大きな衝撃に吹き飛ばされ、気を失った士道はベッドの上で目が覚めた。だだし瞼を無理矢理開かされペンライトで照らされていたが。
「だ、誰ですか…?」
「ん…? 私は村雨 令音だ。 ここで解析官をやっている…まあ免許は持っていないが簡単な介護ぐらいは出来るから安心してくれ…」
令音と名乗った女性は目に隈があり、さっきから妙にフラフラしている。 介護をするのではなく逆に介護を受けるべき状態でないだろうか?
「あの…ここは?」
「ここは〈フラクシナス〉の医務室だ…気絶してたから運んでおいたんだ…」
「え…? 気絶って… てゆうかフラクシナスってどこですか?」
士道が混乱していると令音は士道に背を向けた。
「ついてきたまえ。 君に紹介したい人がいる。私は説明下手だからその人に聞きたいことを聞くといい」
そう言って、フラフラ歩く令音の後を追いかける。
部屋を出ると狭い廊下のような作りになっており、まるで宇宙船の内部のようだ。
そしてしばらく歩き、通路の突き当たりの電子パネルの付いた部屋の前で令音は足を止めた。
そしてドアが音を鳴らしスライドして開く。
「ここだ…入りたまえ…」
そう言われ中に入ると、そこにはさまざまなコンソールを操作するクルー達とあちこちにあるモニターが目に入る。
まるでアニメの戦艦の司令部のような印象を受けた。
「…連れてきたよ…」
「ご苦労様です」
一番上の艦長席のような所の横に立った青年が軽く礼をした。
「ここの副司令の神無月 恭平と申します。 以後お見知り置きを」
神無月と名乗った青年は耽美小説にでも出てきそうな風貌をしている。
しかし冷音が話しかけたのは神無月ではなかった。
「司令、村雨解析官が戻りました。」
艦長席に神無月が話しかけると椅子が回転し始める。
「歓迎するわ。ようこそ、〈フラクシナス〉へ…」
そしてそこには座っていたのは…
「…琴里?」
服装などに違いはあるが士道の妹の五河 琴里であった…
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして士道は琴里の説明を受けて士道はゆっくりと理解していった。
あの少女は精霊と呼ばれ、世界を殺す厄災と言われている存在であること…
空間震はその精霊が隣界という場所からこちらに来る時の余波ということ…
空を飛んでいた人間達はASTと言われる精霊の殲滅を目的とした部隊だということ…
それらの説明を受けてふと、気になったことを士道は言ってみた。
「それじゃあ、神代もそのASTとかいう奴らの一人なのか?」
その質問に琴里は首を傾げていた。
「神代…? 誰の事?」
「今日、その精霊と戦っていた奴だよ」
その言葉を聞いた途端、琴里は椅子から身を乗り出してきた。
「士道!! あんた、あいつの事を知っているの!?」
「え…あ、ああ 同じクラスメイトだからな…」
士道の答えにブリッジはざわざわと騒ぎ出す。
琴里は大きな声で神無月に指示を出した。
「神無月! その神代という奴の住所を調べてここに連れてきて頂戴!」
「はい! 司令のご命令とあればすぐに…」
そこまで言った時、琴里のキックが神無月の腹を直撃した。
「さっさと行きなさい!」
「は、はい… あと司令… あ、ありがとうございます…」
神無月は恍惚とした表情をしながら司令室を出て行った。 数人のボディーガードを連れながら…
蓮は精霊と戦った後、自分の家に帰ってきていた。 幸いにも空間震は蓮の家から遠い場所で起きたので家に大きな被害は無い。
「はあ〜…長い一日だった…」
家のソファに倒れるように座り込む。今回は結構動いたため、疲れが溜まっている。
制服のまま寝てしまおうかと思った直後、蓮の携帯が鳴った。画面の相手を確認して通話ボタンをタッチした。
「はいはい、なんでしょうか? 社長さん」
『やあ、久しぶりだね。 元気かい?』
まずは社交辞令の挨拶をしてきた。
「まあ、元気かと聞かれたら元気ですが、要件はなんでしょうか?」
『 今日、君は結構派手に暴れたらしいじゃないか?』
この事は精霊と戦ったことを言っているのだろう。
それを言ってくるということは相手にも情報が伝わり、何かしらの手を打ったということだ。
「仕方が無い状況だったので、そうなっちゃったんですよ」
『今回は私が裏から手を回したから良かったが、次からは気をつけてくれ。 こちらにも限界があるからね」
「分かってますよ。反省しておきます」
反省した様子も無い明るい声でそう言った。そんな返事に電話の相手もフフッと小さく笑ったのが聞こえた。
