デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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26話

風呂を堪能し、疲れが取れた後、令音から士道の世話をするように頼まれた。なんでも海にダイブした所為で風邪を引いてしまう恐れがあるそうだ。

それでは今後の耶具矢と夕弦の攻略に支障が出てしまうため、士道を休ませてやってほしいとの事だ。

 

「海にダイブって何があったんだ?」

 

「いや…まあ、いろいろとあってな」

 

感染を防ぐという理由で教員用の部屋で寝込んでいる士道の横で、蓮はリンゴや梨などを切りながら士道に問うが歯切れの悪い答えが返ってくる。どうやら深入りされると困る様子だ。

 

「しかし、あの二人はどうするんだ?解析官殿が言うには、もしどっちかの霊力を封印したらもう片方が気づくって話だが」

 

二人は元は一人の精霊だったため、片方に異常が起きれば、もう片方にもそれが伝わってしまうらしい。

だが、士道は絶望的と言った顔はしていない。

 

「それは令音さんに策があるって言っていたが…」

 

「ふーん、ま、他に手は思いつかないし、それを信じてみるしかないか」

 

蓮はオレンジを差し出すように持った手を士道の前まで持ってくる。オレンジは皮が切っているわけではなく、あくまで普通に売ってあるのと同じだ。この行動の真意が理解出来ず、士道は頭に?を浮かべる。

 

「まあ見てろよ」

 

そのままオレンジを潰れない程度の力で握りしめる。すると、シャリシャリと音が聞こえてきた。

その音は十秒ほど鳴り続いて消えた。士道は何の音かと疑問を持ったが、まるで心を読んだかのように、蓮は手に持ったオレンジの上の部分を切り落とす。

 

「え?これって…」

 

オレンジの断面図に光が反射する果肉はなく、その代わり、冷気を放つシャーベットが存在していた。これには士道は驚きの声を漏らす。

 

「風邪を引かれたら困るからな。これを食べて元気出せよ」

 

そう言って蓮はスプーンと一緒にシャーベットとなったオレンジを差し出してくる。驚きながらもお礼を言ってそれを受け取る。

やはり、出来立てで新鮮なのもあり、味はとても良かった。

 

「思ったんだが、なんで解析官殿は俺に看病をさせるんだ?自分でやればいいのに」

 

「ああ、それは…」

 

士道の言葉の途中でいきなり、部屋の扉が開き、浴衣姿の耶具矢と夕弦が姿を現した。

 

「くく…士道。貴様、どうやら風邪を引いたらしいな。あの程度で身体を病むとは貧弱な」

 

「看病。夕弦が助けに来てあげました。これでもう安心です」

 

何やら自信満々の二人が部屋に上がってくるのを見て、何故自分が呼ばれたか理解出来た。

令音は二人の行動パターンを調べられる、耶具矢と夕弦は士道と蓮にアプローチ出来るとお互い得する事になる。

 

「ほう、蓮もいたか。知略の遊戯では負けたが、今回こそ我の魅力の虜にしてやろう!」

 

別に蓮は病人でないのだが、これは二人に何かをされるというふうに受け止めていいのかと悩んでしまった。

 

「否定。蓮は夕弦の虜となるのです。そして、夕弦に(ひざまず)き、忠誠を誓うのです」

 

「ほう、かなり自信があるようだな。ならその理由を見せてもらうぞ!」

 

こうして、士道の看病対決?の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、蓮は記憶にある限り、ほとんど風邪や病気になった事がない。

病気になり難い体質であるからなのかは分からないが、とにかく、健康そのものの身体だ。

 

なので、もし、『風邪や病気になった人がいたら、どう看病する?』と質問されれば少し頭を悩ませてしまうかもしれない。

 

「ちょ、ちょっと待て!なんで布団に入ってくるんだよ!?」

 

「くく…風邪の時はこのように温かくするのだろう?」

 

それでも少なくとも、病人と一緒の布団に入って温かくすると考えた事も、それが正しいと思った事は一度もない。

 

「我が眷属の話によると、朝起きたら御主が布団にいたと聞いたぞ」

 

「ほお…後で詳しい話を聞こうじゃないか、士道」

 

