デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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39話

士道と美九の二人に少し遅れ、隔離部屋に入る。入室して最初に目に入ったのは部屋を仕切るように設置された強化ガラスで、士道と十香はそのガラス越しに出会っており、十香は蓮の姿を見ると士道に向けてた顔をこちらにも向けてくる。

 

「すまない十香、少し遅れた」

 

『二人が…二人が来てくれると信じてたぞ!』

 

士道と並ぶところまで近づき、そう言うと十香は泣きそうな顔でそう答えた。そんな十香に優しい顔を見せた後、蓮は十香のいる場所より奥の空間にいる一人の人物に顔を向ける。長身にくすんだアッシュブロンド、鋭い双眸が特徴的なDEM社の長。アイザック・ウェストコットだ。

 

その人は蓮の姿を深い笑みを浮かべながら見ていた。蓮はウェストコットへ身体を向けると腰を曲げお辞儀(・・・)をした。

 

「…最後に会ったのは一年以上前、話したのは今年の四月でしたね。お久しぶりです、見た感じお元気そうな様子ですね」

 

見た事がないほど丁寧な言葉を言う蓮にこんな状況だというのに呆気にとられる士道。ウェストコットは笑みを浮かべた顔から小さな笑い声を出した。

 

「くく…君は相変わらず他人行儀だ。家族(・・)と話すのだからもう少し気楽にしてくれていいんだよ」

 

士道はウェストコットの言った『家族』に小さく声を漏らしてしまった。今、聞き間違えでもなく確かに『家族』と言ったのだ。

 

『不思議な人と言うか、多分士道も知ってる人だぞ』

 

ここに来る前に蓮が言ったその言葉が脳内でリピートされる。士道はまさか、という目をウェストコットに向けた。

 

「君も元気そうな様子だ。さて、エレンから話は聞いているよ、帰還を拒否したそうじゃないか。なぜそんな事をしたんだい?」

 

「いわゆる反抗期って奴ですよ。これぐらいの年齢になるとなるものですからね」

 

「そうか、昔は私の後ろをついてきたりしていたのだがね。それが嬉しくもあり悲しくもあるよ」

 

こんな状況だというのに、それが見えてないかのような会話をする二人。だが、ウェストコットの質問に答えながら綺麗に煙を巻いて誤魔化していた。

 

「普段はあなたのやる事に文句等は言いませんが、さすがに十代の女の子を拉致っていうのはどうかと思いますよ」

 

「ふふ…はっはっは!そう言われると何も言えないじゃないか。こちらの弱いところを突いてくるのも相変わらずだ」

 

ウェストコットは一本とられたとばかりに笑い出す。その質問に暗に十香を攫った事を咎めているということを分かっているからだ。

 

「あなたは無駄な事をするような人ではないと十分に理解してます。なぜこんな事をしたのですか?」

 

修学旅行の時もそうだったが、DEMは十香を殺すのではなく、捕獲にこだわっていた。そうなると難易度が跳ね上がるのも分かっていたはず。せっかく捕獲しても今の十香を見てみると何かをされたようには見えない。

その質問にウェストコットは大きく両手を広げた。

 

「それは単純さ…世界の理をひっくり返すため。そのために精霊の力が必要なのさ、それは君にも出来る事だがね(・・・・・・・)

 

「世界の…理…?」

 

「ッ!もうあんたの話には付き合ってられない!」

 

そう苛立ちの声を出したのは士道だ。十香を目の前にしてそう意味のわからない話をされればそうなるのは当たり前だろう。その怒りをぶつけるように十香とを隔てるガラスに拳をぶつける。

 

「おい!ここを開けろ」

 

「そんな立派な獲物を持っているんだ。自分で切り裂いてみてはどうかな?」

 

要するに自分からこのガラスを開けるつもりはないという事だ。それを理解し、後ろにいる美九に視線を向ける。

 

「…美九、頼んでいいか?」

 

「ふん、あなたに指図されるのは気に入りませんけど、特別に乗ってあげましょう。ここの責任者ならそのうち『声』を聞かせるつもりでしたしぃ」

 

美九の答えはイエスらしく、これで問題は何もない。美九の声は精霊すらも心酔させるほど強力だ。

 

「社長さん、悪い事言いませんから大人しく従ったほうがいいですよ。この場の戦力差は圧倒的でしょうに」

 

ウェストコットには育ててもらった恩もある。できる限り手荒な真似はしたくないのが本音だが、ここに来たのは十香の救出が目的だ。その邪魔になるなら覚悟もある。それでもウェストコットは悠然とした笑みを崩さない。

