デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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25話

「なるほど、お前たち別れた二人はやがて一人になる時の主人格を決まるために戦っていたと」

 

「首肯。その通りです、蓮は理解が早くて助かります」

 

時間が経過し、少し落ち着いた頃、二人からなぜあそこで戦っていたのか理由を聞いてみた。

その答えは驚くべき内容であり、耶具矢と夕弦は最初は八舞という一人の精霊だったらしいのだが、幾度目の現界の時、二人に別れてしまい、それが耶具矢と夕弦となったらしい。

 

そして二人は元に戻る時、どちらが主人格となるかを争い、勝負をしているという話だ。

 

「つ、つまり、あの嵐もお前達の喧嘩…って事になるのか…」

 

二人の勝負により、あのレベルの嵐が発生したと考え士道は汗を滲ませた。

あれほどの被害を出しながら、二人が戦っているのだ。士道の気持ちもなんとなく分かる。

 

「…つまり、君たち二人は主人格となるのを決めるために争っている。という事だね」

 

先ほどまで端末を弄っていた令音が立ち上がり、二人にそう問う。だが、二人にはあまり友好的とは言えない目線が向けられた。

 

「その通りだが、貴様は何者だ?もしこの勝負の邪魔をするなら容赦はせぬぞ?」

 

「…私はただの学校の先生さ。君たちにはシンとレンの攻略のアドバイスをしたいとおもう。ついてきてくれ」

 

だが、二人は士道から離れず、テコでも動かん。といった様子だ。それを見ても、令音は眉一つ動かさない。

 

「…シンはともかくレンは強敵だ。彼は自分の中の条件が満たされなければ、どんなに顔が良くても絶対について来ない。それを教えたいと思っていたのだが…私は最悪どちらか片方だけでも構わないがね」

 

令音の言葉に耶具矢と夕弦はピクリと耳を動かし、我先にと令音についていく。

なんというか、令音は人の心の扱いが上手いと感心してしまった。

 

「士道…長い二泊三日になりそうだな」

 

「だけど、弱音ばっかり言ってられないよな」

 

士道は自分に喝を入れるように、頬を両手で叩いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

午後六時五十分、夕食が終わり、自由時間となっている。

その時間、蓮は令音と共の一室で過ごしていたのだが、当然ながらそこには少女が夢見るような恋愛の雰囲気など欠片もない。

 

「あの二人が〈ベルセルク〉ねぇ…」

 

チェス盤を挟んで座っている蓮が、小型端末を操作している令音に、面倒くさいような信じられないような言い方で呟く。

 

「…まあ、いきなりそう言われても信じられないのは分かるが、本当だよ」

 

令音は小型端末を閉じて困ったような仕草で腕を組む。そのせいで令音の着ている浴衣の胸元の大きな果実が押さえつけられて目に毒だ。

だが、今の蓮にはそんなのを気にする余裕は無かった。

 

令音はチェス盤にある白の兵士(ポーン)を動かして、黒の(キング)の前に置く。

 

「…チェックメイトだ」

 

「あー!負けた!」

 

令音のチェックメイトの言葉を聞いて、蓮はイスの背もたれの寄りかかり天を仰いだ。

 

「…話を戻すが、あの二人は移動範囲と移動速度が原因で今まで接触出来た者はいない。つまり、彼女達と接触出来たのは千載一遇のチャンスだ。絶対にこの機会を逃さないでもらいたい」

 

「そう言われても、何をすればいいのやら…」

 

今までは士道が精霊を攻略する時は、対話できる状況やそこに連れて行くのを仕事としていた。

そのため、このように精霊と直接関わるのは初めてと言ってもいいだろう。

 

「…幸いにもアプローチは彼女達の方からしてくれる。君はそれに乗っかってくれればいい」

 

簡単に言ってくれる。そんな文句を心の中で思いながら身体を元の状態に戻す。

 

「精霊攻略になるんだったら、〈フラクシナス〉からの意見も聞いた方がいいんじゃないのか?」

 

「…今、〈フラクシナス〉とは通信が繋がらないんだ」

 

「繋がらない?理由は?」

 

「…それは分からない」

 

頼みの綱だった〈フラクシナス〉に通信出来ないとなると、精霊攻略を三人だけで行う事になる。

今までにないハプニングに不安で蓮の表情が歪んだ。

 

「…大丈夫だ、私も協力する。それに、君とシンならきっと出来るさ」

 

蓮も不安を察して、令音がポジティブな言葉をかけてくるが、その表情は笑顔ではなく、いつも通りの眠たそうな目だったので気持ちが明るくなったかと聞かれれば微妙なところだ。

 

「…一つ気になったのだが、君はどのような人を尊敬…いや、どんな女性が好みなんだい?」

 

