「どんなもんじゃーいッ!」
「ん? 全クリしたのか? おめでとう」
右手をグッと握って天高く突き出した士道に、コーヒーを作っていた蓮がねぎらいの言葉をかける。
訓練を始めて十日後、士道はようやくゲームのハッピーエンドを迎えることができた。
ちなみに蓮は三日目からコーヒーの材料を自前で持って来ていて、コーヒー作りに夢中だった。
「…ん、まあ少し時間がかかったが、第一段階はクリアとしておくか」
「ま、一応やり込み要素は全部やったし、とりあえず及第点かしらね… 画面の中の女の子に対してだけど」
「俺は笑わしてもらったから、満足だけどな」
蓮がここに来る楽しみはコーヒー作りの他に士道の黒歴史を見て笑うことであった。蓮は面白かったが、笑われる士道は黒歴史を晒され笑われるというコンボを受け本当に泣きそうな時もあった。
「しかしあれは…傑作だった…プププ」
「わあ! 思い出すんじゃねえよ!」
思い出すだけでも笑いが出てくるほど蓮はツボにハマっていた。この時点で心が折れそうなのだが訓練はまだ始まったばかりだ。
「それで士道。 次の訓練なんだけど」
「まったく気が進まないけど、なんだ?」
「そうね…誰がいいかしら…」
令音が手元でコンソールを操作して机に学校中の映像が映し出だされる。
「…そうだね、まずは無難に彼女なんてどうだろうか?」
そう言って指したのは、蓮と士道の担任である岡峰 珠恵ことタマちゃんであった。
「で、俺にどうしろと?」
「…とりあえず、岡峰 珠恵教諭を口説いてきたまえ」
「はァっ!?」
「うわっ! つまんなそう。 俺はパスで」
蓮は露骨に嫌そうな顔をした。同年代の女子を口説くならまだしも、生徒が先生を口説くのを見て誰が得するのだろうか。どうせ『私と五河君は生徒と先生なので無理ですぅ』とか言われるのに決まっている。まあ、余程強い結婚願望などが無ければだが。
「本番ではもっと難物に挑まなくちゃならないのよ。それに比べたらまだいい方よ」
「そりゃ、そうだけど…!」
「…最初の相手としてはいいと思うがね、彼女の性格から考えればそんなペラペラと他の人間に言いふらしたりしなさそうだ。…まあ、君がどうしても嫌なら、女子生徒に変えてもいいが…」
「…先生でお願いします…」
「決まったのか? じゃあ俺は教室で本でも読んでるから」
蓮は欠伸をしながら、部屋を出て行った…コーヒーは片付けずにそのままで。
「琴里! 俺ばっかじゃなくてたまにはあいつにもやらせろよ!」
士道は自分の黒歴史が蓮に笑われた事を根に持っているらしい…まあ、自業自得なのだが。
「やらせてもいいけど、士道。 自分が惨めになるだけだけど、それでもいいの?」
琴里にそう言われて士道は思い出した。
蓮は殿町が開催した『恋人にしたい男子ランキング』で二位と倍以上の差をつけて一位になったことを…
「…やっぱしなくていいです…」
「まあ、士道にしては賢い選択ね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓮は自分の席に座りながら本を読んでいた。
「ふう…」
本を読み終わり、ひと息つく。外は夕日が綺麗に街を照らしていた。その幻想的な美しさに目を奪われるそしていくらか時間が経った時…
ウゥゥゥゥゥゥゥーーー
あたりに空間震警報が鳴り響き、廊下を走る音が聞こえてくる。 おそらく避難し始めた生徒だろう。
しかし蓮は避難せずに席に座ったままだ。
(はあ…人がせっかくリラックスしてんのに…)
蓮は内心で舌打ちをした。彼は空間震は少しも恐れていない… 今は自分の大切なリラックスタイムを邪魔されたことが気に食わなかった。
「まあ、いいか」
そう言ってまた蓮は本を読み始める。するととても大きな音が聞こえると同時に"あの感覚"を蓮は感じた。
(来たか…)
その感覚はどんどん大きくなって行く。 つまり近づいて来ているのだ…精霊が…
普通の人間ならすぐにでも逃げ出すだろう。しかし蓮は逃げない、しばらくして教室のドアが勢い良く開く。
「ぬ…お前は…」
「よう。久しぶりだな」
そこには紫色のドレスのようなものを着て、手に大きな剣を持った少女がいて、蓮はその少女に久々に会った友人のような挨拶をした。
少し前に殺しあった関係とは思えない、友好的な挨拶を…
少女は相手の姿を確認すると、手に持った剣を構えてくる。
それは当然の反応だろう。前に会った時は自分が手も足も出ずにやられたので、警戒しているのだ。 しかし蓮は少しも焦らない。
「落ち着けって、 ここでやり合うつもりはない、まあ、とりあえず座れよ」
そう言い相手を落ち着かせると、着席を勧める。
