デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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35話

一人脱出ショーを披露した蓮は顔をステージにいる美九に向ける。これで彼女には自分がどのような危険度で思われていたのかが伝わった。自分の能力にプライドを持っている彼女がどのような心情かは大体予想出来た。

 

「よくも…よくも私を馬鹿にしてぇ…!!」

 

奴隷として見下していた男に、逃げられる力を持ちながら逃げることなく、自分の城の中で退屈そうに過ごされていた。その事実が美九を完全に激昂させた。周りにいた四糸乃達はそんな美九に戸惑いつつも、自分達が舐められていたという事を認識し、少なからず美九と同じ気持ちらしい。

 

「もう許しません!!〈破軍歌姫(ガブリエル)〉ーー【行進曲(マーチ)】!」

 

美九が両手をバッと広げると、その軌道をなぞるように光の鍵盤が現れ、それを演奏するように指を動かす。すると、会場内に力が湧き出るような勇ましい曲が響き渡り、観客席に倒れていた少女が立ち上がる。

 

「こ、これは…」

 

「あらあら、ただの人間がわたくしの影を動けるだなんて」

 

「味方の強化とは、なかなか面白い力だな」

 

それは本心からの感想だった。てっきり、他人を操るか、音で攻撃するぐらいしか出来ないと思っていたが、他人を強化するなどといったことも出来るらしい。

 

「さあ!もう捕まえろだなんて言いません。私の目の前でその男共を殺しちゃってください!」

 

相変わらず、慣れた口調で命令を飛ばす美九。それに従い、少女達が士道達に顔を向ける。

 

(さて…どうするべきか…)

 

ターゲットは美九とはいえ、邪魔をしてくるならこの少女達を排除するのも視野に入れとかなければならない。一番手っ取り早いのが足を凍らせて動きを止める。足を切って動けなくさせるなどだが、数千人はいる少女達の足だけを狙って凍らせるのは骨が折れるし、後者はお優しい士道が黙っていないだろう。

 

何をすべきか悩んでいると、狂三が笑みを浮かべながら一歩前へ出た。

 

「あなたが動く必要はありませんわ。ここはわたくしにお任せくださいまし」

 

そう言うと、会場全体が真っ黒な影で塗りつぶされ、そこから何人もの狂三が出現して少女達の身体を拘束する。これで終われば楽だったのだが、現実はそこまで甘くないらしい。

 

いきなり、会場内に轟音とともに凄まじい突風が吹き荒れる。まともに食らったなら士道など余裕で吹き飛ばしてしまうものだったが、当たる瞬間、それとは別の風が士道達三人を包み込むように吹き、守ってくれる。

 

士道は一体何が起きたのかと思い、蓮に視線を向けると彼の手のひらの上で〈エカトル〉が高速で回転し風を生み出していた。そして、当の本人は呆れた様子で上を見る。

視線の先にはメイド服の上に霊装を纏い、天使を顕現させた耶具矢と夕弦がいる。狂三も美九陣営全員の動きを止めるのは叶わなかったらしい。

 

「これ以上の無礼は許さぬ!それでも来るというならその代償、命を持って償うことになろうぞ」

 

「憤怒。これ以上は見過ごせません。お姉様に害をなすというのなら本気で排除します」

 

怒りを孕んだ言葉を向けられても蓮は気にした様子もなく、目をステージに向ける。そこには四糸乃のウサギ型の天使〈氷結傀儡(ザドキエル)〉に守られた美九がいる。それでも数千人いた敵を四人まで減らした狂三の成果は素晴らしいと言えるだろう。

 

「そ、そうですぅ…私には可愛い精霊さんが三人もいるんです…。今度は油断しません。確実にあの男も…」

 

狂三の分身体に驚いていた美九はまるで自分に言い聞かせるように言う。相手が三人に対して自分は圧倒的力を持つ精霊四人。まあ、自分を落ち着かせるにしては悪くない言い聞かせだ。だが、それを聞いた本物(オリジナル)の狂三と分身体は一斉に笑い始めた。

 

「きひっ…ひひひひひ。油断しなければ(・・・・・・・)、そうするだけで蓮さんに勝てるとお思いになるだなんて、身の程を知らなすぎますわねぇ!おいでなさい〈刻々帝(ザフキエル)〉」

 

その瞬間、地面から針が短銃になっている金色の巨大な時計が現れる。時を操る狂三の天使、〈刻々帝(ザフキエル)〉だ。それを顕現させた後、狂三は蓮の目の前でまで足を進めた。

 

「このまま戦うだけじゃ面白くありませんわね。蓮さん、戦ってほしいとおねだり(・・・・)して下さいまし。わたくしはそれに応えますわ」

 