 

「おや、勝利を確信するにはまだ早いのではないかな?…イツカシドウ、そこにいると…危ないよ」

 

『ッ!?シドー!後ろだ!』

 

十香の悲鳴じみた声と共に士道の胸からレイザーブレイドの刃が生え、口から大量の血を吐きながら床に倒れる。その背後には白金のCRーユニットを装備したエレンが立っていた。その胸元から腹部にかけて痛々しい傷痕が刻まれており、普段の蓮ならそれに大変驚いただろうが今はそれに反応する余裕すらなかった。

 

「アイクに向けられる剣は、全て私が折ります」

 

「え、レ、ン…」

 

「い、いつの間に…」

 

一瞬で現れたと言っても過言でない出現に刺された士道はもちろん、蓮も驚きを隠せない。目の前では十香が泣き叫びながらガラスを叩いていた。

 

「がっ、ガハッ!」

 

「喋るな士道!今、治療を…」

 

吐血する士道を見て、右手に〈バスター〉を纏いそれを傷口に近づける。後の事など考えず咄嗟の行動だった。しかし、エレンはそれを遮り、蓮の首を掴むと十香とを隔てるガラスに押し付ける。

 

「グッ…く…そ…」

 

「あなたはいつも予想外の行動で私たちを驚かせましたから。余計な事はさせません」

 

この腕の治癒の事はエレンに話してはいなかった。なのにこうしたという事は何かしらの手段があると読まれたのだろうか。首を掴む腕から逃れようとしても凄まじい力で握られ苦しそうな声を漏らして、もがく事しかできない。

 

「さて、精霊〈プリンセス〉ヤトガミトオカ。これから君の大切な人である二人を殺そうと思う。しかし、それを止めるのを私は邪魔しない」

 

「何を…言っている…」

 

「ジェイク、君はこのままでは世界に飲み込まれて消えてしまう。それではいけない、生きるには秘められたものを吐き出したまえ」

 

ウェストコットが何かを言っているが首を絞められている苦しさで蓮の耳には届かない。。士道には琴里の治癒の力があるはずだが、傷口を小さな炎が舐めるだけでなかなか回復しなかった。後ろにいた美九も美しい声を発するが随意領域(テリトリー)で防いでいるのか効果があるようには見えない。

 

エレンはゆっくりとブレイドを蓮の胸に近づけてくる。士道と違って琴里の治癒の力がない蓮は心臓を刺されたら間違いなく死ぬ。後ろでは絶叫を発しながら十香が鏖殺公(サンダルファン)を顕現させ、ガラスを斬るが、傷をつけるだけで壊すには至らない。

 

(くそ…ここまでかよ…)

 

どうにならない絶望的なこの状況にそんな言葉が浮かぶ。エレンのブレイドが胸部を貫く、その瞬間。背後から強大な粒子の奔流によって吹き飛ばされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うぅ…一体何が起きたんだ?」

 

エレンに刺される直前、まるで濁流にでも飲み込まれたかのような凄まじい力で吹き飛ばされた。蓮は何が起きたのか理解できず、頭を抑えながらゆっくりと立ち上がる。

 

「れ、蓮、大丈夫か?」

 

隣にいた士道が心配するような声をかけてくる。エレンに突き刺された傷は完治しており、痛みなどはない様子だ。その側には美九もおり、怪我はないらしい。

 

「まったく、お前の方が重傷だったくせに何言ってんだよ」

 

それを聞いて大丈夫と判断して安心した顔をした。問題ないと返した蓮だったが、吹き飛ばされた衝撃で軽い耳鳴りが発生しており、正直近くにいた士道の声を聞き取るだけで精一杯だった。何が起きたのかと思い、顔を前に向けた蓮は息を詰まらせた。

 

そこには十香がいたのだが、その霊装は黒い闇色を放っており胸元と下半身をベールで覆っており、初めて見る形をしていた。その表情は無表情でさっきまで泣き叫んでいたとは思えない雰囲気だ。

 

(なんだ…アレ(・・)は…?)

