デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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51話

教室でクラスメイトの服装を剥がされるという事件を始め、そこから執拗に七罪の嫌がらせは始まった。その日以来、士道と蓮は可能な限り一緒にいるようにしたのだが、ひとたび買い物に出ると士道の服装が変化したり、周りを歩いていた通行人が変身するなど事件が連発した。

 

極め付けは、五河家が大人のホテルや風俗店のようになるという笑えないものだった。

 

「あああぁぁ…おおぉぉぉ…」

 

リビングのソファで死体のように寝ている士道の口から意味のない言葉が漏れる。それは数日間の疲労が原因だった。

 

「シドー、だいじょうぶか?」

 

「気持ちは分かるが、しっかりしろ。気力を失ったらそこで終わりだ」

 

となりに座っている蓮が、膝に乗せた十香と共に労いの言葉をかけてくる。その後ろでは折紙以外の精霊達が心配そうに士道の事を見つめている。

 

「ああ…大丈夫だ。蓮も悪いな、お前がいなきゃもっと大変な事になってたと思うし…」

 

街中だろうと容赦のない嫌がらせが士道を襲ったが、それを助けたのが蓮と〈ラタトスク〉だった。士道が社会的に抹殺されそうな状況になると、素早く蓮が美九の〈破軍歌姫(ガブリエル)〉から生まれた盾と剣〈マクイル〉を展開、周囲の人間を音で支配下に置く。

 

本音を言えば、あまりこのような使い方はしたくないのだが、贅沢は言えない。そうやって人の目を避け、士道を安全な場所にまで連れて行った後、その後処理を〈ラタトスク〉がやる。これがここ数日の流れだった。

 

不思議なのは、士道への嫌がらせは山ほどあるのに対して、一緒にいる蓮への直接的な嫌がらせが一つもない事だ。

 

「確か、〈フラクシナス〉の方で七罪の行方を追ってるんだっけ?もうすぐで七罪の霊波の反応を掴めそうって解析官殿が言ってたじゃん。あと少しの我慢だ」

 

「そりゃあそうだけど…なんで七罪の行動を待たなきゃ計測できないんだ…。他に方法があるような気もするんだが…」

 

「まあ、狩猟においても囮ってものは役に立つんだよ。当然、その意図を相手に知られないようにする必要はあるが」

 

十香の頭を撫でながら、士道に今の重要性を解説する。そういうものかと思い、士道はなんとなく窓の外に顔を向ける。すると、その視線の先で何かがキラリと光る。それは〈贋造魔女(ハニエル)〉の変身能力発動のしるしだった。

 

それに士道が目を見開くと同時に、リビング、士道、十香達の姿が淡く発光して姿を変える。光が止んだ時、士道は貴族のような煌びやかな服装に変わっており、その手には鞭を持っていた。そして十香達はバニーガールのようなレオタード姿と網タイツとなって、頭とお尻には様々な動物の耳と尻尾がついてある。

 

室内でこうなったのなら、まだマシだったのだが問題は家の壁が動物園にあるような檻へと変わっていて、室内の惨状が外にいる人間に見えるようになっていたのだ。檻の上には『僕だけの動物園』とあり、警察まったなしの状態だった。

 

「な、なんだこれは…!?蓮!どうにかしてくれ!」

 

変態臭が漂うこの状況から、助けを求めるように蓮の姿を探す。その人物は外から見えないリビングの外から申し訳なさそうに士道を見ていた。

 

「悪い士道…、流石にこれはどうにもできない…」

 

「れぇぇえええん!!!」

 

頼りにしていた人間の、まさかの裏切りに思わず叫んでしまう。その時、士道がつけていたインカムに通信が入る。それは〈フラクシナス〉にいる令音からだった。

 

『…シン、七罪の居場所が分かった。そこから約一キロ先の建設中のビルだ』

 

「そんなところから…。蓮!令音さんの言っていた場所に一緒に…」

 

士道はそこまで言いかけて言葉を止める。なぜなら、蓮がさっきまでいたはずの入り口には、誰もいなかったからだ。

 

 

 

人気の無い山中、そこには数人の人影があった。そのうち、二人は地に降り、残りは空に浮いている。いや、地に降りているという表現は間違ってはいないが、二人の内の一人は地に這いつくばっている(・・・・・・・・・・・)という言い方が正しいかもしれない。

 

「さて、どうしましょうか。私としては、生け捕りでも構いませんが…」

 

地面に立つ十八歳ほどの少女、エレン・メイザースが手の持った剣と共にその言葉を、目の前にいる女性に向ける。その女性は、二十代の中盤ぐらいの年齢で、スラリと伸びた手足、小さく、魅力的な顔と街を歩いたなら誰もが振り返る美貌だ。