おねだり、こんな時に狂三の言ったその言葉の意味が分からず、士道は眉を顰める。しかし、そう言われた蓮は困惑しているというより何やら呆れている様子だ。

 

「今、ここでするのか?人が見てるんだぞ」

 

「ふふ、わたくしは気にしませんわよ。そんな事、気にならないほど良いことですので…」

 

そう言うと、狂三は目を閉じて唇を突き出す。蓮はそんな狂三の右頬に手を添える。

 

「お、おい。二人とも一体何を…」

 

士道がそう言い終わるより早く、蓮が狂三の唇にキスをする(・・・・・)。それを見て、思わず『はあっ!?』と声が出てしまう。

驚愕したのは美九達は同じで、美九と耶具矢、夕弦は驚きで目を見開き、四糸乃は顔を赤く染め、顔を背けていた。

 

顔を赤く染め、うっとりとした顔でキスを受ける狂三。士道はそんな狂三を見てある事に気付いた。放心気味に開かれた狂三の左目にある時計がとてつもない速さで逆回転(・・・・・・・・・・・・)していたのだ。

 

「んっ…はあっ…っ…ふあっ…」

 

数秒、口づけが続き狂三のそんな声と共に唇が離れる。離れた時、二人の口元に銀色の細い糸が架かっていて、狂三は色っぽく唇を舐めてそれを断つ。すると、狂三は恍惚した顔のまま身体を震わせた。

 

「ああっ…来ましたわ…この感覚が…。さあっ!今夜は特別ですわ、わたくしたち!蓮さんの要望にキッチリと応じませんと」

 

その言葉に呼応するように狂三の右手が赤と黒い光が包み込み、おぞましい雰囲気を放つ赤と黒の〈バスター〉が現れる。それは六月に士道の実妹である真那と精霊として姿を現わした琴里を苦しめた悪魔の手だった。

 

それを見て凍りつく士道の背中を蓮はバンっと叩く。

 

「しっかりしろ。どんな出来事があったかは知らないが、今の狂三は味方だ。なら、信用してやれって」

 

「あ…ああ。そうだな、今は狂三の力が必要なんだ…」

 

そう言う士道の目には覚悟と勇気が宿っている。そうだ、DEMに攫われた十香を救うためには、美九は無視する事は出来ない。そのために狂三が協力してくれている、ならば信じてやらければダメだ。

 

狂三が両手を広げるとその手に〈刻々帝(ザフキエル)〉から切り離された二つの短銃が収まる。それと同時に会場内に同じ短銃を持った狂三が次々に姿を現わす。

 

「狂三、耶具矢と夕弦の注意は俺が引き寄せる。士道のお守りは任せたぞ」

 

「分かりましたわ。蓮さんもお気をつけて」

 

その言葉を背中で受け、蓮は耶具矢と夕弦の正面まで移動する。宙に浮いている二人は蓮を見下しながら何やら得意顔の様子だ。

 

「かか!地に縛られた者が我ら颶風の御子に勝てると思うているのか!」

 

「警告。慢心を身を滅ぼします」

 

慢心しているのはどっちだと呆れつつ、右腕の袖を捲り、肌を露出させると腕が光を発し青い輝きを放つ手〈バスター〉現れる。

複雑な事情があるとはいえ、これは互いの力関係を決めるいい機会かもしれない。ずっと見下されるというのもストレスが溜まるものだ。

 

「地に縛られた…ね。じゃあ、お前達は…天に縛られろ(・・・・・・)!」

 

そう言うとと同時に、床を蹴り、二人との距離を縮める。耶具矢と夕弦は接近してくる蓮を吹き飛ばそうと風の塊を飛ばす。しかし、それは蓮が二人の真下という死角(・・・・・・・・・・)に入る事により、直撃する事なく外れる。

 

真下に入ると、耶具矢と夕弦が視線を向けるより早く、〈バスター〉で夕弦の足を掴み自分の方に引き寄せる。その行動に夕弦は女の子らしい声を上げ、耶具矢は驚きの顔をする。

 

「くっ!卑劣にも我が半身を人質にするつもりか!」

 

「そうか、じゃあ返してやるよ!」

 

その返答はまさに予想外のものであった。引き寄せた夕弦を腕で直接掴むと、そのままぐるりと一回転し遠心力を加えて耶具矢に放る。

投擲された夕弦は耶具矢の腹部に直撃し、そのままホールの天井に姉妹揃って衝突した。

 

その同時に二人の手足が氷に覆われ、天井に貼り付けられる状態となった。

 