 

その十香を見て感じたことは大きな違和感だった。顔は自分の知っている十香だが、中身はまったく違うと瞬時に理解できるほどだ。そして、その手には鏖殺公(サンダルファン)ではない巨大な黒い剣が握られており、それは圧倒的威圧を放っていた。

 

ふと自分の足元を見てみると右足が一歩後ずさっていた。それは今の十香から禍々しい感覚を感じ、怯んだ証拠だった。

 

(無意識に後ずさった…?この俺が…)

 

それほどの雰囲気を放つ十香を見て、ウェストコットは凄絶な笑みを浮かべて何かを言っている。しかし、耳鳴りのせいでそれは聞き取れない。だが、ウェストコットにとっては今の十香は予想外の存在ではないという事だろう。

状況がまったく理解出来ない。あの十香は一体何で、ウェストコットの目的は何かすらもだ。

 

そんな蓮を無視して、エレンは十香にレイザーブレイドを振り抜き、十香はそれを自身が手にしていた剣で受け止めた。本来ならここで十香の助けに入るべきなのだが、まだ耳鳴りは治っていない、そんな万全ではない状態でエレンに勝てるとはどうしても思えなかった。

それに、今の十香は助けるべき相手なのかすら判断出来ない。

 

そのまま二人は目にも止まらない速度で剣をぶつけ合う。その中でエレンの斬撃を避けるため十香は大きく上に飛んだ。

 

「そこっ!」

 

その瞬間、エレンのCRーユニット、〈ペンドラゴン〉が可変し、脇の下から銃口のようなものが十香に向けられる。

 

「貫け、〈ロンゴミアント〉!」

 

「やばい!!伏せろ!」

 

可変とその言葉が聞こえた途端、蓮は士道と美九を掴み無理矢理地面に伏せさせる。その瞬間、銃口から凄まじい魔力が放たれビルの天井、十香を飲み込む。

 

「そんな…十香!十香!」

 

天井が吹き飛び、満月が見えるようになった光景を見て士道は狼狽する。

 

「まさか、十香は…」

 

「いや、違う…上を見ろ士道」

 

蓮にそう言われ、士道は上を注視する。すると、満月を背にして浮いている十香の姿が見えた。その姿に傷は見えない。十香はエレンを見下ろしながら手に持った剣を振り上げ、それをエレンではなくウェストコットへ振り下ろす。

 

エレンは顔をしかめると急いでウェストコットの前に行く。それと同時に凄まじい衝撃波がこの場を震わし、それは蓮達三人にも向かってくる。

 

(くっ!こうなったら〈バスター〉で…)

 

それで護ろうとするが、この衝撃波に対して三人を守る障壁を作るとすると明らかに効果は落ちてしまい、完全に防ぎきれる保証がない。それでも何もしないわけにはいかなかった。その時。

 

「アアアアアアアアアアアアッ!!」

 

突如美九が大声を発し、音の壁を構築して衝撃から二人を守った。その行動に二人は目を丸くしてしまう。

 

「ふ、ふん。これで『貸し』はなしですからねー!」

 

美九は不本意ではないと言った様子でそう言う。『貸し』とはエレンの〈ロンゴミアント〉から守った事を言っているらしい。蓮からしたら当然の行動をしただけだったが、もしかしたら、『貸し』は男嫌いの美九が蓮と士道を助けるための自分に対する言い訳だったのかもしれない。

 

そんな事を考え、苦笑いを浮かべているとエレンとエレンの随意領域(テリトリー)によって守られたウェストコットが瓦礫の陰から姿を現わす。

 

「すまない。助かったよ、エレン。それで、どうだい〈プリンセス〉は?」

 

「以前戦った時とは比べものになりません。これならAAAランクというのも納得です」

 

「ほう、それで…勝てるのかね?」

 

「無論です。私に勝てる生物はこの世に存在しません。…万全の状態であれば、ですが」

 

エレンの胸元から腹部の傷痕から血が流れており、今まで随意領域(テリトリー)で止血していたのが十香の攻撃が原因で再び開いたらしい。それを聞いたウェストコットはふむとあごに手を当てる。

 

「ならばここは退こう。〈プリンセス〉を反転させられただけでも収穫だ」

 

エレンはそれに分かりましたと言って応じる。ウェストコットは蓮達の方に視線を向けてきた。

 

「我々はここで失礼させてもらうことにするよ。生き延びたならまた会おう、ジェイク、タカミナ、いやイツカシドウ」

 

「タカミナ?」

 

それは士道の実妹を名乗る真那の姓だった。それを聞いた士道と蓮は眉をひそめる

 

「待て!あんた、俺のことを知っているのか!?」

 

