デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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10話

氷の壁を壊した直後、次は前方の光景が変化した。

なんと折紙が近くのビルの先端をむしり取り、四糸乃の結界の上に運んで行ったのだ。

 

「おいおい、精霊よりASTの方が周りに被害を出してんじゃないか?」

 

「シドーは四糸乃とやらをなんとかする方法は考えてあるのだな?」

 

「あ、ああ…絶対になんとかしてみせる」

 

だが、それには結界の周囲に居るASTが邪魔だ。どうにかして注意を逸らすことが出来れば…そう考えたらある蓮に案が浮かんだ。

 

「十香、結界の周囲にいるASTが邪魔だ。ちょいと注意を引いて来てくれるか?」

 

「む? 私がやるのか?」

 

「本当は俺がやりたい所なんだが、見つかると面倒な事になるからな。 もちろん、タダとは言わないぞ」

 

蓮は得意げな顔をしながら言葉の続きを言った。

 

「もし、やってくれたら、きな粉パンをお前の好きなだけ食わせてやるよ」

 

「なぬ!? それは本当か!?」

 

「ああ、もちろんさ。少しの間だけでいいから」

 

しかし、十香は答えを言わずに玉座に生えている柄を握り、剣を抜き取ると嬉しそうな顔をしながら折紙の所に飛んで行った。

 

「これでASTはなんとかなるかな」

 

「きな粉パンで釣るって…いいのかよ…」

 

「気にするなよ。十香の腹をきな粉パンで満たせるぐらいの金はあるさ」

 

だが、十香が注意を引いてくれたおかげでASTと入れ違いになるような形で四糸乃の結界に辿り着けそうだ。

しかし、もう少しという所でまた地形に変化が現れた。

 

なんと四糸乃の結界を囲むような形で大量の氷の壁が出現したのだ。

これでは結界に近づく事すら出来ない有様だ。

 

「な…あれは…」

 

「士道! 降りるぞ!」

 

蓮は士道を掴み、移動する〈鏖殺公(サンダルフォン)〉から飛び降りた。

その直後、氷の壁がついさっきいた場所に出現した。あと少し遅かったら確実にやられていただろう。

 

(なるほど…とことん拒む気だな)

 

だが、この行為が蓮の闘志に火をつけた。

 

(なんとしても士道(とパペット)をお前の所に連れて行ってやる…)

 

そんな蓮の隣で士道は〈フラクシナス〉と連絡をとり、必死に四糸乃の元に向かう方法を探っていた。しかし、表情を見る限り、有効な策が浮かんではいないようだ。

 

「四糸乃の所に向かうのに、何か方法は…」

 

「方法ならあるぞ。少し荒っぽいけどな」

 

そう言うと、背中に背負っている〈レッドクイーン〉は光の粒子となって消え、次に現れたのはなんと〈トラウィス〉だった。

 

「お、おい…それは…」

 

「大丈夫だ。出来る限り加減するよ」

 

士道は〈トラウィス〉がどれほど危険か分かっている。その威力は十香の〈鏖殺公(サンダルフォン)〉にも劣らない程だ。

蓮は〈トラウィス〉を右手で逆手に持ち、左足を一歩踏み出し逆手で剣を空に掲げるようなポーズをした。

 

「蓮…何を…」

 

「まあ、見てな」

 

やがて、刀身に光が帯びてきて輝き始めた。そして十分に光り輝いた時、蓮は〈トラウィス〉を思いっきり前の方に振った。

すると、刀身から光の斬撃が飛び出して氷の壁を次々と破壊していく。そして見事なまでの一本道が出来た。

 

「これでよしっと…士道、パペットはしっかり持ってるな」

 

「あ、ああ…ちゃんとあるぞ」

 

士道はポケットからパペットを取り出して見せた。

 

「蓮…ここまで手伝ってくれてありがとな。ここからは俺が行く」

 

「正気か?この中は危険だぞ」

 

「琴里にもそう言われたよ。だけど、俺があいつを救うって約束したんだ」

 

「お前は馬鹿正直だな。じゃあ俺ももう少し手伝ってやるよ」

 

そう言うと空中に巨大な青い手が出現した。蓮の右手を見てみると〈バスター〉が青く輝いている。

手は士道と蓮に覆いかぶさるようにして2人を包みこんだ。

 

「これで大丈夫だ。あまり俺から離れるなよ、防御範囲があまり広くないんだ」

 

「本当にすまない…」

 

「気にするな。ほら、さっさと行くぞ」

 

〈バスター〉に包まれた二人は四糸乃がいる結界に歩いていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

結界の中の猛吹雪を〈バスター〉に包まれて怪我なく進んで行く。

しばらく進み、吹雪の勢いが弱くなった時を見計らい蓮は〈バスター〉を解除した。

 

