鎮守府Aの物語 - 短編集   作:lumis

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話題の映画を見た駆逐艦たちから拡大する、鎮守府のちょっとした騒動。

※艦これ×戦艦少女Rのクロスオーバー作品です。
※自作小説の世界観で展開しているため、一部キャラの設定が公式や他の作品と異なることがございます。


探れ!鎮守府の異変
本編


鎮守府の会議室はその日、珍しく静まり返っていた。艦娘たちの会議ではない。映画を見ているのだ。設置された大型スクリーンに映し出されるのは、どんよりと曇った空と、どこにでもありそうな郊外の住宅街。普段は賑やかな駆逐艦の少女たちが、今は固唾を飲んで画面を見つめている。

 

「うわあ……」

五月雨が小さく声を漏らした。

 

「ねえ、これって?」

 

時雨が尋ねたのは、駆逐艦たちに混じって座って映画を見ている空母の女性、レキシントン(CV-16)だ。

 

「しっ。黙って見ていなさい。」

 映画を見る彼女の目はいつだって真剣だ。

 

 スクリーンの中では、主人公の少年が自宅の壁に、昨日までなかったはずの小さな染みを見つけていた。

 

 

「この『FILE-08』って映画、日常に潜む些細な異変を見つけ出すと、怪異に遭遇するっていう……」

「なんか、じっとりしてるっぽい……」

 

夕立がポップコーンを口に運ぶのも忘れ、画面に釘付けになっている。物語は、主人公が次々と「異変」を発見していく様子を淡々と、しかし不気味に描き出していく。蛇口から落ちる水の速さが昨日と違う。いつもは閉じているはずの隣家のカーテンが開いている。そんな、言われなければ気づかないような些細な変化。それらが積み重なったとき、少年は得体の知れない何かに引きずり込まれていくのだ。

 

 スクリーンには終幕の文字が表示され、真っ黒になった。会議室の照明が点くと、レキシントンはふぅ、と一息ついた後、駆逐艦たちに尋ねた。

 

「どうでしたか、皆さん。」

すると駆逐艦たちは堰を切ったように話し始めた。

 

「うぅ……単なる不思議な映画だっていうから見てみたら意外と怖いじゃないの。スリリングどころじゃなかったわ。」

普段はませていて強がりなZ16は、顔が青ざめているのを隠せないでいた。

 

「わたし、ドキドキした! 最後の異変がああなってるのすごく面白かったよ!」

ギアリングは目をキラキラさせ、興奮冷めやらぬといった様子だ。

 

「いやー、怖かったけど面白かったー!」

「あたし、ああいう間違い探しみたいなの、結構好きっぽい!」

「でも、あんなの気づかないわよね、普通」

「そうかな? 私は案外、得意かもしれないわ。ね、さみ?」

 

村雨が自信ありげに五月雨に微笑みかける。映画の恐怖はすっかりどこかへ消え、彼女たちの心は「異変を見つける」という行為そのものにすっかり魅了されていた。

 

「あのさあ、あの映画みたいに、うちの鎮守府にも何か隠された異変があるんじゃないっぽ?」

夕立が、長い金髪を揺らしながら、いつもの「っぽい」を抑えて真剣な表情で言う。

 

「ゆうはまたすぐそういうこと考えるんだから……ん?今"っぽ"って。それ異変?」

「えへへ~時雨気づいてくれたぁ~!」

時雨が友人のいつもの口癖が途切れたことに気づいて指摘すると、夕立は満面の笑みを向けた。

 

そのやり取りを見ていた周りの駆逐艦たちは「異変探し」という関心のスイッチが入った。

 

「面白そうですね。」と不知火。短い反応ながら何かを敏感に感じ取ったようだった。

 

「あたしも! 明日から鎮守府の異変、探しちゃうぜ!」

「いいね! 一番に見つけた人が勝ち!」

駆逐艦たちに混ざっていた肇和が叫ぶと初雪がそれにノッた。

 

夕立の言葉を皮切りに、初雪や肇和、ギアリングといった、いたずら好きの面々が目を輝かせて賛同した。その場のノリは、まるで新しい遊びを見つけた子供たちのようだった。この時、鎮守府に巻き起こるちょっとした騒動の始まりを、まだ誰も知らなかった。

 

***

 