『それと君のいる天宮市は最近、精霊の出現が多いらしい』
「そうなんですか?」
『だからそこのAST部隊が増員の要請をしてきたんだ。』
「まさか…」
蓮が考えている最悪のパターンが頭をよぎる。ここに来たのはそれを避けるために来たというのに、ゆっくり休む暇すらないというのはあまりに悲しすぎることだ。
『だから君がそこの部隊に行って助けてきてやってくれたまえ。』
「やっぱりか…」
『そう言わないでくれ。 挨拶へは天宮駐屯地という場所に行ってくれ。 それじゃあ元気でね』
言いたいことを言った後、相手は電話を切ってしまった。やりたくはないが無視することは出来ない、なんやかんや言いながらやるしか選択肢は無いのだ。
「はあ…めんどくさい」
もうそこで何をするかも分かっている。だからこそ気分が乗らない。
「まあ、頑張るか…」
そう決心した時、家のインターホンが鳴った。
「一体、誰が…」
蓮には家を訪ねて来るような仲の人間はいない。大抵、用事は電話で済んでいるからだ。
不思議に思いながら玄関のドアを開けると、そこには一人の青年とボディーガードらしき人物が合わせて三人いた。
「いきなりすみません。 神代 蓮君ですね?」
「人違いです。」
蓮はドアを閉めようとした。 今までの人生の経験から言わせてもらうと正直、面倒事の香りしかしない。
しかし青年はドアの隙間につま先を入れてドアが閉まらないようにした。
「あなたから話を聞きたいのです。 あなたは今日、精霊と戦いましたね?」
「精霊? なんのことですか?」
知らない振りをして逃れようとするが…
「とぼけなくても大丈夫ですよ。 五河 士道君から話は聞いているので」
「五河 士道? 誰ですか?」
「あなたが今日、精霊から助けた小年の名前ですよ」
「チィ…」
小さく舌打ちすると蓮はドアを開けて外に出てきた。 あれだけ近くで顔を見られたから逃げるのは不可能だろう。
「話は別の場所で聞きたいのですが、よろしいですね?」
「もう好きにしろよ…」
蓮はやけくそ気味にそう言い放った。
その直後、体が無重力に包まれ〈フラクシナス〉に向かって行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
フラクシナスに入った蓮は神無月に案内されて、ある部屋へ向かっていた。
「さあ、お入りください」
そう言われて入った所はフラクシナスの司令部だった。
「か、神代…?」
士道が蓮の姿を確認して驚きの声をあげる。
「ようこそ、フラクシナスへ 私はここの司令官の五河 琴里よ」
一番上の席に座った少女…琴里が挨拶してきた。
「へえ… 最近の空中艦って子供でも司令官になれるのか?」
「誰が子供よ!!」
どうやら相当頭にきたらしく大きな声で怒鳴った。
しかしすぐに平常心を取り戻し、神無月から新しいキャンディを貰い、口に入れる。
「…あなたに聞きたい事はいろいろあるけど、あなたは精霊を知っているの?」
「なんでも知っている訳じゃない。 分かっている事はそっちとあまり変わらないよ」
首を竦め、軽い様子で答える。
「じゃあ次の質問をするわ。 あなたはASTの人間なの?」
「ついさっきにそうなったがな。」
またしてもふざけたように答える。この反応に琴里は苛立ちを募らせている様子だ。
「じゃあ最後の質問をするわ。 あなたが使っていた剣とあの右腕はなんなの?」
この情報こそが琴里が一番知りたかった情報だ。精霊にしては蓮は男だし何より精霊と戦っていた。
質問を聞き、小さくため息をするとなんと制服の上を脱ぎ出した。
「ちょ、ちょっと!! 何やってんのよ!」
蓮は十分イケメンの部類に入る容姿をしている。 その容姿の半裸は琴里にはまだ刺激が強いようだ。すぐに顔を後ろに向けてしまう。
しかし琴里に限らず、冷音以外の女性クルーはみんな手で顔を覆っていた。
しかし数名、指の間からこっそり見ていたのはここだけの話だ。
「まあ、とりあえず見てみろよ。 司令官殿。」
蓮の声が聞こえて顔をゆっくり前に向けて見ると蓮の背中が見えた。 しかしその背中が異様だったのだ。
背中の中央辺りに鮮やか横棒が一つ、背骨に合わせるように上から下にも鮮やかな棒が一つ、それはまるで十字架のような形だった。
「な、なによ。 それは…」
琴里はもちろん、ほかのクルー、 なんと令音までもがそれを見て驚いている。
すると突然、背中の十字架が光り始めて光りの粒子が集まり、大きな剣が現れた。それは精霊と戦うのに使っていた剣と同じ物であった。
