デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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50話

今の日本を悩ませている社会問題の一つに、"待機児童"というものがある。待機児童とは、保育園や幼稚園が定員オーバーにより行けない子供達のことだ。一応この問題は、託児施設を増やす事によって解消する事が出来るが、子供の声による騒音問題などが原因で近隣住民からの反発があり、難しい問題となっている。

 

「なあ、士道。いっその事、託児施設でも始めないか?社会問題の解決に貢献できるぞ」

 

「この状況で、その冗談は笑えないからやめてくれ…」

 

朝の五河家、そのリビングには七人の小さなモンスター(子供)がいた。そして、その子供達はどこかで見た事がある容姿をしている。

 

「レン、だっこしてくれ!」

 

「しどう、おしっこをてつだってほしい。いっしょにきて」

 

「あの…ごめんなさい…わたし…うぅ…」

 

「み、みんな、ちょっとおちついてちょうだい!」

 

「ゆけ!わがけんぞくよ!ゆづるにわれのいげんをしらしめるのだ!」

 

「びしょう。くすぐったいです」

 

「だーりん!だーりん!」

 

小さくなった十香は蓮に抱っこしてくれと催促し、折紙は士道をトイレに誘う。四糸乃は今にも泣き出しそうな様子で、琴里は皆を落ち着かせようと頑張る。耶具矢は、何やら指示を出し、夕弦は、耶具矢の命によって向かってきた猫、ミルクに顔を舐められてる。最後の美九は、だーりん、だーりんと何やら訴えていた。

 

「とんだ置き土産を残していったな。七罪は」

 

服を引っ張られながら、事の元凶である七罪を思い出す。十香達が子供になったのは、七罪の天使〈贋造魔女(ハニエル)〉の変身能力が原因だった。身体が子供になっても、幼児退行したり蓮や士道の事を忘れてしまった訳ではないようだが、これだけの人数の世話を二人だけで見切れるものではない。

 

この子供化は、時間経過が元に戻るか、それとも七罪が解除しなければ一生元に戻らないか…、いや、おそらく後者だろう。

 

(こうなるんだったら、DEM時代に子供の世話の知識も身につけておけば良かったな)

 

やけくそ気味にそう思いながら、服を引っ張る十香の頭を優しく撫でるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

騒々しい日曜日が終わり、誰もが嫌う月曜日がやってくる。その日の朝から、蓮は制服とカバンを持って五河家に来ていた。

 

「悪いな…朝から来てもらって…」

 

「気にしなくていいよ、何しろ状況が状況だ。十香達の朝食の用意も大変だろうしな」

 

キッチンに立った二人は、十香達の朝食を作りながらそんな会話をする。一人と二人とでは、仕事量と心の余裕がこんなにも違うのかと士道は泣き出しそうな気持ちになる。

 

「しかし、昨日の令音さんスゴかったな…」

 

「ああ、あんなに騒いでた十香達を大人しくさせたんだ。解析官殿、独身らしいけどな」

 

昨日、世紀末状態だったリビングに、令音が入ってくると見事なテクニックで十香を大人しくかつ、静かに落ち着かせたのだ。あれは見ていた二人も驚いたものだ。

 

「解析官殿、他にも色々な事が出来るみたいらしい。…まさかと思うけど、宇宙人やUMAだったりしないよな?」

 

失礼な事を言っているが、確かにミステリアスな雰囲気という面から見ると、士道も蓮のいう事は何となく分かる。しかし、世界を滅ぼすと言われている精霊と、剣で打ち合える奴が何を言っているんだと思ってしまうのは仕方のないことだ。

 

『ねーねー、今日のご飯はなぁに?』

 

「いいにおいが…してきます…」

 

「もうすこしでできるとおもいますよー。ですから、そのじかんつぶしにわたしのひざのうえに…」

 

「みく、しょくじのばなんだから、ぎょうぎよくしてなさい」

 

キッチンで料理をしている後ろで、四糸乃、よしのん、美九、琴里がテーブルで待っている。折紙以外の他のメンバーはまだ二階で夢の中だ。

 

(…どんなに小さな事でも、こうやって楽しみに待ってくれてる人がいるって幸せな事なんだな)

 

そんな当たり前の幸せを蓮は感じながら、本日の朝食の材料である食パンを二つに切った。

 

 

 

「それじゃあ、耶具矢たちが起きてきたら、朝ごはんを温めてやってくれ。それと、一応インカムはつけていくから、何かあったら連絡をくれ」

 