 数日後、鎮守府内では奇妙な光景が繰り広げられていた。

 廊下の隅を覗き込む駆逐艦たち。備品倉庫の棚をじっと見つめる軽巡洋艦。果ては、自室の壁の木目を真剣な表情でなぞる戦艦の姿まで。映画『FILE-08』に端を発した異変探しブームは、瞬く間に鎮守府全体へと広がっていたのだ。

 

 ドイツの戦艦ビスマルクとティルピッツも、駆逐艦たちに遅ればせながら映画をCV-16からブルーレイディスクを借りて視聴したのだ。

 

「異変探しか。これは観察力や分析力を養う練習にも使えるな。これは組織的な調査演習としてアドミラルに提案すべきだな。おい俺達も行くぞ、ティルピッツ。」

 

自室でゲームに興じていたティルピッツが、モニターから顔を上げた。

「え、そんな大事にするの? 面倒くさいじゃん」

「馬鹿者。こういうのは形から入るのが面白いんだろうが。それに、どうせなら成果を報告して、提督から報酬を引き出すまでがセットだ」

「……なるほど。ねえちゃんもたまには良いこと言うじゃん」

 

ティルピッツの目がキラリと光る。あくまでも映画の原作がゲームなので、ゲームつながりで興味を膨らませていた。

 

 一方で楽しそうな子どもたちの光景を見ていた高校生なサラトガは、自分も混ざらねば!という使命感に燃えていた。天性のいたずら好きが高じて同じいたずら好き仲間として肇和や初雪たちに合流する気満々なのだ。

 

「おー!サラの姉御!」

「サラトガさん!」

 肇和と初雪がぱぁっと表情をひときわ明るくする。鎮守府いたずらっ娘の親分(姉御)の登場なのだ。軽巡・駆逐艦コンビに誘われるように、サラトガという航空母艦が加わった。

 

 こうして、その場のノリと勢いだけで「鎮守府異変調査艦隊」が結成された。艦隊はブームに乗っかった有象無象の艦娘たち。彼女たちの、真剣で、それでいてどこか気の抜けた異変探しの毎日が始まった。

 

***

 

<味の薄い味噌汁>

 

 昼食を取りに食堂に来た五十鈴と長良・名取は同じ学校出身の友人として大体いつも一緒にいる。

 

「あら?この味噌汁、いつもとなんか……。」

味噌汁を一口含んだ五十鈴は、味の異変に気づいたのだ。ただ正直五十鈴は異変探しに大して興味がない冷静な艦娘の一つだ。この異変の発見もなんとなく触れただけなのだが、その口ぶりにブームにすっかりノっていた長良のレーダーにキャッチされた。

 

「おぉ!?五十鈴ちゃん早速異変発見?やったじゃん!」

長良が身を乗り出す光景に隣の名取は小さく笑って肩をすくめる。

「大げさだよ。調理担当の人が加減を間違えただけじゃない?」

「そうよ。別に、こんなの異変でもなんでもないでしょ。あんたガキどもに混じってなにはしゃいでるのよ。」

 

 冷静な五十鈴をよそに、長良の反応は周囲の駆逐艦たちを引き寄せてしまっていた。その馬鹿らしい光景を五十鈴と名取は呆れながら見ていた。

 

 実際、名取の想像その通りだった。ただ、そんな舞台裏は誰も知らない。

 

<床材が一箇所だけ色が違う>

 

 鎮守府本館の廊下の角で、ギアリングが床を這いつくばっている。たまたま通りかかった五月雨が心配そうに声をかけた。

 

「あの……ギアリングちゃん、何をしているんですか?」

「あ、サミダレ。実は、この廊下の床材の色が一カ所だけ微妙に違うの。これって異変かも」

 眉をハの字にして目を細めて集中していたギアリングが顔を上げて指を指す。その指差した先を見ると、確かにわずかな色の違いがある。

 

「あ、それは興味深い発見ですね~!」

 

「映画のまんまじゃないの!アドミラルに報告すべきかしら?」

 離れたところで別の床を見ていたZ16が真剣な表情で近寄り提案した。

 

「ちょっと待って!もう少し調べてからでも」

 ギアリングが警察犬のように鼻を廊下のあちこちに向けて匂いを嗅ぐように床を凝視している。(めくれるスカートは五月雨が丁寧に押さえていたが)