 

「…ッ!だァ…す…け、て…、死に…だぐ…な…い…」

 

だが、今の状態なら、見惚れるよりも救急車を呼ばれる方が先かも知れない。今、彼女を守るはずの霊装が切り裂かれ、胸部から腹部の傷から血が噴き出しているからだ。その傷を負わせたのは、目の前にいるエレンだった。

 

「執行部長殿、どうしますか?」

 

上空で待機していた魔術師(ウィザード)達がエレンからの指示を求める。

 

「生かして連れて行きましょう。この傷なら問題無いと思いますが、〈ウィッチ〉は面倒な能力を持っています。念のため四肢を落としておきましょう」

 

エレンは〈ウィッチ〉…七罪に向けた剣を上に振り上げる。この剣が降り下ろされれば今以上の痛みが七罪を襲うだろう。その痛みに耐えるように七罪は思わず目を閉じ、奥歯を噛みしめる。

 

七罪のその行動を合図のように、エレンが剣を振り下ろそうとした瞬間、彼女の左目の視界の端に、キラリと何かが光った。反射的と言っていい反応で、素早く剣をそちらに向け防御の構えを取る、同時に何かが構えた剣に当たり上に弾き飛ぶ。

 

「ッ!?一体何が…!」

 

事態が分からなくとも、エレンはスラスターを稼働させ、素早く部下の魔術師(ウィザード)たちと合流する。そのエレンと入れ替わるような形である人物が七罪の前に立つ。ただ、エレンとは違い七罪には背中を向けていた。

 

「あ…あなた…は…」

 

いつまでも来ない痛みを不思議に思い、目を開けた七罪がそんな声を漏らす。白い髪、白い肌、そして、両手に装備された青と白の金属質な輝きを放つ籠手。

 

「かの有名なアーサー王は、自身に仕えた円卓の騎士であり、息子でもあるモルドレッドの叛逆により滅びた。まるで俺とあなたのようですね。この運命は…」

 

それこそ、物語でも読んでいるかのように彼は笑う。それを見たエレンは、目を細め鋭い視線でその顔を見る。

 

「…ですが、最後の最後に勝つのはアーサー王()で、敗れ去るのはモルドレッド(あなた)です。そんな昔話のように、今は甘くはありませんよ、ジェイク」

 

そう言うと手に持った剣を地上にいる蓮に向ける。それを見た蓮は両手を前に差し出す、するとそこに二つの短剣が降ってきて手中に収まった。この短剣は、さっきエレンが弾き飛ばしたものであり、それが落ちてきて持ち主の元へ戻ってきたのだ。

 

「未来は誰にも分からない。それこそ、俺とあなたの結末など神すらも分からないと思いますね」

 

人間を超えた力を持つ両者の視線がぶつかる。互いに容赦などしない、相手を倒す事を目的とした闘いが始まる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「エ、エレン様、私たちはどうしたら…」

 

思いもしない乱入者に、エレンの部下の魔術師(ウィザード)たちが狼狽える。そんな彼女達にエレンは顔を向けず、声だけで答える。

 

「あなた達はこの場で待機していてください。あれ(・・)はあなた達の手に余る存在です。あと、命が惜しいなら手出しをしないように、邪魔となるなら私はあなた達も切り捨てるつもりですので」

 

迷いなく淡々と答えるエレンに、魔術師(ウィザード)達は怯える顔をする。その間に、蓮は顔をエレンに向けたまま数歩後ずさり、右手を七罪の傷口に近づける。

 

すると、傷口に赤色の氷が張り付き、出血を止める。傷口から出ている血を凍らせて塞いだのだ。ある意味、血液に負傷時の役目をさせたとも言える。

 

「な…にを…してェ…」

 

「少し待っててくれ。あの人を倒して、すぐに治療してやる」

 

七罪は突然止まった出血と、傷口に感じる冷たさに疑問の声を出す。それに答える事なく、待ってろと言う。だが、伸ばした右手に何かが触れる感触がし、顔を向けると七罪が弱々しく蓮の右手を掴んでいた。

 

「ダメ…あい…つはァ…つよ…い。あな…たもォ…ころさァ…れ…る…」

 

見た事のない七罪の必死の訴え。顔を横に振り、戦うなと言う。そんな七罪に掴まれている右手を、蓮は装備している籠手越しに握り返す。

 

「大丈夫だよ、俺も強いから。そこでショーでも見る気分で待ってろって」

 

「おね…が…い…にげェ…て…。あなた…に…しんでェ…ほし…く…ないィ…」

 

「嬉しい事言ってくれるねぇ。だけど、七罪が死んじゃ意味がないだろ」

 