令音が話題を変えるように質問をしてきた。だが、その質問に蓮は少し頭を悩ませる。

 

「好みのタイプね…まあ、とりあえず頭のいい奴かな」

 

本気で言っているような、適当に答えているような曖昧な言い方で答える。

その返答に令音は首を傾げる。

 

「…頭がいい、ということは君にチェスで勝った私も好み…ということになるのかい?」

 

「残念ながら、解析官殿攻略ルートは無いから」

 

そんなどうでもいい会話をしていると部屋の外からペタペタという足音が聞こえてきた。足音はこの部屋の前で止まり、続いて扉をコンコンとノックする。

 

「…どうぞ」

 

令音がそう言うと、扉が開く。

そこにはなぜか腰にタオルを一枚だけ巻き、全身びしょ濡れで寒そうにガタガタと肩を抱いて震えている士道がいた。

 

なぜそんな状況になったのか理解出来ない蓮を置き去りに令音は何やら考えを巡らせて、ポンと手を打った。

 

「…夜這いには、まだ早いのではないかな?」

 

「いや、いろいろとおかしいだろ」

 

令音にそうツッコミを入れ、蓮は指をパチリと鳴らす。すると、温かい空気が士道を包み込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

士道は令音に任せて自分の部屋に帰った蓮は、本を読みながら時間を潰していた。

読んでいる本は、芥川(あくたがわ)龍之介(りゅうのすけ)羅生門(らしょうもん)だ。

 

「善と悪か…」

 

この本は仕事がクビになった若い男が主人公だ。夜にその男は羅生門という門の下で真面目に生きるか、悪い事をして生きていくか悩んでいた。

その時、酷く痩せた老婆と出会う。その老婆に男が「こんな所で何をしている」と尋ねると、死人の髪の毛でカツラを作っているという。

 

当然ながら、そんなのは許される行為ではない。さらに老婆は蛇の切身を魚だと偽って売っているなどの悪事を告白する。

「生きるためには仕方ない」と言う老婆に、男は「ならば、その通りに生きさせてもらおう」と考え、その老婆の着物を奪い、暗闇に消えていった。という内容だ。

 

この話は、悩んでいた時に老婆と出会ってしまったから、男は悪の道に進んでしまった。なら、もしここで善人と出会っていたなら男は真面目に生きていったのだろうか。そんな疑問を持ってしまう内容だ。

 

本を閉じ、そう考えているとドアをコンコンとノックされた。一体誰かと思い、ドアを開くとそこには意外な人物がいた。

 

「ほほう、自ら我を出迎えるとは、礼儀をわかっておるな」

 

「訪問。蓮に会いに来ました」

 

そこには浴衣を着た耶具矢と夕弦がいた。令音の言う通り、二人からのアプローチがきた。だが、二人ともやけに自信があるように見えるのが気になる。

 

「まあ、とりあえず部屋に入れ。ただお話しに来たってわけじゃないんだろ?」

 

「ふん、部屋に入れるからには存分にもてなすのだぞ」

 

「謝罪。耶具矢は初めて男性の部屋に入るので緊張しているのです。どうか多めに見てください」

 

「べ、別に緊張してないから!全然いつも通りだし!」

 

「失礼。お邪魔させてもらいます」

 

耶具矢を無視して、夕弦は部屋に上がりこむ。とりあえず、お菓子を出してやり、机を挟んで座る。

 

「令音から聞いたぞ。蓮、貴様は知溢れる者を求めているそうだな?」

 

笑みを浮かべながら耶具矢は言うが、正直な所、そう聞かれれば少し頭を傾げる問いだ。

それよりも令音のいつの間に二人に教えたのかが気になる。

 

「なるほど、つまり俺と知恵比べがしたい…という意味か?」

 

「首肯。主が眷属よりダメでは話になりません。簡単なものでいいのでどうか勝負してくれませんか?」

 

まあ暇潰しにはなると思い、その勝負は受ける事にした。

だが、簡単なものでいいと言われても、どういった勝負をするか悩み、部屋に視線を泳がせているとある物(・・・・)を発見した。

 

「よし、じゃあアレで勝負するか」

 

そう言って指差す先には、八×八のマス目で行われるゲーム。部屋に備え付けられていた『オセロ』のコマがあった。

 

 

 

二人の承諾を得て、勝負はこれに決まった。このゲームはシンプルだが、だからこそ頭を使うゲームだ。

最初の相手は耶具矢で、蓮がクロ、耶具矢はシロで勝負をスタートする事、十分後…

 

「ば、ばかな…この我が…」

 

耶具矢は信じられないといった様子で盤面を見ていた。

そこはクロのコマで埋め尽くされており、シロなど一つもない。

 