「ここからはお前の出番だ。ちゃっちゃと四糸乃の霊力を封印してこい」

 

「もちろんだ。ここまでありがとう」

 

「俺はここで待ってるから、いい結果を期待してるぞ」

 

士道はパペットを手に持ち、先が見えない暗闇に向かって歩いていった。

士道の姿が見えなくなると、フゥと息をついた。

 

(誰かのために…か…)

 

十香も士道も誰かを助けるために戦っている。もしかしたら、自分は誰かのためにこの力を使用したのは初めてかもしれない。

しかし、どうしても考えてしまう。自分の事も分かっていないのにが誰かを助ける資格があるのだろうか…

 

(もしかしたら、今こんな事をしているのは、ほんの少しの良心を満足させたいだけかもしれないな)

 

だが、今はそれでも構わなかった。自分のしたい事を好きなだけすればいい… その良心が満足するまで…

そして、この時、周りがだんだん明るくなっていっていることに気付いた。

周囲を見渡すといつの間にか吹雪は収まり、空の雨雲の間からは太陽が顔を見せている。

 

(士道の奴…封印出来たらしいな)

 

称賛の言葉を掛けようと後ろを振り返ってみた瞬間、蓮は固まった。

 

士道が水色の髪をした人形のような綺麗な少女の両肩に両手を置いていたのだ。

しかも、なぜかその少女はほぼ裸に近い状態である。

 

「…………」

 

蓮は士道を汚物を見るかのような目でジッと見ていると、士道も蓮に気付き視線が交わる。

蓮はポケットから携帯を取り出すとどこかの電話番号を打ち始めた。

 

「ま、待ってくれ! どこに電話をかけているんだ!?」

 

「安心しろ。士道。お前の手首にちょいとオシャレなブレスレットがつくだけだ」

 

この状況で電話をしても、相手(警察)はここに来るとは思えないが、このままでは人としての何かが終わってしまうような気がした。

 

「冗談だよ。それで君が四糸乃…だね?」

 

名前を言われた四糸乃はビクッと震えた。どうやら怯えているようだ。

 

「怖がらないでくれ。俺は神代 蓮 士道の友達だ。よろしくな」

 

怯えさせないように自己紹介をして、右手を差し出して握手を求めた。だが、四糸乃はまだ戸惑っている様子だ。

 

「大丈夫だぞ 四糸乃。蓮はいい奴だから四糸乃ともきっと友達になれるよ」

 

士道がそう言うと、ゆっくりと手を出して来た。

 

「よろ…しく…お願い…します」

 

小さな声で言いながら小さい右手で蓮の手を握った。

その時、十香の時と同じあの感覚が蓮を襲った。

 

「ぐぅ…ぎぃ…」

 

四糸乃に触れている右手の手のひらからだんだんと登ってくるのを感じる。

 

「あっ…うぅ…はぁ…」

 

四糸乃も同じようで十香の時と同じ反応をしていた。また、四糸乃の触れている右腕から何かが伝ってくる感覚を感じる。正体も分からないこの感覚は蓮にとってとても不快な感覚だった。

 

「はっ! はぁ…はぁ…」

 

「大丈夫か? 十香の時といい…どうしたんだ?」

 

心配そうな顔でそう聞いてくる士道。四糸乃も同じ気持ちのようで不安そうな顔をしている。

 

「大丈夫だ…少し目眩が…うっ!」

 

そこまで言いかけた時、背中に痛みが走る。そして背中から溢れ出た光が両腕に向かって行き、光が消えた時には両腕に何か(・・)が装着してあった。

 

形は籠手という表現が正しいだろう。鋼のような籠手に一定間隔で水色の綺麗な色をした線が横に入っている。

肘まで覆った籠手には白と輝く水色でそれ以外は鉄のような鈍い輝きを放ち、形は全体的に機械味が帯びている。

 

蓮は両腕の籠手を見た後、右腕で思いっきり地面に殴った。

すると、まるでさっきまで透明だったかのように突然現れた氷の壁が士道達を囲った。

 

「なっ…!?」

 

「ひっ…!」

 

いきなり現れた壁に驚く四糸乃と士道。それを見た後、蓮はもう一度地面を殴った。

すると、壁は空気に溶けるかのように消えていった。だが、その壁の形に空中が光っていた(・・・・・・・・)

ダイヤモンドダスト…そう呼ばれる現象が起きたのだ。

 

 

〈ウィトリク〉

 

空気中にある水分を強化し操る事が出来る籠手。

空気に含まれている水分を一瞬で凍らせる事や蒸発させる事が可能。

しかし、砂漠などの水分が少ない地帯では能力が下がるので注意が必要である。

籠手には近接武器が隠してあり、不意を突くことやある程度の接近戦に対応できる。

 

