デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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33話

天央祭当日、大勢の生徒によって活気を見せるその祭りでは、士道たちのクラスはメイド喫茶をやることになっていた。そうなると、当然女子たちはメイド服を着ることになるのだがそれは女装した士道…士織も例外ではない。

 

「はあ…なんでこんなことに…」

 

女装しているだけでも男としてどうなのかと思うのに、メイド服を着るとなれば男の尊厳は無になったと言っていいだろう。それを認識し、椅子に座りながらため息をつく。

 

「別にそんなに悩むことか?今更すぎるだろ」

 

そんなに独り言を聞いて声をかけたのは夏服の制服を着た蓮だ。女子の制服を着ているうちにそんなのは気にしなくなっていると思ったのだが、そう簡単ではなかったらしい。

 

「制服ならまだしも、メイド服を着るのは慣れないって。もしそうなったら何かが終わる気がしする…」

 

「まあ、少なくともメイド服を着るのは今だけだから、我慢しろよ。ほら、客寄せしに行くぞ」

 

店内は十香、耶具矢、夕弦が頑張っている。なのでサボるわけにはいかずに店前に立つ。ここはメイド喫茶のため、(格好は)男である蓮が客寄せするのは奇妙に感じるかもしれないが、これは文化祭だ。

 

生徒であるないに関わらず、男性も女性も来るので男性は士織、女性は蓮が引き寄せるという作戦だ。客寄せならばとにかく目立たなければいけない。しかし、蓮もずっと客寄せをしているつもりはない。適当なタイミングで厨房に入るように言われている。

 

そんな作戦で天央祭は始まった。開始と同時に大量の客がメイド喫茶になだれ込んでくる。店内ではさぞかし賑わっているだろう。それを他人事のように思っていると、目の前を『誘宵 美九親衛隊』と刺繍されたハッピを着た人物が通り過ぎる。幻のアイドルが姿を現わすという情報はすでに知れ渡っているらしい。

 

それを見て、蓮は小さく鼻で笑った。

 

「ああいう人間が神聖視していたものの本性を知った時、どんな顔をするのか気にならないか?」

 

それを聞いた士道は間違いなく美九の事を言っていると分かった。表に出ている時とプライベートでは性格が違うなどアイドルでは珍しくないが、美九のようなパターンなどそうそうないだろう。

 

「えっと…もしかして、蓮はアイドルとかって嫌い?」

 

「いや、別にそういう事じゃない。ただ、何かを信仰している人間の前でそれを否定するのは面白そうだろ?」

 

腹黒さとドSを含んだ笑みを浮かべるのを見て、ぎこちない笑みを浮かべるしかできない。すると、助けとばかりに見覚えのある人物が姿を現わす。

 

「…なかなか調子がいいじゃないか」

 

「あの…来ちゃいました」

 

『わーお、面白いぐらい似合ってるよー。士道くーん』

 

帽子をかぶった四糸乃と令音が姿を見せ、予想通り、よしのんにメイド服の事を言われる。四糸乃の純粋な瞳に見られて士道は悲鳴じみた声を出して顔を隠す。そんな士道を気にせず令音は蓮を見ている。

 

「…君のことだから、何かを理由をつけてサボるかと思ったのだが…そうでもないらしいね」

 

「別にやる気があるわけじゃない。サボる理由がないだけだ」

 

蓮は令音が少し苦手だ。嫌いだからという訳ではなく、ただ、その目でじっと見られると自分の知られたくないことまで見透かされそうな気がする。それは令音もなんとなく分かっているのか、『そうかい』とだけ言い納得する。

 

「せっかく来たんだし、入っていくか?」

 

「あっ…はい、そうさせてもらいます…」

 

「…ではお邪魔させてもらうよ」

 

士道に純粋な瞳という技で精神的なダメージを与えた四糸乃は令音と共に店に入っていく。蓮はそんな士道を励まして元気を与える。

さらに数分後、店は行列が出来るほどの繁盛だ。そんな時、正面に大きな人だかりが出来ていた。

 

その集団が左右に割れて濃紺のセーラー服を纏った少女、誘宵 美九が姿を現わす。

 

「士道、俺はこれから厨房に行く。…後は頼むぞ」

 

「あ、ああ…任せろ…」

 

美九が出てきたとなればここにはいられない。それを士道は緊張気味に答える。蓮は手に持っていたメニュー表を渡して店に姿を消す。この時、何も出来ない自分を歯痒く感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこから数時間を店の厨房で過ごしたのだが、予想以上の客により、美九との対決の音楽ステージが始まっても都合により中抜けすることが出来なかった。その事を内心焦りながら作業を続けること数分。

やっと許可が出たのは音楽ステージの結果発表がされるかされないかの時間帯だ。

 

「悪い、ちょっと抜けさせてもらう」

 

クラスメイトにそうとだけ伝えて、会場へと向かう。パフォーマンスは見れなくても結果だけは見逃す訳にはいかない。出来るだけ急ぎたい心情だが、その道中は大勢の客で溢れかえっている。

 

「チッ…コッチは急いでるのに…」

 