蓮はその剣を手に持つと士道の元に歩いていく。
「おい、お前が五河 士道か?」
「え… あ、ああ 俺の事は士道でいいよ… てゆうか一応クラスメイトなんだが…」
「そうだっけ? まあ、どうでもいいや。 お前のせいで面倒ごとに巻き込まれたんだが?」
士道も蓮と同じような状態だが、自分のせいで巻き込まれてしまったので強く反論出来ない。
「ちょいと両手を出せ。」
「え? わ、分かった。」
言われた通りに両手を出すとその上に剣を横向きに持ち上げ士道の手に落とした。
「うお!!」
手に持った瞬間、とてつもない重さが士道の手を襲い、剣と床に手が挟まれ身動きが出来ない。
「重っ! 神代! お前、どうやってこんな物振り回したんだよ!?」
「俺のことも蓮でいいぞ。 どうやってって言われても普通にだよ」
答えになっていない答えを言いながら蓮は剣を持ち上げて、士道の手を救出する。
「ちなみにこの剣の名前は〈レッドクイーン〉て言うから」
レッドクイーンの柄を掴みながらバイクのように手を捻ると剣が大きな音を立てて唸った。
「そんで、次は手だっけ?」
蓮は右手を意識すると右手の皮が崩れるように剥がれていった。皮が剥がれ終わるとあの時と同じ、青い手がある。
蓮は周りを見渡して、神無月を見るとその方向に右手を伸ばした、すると…空中に半透明の青い手が現れ、神無月を持ち上げた。
「え? ど、どうやって!?」
周囲は驚いているが、神無月本人はまるでタイ○ニックのようなポーズをとっている。そしてある程度の高さまで持ち上げると手を離して、神無月を頭から落とした。
普通ならのたうちまわるほどの痛みだが、神無月は…
「はあ〜… この痛みはたまらない…ビクン、ビクン…」
と言いながら嬉しそうな表情をしている。
(後で右手を重点的に洗っておこう…)
そう思ってしまう蓮であった。
「この手は〈バスター〉って呼んでる。 さあ聞かれた事は全部答えたぞ、ほかに質問はあるか?」
「あなたはなんでそんな体質になの?」
質問してきたのは琴里だ。 蓮は〈バスター〉を引っ込めて…
「さあな? 俺にもわからん」
またまた無責任な答えを言った。
「小さい頃の記憶が無いから分からん」
「記憶がない理由は?」
「親が言うには、高熱で倒れて記憶を失ったって聞いてる。 さあ、そっちの質問は全部答えたぞ。 次はこっちの質問に答えてもらおうか」
ゆっくりと蓮は琴里に近づく。
「この組織はなにをするのが目的なんだ?」
「この〈フラクシナス〉は精霊と対話して力を封じ込めるのが目的の組織なの」
「具体的にはなにを?」
「そこに突っ立っている私の兄、士道が精霊に恋をさせて力を封じ込めるわよ」
その説明を聞き、蓮は士道を半信半疑の目で見る。士道は反応に困っている。
「本当にそんな事が出来るのか?」
「出来なかったらこんな組織をつくってないわよ。 だからあなたにも手伝って欲しいのよ」
琴里は真剣な眼差しで蓮をみる。蓮は顎に手を当てて悩む動作をした。
「条件がある」
「何かしら?」
「タダ働きはしない。生憎、なんの対価も無しに働くほどの善人じゃないからな」
「わかったわよ…それだけで協力してくれるなら安いものだわ」
「さっすが〜 司令官殿、懐が広いね〜 あとそろそろ家に返してくれると嬉しいんだが…」
「マイペースね… 令音、返してあげて」
琴里は呆れたようにそう言うと令音が蓮を連れて部屋を出て行った。
「士道、あんたは明日から訓練を始めるわよ。 精霊が出現するまで最短で一週間はあるわ。」
「え…訓練って…」
「士道も、もう帰っていいわよ」
士道はその訓練が気になりながらも、クルーに連れられて出て行った。
「ふぅぅ…」
士道が出て行った直後、琴里は大きく息を吐いた。
「映像ではみていたけど直接見るととんでも無いわね…」
「彼に記憶が無い所も気になりますが、なんとかこちらに引き込む事が出来ましたね。 流石です! 司令」
横では神無月が琴里に賞賛の声をかけている。
「しかしあの剣も気になるけど、右腕がおかしかったわね…」
「そうですね…あんなもので落とされたら、おかしくなっちゃいますよね…」
「ふんっ!!」
琴里のアッパーが嬉しそうにしていた神無月の顎を直撃した。
「真面目に聞いた私が間違っていたわ…」
床に倒れた神無月をみて小さくため息をついた…
少し強引なところがあったかもしれませんが、主人公がラタトスクに加入するまででした。
神無月のキャラクター、合ってましたかね?