デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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16話

「蓮? なんでこんな所にいやがるんです?」

 

「偶然、近くを通りかかっただけだよ」

 

ここで『士道と狂三がデートしていてそれを監視していた』なんて言えず、そう言って誤魔化す。

 

「そんな事よりそれは…」

 

「ああ、〈ナイトメア〉でやがりますよ。いくら蓮でも名前ぐらいは聞いた事ぐらいはあるでしょう?」

 

真那はまるで物を見るような視線を狂三に向ける。蓮は狂三に近づいて首筋に指を当てる。脈はない、完全に死んでいる。

狂三の死亡を確認すると手を目に被せ瞼を閉じさせた。

 

「お前が殺したのか?」

 

「ええ、兄様が襲われそうだったので。本当に危機一髪の所でしたよ」

 

この言葉を聞いて、前に狂三を殺したという報告を思い出した。きっとその時も狂三を殺したのは真那だったのだろう。

蓮は真那がとても優秀な魔術師(ウィザード)だという事は知っていたがまさかこんな事をしていたとはまったく知らなかった。

 

「真那、お前は狂三を殺すのに抵抗は無いのか?」

 

「蓮、ない事だと思いますけどこの女に同情してるわけじゃねーですよね?こいつはついさっきも人を殺しやがったんですよ。まさか蓮も兄様のように『こんな事はもうやめてくれ』だなんて言わねーでくださいよ?」

 

「まさか、お前にも狂三を殺すだけの理由があるんだろう?そのことに口出しする気は無いよ」

 

たとえ間違えた事をし続けても本人がそれを正しいと信じ続ければ少なくとも本人にとっては正しい行いになると蓮は思っている。

ただ不安なのは真那は間違いに気付いた時、正しい道に入れるかどうかなのだがそれはまだ先の話だ。その時に真那が考えればいい事だ。

 

そう言った時、蓮は物陰で小さく動く影が目に入った。それは野良だろうか、生まれて間もない小さな仔猫だ。

ただの仔猫だったら気にも留める事は無かったのだが、歩き方が妙で足を引きずるようなぎこちない動きだったのだ。

それが気になり仔猫の元に行き、身体を調べてみる。

 

(こいつ…足を怪我をしているのか?)

 

さらに調べてみると、足以外にも胴体に痣がたくさんある。だが、痣の形は自然に怪我をしたというより、小さく硬い球体がものすごい速さで当たったような形をしていた。

 

(狂三が殺した奴らは…まさか…!)

 

近くにあったモデルガンを見て、なぜ狂三が殺したかを理解し真意を感じ取ると、蓮は仔猫を抱えて狂三の死体の所まで戻ると、その頬を手を添えるように優しく撫でる。

 

「…真那、後は頼む」

 

「え、ええ 分かってやがりますが…」

 

その返事を聞いて、蓮は仔猫を抱えたまま路地裏を出て行く。真那はそんな蓮を不思議そうに見ていた。

 

「蓮が猫好きだったなんて意外です。ていうかよくその女の死体に触られるなんてスゲーですね。私なんて生理的に無理ですよ。…まさか、死体愛好にでも目覚めちまったんじゃねぇですよね?」

 

顎に手を当ててブツブツと何か独り言を言い始める真那。それほど、自分の中の蓮とのイメージからかけ離れた奇行だったのだ。

 

「…?なんですかね?これは」

 

ふと下を見た時、真那は地面に転がっていた、あるもの(・・・・)を見つけた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

家まで帰った蓮はそのままリビングまで行き、腕に抱えた仔猫を優しく床に下ろす。すると、仔猫は痛みを誤魔化すようにちるちると毛づくろいをし始めた。

 

「今…楽にしてやるからな…」

 

そう言うと、右手が青く光り始めて〈バスター〉へ変化する。そして右手を仔猫に触れて意識を右手に集中させる。

波一つない水面を思い浮かべて、小さな波が立つように少しずつ力を右手から送り込むのをイメージすると〈バスター〉から青い光が溢れ始め、青い光は仔猫の身体に吸い込まれるように入っていく。

 

すると、仔猫の身体にあった痣はだんだん薄くなっていき、やがて完全になくなった。足の怪我も同様に完全に完治する。

 

「ふう…あー、疲れた」

 

だが、仔猫が完治すると同時に蓮の全身にものすごい疲労が襲ってきて倒れるように仰向けに寝転がる。これは一見すると便利な力なのだが、終わると全身がものすごく疲労してしまう。普段はあまりしたく無いのだが今回は特別だ。

 

床に寝転がっていると、右手の指先に何やらくすぐったい感覚がして視線を向けてみるとそこには仔猫が指先をペロペロと舐めていた。

 

「よしよし…よく頑張ったな…」

 

右手を元に戻し、仔猫の頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める。身体の疲労が消えるまで撫でてなんとか立てるようにまで回復すると、仔猫がニャア、ニャアと鳴いて何かを訴えてきた。

 

「ん? 腹が減っているのか?」

 

なんとなくそう言っているような気がしたので台所に行き、小皿を二つ用意して片方に牛乳を、もう片方に小さく切ったソーセージを入れて仔猫の目の前に置くと仔猫は嬉しそうに牛乳を飲み、ソーセージを頬張り始める。