そんな苛立ちを吐き捨て、走りながら客の間を抜けていく。もし人目が無ければもっと素早く行動出来るのだが、生憎人間は二本の足で地を這いつくばるのが似合う生き物らしい。

 

そんな事を考えていると、不注意でか自分の肩に誰かがぶつかってしまう。

 

「すまない。コッチは急いでて…」

 

そうとだけ言ってそのまま通り過ぎようとするが…。

 

「いえ、お気にせずに結構ですわ。蓮さん」

 

その声と言葉に素早く顔を向けるが、そこには誰も居ない(・・・・・)。そのまま数秒が経過した後、何も無かったかのように再び走り始める。

 

「さて…勝っていてくれよ。士道…」

 

ステージに通じる扉の前にたどり着き、祈るようにそう言い扉を開ける。その時、凄まじい音が蓮の耳を襲った。

 

 

 

 

 

「よくも…よくも私を騙してくれましたね…!後悔させてあげますっ!やっちゃってくださいっ!私の精霊さんたち!」

 

今、士道の目の前には顔を憤怒に染めた美九とその天使〈破軍歌姫(ガブリエル)〉、そしてそれによって操られた四糸乃、耶具矢、夕弦が限定解除した霊装を纏っていた。全員、士道に敵意の篭った目を向けている。

 

「お姉様は…私が…守ります…」

 

『四糸乃の言う通り、お姉様を守らなきゃー』

 

「我らの姉上様に楯突こうとは、身の程を知る必要があると見えるの」

 

「守護。お姉様には指一本触れさせません」

 

美九を守るように立つ巨大なうさぎと人形の背中に貼りつく四糸乃、そして風を纏い、美九の上空に静止する耶具矢と夕弦。この陣営では士道が圧倒的に不利だ。しかし、ここでさらに士道を追い詰める出来事が起きる。

 

ステージに白い髪と日焼けを知らないような肌が特徴的な蓮が青い手…〈バスター〉と赤い剣〈レッドクイーン〉を手に士道の前に立ち塞がった(・・・・・・)

 

「ま、まさか…お前まで…」

 

顔は俯いていて口元しか見えないが、自分の前に立ち塞がったという事は美九の演奏を聞いた…つまり、美九の支配下になったという事だ。

 

「あれぇ?もしかして、あなた男ですか?なら、あなたがその男を始末してください。私の可愛い精霊さんたちに男なんてものを触れさせるわけにはいかないので」

 

予想外のイレギュラーの出現に少なからず驚いた美九だったが、それが自分の支配下だと理解して、命令を飛ばす。蓮は顔を俯け、剣を床に引きずりながら、一歩一歩士道に近づいてくる。その度に士道は一歩後ずさる。この状況は絶体絶命のピンチだ。

 

「ほらほら、早くして下さい。これからやる事が沢山あるんですから!」

 

美九はそう言うが、明らかに追い詰められた士道を見て楽しんでいる。それを聞いた途端、蓮は足を止め、唇を半月のように歪めた。

 

「じゃあ、それは全部キャンセルだなっ!!」

 

剣をステージの床に垂直に立てた後、まるでコンパスのように身体を回転させながら、剣を美九達に向けて振る。それによって突風が発生し、それは空中にいた八舞姉妹のバランスを崩しよろめかせ、美九と四糸乃を数歩後退させる。

 

「蓮!貴様、姉上様を裏切るつもりか!?」

 

「裏切る?何言ってんだよ耶具矢。最初から味方じゃない奴の攻撃は裏切りだなんて言わないんだよ」

 

馬鹿にするようにそう言うと剣を肩に担いで士道に向き直る。こんな状況だが、怪我はない様子だ。

 

「精霊攻略の最後は結局、こうなるのかよ。初めて平和的に終われると思ったのに…」

 

「美九の演奏を聞いたら四糸乃達はああなったのに、なんで蓮は平気なんだ…?」

 

「ああ?これ(・・)が守ってくれた」

 

そう言って右腕…〈バスター〉を士道に見せる。演奏が聞こえた途端、蓮の意志とは関係なしに勝手に顕現して、美九の支配から守ってくれた。

 

「ここは俺がやる。十香!頼む!!」

 

「うむ!分かったぞ!」

 

そう叫ぶとそれに呼応して霊装を限定解除した十香が士道を抱えると、大きくジャンプしステージの天井際に沿って伸びたキャットウォークで着地する。

 

美九が天使の音を聞いた者を支配下に置いているとすれば、十香は両耳にイヤーモニターをつけているため、問題ないと考えられた。

ちなみに、なぜその事を知っているかというと、蓮は十香に演奏のアドバイスをしていたからだ。

 

なぜか十香の楽器はタンバリンだったので楽器に慣れる練習は必要ない。その代わりリズムに乗る練習をしてた時、両耳にイヤーモニターをつけたら十香が『これがしっくりくる』と言っていたのを覚えている。

 

士道を十香がひとまず安全なところに退避させたのを確認した後、蓮はポケットからインカムを取り出し、通信を〈フラクシナス〉に繋ぐ。

 

「司令官殿、聞こえるか?ちょいとハプニングが起きたから、士道をそっちに…」

 