 

「蓮…さん…貴方は…一体…」

『いやー、蓮君、君、何者なのかなー。ちょっとよしのんに教えてよー』

 

四糸乃は混乱した様子で、よしのんはケラケラ笑いながら聞いてきた。

2人はさっきの感覚や人間には到底出来ない技を見て驚いたのだろう。だが、蓮は…。

 

「あいにく、今自分探しの旅の途中でね。質問にはお答え出来ません」

 

軽い冗談を返した後、スタスタと歩き出した。

 

「おい、どこに行くんだよ?」

 

後始末だ(・・・)。お前は四糸乃と一緒に〈フラクシナス〉に拾ってもらえばいい」

 

その直後、2人は無重力のように浮かび上がり、〈フラクシナス〉に回収された。

それを見届けて、蓮は駐屯基地に向けて歩き出した。

 

(さて、これから残業の時間かな)

 

蓮には精霊を助けた後でも、自分が現場にいた証拠を消す仕事が待っていた…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日、蓮が自宅に帰ってこれた時間は午後の十一時であった。

 

「あ〜疲れた。風呂に入ってさっさと寝るか」

 

作業は今日だけでは終わらず、明日もやることが山積みだ。本当はさっさと寝たいが風呂を抜く事は出来ない。

早速、浴槽にお湯を溜めて息を吐きながらお湯に体を沈めた。

 

「ふう…やっぱり風呂は良い。疲労が回復していくな」

 

蓮はイギリスで育ったが、風呂は好きだった。シャワーだけでは何か物足りないからだ。

15分ほど身を沈めて、浴槽から出た。体と髪を洗って汚れを落として風呂場から出ようとした時、

 

「な…? これは…」

 

壁にかかっていた鏡を見て驚いた。今鏡には蓮の背中が写っている。

その背中には十字架が刻んであるのだが、最後に見た時と違ってさまざまな模様のような装飾が足されていた。

 

「一体、いつの間に…」

 

日常生活で自分の背中を見る機会などほとんど無いので変化に気付かなかったようだ。

いつ刻まれたのか、考えているとある場面が浮かんで来た。

 

「十香と四糸乃の霊力を封印した時か…」

 

あの時は背中に痛みを感じた、その時に増えたと考えると納得できる。

試しに『レッドクイーン』を出そうと意識して見ると、装飾と十字架が光り輝き剣が現れる。

 

「なんなんだ、この体は…」

 

精霊の霊力を取り込むだけでなく、自分の体にも大きな変化をもたらしている。

これは明らかに人間の体では無いだろう。

 

「まあ、今はいいか。ゆっくり調べればいい」

 

風呂場を出て体を拭いた後、パジャマに着替えた蓮はすぐにベッドに入り込んだ。

 

 

士道が四糸乃の霊力を封印してから2日後、駐屯基のブリーフィングルームにASTのメンバーが集まっていた。

前に立っている隊長の燎子が全員に呼びかける。

 

「さて、皆集まってるわね? 今日は知らせが…」

 

「隊長、まだ蓮が来てないんですが…」

 

隊員の一人が空席を指しながら聞いてきた。

 

「いいのよ。別に蓮がいないのは珍しい事じゃないんだし」

 

蓮は毎日必ず来るというわけでは無い。だが、居て欲しい時には必ず居るため、文句があるわけでは無かった。

 

「知らせっていうの…蓮に続き、また補充要員が充てられる事になったの」

 

「補充要員…ですか?」

 

「ええ…『少しは戦い方を学べ』とか散々嫌味を言われた後でね…』

 

この時から燎子の顔がだんだん暗闇に染まっていくのを隊員たちは感じていた。

 

「た、隊長…!」

 

「おっと、自己紹介をさせなきゃね。トップエースらしくて実際に精霊を殺した(・・・)こともあるそうよ。」

 

精霊を殺した、この言葉に隊員たちはざわめき始めた。たった1人で精霊を殺したとは一体どれほどの腕の持ち主なのだろうか。

 

「入ってきて」

 

「はっ」

 

燎子の声に応えて可愛らしい声が響いた。

そしてドアが開くと中学生ぐらいの姿をした少女が部屋に入って来る。

 

「崇宮 真那三尉であります。以後、お見知り置きを」

 

真那と名乗った少女がメンバーに自己紹介をした時、また扉が開いた。

 

「すいませーん。遅れましたー」

 

そう言いながら入ってきたのは蓮だ。しかし、蓮の顔は真那を見た瞬間、驚きの表情になった。

 

「真那…? なんでお前が…」

 

 

 




最近、暑いですねぇ。皆さんは熱中症に気をつけて下さい。
自分は夏休みをいいことに家に引きこもっているのでそんな心配はありません。
次回から狂三キラーに入ります。
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