デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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27話

お世辞にも普通とは言えないバレーが終わり、蓮は人気のない砂浜に座り、目の前に広がる青い海を眺めていた。

海は大きな変化をしないのに、不思議と蓮を退屈させることはなく、彼をここに留める。

 

そこで蓮はある事に気がつく。自分に誰かが向かってくる気配に。

 

「蓮よ。こんな所で何をしておるのだ?もしや、貴様も"奴ら"の気配を感じたのか?」

 

話しかけてきたのは白レースに飾られた黒いビキニを着た耶具矢だ。

相変わらずの耶具矢に、蓮は苦笑いを浮かべ立ち上がり視線を合わせる。

 

「生憎、感じたのは耶具矢(お前)の気配だよ。それで、何の用だ?こんな人気のない所に来たんだから、襲ってほしいのか?」

 

「ちょ!違うし!そんな理由じゃないんだから!」

 

耶具矢は顔を真っ赤にし、身体を守るように腕で隠す。それを見て、蓮はやれやれと言った顔をする。

ついつい話を曲げてしまうのは自分の悪い癖だと反省し、改めて耶具矢に顔を向ける。

 

「それで、こんな所に来たからには何か理由があるんだろ?」

 

「わ、私があんたに会いに来たのは明日までに決着がつく、この勝負に話があったからよ」

 

ここで耶具矢が『自分を選んでくれ』なんていう賄賂紛いな事をするのかと予想したが、その予想があっさりと裏切られることになる。

 

「あんたさ、夕弦を選んでよ」

 

一瞬、声を上げそうになるが、それに耐え目を見開く程度に留める。蓮はあまり驚いた様子を見せたつもりは無かったが、動揺は耶具矢に伝わったらしく溜息をするように軽く微笑んだ。

 

「あんたもそんな顔するんだ…。いやさ、夕弦って超美人じゃん。胸も大きいし、少し無愛想な所が玉に瑕だけどそれ以上に可愛い所や良い所がたくさんあるのよ」

 

そこまで言った所で耶具矢は『それに…』と言ってさらに言葉を続ける。

 

「夕弦だって、士道や…あんたみたいな良い男が付いていたら、しっかりと自信が持てると思うのよ」

 

ただ夕弦(相手)の事を考えている耶具矢に言いたい事はたくさんあった。しかし、蓮が聞いた事は一つだけだった。

 

「耶具矢、この勝負で負けた方は相手に取り込まれて消えてしまうんだろ?お前は死ぬ事が怖くないのか(・・・・・・・・・・)

 

それを聞いた耶具矢は、肩を竦めて少し笑った。

 

「そりゃあ怖くないって言ったら嘘になるけど、夕弦が幸せにこれからを生きれるって思うと平気よ。…我との盟約はしかと伝えたぞ。これを違えた時、この代償は命で払ってもらうぞ!」

 

最後に思い出したようにポーズと台詞を言った後、耶具矢は去っていく。その背中を見て、蓮は小さく呟く。

 

「この世で死を克服できる生物なんていないんだよ、耶具矢。」

 

 

 

 

耶具矢との会話のせいでどうも海を見る気分で無くなってしまったので、気分転換とばかりに飲み物を買いに行く事にした。

浜辺から少し離れた自販機でお金を入れ、スポーツ飲料を購入し、戻ろうとした時。

 

「制止。止まってください」

 

声を掛けられそっちに顔を向ける。そこには耶具矢とは白黒が反転した水着を着た夕弦がいた。

 

「夕弦か…こんな所にどうしたんだ?飲み物が欲しいなら買ってやるぞ」

 

「否定。夕弦は飲み物が欲しくてここに来たのではありません。蓮にお願いがあって来たのです」

 

夕弦の"お願い"という言葉にわずかに眉をピクリと動く。しかし、夕弦はそれに気づかずに言葉を続ける。

 

「請願。この勝負、是非耶具矢を選んでください」

 

「耶具矢を…か?」

 

「復唱。夕弦ではなく耶具矢を…です」

 

声も出ない…とはまさにこの事だろう。耶具矢と夕弦は、相手を救うため、全く同じ事を頼んで来たのだ。 それを分かっていても蓮はこの質問を夕弦に言った。

 