『はあぁ?なんでお姉様に楯突いたあんた達を助けなきゃいけないのよ?』

 

「…やっぱりそうなったか…」

 

琴里の罵倒が飛んでくるインカムを耳から外し、指先で握りつぶす。まあ、これは何となく予想出来た事だ。今、〈フラクシナス〉の艦橋はさぞかし世紀末状態になっている事だろう。それでも自分がコッチ(美九)を制圧すれば済む話だ。

 

「こりゃあ、いつもの倍くらい貰わなきゃ釣り合わないな」

 

ため息混じりにそう言って美九に向かって歩み始める。しかし、それを見過ごさない者達がいる。

 

「姉上様に近づくのを我らが許すかと思うたか!」

 

「制止。そこで止まってください」

 

空中にいた八舞姉妹が風圧の塊を蓮に向けて放ってくる。そうなっても蓮は慌てる様子はなく、左手に持った〈レッドクイーン〉を引っ込め、手の上に風を操る〈エカトル〉を二つ出現させる。

〈エカトル〉は二人の放った風を吸収して高速で回転する。刃が見えなくなるほど回転した後、凄まじい速度で二人の元へ飛んでいく。

 

「くっ!これは…!」

 

「注意。気をつけてください、とても素早いです」

 

二人の意識は蓮から〈エカトル〉に向けられる。風の精霊である二人でも周囲を飛び回る刃に対応出来ず、四苦八苦している。封印前ならまだしも、限定解除した程度の能力で飛翔する二つの剣を捌くのは楽ではない。

 

これで二人の足止めは出来た。あとは美九以外に残った四糸乃だが、どうやら彼女もやる気らしく蓮を睨んでいる。

 

「お姉さまは…私が守りますっ!」

 

『ちょっとお痛が過ぎるんじゃないかなー』

 

水分を凝結させた氷柱のような物をこちらに発射してくる。しかし、これは蓮から言わせてもらえば八舞姉妹より対処が楽なのだ。飛んでくる氷柱に手のひらをかざすと、炎が吹き出し、それを呑み込んだ。

 

「今、司令官殿からの好感度は最悪だけど…使わせてもらうか」

 

炎は手のひらに収縮され、薙刀の刃をした〈トナティウ〉が姿を現わす。その剣を横に軽くなぎ払うように振ると、四糸乃の前に炎の壁が形成される。

 

「これでよし」

 

四糸乃とこちらと分別させただけで再び歩き出す。当然四糸乃もそれを見過ごすはずなく、壁越しに氷柱を発射する。しかし、それは炎に触れた途端、一瞬で蒸発し壁を突破する事が出来ない。

 

「なんなんですか…こっちに来ないで下さい!」

 

こちらに歩いてくる蓮を見て、恐怖を感じ〈破軍歌姫(ガブリエル)〉で心酔の演奏を何度も飛ばす。それでも蓮は歩みを止める事なく進んでくる。

 

「勝手に…人の中に入ってくるなっ!!」

 

人の価値観の中に入り込もうとする美九に苛立ちを感じ、それをぶつけるかのように怒鳴る。すると、〈バスター〉が輝きを発し、音すら掻き消すほどの衝撃が蓮を中心に発生する。それに驚き美九は尻餅をつく。

 

あとはそのまま近づき、美九の首元に刃を添えるだけで制圧は完了だ。その時、突如天井が切り裂かれ、そこから白金のCRーユニットを纏った魔術師(ウィザード)が入ってきた。それを見た途端、美九の事は頭から消え去った。

 

「冗談だろ…なんであの人が…」

 

それは蓮の血の繋がらない母親であり、DEM最強の魔術師(ウィザード)、エレンだった。エレンは美九や蓮に視線を向ける事なく十香と士道に一直線に向かっていく。

 

(やっぱり狙いは士道か…!)

 

〈エカトル〉に八舞姉妹への攻撃を中止させ、素早く回収。ステージを飛び出し、美九によって操られた観客の頭を踏み台に最短ルートで二人の元へ向かう。今、エレンは十香と交戦してこちらに気づいていない。ならば、不意打ちで攻撃するしか勝機はない。

 

十香は蓮に気づいたようでできる限り自分に注意を向けるように剣を振るう。それを心の中で称賛しつつ、大きく飛び、〈トナティウ〉をエレンの背後で振り下げる。しかし、それは見えない力(・・・・・)によって止められた。

 

「あなたの事です。そう来ると予想してました」

 

エレンはそう言うと随意領域(テリトリー)を操作、蓮をステージから見て右側のキャットウォークに吹き飛ばす。ぶつかった衝撃で肺の中の空気を吐き尽くし、意識が朦朧とする。

 

「貴様ぁ!よくもレンを!」

 

「あなたを連れて帰れば、アイクはさぞかし喜ぶでしょう。ですが、今はあなたはターゲットではありません」

 

事務的にそう言うと十香との戦闘に意識を向ける。こうも簡単に自分は足なわれてしまうその実力差に絶望する

 

(俺は…無力だ…)

 

そうぼんやりと思いながら意識を失った。最後に見えたのはエレンが十香に向かって剣を振りかざしたところだった。

 

 

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