 

 ギアリング、五月雨、Z16。この妙な組み合わせの凸凹トリオの興奮と調査はとどまることを知らなかった。

 

 実際のところ、その床はただの修繕跡だった。色が微妙に違うのは、単に新品のタイルというだけであった。

 

<工廠裏の謎のヌメヌメ>

 

「姉さん、おれさまはこれこそ異変だと思うんだ!」

 

 中国から来たやんちゃな少女、肇和が、工廠の裏手の路地の隅を指差した。そこには妙に濃い茶色の液体が小さな水たまりを作っており、独特のヌメヌメとした質感と、虹色の膜が張っていた。

 

「あなたよくこんな誰もこなさそうなところに気づきましたわね。」

 

 應瑞が妹の肇和を褒めるでも諌めるでもない表現で言葉を返す。肇和の隣にはすっかりなついた初雪が小型の探照灯(つまり普通の懐中電灯)を当てて、いかにも不審そうに水たまりを睨みつけている。彼女らの後ろには、腕を組み監督官ばりに目配せをしているサラトガもいる。

 

「よし、触ってみようぜ!」

「ちょうわちゃんやっちゃえ!」

「いいわね、Go!」

 

肇和のノリに初雪とサラトガも同調して騒ぎ立てる。

 

「さすがにおやめなさい肇和!汚いじゃないの!!」

 

 明らかにただの水たまりではない液体に何の躊躇もなく手を突っ込もうとする肇和を應瑞が声を荒げて慌てて止めた。

 

 胸に手を当て一息ついた後、應瑞は一瞬だけ鋭い目つきをサラトガに向ける。

「サラトガさんもなんですか一緒になって!あなた高校生でしょ。きちんと肇和を諌めてくださいな。」

 

 子どもたちの保護者として付き添っていたはずのサラトガは、應瑞からの叱りに肩をすくめて苦笑するだけだ。こんな水たまりよりも、一緒になって騒いでる米空母のあなたこそ異変よ、と言いたかったが、さすがに話がブレそうだったので言葉を飲み込む應瑞だった。

 

 その謎の水たまりは、外で艤装の整備をしていた権じぃこと権田が、オイルをこぼしただけであった。

 

 

<真っ赤に染まる提督のマグカップ>

 

 駆逐艦たちの異変探しは執務室にも及んだ。

 

「大変です! 提督の愛用しているマグカップが、血のように真っ赤に染まっています!」

 

 たまたま提督が不在の執務室に、白雪の声が響いた。そばにはその日一緒に探検していた吹雪とグローウォームがいる。

 

「これは……血痕?まさか提督に何か!?」

吹雪が息を呑むと白雪は悲壮な表情を浮かべる。

 

グローウォームが恐る恐るマグカップに近づき、匂いを嗅ぐと一言呪文のような言葉を呟いた。

「これは……確かに指揮官様の香りの魔力の気配。しかし……これは赤き命の水というよりも、赤き果実の宝石の気配が。」

 

 グローウォームの表現は吹雪姉妹には無視されたが、的を射ていた。

 

 実は、提督は健康を考えてたまたまトマトジュースを飲んでいたのだった。マグカップを片付けずに離席した提督の落ち度である。

 

<倉庫前のちらつく明かり>

 

夜の廊下。吹雪と白雪が倉庫の扉の前で足を止めた。

 

「……ねえ、今、光ったよね?」

「うん……電気がついたり消えたりしてる……」

 

二人が息を呑むと、背後から深雪が駆けてくる。

「何かあったのか? お化けか!?」

 

倉庫の窓からは確かに淡い光がちらついている。まるで誰かが中で懐中電灯を振り回しているように。

 

「まさか、これも異変の一つじゃ……」

初雪まで青ざめた顔でつぶやいた。

 

その瞬間、バチッと音を立てて電灯が完全に消える。少女たちは「ひゃあっ!」と声を上げて一斉に飛び退いた。

 

翌日。工廠の技師が脚立を立てて電灯を交換していた。

「やれやれ、また寿命か……」

 

原因はただの切れかけた蛍光灯。だが彼女たちにとっては、まぎれもない"異変"だった。

 

 

<演習場の謎の的>

 