士道のその問いに答えず、エレンの肩に手を置いた途端エレンは随意領域(テリトリー)を凝縮させ、ウェストコットを浮遊させるとそのまま凄まじいスピードで夜空を飛んで行ってしまう。これでこの場には士道、蓮、美九。そして十香だけが残された。

 

「あとは、貴様らか…」

 

飛んで行ったウェストコット達を目で追っていた十香だったが、どうやらこちらを見過ごすつもりはないらしくゆっくりと降りてくる。そんな十香を見て、蓮はある決断をした。

 

「…士道、あと誘宵 美九。、今すぐここから逃げろ(・・・・・・・)。今の十香は普通じゃない(・・・・・・)

 

その言葉に士道は驚きの視線を蓮に向けるがそれに一番反応したのは意外にも美九だった。

 

「に、逃げろって、あの子を助けるためにここまできたんじゃないんですかぁ!ていうか、私たちが助ける必要がないぐらい激強じゃないですかー?」

 

「反論できないな…。でも、とにかく急いでここから離れろ!」

 

状況が理解出来ないのは自分も同じだ。だが、このまま平和的に終われないことだけは分かる。蓮は意識を集中させると、左手に粒子が集まり、銀色の輝きを放つ刀身に柄の真ん中に赤い宝石と綺麗な装飾が施された剣、〈トラウィス〉を形成する。士道はその剣が蓮にとっての切り札だというのを知っていた。

 

「ここを離れて、〈フラクシナス〉に回収してもらえ。いいな!」

 

一方的にそう言うと、爆発的な瞬発力で十香に斬りかかる。士道は剣の動きどころか蓮自身の姿が見えないほどのスピードだったが、十香は驚くこともなく平然と受けとめる。その瞬間、とてつもない衝撃が付近に走る。

 

「…この妙な感覚の元はお前か。貴様は何者だ?」

 

「俺のことを忘れちまったのか?学校の帰りによくきな粉パン奢ってやっただろ」

 

「…何を言っている」

 

呼びかけてみるも冷たく返されるだけだ。人格、あるいは記憶そのものが変化しているかもしれないが、そんな事を考える余裕はすぐに無くなった。〈トラウィス〉を振り払い、容赦のない斬撃を繰り出してきたからだ。、蓮はそれを受けとめるので精一杯な状態となる。

 

(一発が重すぎる…!)

 

四月に十香と剣を交えたことがあったがその時とは比べものにならない威力だ。ひたすらそれを防ぐのが限界だった。それでも一瞬のタイミングを見切り、それに合わせて十香の剣を大きく弾き、反撃のチャンスを作る。

 

「悪いが全力で行く!〈トラウィス〉!」

 

そう言うと、柄の中央にある赤い宝石が輝き、刀身から光が溢れ出す。そのまま隙のある十香へ剣を向かわせる。これは間違いなくとったと確信する。しかし…

 

「…〈暴虐公(ナヘマー)〉」

 

十香が小さく言うと、手に持った剣…〈暴虐公(ナヘマー)〉は黒い輝きを放ち、〈トラウィス〉とぶつかる。その瞬間、〈トラウィス〉の刀身が砕け散り(・・・・)、銀色の破片が宙を舞う。

 

(うそ…だろ…)

 

その光景に一瞬だけ思考が停止する。十香はその一瞬の隙に〈暴虐公(ナヘマー)〉で蓮の腹部を突き刺す。その行動に全くの迷いは無かった。

 

「がっ…あぁ…あ…」

 

暴虐公(ナヘマー)〉は蓮の身体を貫通し、背中から先端を見せ、血によって黒い刀身は濡れていた。蓮は意味のない言葉が口から漏れた。

 

「…ふん」

 

十香は興味を失ったかのように剣を振り、〈暴虐公(ナヘマー)〉から蓮の身体を抜く。解放された蓮は力なくうつ伏せの状態で床に倒れ、血だまりを作っていく。士道はそれを信じられないといった様子で見ていた。

 

蓮が刺された瞬間も叫び声すら出なかった。十香の変異、蓮の死…短時間に多くのことが起こりすぎて思考が追いついていないのだ。

 

「あの男…まさか…」

 

「いや、違う!あいつが…死ぬはずがない!」

 

怯えた様子の美九の呟きに、士道は無意識にそう反応していた。今まで何度も危機的状況を共に乗り越えてきた、そんな蓮が死ぬはずがない。急いで〈フラクシナス〉に連れて行けばきっと目を覚ます。何より…十香に蓮を殺させるわけにはいかないのだ。

 

だが、十香の視線は次に士道を捉えていた。

 

 

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