「ちょ、ちょっと!何よこれ!?」

 

「抵抗。くっ…」

 

もがく二人を無視して、蓮はステージに目を向ける。そこには士道を抱えた狂三が猛スピードで美九に向かっていく。四糸乃は狂三達から美九を守ろうとして、氷の壁を出現させるが狂三の放った銃弾はそれを突破し、〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の右前脚に命中する。

 

命中した銃弾は命中から二秒後の時間差で爆発し、〈氷結傀儡(ザドキエル)〉のバランスを崩す。

 

『わわわっ!なんなのよこれはーッ!」

 

「よしのん!大丈夫!?」

 

氷結傀儡(ザドキエル)〉ほどの巨体を四本の脚で支えているならば、一つでも使えなくなると全体のバランスが崩れてしまう。そもそも身体が大きいならば、それに釣り合うような大きさの脚をつければ何が起きても大丈夫などという簡単な話ではないのだ。

 

四糸乃を突破した狂三は士道と美九を影の中に引きずり込んでいく。美九は音を飛ばして攻撃しようとしたが、もう一体の狂三によって口を塞がれそれは叶わない。そのまま二人は仲良く影の中に消えていく。荒っぽい方法だが、『結果良ければ全てよし』だ。

 

ターゲットである美九と士道は二人きりになったが、これで全て終わりというわけにはいかない。そのタイミングで耶具矢が自分の右腕を覆っていた氷を砕いたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「くっ…うう…」

 

士道は身体が引き上げられる感覚にそんな声を漏らす。チカチカした目が落ち着くと、自分はステージの上にいることが認識出来る。

美九も士道と同じくステージの投げ出されたようで四糸乃たちが声を上げている。

 

「立てまして?士道さん」

 

「狂三…一体何が…」

 

「士道さんのいた影の中の空間が傷つけられ、壊れてしまいましたわ。わたくし達も出来る限り時間を稼いだつもりですけど…」

 

狂三がそう説明すると、士道が帰ってきたのを確認したのか、蓮も駆けつける。その腕には途中で助けたのか狂三の分身体を一体お姫様抱っこしていた。

 

「士道、結果はどうであれここを離れるぞ」

 

「待ってくれ!もう少し…」

 

まだ対話を試みようとする士道に、正面から巨大な氷柱が飛んでくる。しかし、それは士道が驚きの声を出すより早く、炎の渦に包まれて消滅する。氷柱を飛ばした犯人であろう四糸乃は敵意の篭った目で士道たちを見ていた。

 

「いや、ここまでだ士道。これ以上は死人が出る(・・・・・)

 

そのハッキリとした物言いに息を飲む。狂三も同感とばかりに頷く。

 

「蓮さんの言う通りですわ。さあ、行きますわよ…」

 

狂三が短銃を掲げたのを見て、蓮は抱えていた分身体の狂三を下ろし影の中に逃げさせた後右手で狂三の肩を掴む。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉ー【一の弾(アレフ)】」

 

高速化の弾を自身に撃ち、ステージ天井に開いた穴から飛び出す。その強烈なスピードに士道は声を漏らすが蓮は片手だけ狂三を掴み、その表情には苦悶といった様子は見られない。

 

このまま逃げるつもりだったが、美九はそれを見過ごすつもりはないようでその手先として八舞姉妹が後を追ってくる。こちらは高速で移動しているとはいえ、相手は風の精霊だ。もし追いつかれてしまうと市街地での戦闘となり、建物等に被害が出てしまうのは出来る限り避けたい。

 

「あらあら、困りましたわね。ここはわたくしが…」

 

「いや、狂三は気にせずまっすぐ進んでくれ。まったく、しつこい女は嫌われるぞ」

 

そう言う蓮の左手にはいつの間にか冷気を放つ球体が握られており、それを追ってくる八舞姉妹に向かって投げる。ボールのように回転して、八舞姉妹の目の前まで到達した瞬間、爆弾のように爆発し白い霧を吐き出して周辺を白く染める。

 

「おのれ!小癪な真似を…」

 

「狼狽。前が見えません」

 

爆発に驚き停止してしまう耶具矢と夕弦。破裂し、散った欠片がまた破裂し霧を吐き出すという連鎖で自分たちの目の前に何があるかすら分からなくなる。このまま進み、霧を抜けた瞬間目の前には建物が…そんな事態を想像して二人は立ち止まった。

 

「煙に巻かれて頭を冷やしてろ。バカ姉妹どもめ…」

 

蓮はそう呟いて目を閉じる。結局、霧が晴れた頃には三人がどの方角に向かったかすら八舞姉妹には分からなかった。

 

 

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