「演習場の的に、奇妙な紋様が描かれているのを発見したわ!」

「よし、Z16行くぞ。ドイツ海軍の練度を見せてやるぞ!」

 

 演習場で異変を発見したのは戦艦ビスマルクと駆逐艦Z16のドイツコンビだ。なお日中なのでティルピッツは面倒くさがって一緒に来てはいない。

 

 現場に急行すると、確かに射撃訓練用の的の一つに、なんとも気の抜ける猫または白い獣のイラストが描かれている。

「これは……深海軍の新たな暗号かもしれないな。」

 ビスマルクが真剣な顔で分析するが、どう見てもただの落書きだ。

 

 敵に向けるほどの真剣な眼差しをただの落書きに向ける間抜けな光景に背後から声がかかった。

「あの……訓練の邪魔なのだけれど!」

 

 声をかけたのは空母のC加賀だ。普段は勇ましくかっこいいビスマルクの姿は目にしているが、演習場の的を見ている彼女はひどく滑稽で馬鹿らしい姿をしている。

 

「あぁ、すまんカガ。しかしだな、これは重大な発見なのだ。だかr」

「いいから出ていって頂戴。今は空母の演習の時間ですよ!」

 

 場違いな艦がいることに他の空母たちが言い淀む中、C加賀の鋭い怒号が演習場にこだました。

 

 

 その真相は、前日の演習の合間、手持ち無沙汰になったティルピッツが、こっそり描いたもの。「我ながらうまく描けた」と一人満足気にしていたのは誰も知らない。

 

***

 

 

 こうした「なんちゃって異変」の報告が続くうち、大人たちの我慢は限界に達しつつあった。報告のたびに仕事の手を止めさせられ、挙句の果てには些細なミスを大げさに指摘される。はじめは微笑ましく見ていた高雄ら秘書艦たちも、日に日に眉間の皺を深くしていった。

 

「提督、このままでは業務に支障が出ます。あの子たちに少し灸を据える必要が…」

 高雄がこめかみを押さえながら進言する。

 

「あなた様。さすがの私もこれ以上は許容しかねます。我が中国艦は伝統と規律を重んじているのに、肇和は愚か應瑞までこの空気で腑抜けてきています。」

 

 普段は温厚な逸仙も、我慢の限界がきているようだった。

 

 しかし提督は「まあまあ、子供の遊びだ」と苦笑いするばかりだった。

 

***

 

 そして、ある夜。ついに「本物」の異変が発見された、と鎮守府中が大騒ぎになった。

 

「みんな集まって!今度こそ、本物よ!鎮守府最大の異変を発見したわ!」

 血相を変えて駆け込んできたのは村雨と五月雨だ。五月雨は呼吸を整えているがコクコクと頷いて同意を示している。

 

 異変調査艦隊の一同がなんだなんだと結集し始めた。

 

 村雨と五月雨が鎮守府の構内地図を広げて指し示したのは、工廠の最も奥まった場所にある、古びた倉庫だった。

 

 

「第8倉庫……」

「映画と…同じ数字ね。」

 

 誰もがゴクリとつばを飲み込んだ。

 

「Oh、これは行ってみるべきだね!!」とギアリングは目に星を浮かべて興奮がクライマックスな様子だ。

 

「あの倉庫、普段は固く閉ざされているはずなのに……」

「深夜、扉の隙間から、ぼんやりと光が漏れているのを見たんです!」

「しかも、中から何か……話し声のようなものも……」

 

 村雨と五月雨が報告の続きを口にすると、一度はさらに沸き立つ。

 

 時間は夜8時すぎ。鎮守府の庭は誰もおらず、皆自宅か寮に戻ってのんびりしている時間だ。工廠のメンバーも仕事が終わって誰もいないはずなのだ。

 

「行こう!もう行こう!あたしたちで本当の異変を突き止めるっぽい!」

「まってさすがにぼく達だけで工廠に忍び込むなんて真似はいけないよ。」

 勢いよく席を立った夕立の服を掴んで抑えて時雨が夕立に限らずまわりの皆を諌めるように言う。

 

「任せろ子どもたちよ。そんなときのために俺達がいる。」

「まぁ仕方ないですね。私も映画を見せた張本人ですし。」

 

 子どもたちの中でスクっと立ちあがったのは、ビスマルクとレキシントン(CV-16)だ。冷静を装っているがふたりとも子どもたち同様に興奮していた。内心抑えるのに必死である。

