デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

36 / 85
36話

八舞姉妹の追跡を振り切ったのを確認した狂三はビルとビルの間に入り込み二人を下ろす。士道は下ろされた後、気分を落ち着かせようと頭を抑えていたが、蓮は路地裏から顔を出して周りを警戒していた。

 

(とりあえず、逃げ切れたか…)

 

あの霧の中でこちらの姿を視認出来たとは考えられないが、相手が精霊である以上警戒し過ぎて困るという事は無いだろう。ひとまず逃げられたと判断し、安堵の息を吐く。

 

「それで…士道さん、説得はどうなりましたの」

 

「悪い…二人がせっかく頑張ってくれたのに、ハッキリとした答えがもらえてない。しかも最後は怒らせちまった」

 

申し訳なさそうな悔しそうな顔をしながら士道は答える。まあ、それは耶具矢と夕弦が追いかけてきたのを考えると大方予想出来る答えだった。

 

「はあ…今日一日がこんなに苦労する日になるだなんて予想もしてなかったな。家でミルクも腹を空かせてるだろうし…」

 

「ご安心くださいまし、あの子にはわたくしがご飯をあげておきましたわ。今頃ベットの上で眠っているかと思いますわ」

 

こんな状況だというのに、緊張感を感じられない会話をする蓮と狂三。ただ単に神経が図太いだけか、それともこんな話が出来るほど自分の強さに自信を持っているかのどちらなのだろう。どちらにしろ、こんな話ができるほどの余裕は今の士道には無かった。

 

無かったのだが、士道には聞いておきたい事があった。

 

「なあ、二人はホールでなんであんな事をしたんだ?」

 

「あんな事?なんの事だよ」

 

「あっ…いや…その…なんでキスしたのかなと…」

 

自分も何回もキスしてるくせに、言い難そうに恥ずかしがる士道に疑問を感じながらあの事を聞いていると理解する。

 

「ああ、あれね…。あれはえーと…。狂三、説明よろしく」

 

説明が面倒になったのか、解説を狂三に丸投げする蓮。説明を丸投げされても狂三は「分かりましたわ」と微笑み、役を引き受けてくれた。

 

「わたくしがキスをお願いしたのは"力の譲渡"をしてもらうためですわ」

 

「力の…譲渡?」

 

「蓮さんには自分の持っている力を他者に分け与える事が出来ますの。分け与えられた者は傷の治癒や、彼の武器を擬似的に使う事が出来るようになりますのよ。士道さんはそのような所を見た事はありませんか?」

 

そう言われて思い出すのはオーシャンパークで琴里とデートした時だ。蓮は苦しんでいた琴里に右腕を触れさせて体調を回復させたのを士道は見ていた。

 

「ちなみにですが、六月に学校の屋上でわたくしがあの腕を出せたのは、数日前に蓮さんからちょいと失敬させてもらいましたからですわ。あの時は少しだけ罪悪感のようなものがありましたが、今回はそれもなく気持ちよく使えましたのよ」

 

目を細め、熱っぽい息をする狂三を見て士道は引き攣った笑みを浮かべる。あれだけ容赦なく真那や琴里を攻撃したというのに本当に罪悪感などがあったのだろうか。気になるところだが、深入りしても得はなさそうだ。

 

「時間を操るわたくしから見ても素晴らしいと思うのですが、力を渡す時、渡す力以上に負担がかかってしまいますの。それは蓮さんが少しの間動けなくなるほどですわ。そこで先ほどのようにキスをして力の通り道(・・・)を作りますの」

 

狂三は説明しながら自分の唇に触れる。例えば一つのコップの中身を水で満たしたいとする。しかし、それを一度に大量の水が落ちる滝に突っ込むとすると、中身は満たされるだろうが無駄となる水も多くなってしまう。そこで蛇口から水を注ぐとなれば無駄は無くなるだろう。

 

「えっと…つまり、その無駄を無くす渡し方がキスって事なのか?」

 

「ええ、そういう事ですわ」

 

キスで力のやり取りをする…。それを聞くと何だかキスで精霊の力を封印する自分と似てると感じる。その説明が終わると同時に狂三の足元の影が広がり、そこからもう一体の狂三が姿を見せる。士道はそれに驚いて小さく声を出してしまう。

 

そんな士道を気にすることなく、本物の狂三に耳打ちで何かを伝える。

 

「ふむ、なるほど…下がって結構ですわよ」

 

狂三がそう言うと、優雅にお辞儀をして影の中に消えていく。

 

「お喜びくださいまし、十香さんの居場所が判明しましたわ」

 

「ほ、本当か!?一体どこに…」

 

その言葉に食らいつくように反応する士道を見て、狂三はクスクスと笑いながらチラリと蓮を横目で見た後にその場所を言う。

 