「帰ってくる途中に何か甘いものでも買ってきてやるから、大人しくしてるんだぞ」

 

「だから、こどもあつかいしないでって!」

 

「いってらっしゃい…です」

 

「だーりんとれんさん、きをつけていってらっしゃいですー」

 

自分の扱いに不満げな様子の琴里の頭をポンポンと撫で、四糸乃と美九に見送られて五河家を出る。

 

学校に行くと言っても、別に授業を受けに行く訳ではない、ただ、七罪の件の被害者である殿町、亜衣、麻衣、美衣、珠恵の様子を見に行くだけだ。 一応、子供化している訳ではないのだが、七罪の天使の中に閉じ込められた以上、問題無い状態か確認する必要がある。

 

学校へ移動している道の途中、士道の隣を歩く蓮が、携帯端末を取り出し何やら操作しながら歩く。普通なら注意すべきものだが、あの蓮が歩きながらもする必要がある(・・・・・・・・・・・・・)という点が士道は気になった。

 

「何してるんだ?こんな所でそんなもの取り出して…」

 

「いや、もしかしたら、七罪の現在地を知る事が出来るかもと思ってな」

 

それは、今士道たちが求めているだった。画面をタッチしながらその詳細を士道に説明する。

 

「七罪の存在はASTを通じて、DEMにも伝わっているはずだ。なら、DEM社にある俺のユーザーアカウントを使ってその情報を見る事が出来るかもしれない。もし交戦中なら、今すぐそこに飛んでいくつもりだか…」

 

士道がすごいと思うのは、この敵ですら利用しようとする考え方だ。自分の立場などを利用して信用できる情報を手に入れる、それに卑怯や泥臭さなどは気にしない、ただ、勝つために行動する。

 

英文だらけで何が書いてあるのかは士道には分からないが、蓮は迷う事なく操作しての画面を進めていく。やがてユーザーIDとパスワードを入力するような画面となり、まずはパスワードの欄をタッチする。

 

「あっ、俺、少し向こうを向いてるから…」

 

当然、士道はパスワードを知っても悪用するつもりなどないが、入力する所を見るのは褒められる行為ではない。なので、顔を背けようとするが、それを言い終わるより早く、蓮の指が画面を叩き始める。

 

迷う素振りを見せる事なく、アルファベットや数字が混ざったものが欄に入力され、すぐに隠される。その速さは目で追えるものではなく、見てる士道の方が困惑するレベルのものだ。

三十字はあろう、長いパスワードを入力し終えると、指をパキパキと鳴らしながら士道に顔を向ける。

 

「で、なんか言ったか?」

 

「いえ、何でもありません…」

 

何でこうも人間離れしているのだろう。目を背けながら士道が思ったその疑問に答えるものはいない。続いてユーザーIDの欄に触れて、アルファベットを入力する。

 

ユーザーIDは、パスワードと比べて入力し始めるが、それはすぐに終わった。まあ、ユーザーIDはどんなに短く、覚えやすいものにしようとあの長いパスワードを入力しなければならない難易度を考えると、気にするほどでもないだろう。

 

一体どんなにIDなのかと思い、横目でチラリと見てみる。やはり、IDは短くすぐに覚えられるようなものだった。

 

 

『NERO』

 

 

一瞬見えたその文字は、蓮が『log in』と記されている箇所に触れる事で消え、画面中央に『connecting』と表示される。

 

(えっ!?確かにNEROって…)

 

テレビを見ている士道は、その名前を知っていた。世界的有名な技術者、その知名度にも関わらずその本名、顔すら秘匿されている人物。その非難と共に、世界が依存している(・・・・・・・・・)存在だ。

 

いわば、生きる伝説とも言われている人間。たしか、その人物もDEMインダストリーに所属していたはずだ。となると、蓮はそのIDとパスワードを知っている存在、もしくは…

 

そこまで考えた時、画面に赤い表示とともに、何やら英文が出てくる。それを見た蓮は舌打ちをし、乱暴に端末の電源を切る。その行動に若干の苛立ちが混じっていた。

 

「お、おい。どうしたんだよ」

 

「このIDのアクセス権は九月三十日二十四時0分0秒に剥奪されています、その為、使用出来ません。だってさ。多分、あの人達がやったんだろうな」

 

それが誰の事を言っているのか、士道にはすぐに分かった。アカウントが使えないと、DEM内の情報を閲覧する事が出来ない。蓮はどうしたものかと悩み、頭を抱える。

 

