鎮守府Aの物語 - 短編集   作:lumis

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提督たちの思惑 ~ 鎮守府Aの事情

「司令、失敗しちゃいました。うまく誘えませんでしたよぅ・・・」

 とあたまをポリポリかきながら報告する比叡。

 

 

 執務室には提督と比叡、教育秘書艦の高雄、妙高がいた。

「そうか、ご苦労さま。さて、どうしたものか。」

「職業艦娘というだけあって確かに強いし現場での指揮能力もあるんですけど、いまいち飛び抜けた感じがありませんね・・・」と高雄。

 

 

 

 

「金剛が加わって確かにうちの全体の練度は上がった。戦力増強につながったのは確か。けど、それだけなんだよ。俺が期待したのは、もっとこう・・・なんというか。」

 期待の職業艦娘を迎え入れたのはいいが、自身の彼女への扱いも彼女自身の振る舞いも納得が行っていない様子の提督。

 

 

「提督のお気持ちわかります。彼女は仲間というか、戦いに来てるだけの人という感じなんですよね。軍人肌というわけでもなく。それに周りと深く接しようとしないというか・・・」

 と高雄は的確な指摘をした。それに対して相槌を打つ提督。

 

 

 提督の気持ちや考えを代弁するかのように妙高も続ける。

「提督が欲してるのは部下というよりも仲間でしたよね。組織においてはある程度の上下関係や役割は必要でしょうけど、艦娘制度の鎮守府は会社ではないし、ましてや本当の軍隊でもないので、あまりきっちりしすぎる上下関係はどうかと私も思います。それでも秘書艦を分業制にして私達を適切に割り振ってくださっている提督のお考え支持しています。でも鎮守府を転戦してきた彼女がうちのやり方を理解して受け入れるかどうかは・・・それに彼女にうちの和を乱されては他の子たちにも支障がでるかと。」と最後に不安を表す妙高。

 

 

 比叡は頭をかいて口をはさむ。

「あたし難しいことわからないんすけど、あたしは今までどおり金剛さんが心開いて仲良くなれるようにいろいろアタックすればいいんですよね?」

「あぁ、比叡の方は引き続き頼む。仲良い子たちを動員してもいいから。」

 

 

--- 鎮守府Aの事情

 

 比叡は執務室から出て行った。それを確認して提督は再び口を開いた。

「俺と五月雨が大本営から最初に教わった、精神の高揚による艤装の性能変化。それが何によって発揮できるか、そこまでは大本営は教えてくれなかった。だから俺なりに考えて今までこの鎮守府の運営方式にも絡めて皆と試してきたが・・・」

 

 

 歩きながら語り、机にもどって席に着く提督。

「俺がやりたかったのは、仲間同士、大切にする意識をみんなに持ってもらってどうにかできないかということなんだ。」

「仲間意識、だから提督は比叡さんに何度も金剛さんを誘って仲良くなってもらおうと?」と高雄。

「あぁ。けど2ヶ月経ってもこの状況だ。彼女は思うように振る舞えてない。」

 

 

 提督が説明を始める。

 彼は艤装の動的性能変化と言っている艤装の隠された機能。これを彼や艦娘ら最初に目の当たりにしたのは、五月雨と時雨たち白露型に着任した子たちだった。五月雨および時雨たち白露型の艦娘は、みな同じ学校出身の同級生である。(五月雨は初期艦として、その後五月雨が学校の友人や黒崎先生(のちの羽黒)に艦娘のことを話して艦娘部を発足させた経緯がある)

 

 

 その当時の状況は次のようなものであった。

 ある出撃任務中、時雨達が今まさに轟沈間近の危険状態に陥った。旗艦の五月雨が自身も中破して同調率が低下していたにもかかわらず、普段より出力の高い、高速の雷撃を放った。周囲にいた他の敵も爆散するほどの強烈な一撃だったが、五月雨はどうやったのか覚えていなかった。

 艦娘の砲雷撃のデータはすべて収集されているため、後で速度やどれくらいの頻度で消費されたのかがわかるようになっている。

 

 

「で、最初に実証できたのが・・・五月雨ちゃんだったということですよね。」と高雄。

教育秘書艦である二人は知らされていたことだが、確認しあう。

「あぁ。その後、他の艦娘たちでも同じように危機に陥った局面があったそうだが、同じような高出力はなかなかできなかった。それで俺は確信したんだ。生半可な仲間意識ではない、相当に強く相手を思う心と強い精神の高ぶりが合わさらないと動的性能変化は発揮できないんだと。」

 

 

 妙高がそれに続いて思い出すように話し始めた。

「その後私がこちらにお世話になって以降、その本当の力を発揮できたのは確か・・・」

 

 

「那珂、そして比叡だけだ。」

 両名とも底抜けに明るい性格で、交友関係が広かった。それでいてだれと分け隔てなく接する傾向があった。彼女らは同じ艦隊の艦娘たちをただの随伴艦やメンバーとしてではなく、常日頃大切に思う気持ちがあり、鎮守府Aのやり方や配備される艤装と非常に相性がよかった。

 仲間が危険に陥ったとき、彼女らはかなり高い確率で艤装の動的性能変化を発揮して使えている。

「・・・那珂さんはともかく、それは比叡さんが火力の高い戦艦担当だからではないのでしょうか?」

 と高雄は疑問を口にした。

 

 

「いやいや。ただそれだけじゃ説明できない現象があるんだよ。砲弾や燃料の消費や同調率の履歴は記録されているだろ?リミットを越えて普段より弾薬や燃料を一度に多く消費していたんだ。そしてある瞬間に同調率が跳ね上がっていた。それらが動的性能変化の証拠だと思う。」

 

 

 提督がさらに続けた説明は裏話的で妙高も高雄も知らなかった。動的性能変化には他の犠牲もある。異常に疲れが残るのだ。那珂も比叡も顔には出さないタイプなのだが最初の頃は次の日二人とも半日は寝てることがあった。五月雨に至っては丸一日半も学校休むくらいだ。

 

 

 少し間を開けて提督は続ける。

「やや脱線してしまったが、俺は姉妹艦同士あの比叡と金剛の接触を多くし、競わせることでうちのやり方に慣れて金剛が打ち解けてくれないかなということを期待していたんだよ。」提督。

 

 

「ですが彼女に艤装の秘密を教えるのはまずかったのではと思います。3ヶ月という短期間の契約でもありますし。」と妙高。

 教えずに過ごさせるのでは自分のやり方にそぐわないとし頭をふる提督。提督の思惑をすでにわかっているのか妙高も、でしょうね、と頷いた。

「1週間や1ヶ月でこの状況ならわかりますが、さすがに職業艦娘で2ヶ月経ってもこの状況というのは・・・よその鎮守府では問題ないのでしょうけど、うちに限っては・・・彼女はあまりに人を避けすぎです。人間性の問題としか。」

 と鎮守府Aの事情を含めて心配する高雄。

 

 

「人間性の問題だとすると俺らじゃ無理だな。なりゆきに任せすぎたかな。」

 腕を組んで唸りつつ悩む提督。

「羽黒さんや隼鷹さんたち教職員の方にも意見を伺いたいですね。」

 高雄は提案した。

 

 

 三人共この場での話し合いはこれ以上続けても何も進展なしとみた。後日、本業が教師の二人が出勤してくる日に交えて再開することにした。それまでは比叡に任せるつもりだった提督だが、やや不安を感じていた。

 

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