相手も蓮に戦意はないと感じたのか、警戒しながらも机に座った。 その机は偶然にも士道の机であった。
「あと、あんまり物を壊すなよ。せっかくここは無事だったんだからな」
「う、うむ… 分かった…」
少女も戸惑いながら頷く。
「よし、いい子だ。 それでも俺に何か用か?」
「用などない。 だだ変な感じがして、ここに来て見たらお前がいただけだ」
「へえ、奇遇だな。 俺もそんな感じがしていたんだよ」
蓮は笑いながら答える。
「…お前もメカメカ団の仲間か?」
「メカメカ団?…ASTの事か。 んー、一応仲間だけどお前のことは攻撃する気はないし、恨んでもいないよ」
「ぬ? なぜだ?」
「メカメカ団だってお前にやられる覚悟があって攻撃してるんだし、お前にも正当防衛があるからな」
「セイトウボウエイ? なんだ? それは」
「簡単に言うと、やられたらやり返していいって言う事だよ」
本当に簡単で適当な答え方である。
「なに? そんなのがあるのか?」
「その代わり、あの時だってお前の方から手を出して来たから、そこは認めろよ」
「た、確かに私の方から攻撃してしまったが…」
それを聞いて少女は気まずい顔をした。
「まあ、反省したならいいよ。 他に聞きたい事は?」
「では、お前のあの力はなんなのだ?」
その質問を聞いて蓮は目を細める。
「…逆に聞こう。 お前は自分の力が何か知っているか?」
「い、いや 気が付いたらこうなっていたから、分からんぞ」
「そうか…俺も自分の事は少しも分からない。"自分が誰か"すらも…」
自分と目の前の少女は似ているのだ。だからこそ救ってやりたい…
「だけどな、楽しい事を見つければ自分が何かすらもどうでも良くなってくるさ。 これだけは言える」
「うむぅ… そういうものなのか?」
「もう少しこの世界を信じてみろ。損はしないさ」
そう言った瞬間、また教室のドアが開く。そこにいたのは…
「士道?」
なんと少し緊張した表情の士道が立っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんで蓮が精霊と話してるのよ!?」
〈フラクシナス〉の司令部で琴里は大きな声を出した。
「彼は空間震警報が鳴ったのに避難しなかったんでしょうか?」
隣で神無月が困惑しながらを言う。まあ、これはごもっともな疑問である。
しかし令音は逆にチャンスだと捉えていた。
「…だが、レンは彼女と喧嘩をしてるというわけではなさそうだ…むしろ楽しそうに話している。 これはチャンスではないかな?」
「どういう意味? 令音」
「楽しそうに話している様子を見るとレンは警戒されている様子ではなさそうだ… もしシンがレンの友達という事を言えば、少しは警戒されずにシンは彼女と話せるのではないか?」
つまり、令音は士道を蓮に紹介してもらえば精霊に警戒されずに話せるのでは? と言いたいのである。
「さすが令音! 冴えてるわ。 じゃあインカムから蓮に指示を送って…」
「それが…蓮君のインカムはまだ調整中でして…まだ渡してないんです…」
「なんですって!!」
琴里はまた大きな声を出す。
「全ては彼次第…という事か…」
しかし令音は表情を崩さずに、冷静に呟いた。
士道は琴里から精霊のいる場所を教えてもらい、その教室のドアの前に立っている。
さっきから汗が止まらない。それも当然だろう、相手は世界を殺す災厄と言われている存在。 緊張するな、と言う方が無理だ。
しかし、気を落ち着かせてドアを開ける。
「…ッ! や、やあー」
挨拶をしようとした…その瞬間、
ーーーヒュン
少女は手を振ったら、一条の黒い光線が士道の頬を掠めていった。
そしてその光線は士道がついさっき手をかけていた教室のドアと後ろのある廊下の窓ガラスが大きな音を立てて砕け散る。
「なんだ? お前はっ!?」
その言葉を言い終わると同時に少女は頭をおさえて悶えていた。
「物を壊すなって言っただろ」
背後で蓮が右手を平手にしていた。 蓮が少女の頭にチョップを当てたのだ。
「しかし、こいつが敵だったらどうするのだ!?」
「ま、待ってくれ! 俺の名前は五河 士道、蓮の友達だ!」
このままだと敵と誤解を受けたままになってしまう気がしたので慌てて自己紹介をする。
「ぬ? レン… 誰だそれは?」
「そういえば名前を言って無かったな…俺の名前は神代 蓮だ。 お前の名前は?」
「…名、か。…そんなものはない…」
少女は悲しそうに下を見ながら言う。 おそらく誰からも名前すらも聞かれたことも言われた事もないのだろう。
そんな少女を見兼ねて、蓮はある提案を出す。
「よし、士道、お前、こいつに名前をつけろ」
「え? お、俺が?」