「そうしたらお前は消えるんだぞ、それで良いのか?」

 

「首肯。それでも耶具矢が生きてくれるならそれでも構いません。耶具矢にはこの世界の事をもっと知って欲しいのです。そのためなら恐怖はありません」

 

耶具矢と全く同じ願いを言い、同じ返答をする夕弦に何も言えなかった。これほどお互いを大切に思っているのに、生き残るのは片方だけという定めがとても残酷に思えてしまう。

 

「念押。明日は耶具矢を選ぶと言ってください。さもなくば蓮には一生太陽を拝めない人生が待っています」

 

最後に何気に恐ろしい事を言って夕弦は去っていく。蓮は手に持った飲み物を強く握ってその背中を見つめていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時が経過し、夕食後の自由時間。外は夜の帳が下りて暗闇となっている。蓮は部屋に寝転がり、意味もなく宙を眺めていた。

すると、部屋のドアがコンコンとノックされる。誰が来たのか確認するためにドアに向かうが、蓮には誰が来たのか、おおよそ検討はついていた。

 

ドアを開けると、やはりそこには暗い顔をした士道がいる。

 

「少し、話したい事があるんだ」

 

その顔に似合うほど暗い様子…というより悩んだ様子でそう言う。士道がこんなのも耶具矢と夕弦に言われたあの事が原因なのだろう。

 

「言いたい事は大体分かるよ。あの二人の勝敗に関してだろ?」

 

その言葉に士道の顔が沈んだ感じから、驚愕といった様子に変わる。

 

「まさか…お前も二人から言われたのか?」

 

「…場所を変えよう。あの二人には聞かれたくない話だ」

 

旅館の中での話は聞かれる恐れがあるため、少し手間がかかるが外に抜け出して話すのが安全そうと判断する。

外出は許可されていないが、令音に言えば何とかなるだろう。それに言い方を変えれば人がいないという考え方も出来る。

 

 

 

「だいたい話は分かっているよ。あの二人がお互いを生かすために相手を選べって言ってきたんだろ」

 

夜の砂浜を歩きながら蓮は話を切り出す。士道はそれを聞いて首を縦に振って首肯する。

 

「…蓮は明日、あの二人のどっちを選ぶんだ?」

 

もしここで蓮が片方を選ぶと、士道もその方を選ぶと直感的に分かった。士道は今、悩んでいる。そのためその判断を他人に委ねようとする。その行動はのちに後悔しか残らない事を蓮は知っていた。

 

「…俺は精霊を救う組織、〈ラタトスク〉の一員で、司令官はお前の妹である五河 琴里だ。その司令官殿から『無茶する兄貴を助けてやってくれ』っていう命令をされている」

 

士道の質問には答えず、自分の現状を言い聞かせるように説明してくる。

 

「だから、その質問に答えると、『お前の答えに従う』だな」

 

「はは…なんだよそりゃあ…」

 

予想した答えのはるか斜め上をいく答えに呆れた声が士道の口から漏れる。しかし、蓮はさらに言葉を続ける。

 

「士道、お前はどうしたい(・・・・・)?耶具矢を救いたいのか?夕弦を救いたいのか?それとも…。俺はそれに協力するだけだ」

 

「どうしたいって…それは…」

 

よく考えてみると、どちらかを選ぶという言葉に惑わされ自分なりの答えを考える暇が無かった。その答えを考えていると、後ろから声が聞こえ、振り向くと浴衣姿の十香がこちらに走ってくる。

 

「十香?なんでこんな所に…」

 

「二人が居ないから、どこに行ったか知らないかと令音に聞いたら外に出かけたと聞いて、追いかけてきたのだ。何やら話し込んでいたようだがどのような話をしていたのだ?」

 

「ああ、実はな…」

 

士道は十香に勝負の内容は伏せながら、耶具矢と夕弦が精霊であり、お互い生き残りをかけた勝負をしている事。そして二人が相手を選ぶように頼んできた事を説明する。それを聞いた十香は難しそうな顔を浮かべている。

 