「DEM社の日本支社、第一社屋に十香さんは囚われていますわ」

 

「DEMか…」

 

そう小さく漏らしたのは蓮だった。拳を握り、自傷気味に笑いながら空を見上げている。

 

「そういえば、日本支社はここからそんなに離れていなかったな。そこになら精霊(十香)を拘束出来る設備もあるだろうし…悪くない判断だな」

 

「…やはり、ご自分の家と戦うというのは抵抗がありますか?どうしても嫌と言うのなら、わたくしだけで…」

 

「いや、俺も行く。十香を攫ったなら誰であろうとそいつは敵だ。それ以前に…あそこ(DEM)はそんな迷いがあって勝てるところじゃない」

 

自分の覚悟を二人に語る。心の中で自分に巣立ちの時が来たのだと言い聞かせる。それに相手はあのエレンだ、下手をすれば自分の命すら危ういほどの強敵に対してそんな迷いを持って挑むのは間違っている。

蓮は自分の頬を張って気合いを入れた。白い肌がほんのりと赤く腫れたのが見える。

 

「よ、よし…それじゃあ行こう…」

 

「待て士道」

 

移動を開始しようと立ち上がった士道を蓮は呼び止める。今度は何かと思いつつ顔を向けるが、蓮から耳を疑うような事を言われた。

 

「もし、次に四糸乃や耶具矢、夕弦。そして誘宵 美九が邪魔をしてくるのなら、容赦はしないって先に言っておくぞ」

 

「なっ!待ってくれ!美九はともかく、四糸乃達は操られてるだけなのにそんな事は…」

 

こんな状況でもこんな事を言う士道に思わずため息が出る。しかし、それが士道の長所であり、短所である事は十分に理解しているつもりだ。

 

「今の俺たちにもう回り道している余裕はない。俺も邪魔するなとは言ってみるつもりだが、それを聞きれないとなるとやはりそういう(・・・・)事になる。それとも士道はどっちを優先するか数で決めるのか?」

 

その質問に言葉に詰まった。十香を救うのを優先して四糸乃達を後回しにするか、四糸乃達を救うのを優先して十香が手遅れの事態となってしまうか。十香を救うのに、それを邪魔してくる美九達を切り捨てられない自分がいる。

 

「別に邪魔をしてきたら殺すって訳じゃない。動けない程度の怪我を負わせるだけだから、そこは安心していいぞ」

 

どこを安心しろと言うのか疑問が出てくるが、蓮の言う事は正論だ。そもそも美九を説得出来なかった自分に非がある。それを蓮に押し付けるというのもとんでもない話だ。士道は理解はしたが、納得できないと言った顔を頷いたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(まさか、こんな形でここを訪れる事になるとは、予想もしてなかったな…)

 

目の前の空に突き上げるビルの群れを見て、そう思う。現在の時刻は深夜二時、外を出歩いている人間はほとんどいない。DEMの日本支社を訪れるのは初めてで、そもそも数年間、DEMとは表向き関わらないようにしていたので日本支社(ここ)とは無縁だと思っていた。

 

「それで…どれが第一社屋なんだ?」

 

そう言う士道の声には僅かながら恐怖が感じられる。これを見て、これから戦うのが世界に誇る大企業なんだと認識したのだろう。それでも後悔を感じさせないのが士道らしかった。

 

「ビル群の中央にある大きな建物ですわ。残念ながら、分かったのはそこまででしたけど…」

 

士道は狂三の指差す大きな建物に視線を向ける。DEM…あそこが蓮の家だというのが改めて認識出来た。そうなると、蓮は大企業の御曹司…という立場なのだろうか。そう考えたらとある疑問が浮かんだ。

 

「蓮はDEMに深く関わっていて…エレンが母親なんだよな?」

 

「ん?まあ、戸籍だけの関係だけどな。それがどうかしたか?」

 

そう聞き返すと、士道は何やら困ったような顔をするが困った顔というか何やら聞きにくそうな事を聞く、そんな顔だ。

 

「エレンが母親ってことは…父親(・・)もいるんだよな?」

 

その質問に蓮は一瞬だが表情を変えた。

 

「おっ、士道にしては鋭いな」

 

そんな褒め言葉(?)を言うがそれはその質問の答えでもあった。こんな状況だというのに士道はそれがとても気になってしまった。

 

「やっぱりいるのか、嫌じゃなければその…どんな人か教えてもらってもいいか?」

 

「うーん、どんな人って言われてもな…不思議な人っていうか、多分士道も知っている人(・・・・・・・・・・・)だぞ」

 

「えっ…」

 

その時、周囲に甲高い警報…空間震警報が鳴り響く。それを聞いた住民は慌てて避難を始め、地下シェルターなどに急いで逃げ込んでいく。

 