「残念だったな。コマを積極的に取りに行くのは良いんだが、もう少し細い所を見なきゃな」

 

最初は一度に二個取るなど調子が良かったものの、後半に入ると取れる数が減少していき、挙げ句の果てにどこにも置けないなどという状態にハマり、詰んでしまった。

 

「溜息。耶具矢は目の前の事ばかり見ているから負けるのです」

 

試合を見ていた夕弦はやれやれと呆れている。耶具矢はそんな夕弦に悔しいと様子の顔を向ける。

 

「ぐぐぐ…じゃあ夕弦は勝てるっていうの?」

 

「解説。耶具矢は基本がなっていません。オセロで重要なのは四辺の角。ここだけは自分が取ってしまえば相手に取られない安全地帯なのです」

 

コマがコロコロ変わるオセロだが、盤面の角だけはどんなに頑張っても取る事が出来ない箇所…つまり、ここを取れるかで試合の流れが大きく変わってくる。

 

「勝負。次は夕弦の番です。耶具矢のように簡単にはいきません」

 

耶具矢と場所を入れ替えて、自信満々で勝負を挑んでくる夕弦。この時の夕弦は自分は耶具矢のように惨敗はしない、そう信じていた。

 

 

さらに十分後…

 

 

「衝撃。これは…」

 

そう漏らす夕弦の目の前には、角の四つ以外、全てクロに染まった盤面があった。

勝負前に言った通り、夕弦は角を意識し、取れるチャンスは逃さずに確保したが四つ目の角を取った頃には盤面のほとんどがクロに染まっており、抵抗らしい抵抗は全く出来ずに終わってしまった。

 

「鬼ごっこで足が速いと確かに有利にはなる。だが、それは必勝法じゃない。それと同じように角を取ったからって必ず勝てるって訳じゃないんだよ」

 

そう言って蓮は立ち上がり、旅行バッグの中を漁り、服を取り出していく。

 

「そんじゃ、俺は風呂に入ってくるから。オセロで勝ったら次はチェス。それに勝ったら下につくつもりだから、そういう事で」

 

サラッと絶望的な事を告げて、蓮は部屋を出て行く。扉が閉じた後、耶具矢と夕弦はガクッと肩を落とした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

海に太陽が沈んでいく時間、巨大な浴槽はたった一人の貸切状態だった。

 

「ふう…悪くないな…」

 

肩まで湯に浸かり、蓮は小さく息をつく。

他の生徒の姿が見えないのは、普通の生徒が入浴するのとは別の特別な時間だからだ。言い方を変えれば蓮専用の時間とも言える。

誰もいないのは都合がいいのだが、この時間を用意したのは〈フラクシナス〉ではないと令音が言っていたのが気になるところだ。

 

「まあ、どうでもいいか。そんな事は」

 

結果よければすべてよし。この時間があったからこそ、修学旅行に行けたといっても過言ではない。

 

目の前には綺麗な夕陽が見える。蓮は周りに誰もいない事、誰も見ていないのを確認すると、右手に〈バスター〉を纏い、夕陽に伸ばした。

当然だが、太陽はこんな手に収まるほど小さくなどない。だが、今は確かに手に収まっていた。

 

(今、あの人は何をしているのか…)

 

ふとそんな事を考えてみた。あの人とはイギリスのDEMにいるとある人間だ。

DEMに拾われた時、蓮には一人も肉親がいなかった。もちろん母親も。

 

今の時代、親がいないとなれば行動に支障が出る。そこで一人の女性が蓮の戸籍上の母親となった。

しかし、その女性とは幼い蓮にまともに構ってくれた事も遊んでくれた事もなかった。きっと、この関係は戸籍上だけのものだと、蓮以上に彼女が一番分かっていたのだろう。

 

ある程度大きくなると、DEMに興味を持つようになり、出来る範囲でこの会社の手伝いをするようになった。そこでその女性がDEMのとても優秀な魔術師(ウィザード)であると知った。

 

これを知った時、『だから自分に構ってくれなかったんだ』と勝手に解釈した。その時はもう一緒に遊んで欲しいとなんて考えてなかったし、そんな考えはその人が母親となって一週間もしないうちに消え去っていた。

 

基本、蓮の事は放置していたが、別に彼女は蓮の事を鬱陶しがっていたわけではないし、欲しいと言ったものは用意してくれる。

それ故分からなかった。自分はどう思われていたのかが(・・・・・・・・・・・・・・)

 

(まあ、あの人の事だ。元気にしてるだろ。最強最強うるさい人だったし)

 

その言葉で考えを終わらせ、目を閉じて何も考えないようにする。

だが、彼は知らない。嵐がすぐそばまで迫っている事に。

 

 

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