 

「俺は特にドイツの職業艦娘として登録されている身だ。お前たちの前に立ち、危険を防いでやる。」

 

 ビスマルクは言葉の最後に、「俺が消滅したら、後はよろしくな」と映画の大人のように背を向けてサムズアップして締めくくった。その仕草に、駆逐艦たちの盛り上がりは最高潮だ。レキシントンにいたっては映画のワンシーンを再現したビスマルクに対し、冷静さを装えずに感動のあまり涙を流している始末。

 

 つまり、この場に冷静なツッコミ役もまともな保護者も完全に不在だった。

 

***

 

 夜も更けた時刻、鎮守府本館から工廠に向けて黒い影が複数動いていた。先頭はひときわ背の高い影だ。

 

「あそこだな。お前たちが発見したのは。」

「えぇ、そうです!」

「はい!」

 

 ビスマルクが尋ねると、村雨と五月雨は強く頷いた。夜が怖いのかビスマルクの服を引っ張るように密着している。

 

 第7倉庫の影から一同が見つめるのは第8倉庫。錆びついた鉄の扉には、ペンキが剥げかかった「8」の数字が不気味に浮かび上がっている。誰も寄せ付けようとしない鋼の扉の隙間から、ぼんやりとした光が漏れている。

 

「間違いない…映画と同じパターンだね…」

 吹雪が確信に満ちた声で囁く。

「中で、怪しい儀式が行われているに違いないっぽい!」

 夕立の目が爛々と輝いている。

「きっと、深海棲艦を呼び出すための秘密の集会よ…! 私たちで暴いてやりましょう!」

 Z16が勇ましく拳を握るが、腰が引けてしまっている。

「…古の盟約が、今宵、この地で結ばれようとしています。扉の向こうから、濃密な魔力の匂いが…」

 グローウォームは、もはや完全に自分の世界に入り込んでいた。

 

「どうしましょう?」

 五月雨が仲間たちを見回す。ビスマルクとレキシントン(CV-16)に視線を送ると、大人二人が頷き返してきたので、決意を固めた。

 

「行きましょう。真実はまもなくです。」

 

 レキシントン(CV-16)の一言が彼女たちの足を動かした。

 

 ソロリソロリと足音立てずに近寄る一同の耳に話し声がだんだん明瞭に聞こえてくる。

 確かに、古びた鉄の扉の隙間から、ランタンの灯りのような頼りない光が漏れ、中からは何人かの話し声が微かに聞こえてくる。

 妄想は最高潮に達した。油と鉄の匂いが立ち込める中、扉の向こうには、きっとこの鎮守府を揺るがす、恐るべき秘密が隠されている。彼女たちは顔を見合わせ、大きく頷くと、代表して肇和と初雪が扉に手をかけた。

 

 ギィィィ…という、ホラー映画お決まりの不気味な音を立てて、重い鉄の扉が開く。

 一同は息を殺し、恐る恐る中を覗き込んだ。

 

「キャー!」 数人の駆逐艦たちが小さな悲鳴を上げた。

 

 倉庫の中は、普段は資材や予備の艤装パーツが保管されているはずの空間。そこには、信じられない光景が広がっていた。

 

 

***

 

 倉庫の中は、段ボール箱や古い機材が脇に寄せられ、中央にはブルーシートが敷かれていた。その上には、ビールの空き缶、日本酒の一升瓶、スナック菓子の袋や乾き物が散乱している。そして、その中心で車座になっていたのは、顔を赤らめた提督、権じぃ、そしてN部署の加賀や大人の面々だった。

 

「……いやー、権じぃの持ってきたこの酒、効くなあ!」

「だろ? で、提督、そのツマミはどこで手に入れたんだい? まさか逸仙のお手製かい?」

「はっはっは、これは鳳翔さんからのおすそ分けでして」

 提督と権じぃが杯を交わし合う。

 そのとなりでは別の酒の肴が交わし合わされている。

 

