デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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24話

「んー…なんで乗り物に乗るとこんなに気持ちよく寝れるんだろな。これは世界七不思議の八個目に入れてもいいと思わないか?士道」

 

「いや、それじゃ七不思議にならないだろ」

 

「おぉっ!これが海か!?」

 

十香が初めて見る海にとても興奮している様子だ。

飛行機に揺られること三時間、沖縄から変更になった目的地は或美島と呼ばれる観光地だった。

青い海に綺麗な砂浜、世界を旅行していた蓮から見ても、これは十分に美しいと言えるレベルの光景である。やはり、この国にも世界と渡り合えるほどの絶景があったらしい。

 

蓮は日光が降り注ぐ空を見上げる。琴里が当日は〈フラクシナス〉を随伴させると言っていたのを思い出したからなのだが、当然ながらその姿は見えない。

数日間、家を空けるため、飼い猫であるミルクは世話も頼んであるのでは心配ない。

 

ーーー〈フラクシナス〉内部ーーー

 

『ニャー!ニャー!』

 

『あぁっ!ちょっと!そんなに引っ張っちゃダメだからぁ!!』

 

『あわわ…よしのん…』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぬ…?」

 

いきなりはしゃいでいた十香が周りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

「どうしたんだ、十香?」

 

「むぅ?誰かに見られている気がするのだ…」

 

誰かと言われても、大声を出したのだから少なからず目立つものだが、その視線とは違うといった様子だ。

 

「あれだけ大声を出したら目立つだろ。それか一緒に随行してきたカメラマンぐらいしか…」

 

「へえ、カメラマンなんてついてきていたのか」

 

正直に言ってしまうと、カメラマンどころか出発する前に、先生方がどのような話をしていたかすら記憶にない。それを聞いて士道は呆れた様子だ。

 

「まったく…旅行記録を付けるのが目的らしいぞ。確か名前は…」

 

「やはり誰かに見られているぞ!」

 

十香は士道の言葉を遮るように言うと、その正体を確かめるべく駆け出した。士道は驚き、蓮はやれやれと言った様子で後を追っていく。

それを随行カメラマン、エレン・メイザースはジッと見つめていたのを三人は知らない。

 

 

 

「ああもう、置いてかれちまったじゃねぇか」

 

十香の言い分に付き合い、しばらく十香の感じるその視線の正体を探索していたら、いつも間にか三人は学校のグループに置いていかれてしまっていた。

結局、その視線の正体も分からず、十香は申し訳ないと言った顔だ。

 

「十香、本当に誰かに見られている気がしたのか?」

 

士道は十香の気のせいだと思っているらしいが、蓮にはどうもスッキリしない終わり方だ。蓮は特に何も感じなかったが、十香の言い分も気になる。

 

「た、確かに感じたのだ!嘘ではないぞ!」

 

「そう言われてもな…」

 

蓮は困った様子でふと空を見上げると、さっきまで青色だった空が灰色の雲に埋め尽くされている事に気が付いた。

山の天気は変わりやすいと言われているので、それと同じようなものかと思ったが、ここは山ではないし、それに、幾ら何でも一変し過ぎだ。

 

「なんだよ…こりゃあ…」

 

どうやら士道もこれに気が付いた様子だ。そして、一分もしないうちに大型台風レベルの風が吹き荒れる。

もはや、歩いて進むどころかまともに立っている事すら困難なほどだ。

 

「うわわっ!!」

 

突如、前方から吹いた大きな風に士道の身体が煽られ、バランスを崩して後ろに倒れそうになる。

だが、蓮が後ろから支える事により、それを防ぐ。

 

「しっかり踏ん張れよな」

 

「わ、悪い、助かった」

 

「大丈夫か、シ…ドォッ!!」

 

士道の無事を確認するために振り向いた十香の顔に、どこからか吹き飛ばされてきたであろうゴミ箱がクリティカルヒットする。

それにより倒れる十香の身体を蓮が空いている腕で支える。

 

「お、おい!大丈夫か、十香!」

 

士道が声をかけるが返事はない。今ので完全に目を回してしまっているようだ。

この突風の中を、十香を背負って進むのはかなり困難だ。最悪、〈バスター〉で風を防ぎながら進む事を視野に入れ始めた時。

 

荒れ狂う雲の中に、二つの影らしきものが見えた。

 

「あれは…まさか、ASTか…」

 