耶具矢の言う眷属が十香であるとすぐに気づいた蓮は、指をポキポキと鳴らしながら士道に冷たい視線を向ける。

 

「ま、待てって!それにはちゃんと理由があるんだよ!」

 

普段、蓮は十香を実の妹のように可愛がっているのを士道は知っている。もし十香に何かしたと知られたら、それは龍の逆鱗に触れると言っても過言ではない。

そんな士道の気持ちも露知らず、耶具矢は布団への進行を止めずにいる。

 

そんな攻防戦が繰り広げられる中、夕弦はゆったりとした動作で士道に近づくといきなり布団を剥ぎ取った。

 

「うわっ!いきなり何するんだよ!」

 

夕弦の突然の奇行に士道は驚きの声を上げるが、それを無視し、夕弦は士道の胸元を凝視する。

 

「指摘。士道は発汗しています。それでは気化熱により、体温が奪われます」

 

ここで夕弦はやっとまともな事を言ってくれた。当たり前のはずなのに蓮はそれに少し感動している自分がいるの感じる。

タオルでも使って拭うのかと思ったが、夕弦はそれらしいものを持っている様子はない。

 

そして夕弦は何を考えたのか、士道の浴衣の胸元をはだけさせ、そこに舌を這わせ始めた。そのせいで士道から女の子のような声が出る。

 

「ちょちょちょ、ちょっと!あんた何してんのよ!」

 

「疑問。汗を拭うにはこの方法が一番だと師に教わったのですが…」

 

(…あの変態女か)

 

看病のはずが、カオスな現場となる布団。言いたい事はいろいろとあるのだが、二人は善意で行っているのでそこに口出ししようとは思わない。

すると、夕弦が何やら考えるような仕草をすると、立ち上がり自分の浴衣の帯を解いた。

 

『なっ…!』

 

「おー、大胆」

 

解いた浴衣からはお揃いの下着が覗き、それに士道と耶具矢は狼狽の声を上げる。夕弦は士道のその反応に満足したらしく、次は蓮に向かって浴衣の裾を上げたりなどの誘惑するような仕草をしてくる。

 

しかし、蓮は驚きの声を上げるどころか、視線も逸らさずに真っ直ぐに夕弦を見つめてくる。

そのせいで、最初は何ともなかったが段々と夕弦に羞恥心が追いつき始めた。

 

「しゅ、羞恥。それほど見られるとこちらが恥ずかしくなってきてしまいます」

 

「ん?あー、綺麗で刺激的だと思うよ。まあ、感想はそれだけかな」

 

「傷心。夕弦の女の子としての部分が少し傷付きました…」

 

ショボンとした様子で布団に潜り込む夕弦を見て、耶具矢は完全に後手に回ってしまった。

その状態を理解し、悔しいそうにぐぐぐと歯ぎしりをする。

 

「な、舐めんなぁぁ!」

 

そして勇気を出して、自分の浴衣の帯を取り去る。

 

「な、なんで裸なんだよっ!!」

 

夕弦は下着とブラを着けていたが、耶具矢は何もつけていなかった。士道は慌てて目を瞑る。

 

「え?浴衣ってこういうものじゃないの?ていうか、蓮は驚くぐらいはしなさいよ!女としての自信が無くなるじゃない!」

 

なぜか怒りの矛先がこちらがに向いてきたのだが、ここまでくると反応するのも面倒くさくなった。

蓮はリンゴを一つ手に取ると、皮切り三等分に分けた実を士道、耶具矢、夕弦の口に押し込んだ。

 

「むぐ…」

 

「はぐ…」

 

「咀嚼。モグモグ…」

 

リンゴを渡した後は、そのまま歩いて行き、部屋を出るドアに手をかける。

 

「それじゃ、もう帰るから。後は仲良くやっといて」

 

「ま、まさか、この状況を放置していくのか…」

 

「士道なら何とか出来るよ。グッバイ」

 

「やめてぇ!置いていかないでぇぇ!!」

 

叫ぶ士道だったが、無情にもそのまま出て行ってしまい、ドアがパタンと音を立てて閉じた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二日目は自由時間として、海の時間だ。この修学旅行で最大の楽しみとも言える事だが、士道には気楽に遊ぶことなど出来ない。