「……宮村1尉。その杯は何度目ですか」

 静かだが、有無を言わさぬC赤城の声が響く。本名で呼ぶその人、N加賀は杯を片手にひらひらと手を振った。

「おやおや、C赤城は相変わらず堅いのぅ。今宵は良い酒じゃぞ? わしはまだまだ飲めるのじゃ」

「まったく。ここは海上自衛隊ではないから言わせてもらいますが、あなたはですね……」

「あらあら、お二人とも。本当に仲が良いですわね。海自でもそのようなお調子?」

 鳳翔が微笑ましそうに二人を見て空いた皿を交換している。

 

「「「「…………え?」」」」

 

 異変調査艦隊の索敵はどうやら不完全だった。

 

「あ……アドミラル……?」 Z16が間の抜けた声を出す。

「なーんだ! みんなして、こんなとこで何してるっぽーい!……うっ、お酒くさ~い!」

 夕立が身を乗り出そうとするも、倉庫に漂うアルコール臭に思わず鼻をつまんで2~3歩下がる。

 

 提督は、手に持っていたお猪口を取り落としそうになるも素早い手つきで水平に保ち、普段より明らかにハイテンションで手を降った。

「き、君たち!や~よく来たねぇ!」

 

「げっ、ガキどもじゃねぇか。ここは立ち入り禁止だぞ!異変なんかねぇよ。」

 権じぃはすでに出来上がっている様子で、忌々しそうに顔をしかめた。

 

 鳳翔は大人の場に突然現れた駆逐艦ら子どもたちに、少し恥ずかしそうにしかし穏やかに微笑んで説明する。

「皆さん、夜分にごめんなさいね。提督や権田さん、普段なかなか会えない艦娘の皆さんを囲んで日頃の労をねぎらうための、ささやかな大人だけの集いなんです。」

 

 鳳翔の言葉が終わると、飲み会の会場と化している倉庫の景色には、霧がかかっているかのような言い表せぬ雰囲気が漂っているのが、異変調査艦隊の全員が感じられた。

 

「な…飲み会…?」

 夕立が、がっくりと肩を落として呟いた。

「ただの宴会じゃないの…」

 Z16は、怒る気力も失せたように、深いため息をついた。

 

「最大の異変がこれかよー!」「時間の無駄だったわね。」

 

「まぁ、ぼくたちに取っては異変と言えば異変だけど、さすがにがっかりだよ。」

 時雨は目の前で普段はしっかりしている大人たちが真っ赤な顔をしてだらけて飲んでいる姿を見て軽蔑の視線すら送っている。

 

 期待が大きかった分、落胆も大きい。少女たちは、目の前の超現実的な光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くす。あれだけ膨らませた恐怖と期待の風船が、一瞬で音を立ててしぼんでいく。

 

「ホラホラ。わしらのささやかな楽しみを邪魔するでない。子どもは寝る時間じゃ。さっさと解散せい、解散!」

N加賀が杯を持つ手とは別の手で駆逐艦たちをシッシッと払う。

 

「ビスマルクの嬢ちゃん、今日は遅かったじゃねぇか。いつものドイツの小話を聞かせてくれよ。」

 権じぃが完全に絡み酒になっている。

「あ、あれ?そういや以前誘われた気がしたが、こんなところでか!?」

 

「まぁ、今日は特別さ。食堂じゃ明日の皆の利用の準備で邪魔になるし、執務室じゃ固すぎる。で、権じぃと明石さんに相談したら、倉庫で飲むのもいいんじゃないかって。」

 

「もう! 人を期待させておいて!」

「がっかりだわ…」

「もう異変探しなんて、こりごりっぽい…」

 

 口々に文句を言いながら、少女たちはすごすごと踵を返す。鎮守府最大のミステリーの正体は、仕事終わりの大人たちがこっそり開いていた飲み会だったのだ。つまりは大人たちの夜の遊び場だった。

 そしてビスマルクは同じ酒飲みとして誘われていたことをすっかり失念していた。

 

「はいはい、異変調査艦隊、これにて解散! お疲れ様でしたー!」

 

 誰かがそう叫ぶと、皆蜘蛛の子を散らすように去っていった。扉が閉まる鈍い音そして少し滑りの良い音のセッションが背後から聞こえる。

 

***

 

 帰り道、同じ寮に帰るビスマルクとZ16、サラトガ、レキシントン(CV-16)は同じ道を歩いていた。

 

「レキちゃんの映画から始まった今回のイベント、楽しかったね!」

「イベントって言わないで。今回の騒動は私にも原因の一端があるので、さすがに反省してるんですよ。」

シュンとするレキシントン(CV-16)の頭をよしよしと撫でるサラトガ。

 