士道もそれに気づいたらしいが、蓮は言葉にせず、心の中で『違う』と否定する。

ASTがこんな嵐の中で演習などしているなど考えられない。

 

飛び交っていた二つの影は一番大きくぶつかると、大きな風を巻き起こしながら地面へと落下する。

ちょうど三人を挟んだ形に。

それと同時に、落ちてきた二人を中心に風がやんだ無風状態となった。

 

二つの落ちてきた影は蓮達と年齢を変わらないであろう少女だ。

燈色の髪に水銀色の瞳と、整った容姿をしているが目を引かれるのはその姿だった。

暗色の外套に身体の各所に拘束具のようなものが装着してあり、もしこんな姿で街中を歩いたら警察のお世話になるのは確実だろう。

 

「さすが夕弦、我が半身、やるではないか。我と五分の成績を分けているだけでもある。だが、それも今日で幕を降ろす運命なのだ!」

 

片方の少女が髪を結い上げやけに芝居かかった様子で言う。

なぜ本人はそのように話しているのかは不明だが、蓮には思春期をこじらせた子供のように見える。

 

「反論。この戦いを制すのは耶倶矢ではなく夕弦です」

 

夕弦と名乗った少女は片方の耶倶矢と見た目が似ている。

ただ、髪型と気怠そうな半眼であるなどの違いがあるほか、つけている拘束具が耶倶矢と比べて逆の位置にある。

 

「長き戦いも今日で終止符(ピリオド)を打とうぞ!我の必殺、颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)でな!」

 

「疑問。颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)とはなんですか?」

 

夕弦の質問に耶具矢は得意げに笑うと、右手で顔を覆う。覆った指の隙間から覗いた目が夕弦を見つめる。

…ハッキリ言ってしまうと、とてつもなく痛々しい。

 

「くくく…その名を軽々しく口にせぬ方が良いぞ。名前だけでも凡人でも耐えられぬような凄まじい瘴気を発しているうえに…」

 

「結論。つまり、また耶具矢の勝手な妄想ですか。あまり口任せな事は言わないようにと…」

 

「う、嘘じゃないし!今までは手加減して使わなかっただけなんだからね!」

 

さっきまでの態度はどこにいったのか、急に素に戻った様子で反論する耶具矢。

話が見えないが、どうやらいきなり天気が変わった元凶は彼女達らしい。

 

「ぐぬぬ…よくも我を愚弄してくれたな…」

 

耶具矢が両手を広げると、周囲に荒れ狂う嵐が一層と強くなった。

夕弦もそれを見て応ずるように構えをとる。

 

「漆黒に沈め!」

 

「突進。えいやー」

 

その声と共に、同時に地を蹴る。

こんな近くで精霊同士の戦いに巻き込まれたらひとたまりもない。

士道が二人の気を向けるため、大声を出そうと息を吸い込み始めた瞬間。

 

風の音を消し去るほどの大きなエンジン音らしき音が、周囲に響き渡った。

 

その音に士道はもちろん、耶具矢と夕弦の視線もそちらに向けられる。

そこには〈レッドクイーン〉を地面に突き立てた蓮がおり、剣からは赤い炎らしきものが吹き出している。

 

「ふう…士道、喋ろ」

 

剣を背中に背負い、そうとだけ言って蓮は気絶した十香の介抱をし始める。残された士道はもしかしたらとんでもない状況に放り出されたのだと、改めて理解した。

 

「人間が我らの戦場に足を踏み入れるとは…何者だ」

 

「質問。それにそこのあなたの持っているその剣はどのような仕組みなのですか?」

 

やはり、二人からは士道達がなぜここにいるのか、何者なのかという質問が飛んでくる。

二人で戦っていたのに、あのように止められてしまえばそれももっともな質問だ。

 

「我らの決闘に横槍を入れるとは、一体何のつもりだ。答えによっては我が…えっと…」

 

颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)?」

 

何やら忘れている様子だったらしいので、蓮は十香を介抱しながら、耶具矢がさっき言っていた必殺技らしき技の名前を言ってみる。

どうやら、それで合っていたらしく、耶具矢は引っかかっていたものが取れたような顔をした。

 

「そう!それ!…颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)が貴様を貫くことになるぞ」

 

「指摘。それは常人では名前すら耐えられないのではないのですか?あと、今、確かに耶具矢は名前を忘れていたと思うのですが」

 

「うっ…いいから、夕弦は黙っててよ。あと少しで決着がつくところだったのに…」

 