 

そして、今は令音が手配したプライベートビーチの砂浜に元気無く座っていた。

 

「はあ…海は綺麗だな…」

 

「そんなもうすぐ死ぬ人間みたいに言うなよ」

 

まるで老人のように力なく呟く士道の独り言に後ろからツッコミが入り、後ろを振り向くと呆れた様子の蓮がおり、その格好は海なのにもかかわらず、水着にパーカーを羽織り、出来る限り、肌の露出を避けていた。

 

普段はあまり肌を出さないせいで、体つきなどは分からなかったが、こう見てみると士道と同じような体型で筋肉があるようには見えない。

だとしたら、この身体のどこにあんな重い剣を振り回す力があるのかとても不思議だ。

 

「どうしたんだ?人の身体をジロジロ見て」

 

「あ、いや、別になんでもない…」

 

「まあいいや。解析官殿から話は聞いてるぞ。昨日は随分と騒いだらしいな」

 

そう言う蓮の視線は士道の胸元の引っ掻き傷に向いている。嫌味と言うより、同情といった様子だ。

 

「これじゃ海にも入れねぇよ。はあ…どうすればいいんだか…」

 

「まあ、俺も本来なら海に来る予定はなかったんだが、解析官殿がプライベートビーチを借りたって言ったからさ、人目を気にせずに遊べて気が楽だ」

 

まあ、頑張れと応援の言葉をかけて、蓮は海へ歩いていった。

士道はそれを特に理由もなく眺める。だが、蓮は海水が足首の高さまで来てもパーカーを脱ごうとはしなかった。

 

何を考えているのかと思った瞬間、蓮はいきなりジャンプして宙に舞う。

しかし、あくまで普通のジャンプであり、約一秒ほど飛んだ後、再び海面に向かって落ちていく。

 

だが、海水に足を突っ込む事は無く、まるで見えない板でもあるかのように水面に立つ(・・・・・)

それを見て、我が目を疑う士道だったが、よく見ると、波打ち際だというのに蓮の足元の海水が動いていない(・・・・・・)のに気がつく。凍りついているのだ(・・・・・・・・・)

 

〈ウィトリク〉…蓮が持つ武器の一つであり、水と氷を操れる能力がある。

この力で凍らせれば、泳ぐどころか濡れる事もなく沖まで行くことも可能だろう。

 

しっかりと足元が凍っているのを確認した蓮は、そのままスケートを滑るように沖の方に向かっていった。もし一般人に見られたなら大パニックになる行為だが、ここは令音が借りたプライベートビーチ。人目は気にする必要はない。

お世辞にも普通とは言えない海の楽しみ方を見て、士道は開いた口が塞がらない思いをするのだった。

 

 

 

ある程度、砂浜から離れた場所まで歩いてきた蓮は、ふと立ち止まり空を見上げた。綺麗な青色の空と白い雲が漂っている。

イギリスにいた頃は海になど一度も行った事は無く、軽い感動を覚えている自分がいた。

 

ある程度空を見た後、〈ウィトリク〉の能力を操作して自分が立っている足元を自分ごと海に沈めるが、海水が蓮を濡らすことはなく、周りは透明の膜に覆われて海の中が断面図のように見える。

 

周りには泳いでいる魚の姿が見える。蓮はポケットからソーセージを取り出すとそれを千切り、海の中に放る。

すると、魚が群がり、小さな口でソーセージを啄んでいく。そんな光景を見て、小さく微笑んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ある程度時間が経過して砂浜に帰ると、令音、士道、耶具矢、夕弦。そして何故か十香、折紙がビーチバレーコートにいた。

令音がいるという事は、何かあるのだろうと考え軽い興味心で近づく。

 

「解析官殿、なーにしてるの?」

 

「おお!レンではないか!今までどこにいたのだ?」

 

蓮に気がついた十香が近づいて来たので頭を優しく撫でて落ち着かせる。

令音は手で影を作り、こちらに振り向くがフラフラとしておりいつ倒れてもおかしくない状態だ。

 

「…ああ、君か。ちょうどビーチバレーをしようと思ってチーム分けが済んだところなんだ」

 