 

「ねぇビスマルクさん。あなた提督たちから飲みに誘われてたの?だったら早く言ってよぉ!」

Z16がビスマルクの脇をつつくと、ビスマルクはバツが悪そうに言った。

 

「いや、確かに誘われていたが、こんな事態につながるとは思ってもいなかった。それに、もらったメモ用紙にはこう書かれてるんだ。」

 

 ビスマルクは上着のポケットからメモ帳を取り出して見せた。

 メモ用紙を覗き込む3人。

 

"◯月✕日19時より、第7倉庫で鎮守府大人の夜会を開催します。奮ってご参加ください"

 

 全員が二度見したが見間違っていなかった。

 暑さが収まってきて涼しさも感じられる夜風のはずなのに、この瞬間4人には急に生暖かく感じられた。

 

 

 翌日。

 

 食堂では解散した異変調査艦隊の面々が思い思いにくつろいでいた。そこに提督が姿を現した。提督はキョロキョロと周囲のテーブルを見て誰かを探している。

 

「ねぇ提督。だれか探してるの?」と村雨。

「あぁうん。ビスマルクはいないかな?」

「ビスマルクさんでしたらあそこでドイツのZ駆逐艦のみんなに囲まれてますよ。」

 

 村雨といっしょにいた五月雨が示したテーブルにはZ駆逐艦の子たちに囲まれた銀髪の女性がいた。ビスマルクだ。

 

「おーいビスマルク。」

「ん?おぉアドミラルか。どうした?」

 談笑していたビスマルクが顔を上げて反応する。

 

「いや。この前渡したメモ帳の件さ。なんで昨日は来なかったんだ?俺達待ってたんだぞ。」

「えっ。いや、飲み会がああいう場だなんて知らなくて、流れで思わず子どもたちと帰ってしまってすまない。」

ビスマルクがあの場に残らなかったことに頭を下げると、提督は眉をひそめた。

 

「いや何言ってんだ。お前姿見せなかったじゃん。」

「え、いやだから済まないと謝っているじゃないか。子どもたちの手前だな。」

「子どもたち?あの夜お前も子どもたちも来なかったじゃん。俺と権じぃとN加賀さんは、第7倉庫でずっと待ってたんだぞ。」

 

 謝罪を見せたビスマルクだが提督の口ぶりに違和感を覚えさらに反論した。

「は?いやだって俺達はここやあそこにいる駆逐艦たちと第8倉庫で飲んでるアドミラルたちを目撃したじゃないか。そうか、まったく。アドミラルも人が悪い。倉庫番号間違えてたな。」

 

 全く話が噛み合わないその様子に、心配になって後ろからついてきた村雨と五月雨、そしてビスマルクの隣に座っていたZ16は、そのやり取りを聞いて違和感を覚えて表情を凍らせ始めた。

 

 その後の提督の言葉は決定的だった。

「うーん。なんか話が通じてないな。俺達が待っていたのは第7倉庫。なんだ第8倉庫って。そんなもんないぞ。」

「いやそんなはずは!?なぁムラサメ、サミダレ!?」

「私とさみは確かに第8倉庫の異変を……。」

「えっ、は、はい!」

 慌てて村雨と五月雨が頷く。

 すると提督は苦虫を噛み潰したような表情で頭をポリポリとかきながら口にした。

 

「2人は古参の艦娘だから知ってるはずだがな。工廠の倉庫は第7倉庫までしかないぞ。お前たちは何を見たんだよ一体。」

 

 提督が仕方なくスマートフォンから昨日の夜の自分の位置情報を見せると、そこは確かに第7倉庫に提督のアイコンが表示されていた。

 その証言と証拠に、その場にいた元異変調査艦隊の面々の顔がこわばった。

 

「な、何を……?」

「見たんでしょう……?」

「俺達が見たアドミラルたちとは……?」

 

 

「「「キャーーーー!!」」」

 

 食堂に複数人の悲鳴が合唱した。鎮守府に真の異変が追加されたとかされないとか。

 




※Geminiの小説創作がベースです。(世界観設定・あらすじ・キャラ設定・最終的な全執筆は自身で考えたものです)

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing
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