何やらブツブツと独り言を呟いて思考する耶具矢だが、急にクックックと笑い始めた。

 

「夕弦!せっかくの決闘も水を差されて興ざめとなってしまった。だが、百戦目の戦いが幾度も行った殴り合いとはどうかと思っておっただろう」

 

「首肯。確かに夕弦もそう思ってましたが、耶具矢には何か考えがあるのですか?」

 

夕弦の問いに耶具矢は士道、そして蓮を見てさらに笑みを深くする。その視線を受け、士道は嫌な予感を感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、士道、貴様を選べばよい。この八舞耶具矢を選び、身も心も捧げると言えば良いのだ」

 

「否定。耶具矢を選んでもいい事はありません。是非夕弦に清き一票を」

 

修学旅行、最初の行き先である資料館の奥の事務室で士道は現在、学校の制服姿の夕弦と耶具矢に両腕を絡みつかれていた。

そんな状態の士道は照れているというより、疲れているといった様子だ。

 

そんな士道を壁に背中を預け、腕を組んで立っている蓮と、他の教師に二人を転校生だと説明してきた令音が見ていた。

 

「どうだ蓮、貴様も我の元に下るといいぞ。お前の心の器を満たしてやれるのは我しか居らぬからな!」

 

「誘惑。夕弦を選ぶととてもいい事してあげます。蓮は耶具矢のような貧相な身体には興味がないと目が語っています」

 

「だっ!誰が貧相な身体じゃあー!」

 

そんな二人に、蓮は苦笑いを浮かべる事しか出来ない。

なぜこんな事になったのだろう。そんな自問をして、答えるようにその時の事を思い出し始めた。

 

 

 

「我らが勝敗を決していないもの。それ即ち『魅力』!そして、人を引き寄せる『カリスマ性』!」

 

格好いいポーズを決めながら、耶具矢は宣言するかのようにそう言い放つ。

 

「真の精霊、八舞には森羅万象を嫉妬させる魅力、そして、他のものを束ねるカリスマ性がなければならない。そう思わぬか、夕弦?」

 

「回答。確かにと思います。今まで勝敗を第三者に委ねた事はありませんでした」

 

夕弦がなるほど、と言った様子で答える。それを聞いた耶具矢は士道と蓮を低い笑いを漏らしながら見る。

 

「そこの二人、名はなんという?」

 

「え?い、五河…士道だけど…」

 

「神代 蓮」

 

「士道に蓮…か。よろしい、士道!貴様を『魅力』の裁定役に、そして、蓮、貴様は『カリスマ性』の裁定役に任ずる」

 

耶具矢の突然の発言に、士道は狼狽えるような声を出すが、二人は気にした様子はなかった。蓮もため息をつくしかない。

 

「さあ、どうする夕弦。力ではなく、人格が試されるこの勝負、我の勝ちが決まっているゆえに、貴様に応じる勇気はないだろうがな」

 

「否定。勝つのは耶具矢ではなく夕弦です。そんな性格の耶具矢には男など一生寄ってくるはずありません」

 

「んだと、ゴラァァァ!!」

 

夕弦の一言に耶具矢はさっきまでのキャラも忘れて吠える。だが、すぐに二人の目の前だという事を思い出し、気持ちを落ち着かせるかのように咳をする。

 

「と、とにかく、これが最後の勝負よ!勝負の方法は先に二人を引き寄せた(・・・・・)方の勝ちだ!」

 

「承諾。その勝負、受けて立ちます」

 

「ちょっと待てぇぇぇ!」

 

辺り一帯に士道の声が響き渡り、蓮はこれから起こる面倒ごとの予感に頭痛を感じていた。

 

 

 

 

蓮はその時の出来事を思い出し、また一つため息をつく。

耶具矢と夕弦は、令音の手回しにより、転校生といった形で落ち着いた。

 

(ワクワクの修学旅行が、失敗は許されない精霊攻略にチェンジ…映画だったら、展開が早すぎるとかいうコメントが来そうだな…)

 

そんな文句を思いつつも、残念ながら、このまま何もしないでいるという選択肢はない。

令音に事情は伝えてあるので、すぐにいい手立てを考えてくれるはずだ。

 

「…厄介な事になったようだね」

 

「…はい」

 

「やっぱり、解析官殿にはそう見える?」

 

令音の言葉に、士道は重苦しく、蓮は自傷気味にそう答えた。

 

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