 

仔猫が食べ終わったら元の場所に返しに行こうかと思ったのだが時計を見てみると時刻は四時、現場には狂三の死体などを後始末をしている隊員がいるだろう。それと鉢合わせして面倒な事にはなりたくないので夜になったら返しに行こうと考える。

 

(さて、俺も夕飯の準備をしなくちゃな)

 

そう思い、少し身体をよろめかせながら立ち上がった。

 

 

 

夜八時、夕飯を食べ終わった蓮は上着を羽織り外へ出掛けた。腕の中には拾った仔猫を抱えあの時の裏路地へ向かったのだ。

目的地へ着いて裏路地を覗いてみると大量の血も狂三の死体もしっかり片付けられて綺麗になっておりここで人が死んだなど誰も思わないだろう。

 

蓮は裏路地の入り口の所に仔猫を下ろして名残惜しそうに頭を撫でる。

 

「じゃあな、元気で暮らせよ」

 

そう言って家に帰ろうとしたのだが仔猫は甘えるように蓮の脚に身体を擦り付けてくる。出会って四時間ぐらいしか経過してないのによく懐かれたものだと我ながら思う。

 

「残念ながらここでお別れだ。お前ならすぐにいい飼い主が見つかるさ」

 

再び持ち上げて仔猫をさっきの場所に戻して今度こそ裏路地を去る。寂しくないと言えば嘘になるが飼おうと思うとなんだか自分が勝手にそうしたいのではないかと思いあまり気乗りがしないのだ。

 

そんな事を考えながら歩いていると家に着き、ドアを開けようとした時、

 

「ニャー…ニャー」

 

そんな鳴き声が聞こえて後ろを振り向くと、あの仔猫が尻尾を振りながら首を傾げてちょこんと座っていた。

あの裏路地から蓮の家にまでずっとついてきていたようだ。

 

「…はあ〜、まったく…」

 

何かを諦めたように深くため息をすると仔猫の前足を両手の親指と人差し指の間に挟むように持ち上げる。つまり、蓮にはお腹が丸見えなのだが少しも嫌そうな動作をしない。

 

「うちに住みたいなら、風呂に入る事が条件だぞ」

 

野良だったせいなのか身体は汚れだらけで清潔とは言い難い。この状態で家の中を歩き回られたら掃除に苦労する事になるだろう。

すると、分かったのか仔猫はニャアと小さく鳴いた。

 

 

 

「いい子だ、よく大人しくしてくれたな」

 

仔猫を風呂に入れてドライヤーを使って乾かした後、蓮はベッドに寝転がりながら仔猫を愛でていた。

普通のネコは水を怖がるので入浴させるのは苦労すると思ったのだが、意外にもお湯に入れて乾かすまで大人しくしてくれたので清潔にさせるのはそんなに大変な事では無かった。

 

「もうこんな時間か…お前はどこで寝るんだ?」

 

時間は十一時になり、そろそろ寝ようと思うのだがまだ仔猫の寝床を用意してないのでどうしようかと考える。

すると仔猫はベッドの上をちょこちょこと移動して枕元まで来るとそこに寝転んだ。どうやらそこで寝るつもりらしい。

まあ、本人が選んだのなら…そう思い部屋の明かりを消して自身もベッドに寝転がる。

 

「明日はお前の生活用品を買ってきてやるからな」

 

顔を仔猫に向けそう言った後、蓮は瞼を閉じた。

 

 

 

朝日が部屋に差し込み、雀のさえずりが聞こえてくる。そんな中、蓮は目が覚めたがのだがすぐに目を開ける事は出来なかった。

なぜなら顔に奇妙な感触のものが触れているのをを感じたからだ。なんだか濡れていて柔らかく表面がザラザラしていてとてもくすぐったい。

 

(なんだ?この感触…?)

 

不思議に思い、ゆっくりと瞼を開けると目の前に猫の顔がありペロペロと自分の顔を舐めていた。この奇妙な感触の正体はこれのようだ。

 

「お前だったのか…」

 

そう小さく呟くと仔猫はビクッと少し身体を震わせたが、何も無かったかのようにまたペロペロと顔を舐め始めた。

このまま舐め続けられる訳にはいかないし、そろそろ起きる時間なので仕方なしに起き上がった。

起こしてくれるなら他の方法が良かったのだが、朝っぱらから猫パンチで目覚めるよりはマシだったので我慢する。

 

「次からは起こさなくていいぞ」

 

仔猫にそう言った後、腕の中に抱えて蓮は寝室を出て行った。

 

 

(そう言えば、まだ名前を決めて無かったな…)

 

朝食を食べている時、まだ名前を決めていないことに気づいた。昨日は風呂に入れたりと忙しくて考えている暇が無かったのだ。

 

(どんな名前にしようか…)

 

チラリと床で牛乳を飲んでいる姿を見てみる。毛の色は茜赤色と白のミックスで性別は雌だという事は分かっているのだがどうもピンとくる名前が浮かんでこない。そんな事を知る由もない(当然だが)本人は牛乳をすべて飲み終えて呑気に毛づくろいをしている。