「ふむ…そうなのか…。それはレンにも同じ事をしてきたのか?」

 

十香の問いに首を振って首肯する。それを見て十香は考え込むように唸る。その時。

 

「しっ!!」

 

蓮がいきなり足を止め、士道達に静かにするような仕草をする。何事かと思い、蓮の視線の先を見て士道は息を詰まらせた。

 

「なっ!耶具矢!」

 

そこには顔を俯けた耶具矢が立っていた。一瞬、もしかしたら聞かれてなかったかと淡い希望を抱くが、次に耶具矢が発した言葉でそんな考えては捨てた。

 

「私を…選べですって…何言ってんのよ…」

 

憤怒を孕んだ声音に思わず顔が強張るのが分かる。士道がそんな耶具矢を落ち着かせようとするが効果をあるようには見えない。

蓮はこの状況をどうしようか悩むが、運が悪い事に火に油を注ぐ事態が起こってしまう。

 

「なっ…夕弦!?」

 

後ろにいた士道からこの場に一番いて欲しくない人物の名前が聞こえ、後ろを振り向く。そこには耶具矢と同じく顔を俯かせた夕弦が立っていた。その様子から、夕弦も話を聞いていた事が分かる。

 

「復唱…夕弦を選べと…耶具矢はそう言ったのですか?」

 

「ヤバイ!二人共伏せろ!!」

 

嫌な予感を感じて士道と十香を掴むと、無理矢理地に伏せさせる。それと同時に凄まじい風が吹き荒れる。そして、精霊がその力を振るう時に感じる、あの不思議な感覚だ。

 

耶具矢と夕弦は最初出会った時と同じ霊装を纏い、耶具矢は右肩に、夕弦は左肩に無機質な翼と腕に手甲が構築されて、それぞれ巨大な槍と菱形の刃のついたペンデュラムが握られる。精霊の武器、天使だ。

 

二人は嵐のような風を撒き散らし、空に上がりお互いに刃を向けあう。出来るのなら、今すぐにこの戦いを止めたいのだが、今の蓮には空にいる二人の元に行き、止めさせる手段は残念ながらない。声を出そうにもこの風の中では届くかすら怪しい。

 

何かに手はないかと考える蓮に何やら妙な音が聞こえた。風の吹き荒れる音や何かが吹き飛ばされた音ではない。例えるなら機械音のような無機質な音だ。

 

音の聞こえた方向に顔を向けて、蓮は心臓が止まったような錯覚を感じる。

そこには金属の装甲を纏い、頭部はフルフェイスヘルメットになっていて顔は無く、人型をしているが腕部がアンバランスなほど大きい。

そんな人形が十体ほど並び立っていた。

 

「な、なんだ…こいつらは…ッ!」

 

耶具矢と夕弦に呼びかけていた士道もこの存在に気がつき、驚きと警戒を合わせたような声を出す。だが、蓮は知っていた。この人形達の名前を…。

 

「バンダー…スナッチ…」

 

その呟きは、風にかき消されて士道や十香には届かない。だが、士道の問いに蓮では無く、別の存在が答えるのだった。

 

「〈バンダースナッチ〉…と言っても、あなたには分からないでしょうか」

 

〈バンダースナッチ〉の陰から、この修学旅行の随行カメラマンであるエレン・メイザースが姿を見せた。士道と十香はいきなりのエレンの出現に驚いた様子だが、蓮だけはそれに小さく息を詰まらせ、士道の前に一歩後ずさる。

 

「あの二人が〈ベルセルク〉という事にも驚きましたが、あなたがこのような茶番をしているのにも十分驚きましたよ」

 

小馬鹿にするように言うエレンの見つめる先には蓮がいた。

 

「メイザース執行部長…」

 

その会話を聞いて士道は困惑の視線を向けるが、蓮は答える事無く、ずっと視線をエレンに向けている。

 

「あなたがそこらにいる普通の少女に心を許すとは思えません。その理由を見せてもらいます」

 

エレンのその言葉を合図に、〈バンダースナッチ〉が十香に向かって襲いかかる。蓮はすぐに左手に〈レッドクイーン〉を展開して、これらを撃破しようとするが、それより早く十香が限定霊装を顕現させ、〈鏖殺公(サンダルフィン)〉で薙ぎはらう。