「今まで何回か自分の行動に枷をつけられた事はあるけど、アカウント停止はさすがに初めてだな。悪い、力になれなかった」

 

「あ、いや、気にしなくていいよ…」

 

士道が事態を理解しきる前に蓮が謝罪してくる。それにとりあえず気にするなと答えて、二人は学校へと向かう。その途中も、士道はユーザーIDの事が頭から離れなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

精霊という存在を知らない五人がいる教室。そこにはいつも通りの雰囲気があった。

 

(まあ、こんなもんだよな。精霊によって自分は幽閉されてたなんて結論、普通は出てくるものじゃないし…)

 

蓮が被害者である四人を見て、思った感想はそれだった。殿町は、士道に『寝ていたらいつの間にか三日間も寝ていた』と興奮気味に説明し、本人はそれを宇宙人の仕業だと騒いでいた。精霊の存在が秘匿されていて良かったとこんな所で感じるとは、何とも言えないものだ。

他に亜衣、麻衣、美衣の三人とも話したが、自分が閉じ込められていた事より、珍しく蓮が話しかけてきたという事に驚いていた様子だ。そんな事に驚く事ができる余裕があるなら問題は無いだろう。

 

やがて、聞き慣れたチャイムが教室に響き渡り、それを聞いた生徒が自分の席へと戻っていく。最後に珠恵教諭の様子を確認し、問題なければ早退して家に帰る。それからは七罪の捜索だ。

 

(俺が一人の女を、文字通り追いかける事になるとはねぇ…)

 

今までは圧倒的に追いかけられるケースが多かった。別にそういう事に対するこだわりは無いのだが、初めてのその行動に不思議な気持ちになる。それは自分が浮かれているのだとは気づかない。

 

しばらくして、クラスの担任岡峰 珠恵教諭が入ってくる。見た感じ、どこか異常なようには見えない。だが、それとは別に何やら動揺しているような雰囲気だ。その視線は士道に向いている。

 

「えっとぉ…五河くんに、お客さんが来てるんですけど…」

 

「きゃ、客ですか?俺に…」

 

こんなタイミングで来る来客など、心あたりがない。だが、すぐにある可能性に考えつく。蓮の方も既に来客が誰か予想出来てるらしく、真剣な顔で目を合わせてくる。

 

考えられる可能性としては、DEMインダストリーか、精霊である七罪。どちらも一筋縄ではいかない相手だ。

 

(ここでやる気か…)

 

精霊の七罪もそうだが、顕現装置(リアライザ)は世間の目に触れてはいけない秘匿技術となっている。だが、もしそれを覚悟で来たのなら、目撃者を全員消す(・・・・・・・・)という思惑と共に来たのなら、かなりマズイ事になる。

 

「その客は、どこに…」

 

「あ、はい、職員室の方に…」

 

普通に来ればいいものを、行儀良く職員室で待っているなどおかしいと疑問を感じる。一体誰がと聞こうとした瞬間、教室に小さな影が入ってくる。それを見た途端、蓮は身体の力を抜いた。

 

「おお!ふたりともここにいたのか!」

 

その正体は、五河家で寝ているはずの十香であり、士道と蓮を見つけると嬉しそうな顔でこちらに走ってくる。その姿はとても可愛らしい。

 

「ああっ!職員室で待っててくださいって言ったじゃないですかぁ!」

 

珠恵を無視し、小さな身体を動かして寄ってくると、蓮は十香の頭を撫で抱っこする。

 

「ふふっ、いっしょにねていたシドーがいなくなってびっくりしたぞ。てっきりまいごになっていたのかとおもったのだからな」

 

蓮に抱きつきながら、笑顔で言ったその発言に、クラス中から士道に視線が集まる。当然ながら、いい意味が籠ったものではない。

 

「よしよし、心配させたな。朝ごはんはちゃんと食べたか?結構自信作だったんだが」

 

「うむ!とてもおいしかったぞ!シドーとれんがつくったのなら、まいにちいえにきてくれ!」

 

笑顔で蓮の首に抱きつく十香。クラス中からは微笑ましいものを見るような視線がくるのだが、士道には、『こんな純粋な子供を…』と言った非難の思いが向けられる。

 

「ほほぉ、われではなくけんぞくであるとおかをかかげるとは、ようしゃできるものではないぞ」

 