「そうそうないぞ? 人の
蓮は嬉しそうに言う。まあ、確かにそうそうある経験ではない。
士道はしばし悩む動作をしたのち…
「トメ! 君の名前はトメだ!」
士道が言った途端、小さな光球が出現して、士道の足元の床に向かっていった。
「…なぜか分からんが、無性に馬鹿にされた気がした」
少女は額に血管を浮かべながら言う。蓮も呆れたような顔をしていた。
「流石にトメは無いだろ…なんだそれ? 鳥みたいな名前だな」
ちなみに少女が床を壊した件だが、これは蓮も怒る理由が分かるので黙認した。
そしてまた士道が考え出して少し経った頃…
「と、十香」
「ぬ?」
「どう…かな?」
少女はしばらく悩んだ後、
「まあ、いい。 トメよりはマシだ」
この瞬間、"十香"という少女がこの世に生まれた。
「それでトーカとはどのように書くのだ?」
「ああ、それは…」
士道は黒板まで歩いて行くと、チョークで『十香』と書いた。
十香も士道の真似をして黒板をなぞる。普通は書けないが、指が伝った後が綺麗に削れて下手くそな文字で『十香』と書かれていた。
「だから物を壊すなって…まあ、いいか」
蓮は注意しようとするがやめる。初めて名前を付けてもらえて嬉しいのだろう。その幸せに水を差すほど非道になれなかった。
「シドー、レン」
「ん?」「なんだ?」
「十香。 私の名前だ。素敵だろう?」
「あ、ああ…」「そうだな。とても素敵だ」
士道は少し視線を逸らしながら、蓮は微笑みながら答える。
「レン、シドー。私の名前を言ってくれ」
「と、十香」「十香」
二人が名前を呼ぶと十香はさらに嬉しそうにした。
しかし突如、校舎を大きな爆音と衝撃が襲った。
「な、なにが…」
「士道! 伏せろ!」
蓮は士道に覆いかぶさるようにして伏せさせた。その直後、窓ガラスが割れ、向かいの壁に銃痕が刻まれる。
「な、なにが…」
「ASTだよ、士道。 さては十香が出てくるのを待ちきれずにいぶり出そうとして来たな。 せっかちな連中だ」
なにが起こったか分からない士道に蓮は分かりやすく解説した。その表情からは恐怖が少しも感じられない。
しかし十香の表情は銃弾やガラスの破片が当たってないにも関わらず、ひどく痛ましく歪んでいた。
「早く逃げろ、レン、シドー。 このままでは同胞に討たれることになるぞ」
「俺のことは気にしなくていいよ、自分の身は自分で守れるからな。しかし…」
心配そうな目で士道を見る。士道は自分を守れる方法を持っていない。もし流れ弾でも当たったらとても危険だ。
だが、士道は十香の足元に座り込み、動く様子はない。
「何をしている? 早く…」
「知ったことか…! 今は俺たちのお話タイムだろ。あんなの気にすんな」
「そうだな… 気になることがあるなら士道に聞いてみろ。いろいろ教えてくれるぞ」
十香は一瞬、驚くが士道の向かいに座り込んだ。
銃弾が飛び交う中、蓮、士道、十香の3人は様々なことを話し合った。 十香が聞き、蓮と士道が答えるという形で。
「あの、だな…十香」
「ん、なんだ?」
「その…今度俺とデートしないか?」
ここで士道は本題を出した。ここでOKをもらえれば次に会う機会を準備することが出来る。その誘いに十香は…
「デェトとは一体なんだ?」
まさかの答えを出してきた。しかし十香はこちらの世界をよく知らないので、無理はないかもしれない。
士道は気恥ずかしくなって、視線を逸らして頬をかく。
「レン、デェトとはなんだ?」
「ん? それは…」
蓮が答えようとした瞬間、教室の外から人影が飛び込んできた。その人物はなんと折紙だった。
折紙を確認すると、蓮は姿を隠した。 ここでASTに見つかると少々面倒なことになる。
折紙は手に持った機械からビームの刃を出すと、十香に襲いかかった。十香は刃を手で受け止める。
「くっ…」
「無粋!」
十香は刃を受け止めていた手を折紙ごと降り払う。その隙に蓮は士道に話しかける。
「…士道、ここは危険だ。 離れるぞ」
「蓮…琴里から指示があった。〈フラクシナス〉で拾うから二人から離れろだって、でもどうやって…」
「どうやってだって…そんなの決まってんだろ。」
蓮は外が見えるくらいボロボロになった教室の壁を見てうっすらと笑う。
「ま、まさか…お前…」
「高い所は苦手か?」
士道の返答も聞かずに士道の腕を掴むと、蓮は三階の教室の外に飛び出した。当然、腕を掴まれている士道も道連れだ。
「のわぁぁぁっ!!」
外に飛び出した瞬間、二人の体が無重力に包まれた…
DMCシリーズは好きなのですが、全然スタイリッシュにプレイ出来ない・・。
ようつべとかで滅茶苦茶上手な人がいますけど、どんな指の動きをしているのか気になります。