十香にとっては自分の身を守っただけの行動だが、今の状況では一番の悪手となってしまった。

 

「〈プリンセス〉、やはり本物でしたか…。十香さん、私とともに来てくださいませんか?最高の待遇をお約束します」

 

「ほざけ!誰が貴様なんかと!」

 

エレンの誘いに十香は〈鏖殺公(サンダルフィン)〉を突きつけて拒絶する。だが、エレンは残念と言った様子どころか、まだ手があるとばかりの顔だ。

 

「そうですか。ならやり方を変えましょう。命令します(・・・・・)。〈プリンセス〉を連れてこちらに来てください。」

 

それは十香では無く、蓮に向けての言葉だった。それを聞いた本人は苦渋に満ちた表情だ。

 

「休暇はもう終わりです。〈プリンセス〉と一緒に居たとなると詳しい事情も聞かなければなりません」

 

「…休暇は三年の約束だったはずです…それはあなたの一存で決められる事なんですか?」

 

そう言いながら、蓮はエレンにバレないようにこっそり携帯端末を右手で取り出し、士道に見せるように腕を後ろに回す。画面はメール入力になっており、一切画面を見ず、素早く指を動かして文字を打ち込む。

指が止まった時、画面にはこのように記されていた。

 

『士道、十香を連れて今すぐにここを離れろ』

 

士道はどういう意味なのか、聞きたい衝動に襲われるが、知られたくないからこのように伝えているのだと思い出し、何とか耐える。

文字を打っていた間も、エレンの命令に煙を巻いていたが、それも限界だ。

 

「あなたが〈プリンセス〉と深い仲というのは調べがついています。抜け目ないあなたの事ですから、こう話している今も逃げるように促しているのでしょう」

 

狙いが見抜かれていた。それを知り、蓮の顔に動揺が走る。

 

「さあ?なんの事ですかね」

 

「いつものあなたなら『買いかぶりすぎです』と答えたでしょう。そのような曖昧な回答をしたのは動揺が原因です。その右手は何をしているのですか?」

 

狙いもその手段も完全にばれた。だが、エレンはまるイタズラの犯人を見抜き、くだらないとばかりに呆れた顔だ。

 

「あなたがしたくないと言うなら別に構いません。音に聞こえた〈プリンセス〉がどのようなものか興味があります」

 

エレンが両手を広げると身体が淡い輝きに包まれ、機械の甲冑のようなCRーユニット、〈ペンドラゴン〉を纏い、背中に装備された巨大な剣を抜刀し、十香を挑発するように手招きをする。

 

「舐めるな!」

 

「よせ!十香!!」

 

蓮の忠告も虚しく、十香は地を蹴り、エレンに〈鏖殺公(サンダルフィン)〉を振り下ろす。だが、エレンはそれを片手で楽々と止める。

それを見て十香は苦悶に満ちた顔をするも、攻撃を緩めず、続けるがエレンには傷一つつけられない。

 

「そんなものですか〈プリンセス〉。期待外れです」

 

ここでエレンがレイザーブレイドで初の反撃をする。十香は〈鏖殺公(サンダルフィン)〉を構えて受け止めようとするが、ブレイドと刀身が触れたと同時に剣が砕け散った。

 

目の前の出来事に放心する十香に、さらに攻撃し、十香を吹き飛ばして地面に倒れ伏す。

 

「所詮、こんなレベルですか。早く〈アルバテル〉に運び込んでください」

 

エレンの言葉に従うように〈バンダースナッチ〉が十香に向かっていく。士道も十香の元に駆け寄ろうとしても他の〈バンダースナッチ〉に阻まれて近寄れない。

 

その時、十香に最も近づいていた一体の〈バンダースナッチ〉がいきなりの火花を噴いて地面に倒れる。突然の出来事に士道もエレンもその方向に目を向ける。

 

「…一体なんのつもりですか?」

 

エレンが鋭い眼差しを向ける先には、〈レッドクイーン〉を持ち、十香を守るように前に立っている蓮の姿があった。

 

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