「まあ、ここにいるって事はそうだろうと思ってたけど、チームはどうなったの?」

 

「…シン、耶具矢、夕弦が向こう側で後はこっちだ」

 

「あの二人がねぇ…」

 

不安要素の塊のチームを伝えられ渋い顔をするが、あの二人に士道という組み合わせも令音の仕組んだ事なのだろう。

 

「…せっかく来たんだ。君にも参加してもらおうかな」

 

「え?でも俺がどっちかに入ったら、人数に偏りが生じるんじゃあ…」

 

「…ふむ、じゃあこうしよう。君は運動神経がいいからシン達のチームで助っ人をしてほしい。ピンチの時入ってくる切り札のような感じだ」

 

つまり、普段はコートに入ってないがいざという時にプレイできる。という意味だろう。だが、耶具矢と夕弦はそれにあまり納得してない様子だ。

 

「ふん、我にそんなハンデなど必要ない。蓮は貴様らにくれてやるぞ」

 

「拒否。そんなものは必要ありません」

 

「…ふむ、一応、その間だけはレンは君たちの"手下"という事になるのだがね」

 

令音のその一言に耶具矢と夕弦は耳をピクリと動かす。

 

「ほ、ほう。そこまで言うならその条件で勝負してやらないこともないぞ」

 

「受託。そのルールでやりましょう。今すぐ始めましょう」

 

さっきまでとは百八十度態度が変わり、その条件で試合を始めようとする二人。蓮は文句を込めた視線を送るが、令音は隈の出来た目で見つめ返してくるだけだった。

 

 

「よし!ではいくぞっ!」

 

まずは十香が始まりのサーブを放つ。意外と普通の始まり方のため思ったより、苦労は少ないのではないかと予想して蓮は肩の力を少し抜くが…。

 

「なっ!?」

 

十香の放ったボールがネットを簡単に突き破り、砂浜の上でコマのように踊って停止したのを見て、その考えはすぐに捨てた。

それを放った当人である十香はガッツポーズをしている。

 

「ふふん、二人ともへたっぴーだな!」

 

「そう思うのはルールを理解していないあなただけ」

 

折紙のいう事に耳を貸さず、嬉しそうにする十香だが、その一言が耶具矢と夕弦の対抗心に火をつけた。

 

「ほう…我が眷属といえど今の一言は見過ごすことは出来んな」

 

「対抗。こちらにも手はあります」

 

そう言って二人は同時にコートの外にいる蓮に視線を送る。当然だが、自分がこんなに早く呼ばれる事になるとは流石に予想出来なかった。

しかし、拒む事はせずに士道と交代でコート内に入っていく。その時、士道が安心したような顔をしたのを見逃さなかった。

 

「ようやく来たか、今だけとはいえ我と契約を交わせることを誇りに思うが良いぞ。クク…」

 

「期待。蓮が来たからにはもう負けはありません」

 

よく分からないが、二人からやたら頼りにされていることだけは伝わってくる。

試合はもう一度十香のサーブからスタートだ。

 

「む、レンが入ってくるとは。だが、手加減はせぬぞ。おりゃ!!」

 

十香の言う通り、さっきと同じの手加減無しのサーブが繰り出される。だが、それに耶具矢がそれに滑り込みボールを上に跳ね上がる。

 

「おりゃ!夕弦!!」

 

「賞賛。ナイスです、耶具矢」

 

耶具矢が上に飛ばしたボールを夕弦がレシーブして、そこそこの高さまで上げる。

 

そこで蓮がその高さまでジャンプすると、まるで某超次元サッカーに出てきそうな強烈なオーバーヘッドキックを繰り出し、ボールを砂浜に叩きつけた。

ボールは砂浜に半分ほど埋まり、煙を出して止まった。

 

「うっひょー!あんたやるじゃない!」

 

「絶賛。とても素晴らしかったです」

 

「うむ!やはりレンは凄いな!」

 

蓮が繰り出したスマッシュ(?)を耶具矢、夕弦。そして敵チームであるはずの十香が褒める。

 

「あれ?バレーってこういうスポーツだったっけ?」

 

いくらルールを気にしてないお遊びの試合だとしても、士道はその疑問を抱かずにいられなかった。

 

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