 

(あ! そうだ、あいつ(・・・)の名前を借りるか…)

 

その時、蓮の頭の中にある人物(・・・・)が浮かび上がってきた。その人物は自分とこの猫を巡り合わせた重要な人物である。

少し考えた後、毛づくろいしている仔猫と視線を合わせるようにしゃがみ、言い聞かせるように蓮は言い出した。

 

「よし、今日からお前の名前は…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぁ〜…」

 

休み明けの学校というものはやはり気分が憂鬱になってしまうものだ、蓮も例外ではなく自分の教室のドアの前で欠伸を一つ漏らす。

ドアを開けて最初に狂三の席を確認する。席にはすでにやはり狂三が座っており、昨日の事を知っている蓮からしたら少し不気味に感じる。

 

そして、一番気になる事は士道の事だ。自称、自分の実妹である真那と狂三との関係を知った事は士道の心境に少なくない変化をもたらしただろう。その変化が両者を救いたいという希望の思いになる事を蓮は願っている。

 

「あら? 蓮さん、おはようございます」

 

蓮の姿を確認した狂三は席を立ちこちらに向かって来るとそう言って挨拶をしてくる。少し前の自分だったらこの挨拶は無視して自分の席に向かっていただろう。…だが今は違う。

 

「…ああ、おはよう。狂三」

 

そうとだけ言い席に歩いていく。一般人から見たら、とても素っ気なく感じるだろうが狂三は違った。席に向かう蓮の背中を少し驚いたような表情で見た後、誰にも見られないようにコッソリと嬉しそうに微笑んだ。

 

 

天宮市の南端に位置する廃ビル、普段は無人のここの屋上に二人の少女の姿があった。一人は〈フラクシナス〉の艦長の琴里でもちろん今はリボンは黒色の司令官モードだ。

そしてもう一人は自称、士道の実妹の真那で二人共表情はとても不機嫌そうに見える。

 

「お待ちしてました、琴里さん」

 

「まったく、こんな所に人を呼び出しておいて何の用なの? 雰囲気から察するに楽しい事…って訳じゃなさそうね」

 

「とりあえず、話を始める前にこれを(・・)返しておきますよ」

 

そう言って真那はポケットから何かを取り出して琴里に放り投げる。それをキャッチして琴里は驚いた。それは〈ラタトスク〉で使用している超高感度の小型インコムだったのだ。

 

「〈ラタトスク機関〉…噂で聞いてました。精霊を武力ではなく対話で懐柔する事が目的の組織がある事を。正直、都市伝説かと思っていやがったのですが…まさか、あなたと兄様が…」

 

「なるほど…昨日、妙な通信があったけどあの通信はあなたの仕業だったわけね」

 

随意領域(テリトリー)の中でなら声を変えるくらい造作もねーですから。…琴里さん、私はこの事を上に報告するつもりはありません。そのかわり、兄様を今すぐ〈ラタトスク〉から解放しやがってください、武器を何も持たせずに精霊と相対させるなんて正気とは思えねーです」

 

真那にとっては琴里は自分の兄の命を軽々と扱っている悪魔にしか見えないだろう。精霊と戦っているからこそ、その行為がどれほど危険なのかがよく分かるのだ。

 

「相手に銃を向けたまま話し合えるはずないでしょう。それに〈ラタトスク〉から士道を解放して、あなたはどうしたいの?」

 

「琴里さん。あなたの様な人に兄様は任せておけねーです。兄様の身柄は私が引き取ります」

 

「冗談じゃないわよ。DEMみたいな悪徳企業に士道を預けろっていうの?」

 

琴里のこの言葉を聞いて真那は驚愕した。まさか、自分の事をここまで調べられているとは予想出来なかった。だが、ふうと息を吐いて心を落ち着かせる。

 

「どこでそれを…とは聞きませんよ。そこまで割れているなら隠す必要はねーですね。あなたの言う通り、私はもともと自衛官ではなくDEMインダストリー社から出向してくる当たって必要だったから適当な階級を得ただけです」

 

だが、真那はまた琴里を睨むような鋭い視線を向ける。

 

「しかし、DEMが悪徳企業というのは聞き捨てならねーですね。あそこは記憶喪失の私を受け入れて、存在理由を与えてくれました。それにDEMは蓮の家(・・・)なんですから蓮の事を侮辱するのは私が許さねーです!」

 

今度は琴里が驚愕する番だった。蓮はASTに所属しているのは知っていたが、なぜDEMの話をしている時に蓮の名前が出てくるのかがまったく分からない。

 

「ちょっと待って!なんで蓮の名前が出てくるのよ?」

 

「ああ、そう言えば蓮は兄様の友人でしたね、なら妹のあなたが知っていても妙な事ではねーです。蓮は…」

 

そこまで真那が言いかけた時、二人の携帯電話が同時に着信音を鳴らした。

 

 




主人公に同居者が出来ました。

傷を一瞬で治せるのは便利だと思うんですけど、代謝などを無理矢理早めているのであまり良くないと本で見たことがあります。
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