「空間震警報…!精霊が現れるのか!?」

 

「俺たちが突入しようとしたタイミングで、偶然にも新たな精霊が出てくる…。いくら何でも出来すぎてるだろ」

 

空間震警報の意味をそのまま受け止める士道にそんなツッコミをいれる。となりにいた狂三も同じ考えらしく、目を細めながら頷いた。

 

「これはDEMが故意に鳴らせたものでしょう。それで考えられる可能性は…ッ!」

 

「狂三!!」

 

蓮の自分の呼ぶ声を聞いた狂三は士道の襟首を掴み、素早く右側に飛び退く。蓮も狂三と反対側の左側に飛び退いた瞬間、ついさっき三人がいた場所に光の奔流が突き刺さり、爆発を起こす。

 

「ずいぶんと大胆な事をするな、あの人はッ!」

 

蓮は爆発で少しバランスを崩されながらもなんとか着地した後、攻撃が来た方向に顔を向けると空にはCRーユニットを纏った銀色の人形が何体も浮遊していた。それを見て、小さく舌打ちをする。

 

「あれは…〈バンダースナッチ〉!?あんなにたくさん…」

 

士道のその言葉を合図に手に持ったレイザーカノンを一斉に発射してくる。相手は機械で当然の事なのだが、その行動に全くの迷いはない。

蓮はその攻撃を避けながら、地面を強く踏みしめ大きく飛び上がる。

 

「日本は平和の国じゃなかったのかよ。〈エカトル〉!」

 

その言葉に応じて、両手には三つの刃を持った武器が握られ、それを〈バンダースナッチ〉の群れに向かって投擲する。大量の〈バンダースナッチ〉に対してたった二つの〈エカトル〉、数の差は歴然だ。

 

しかし、〈エカトル〉は〈バンダースナッチ〉に向かう途中、細かく分裂していきそれに比例して大きさも小さくなる。その結果、数え切れないほどの数になり、その一つ一つが〈バンダースナッチ〉に命中し、まるでピラニアが肉を喰いちぎるかのように装甲を削り胴体を貫通し空には大量の花火を発生させる。

 

〈バンダースナッチ〉を撃破した〈エカトル〉は再び二つに戻り、主の手の中に戻って来た。それを見た士道は「すげぇ…」と小さく呟く。

 

「もうこっちの事は分かっているらしい。すぐに魔術師(ウィザード)の増援もくるだろうし、どうする?」

 

「こうなったら仕方ありませんわ。『わたくしたち』をぶつけてその隙に突破いたします」

 

狂三がそういうと、足元の影が広がり、そこから短銃を持った狂三が何体も這い出てくる。それと同時にDEMの施設から大量の魔術師(ウィザード)が姿を現わす。

 

「たった三人の侵入者相手に豪勢だな」

 

「それだけ十香さんを奪い返されたくないという事なのでしょう。さあ、行きますわよ、〈刻々帝(ザフキエル)〉ー【一の弾(アルフ)】」

 

蓮が自分に掴まったのを確認した狂三は、短銃をこみかみ押し当てて撃つ。高速化した狂三は分身体と〈バンダースナッチ〉のぶつかり戦場を一気に駆け抜ける。爆発などが響き渡る中を高速で突破するのは中々精神的に来るものがあった。

 

高速でそこを突破した狂三は【一の弾(アルフ)】が切れたタイミングで地上に降りた。

 

「おい、しっかりしろ士道」

 

「うう…蓮はよくあの中でも平気でいられるよな…」

 

「ふふ、まあ、あまり乗り心地がいいとは言えないのは許してくださいまし」

 

気分の悪そうな士道が回復するのを待つ。蓮は別になんとも無かったが、士道にはそうともいかないようだ。

 

「それで、第一社屋の入り口はどこなんだ?」

 

「ああ、それはこちらで…」

 

そこまで言いかけた狂三の首が突如宙を舞った。これには士道はもちろん、蓮も一瞬何が起きたか理解出来なかった。肩から上が無くなった狂三の身体は血のシャワーを噴き出しその場に力無く倒れる。

 

「うわああああ!狂三!狂三!」

 

士道は倒れた狂三の身体に駆け寄るが当然返事はない。蓮は瞬時に〈バスター〉を顕現させたあと、素早く背後を向いて戦闘態勢をとる。もし、【一の弾(アルフ)】を使った狂三を視認してここまで来たなら、その魔術師(ウィザード)は間違いなく強敵だ。

 

だが、目の前にいた人物を見た途端、それを忘れて目を丸くしてしまった。

 

「真那…?」

 

一つに括られた髪と、左目の下にある泣き黒子が特徴的な少女…DEMの同僚であり、蓮の親友である嵩宮 真那がそこに立っていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。