を吐いて、悪戯っぽく笑った。
「なーんだ。それが本当のフブキになのね。別に、怒ってなんかないわよ。むしろ、そっちの喋り方のほうが、ずっと理解しやすい日本語よ。」
「そうだよ、フブキ! わたし、今のフブキのほうが、好き!」
ギアリングが、ぱあっと顔を輝かせる。グローウォームも、こくりと頷いた。
「…はい。以前のフブキお姉さまは、いつも仮面をつけた魔法使いのようでした。今のあなたは…素顔の、優しいエルフのようです」
「ありがとう、グローウォームさん…。あの、それと…」
吹雪は少し照れながら、しかし勇気を出して続けた。
「もう、『お姉さま』じゃなくていいから…。その、『吹雪ちゃん』って呼んでくれると…嬉しいな」
もっと、近くになりたい。その想いを込めて伝えると、グローウォームは真剣な顔でこくりと頷き、厳かに宣言した。
「…『フブキチャン』…。風の精霊の、愛らしい真名ですね。承知いたしました」
「え…あ、うん…」
予想の斜め上をいく解釈に一瞬戸惑ったが、すぐに温かい気持ちが胸に広がった。吹雪は、三人の温かい言葉に、今度こそ堪えきれずに目頭を熱くした。
「みんな…本当に、ありがとう…」
涙声で礼を言う吹雪に、Z16がからかうように言う。
「まあ、でもあそこの不思議ちゃんは本物だから、張り合っても無駄だと思うけどね」
Z16が親指でクイッとグローウォームを指す。グローウォームは首をこてんと傾げた。
「…? フブキちゃんは、私と同じ、光の魔法の使い手ではないのですか?」
その言葉に、Z16とギアリングが顔を見合わせて吹き出し、吹雪もつられて、涙の滲んだ顔でくすりと笑った。本当に敵わない。でも、それでいいのだと思えた。
吹雪は涙をぐいと拭うと、顔を上げて、今度こそ、心からの笑顔で言った。
「あのね! もしよかったら、なんだけど…今度の週末、みんなで街に遊びに行かない? 私が、日本の面白いところ、たくさん案内するから! …今度こそ、ちゃんと!」
「賛成!」
「悪くないわね」
***
その週末。小さな商店街を歩く四人の影が、舗道の上に四つ並んでいた。
商店街の一角にあるアイスクリーム屋の前を通りかかった時、冷菓の冷たく甘い匂いに誘われたギアリングの目がきらきらしていた。抹茶を吹き出したZ16とギアリングには、抹茶ソフトを勧めた。
ギアリングは抹茶ソフトをしかめっ面で“ひと舐め”。しかしその表情はすぐに氷解する。
親指をぐっと立てた。
「これは……OK!」
「えぇ、私もこの抹茶ソフト、いいと思うわ。」Z16は上唇をぺろりと舐めてわざとらしく目を細めて素直な評価をくちにした。
2人はどうやら抹茶を受け入れられたようだった。
次に自販機の前。
「いい?このお金を挿れて買うんだよ。」吹雪がグローウォームに優しく教える。
「えぇ、もう心得てます。この鋼の供物を捧げるのですね。」
言い回しに不安を覚えた吹雪だがそっと見守ることにした。グローウォームは硬貨を手に取り自販機に投入した。彼女はもう呪文を口にしていない。紅茶のラベルのボタンが押されて冷たいペットボトルが落ちた。呪文の代わりにチャリンという硬貨の音が日常になった。
もう趣味や楽しみ方を強要しない。それぞれの行きたい場所を聞き、散歩する足取りは自然と向かう場所を定める。Z16は本屋の文庫棚の背表紙を几帳面に読み上げ、気に入った日本の書籍を購入した。
夕方、港の方へ抜ける風が少し強くなり、前髪が揺れた。吹雪は立ち止まって、三人を振り返る。
「ね、帰りに海、見ていこう」
波の音は、どこまでも同じで、どこか少しずつ違った。遠くからは、基地のサイレンが微かに届く。並んで立つ四つの影は、もう、昨日までの四つの影と同じではない。
「フブキ」
「なに?」
「わたしたち、いいチームになりゅよ。」
ギアリングの舌足らずな言い方に、Z16が肩をすくめ、グローウォームが頷く。
「……あとは、日々の小さなしきたりを重ねるだけ」
吹雪は「うん」と答えた。胸の奥で、何かがちゃんと“自分の声”で鳴っていた。完璧な笑顔ではない、でも、確かな笑顔がそこにあった。
――“ただの吹雪”で、十分だ。
そう思える日が来るなんて、少し前の自分は想像もしなかっただろう。けれど、今はもう、演じる必要はない。小さな失敗を笑い合って、同じ景色の中に四人分の居場所を作っていけばいい。きっと、それで十分だ。今後姉妹が着任した時もうまくやれる気がする。吹雪はそう実感を得た。
帰り道、商店街の端のベンチで少しだけ腰を下ろす。吹雪はカバンからこぶし大の大きさの薄いキャンディを取り出した。透明な包みの中で、光が小さく跳ねる。
「これ、お揃いの今日の“記念”。このキャンディには言い伝えがあって。砕いて仲の良い友達同士で分け合えば、永遠に仲良くいつづけられるんだって。」
「ワオ!素敵じゃないの!」とZ16。
「みんなでお揃いの甘いもの!」
「……甘味の魔法。言い伝えもとても幻想的です。謹んで受け取ります。」
4人はこぶし大のキャンディを一斉に叩いて割った。大小それぞれの欠片になったキャンディの包みを破った瞬間、甘い香りがに乗ってあたりを漂う。四つの小さな笑い声は、風に運ばれて遠くにほどけていった。
「これで私達は、ただの艦娘仲間じゃない。」
「えぇ、友達ね。」
「うん。あたしたち友達!」
「友情の魔法が私達を祝福するんですね。はい。」
夕焼けに照らされながら4人が口にしたキャンディの欠片は、昨日の4人の距離の形をしていたが、彼女らの口の中で同時に溶けていった。
その夜、吹雪は日誌に簡単なメモを書いた。
――街案内、成功。今度こそ、ちゃんと。明日は、皆で地図を囲んで、次の“どこ”を決める。
ペン先が止まり、ふと天井を見る。どこかで風鈴が鳴ったような気がした。吹雪は小さく笑って、明かりを落とした。
おやすみなさい、魔法少女フブキ。明日は"ただの吹雪"にとって、良い一日でありますように。
※SeaArtのAI小説創作ツールがベースです。(世界観設定・あらすじ・キャラ設定・最終的な肉付けは自身で考えたものです)
人物・関係設定はこちらです。
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