そんな声が教室の入り口から聞こえ、顔を向けるとそこには家にいるはずの耶具矢、夕弦、そして昨日家に帰った折紙がおり、三人は人目を気にせず入ってくる。それに、珠恵は困ったという顔をしている。小さな来訪者に、クラス中がわいわいと騒ぎ出す。

 

「ちかいみらいのあるじとなるのはこのわれだ!ならば、われをかかげるのがどうりというものだろう」

 

「ようきゅう。つぎはゆづるのばんです」

 

「・・・・・・・・・」

 

耶具矢と夕弦は蓮に、折紙は士道の方に行く。今日は幼児との触れ合い行事などは無いはずなのにと頭を悩むクラスメイトを無視し、蓮は耶具矢と夕弦の頭を優しく撫でる。

 

「よしよし、今やってやるから」

 

「なっ!?なぜわたしをおろすのだ!?」

 

催促に答え十香を下ろし耶具矢を持ち上げると、腕を組み満足そうな表情になる。一方、下ろした十香から不満の声が上がり、慌てて空いている片手で十香を持ち上げるが、残った夕弦は不満そうに蓮を見ており、慌ててフォローする。

 

そして、士道はというと、折紙に『パパ』と呼ばれそのせいで教室中に変な噂が流れ始めていた。

 

「ちょっと待て!この子たちは…親戚の子共たちを預かってるだけなんだよ!だから、パパとかはその…あだ名みたいなもんでさ!」

 

黒い噂が流れ始める教室に、士道はそう弁明する。多少の強引さがあるが、本人がそういうのなら追求のしようがない。こんな歳で子供がいるわけがないというところから考えて、一応は納得する。

 

「ふう…とりあえず、ホームルームが終わったらすぐ行くから、ちょっと職員室で待ってくれ」

 

小さくなった四人にそう言いながら、蓮が抱っこしている夕弦を床に下ろす。最後に抱えていた十香に触れた瞬間、それは起きた。教室の窓の外で何かが光ったかと思うと、突然目の前にいる十香の衣服の縫製がハラリと解けてしまった。それにクラス中から驚愕の声が漏れる。

 

だが、驚きに包まれる教室で、蓮だけがそれに冷静に対処した。まず衣服が解ける十香を上に軽く放り投げ、両手を空かせる。上に上がり、落ちてくるまでの間も、バラバラとなった布が十香の身体から離れていくがその間に自分の上着であるブレザーを脱ぎ、裸体が晒されるその瞬間の十香を包み込む。

 

「よっと、十香、大丈夫か?」

 

「うむ、たすかったぞ」

 

蓮の首に抱きつきながらそう答える十香。教室では衣服が解けた以外に、蓮の行動を見たざわめきも加わった。

 

「えっ!?今何が起きたの?」

 

「神代くんがどこかの黒い執事みたいな事をしたようにしか!」

 

これ以上この場を混乱させるのは望ましい事ではない。そのため、早く立ち去ろうとするが、また窓の外で何かが光ったかと思うと今度は士道の視線の先にいた、亜衣、麻衣、美衣の服装がハラリと解ける。

 

「きゃああああ!!」

 

「ちょっと!何すんのよ!!」

 

「身ぐるみ剥いでやるからなああ!!!」

 

三人共に必死に身体を隠し、士道に怒りの籠った視線を向ける。服が解けるこの現象、士道と蓮はすぐにこれが七罪の仕業だと理解した。

 

「お、おい…やり過ぎだぞ五河…」

 

「馬鹿!こっちに来るな!!」

 

蓮の忠告も虚しく、近づいてきた殿町の服装もバラバラになる。いきなり全裸となった殿町は仰向けに倒れこんだ。こうなってしまうと教室中がパニックと士道への非難に満ちる。

 

「いや、違うんだ!これは…」

 

必死に弁解を考える士道だったが、そうしている間にも教卓に立った珠恵の服装もバラバラとなる。本人は士道への非難の眼差しと共に出席簿で胸元を隠す。それを見た蓮は、ASTにいる自分の後輩に対して罪悪感にかられる。

 

「ここにいても被害者が増えるだけだ!ここは引くぞ!」

 

「あ、ああ!七罪の仕業だ、これは!」

 

急いで小さくなった十香、夕弦、耶具矢を無理矢理抱え込み、士道と共に教室を出て行く。下手に暴れられない以上、今はそうするのが最善の選択だろう。とんだホームルームになったと蓮は心の中で皮肉を思うのだった。

 

 

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