七罪を安心させるように小さく笑うと、手を振りほどき前に出る。エレンは、空中にいたのにも関わらず地に降りてきた。高さというアドバンテージを捨てても勝てるという自信の表れだろうか。

 

「その余裕…後悔しますよ…」

 

どうやら、自分の評価は最後に会った時から変わっていないらしい。額に青筋を立ててそう言うと、エレンは目を少し開き、意外そうな表情になった。

 

「おっと、珍しくミスをしました。私が同じ地に立つなど、あなたには贅沢過ぎましたね」

 

「fuck you!!!」

 

右手の剣を素早く逆手に持ち替え、エレンに対する話し方も忘れて二つの剣で斬りかかる。蓮は…いや、ジェイクは煽るのは良いが、煽られるのは嫌いだった。それを知っているエレンは、手に持つ剣で苦もなく攻撃を受け止める。

 

「本当に相変わらずですね。それでは私に勝てないと、何度も言っているでしょう!」

 

受け止めた剣を押し返し、蓮の体勢を崩すとその脚に向かって迷いのない斬撃を走らせる。蓮は、これをジャンプして回避、目の前にあるエレンの頭部目掛けて蹴りを放つが腕で防がれた。

 

「ちぃ!あなたも相変わらずですね!」

 

人間という枠組みの中で、最強の個体だと言っても過言ではない力だ。その事に悪態をつきながらも着地後、姿勢を低くし、右アッパーのように剣を走らせる。だが、エレンは僅かに後退し避ける。その結果エレンの目の前には空振りした右腕が晒された。

 

「その右手!もらいます!」

 

右手の籠手にエレンの鋭い一撃が入る。その一撃をもらった籠手は、傷口からヒビが広がり、やがて全体へと達してバラバラに霧散し消えてしまう。右腕の籠手が消えた事により、右手に握っていた剣も消える、つまり、右手には何もない状態となった。

 

「これで終わりです。所詮、あなたはモルドレッドでしたね!」

 

エレンは、無防備な身体の右側に向けて剣を振り下ろす。左手を動かして防御させる隙も与えない速さだ。そのまま蓮の身体に縦の傷口が刻まれるかと思いきや、その剣は途中で止まる。

 

その理由は単純。〈バスター〉に変貌した右手が、エレンの剣を掴み(・・)止めているからだ。

 

「…美しくありませんね。敵の得物を素手で掴むなど」

 

「死んで美を語れるかってんですよ。最終的に勝った奴が正義ですからね!!」

 

掴んだ剣を強引にエレンの前から退かし、正面をガラ空きにしたと同時に左手に握った短剣を捨て籠手だけの左腕をエレンに伸ばす。その途中、籠手が稼動し隠されたブレードが出現する、その狙いは当然、エレンの頭部だった。

 

「っ!?くっ!!」

 

時間にして三秒もない必殺の一撃。普通の魔術師(ウィザード)では反応すらも出来ないであろう一撃に、エレンは反応して見せた。鋭い反射神経で素早く顔を右に動かす、結果、ブレードはエレンの左頬に一筋の傷をつけ通り過ぎた。

 

「チッ!」

 

結果を見る前に感覚で避けられたと感じ、素早く後ろに飛んでエレンから離れる。その二秒後、いた場所にエレンの剣が通り過ぎた。蓮が離れたのを確認したエレンは、自分の左頬に触れてその手を目の前に持ってくる。指先には赤い液体が付着していた。

 

「…私の顔に傷をつけるとは、高くつきますよ」

 

「跡が残らないと良いですね。女性の顔に傷をつけるのは良くないとあなた相手でも思いますんで」

 

顔に傷をつけられ、怒りに震えるエレンと彼女を挑発する蓮だが、内心舌打ちしたい気分だった。氷を操る籠手〈ウィトリク〉は能力の他に籠手にある隠し武器が長所の武器だ。その武器の長所…切り札を一つ使って与えたダメージが頬の傷だけなど笑えない。

 

(せめて、耳を削ぎ落とせてたらなあ…)

 

未練たらしくそう思いながら、蓮は左腕の籠手と剣、右腕の〈バスター〉を解除し、光へと還す。しかし、これは降伏を意味しているのではない。すぐに蓮の背中が光だし、生み出された粒子が左右の腕に集まり形を作る。

 

光が止んだ時、左手には腕までを覆い隠す大きさで表面に金色の模様が刻まれている銀色の盾、右手にはそれの対をなすであろう銀色の剣。新たな武器〈マクイル〉の出現にエレンは目を細める。

 

「私の見たことのない武器…。良いでしょう、あなたの持っている隠し玉を全て暴いて見せます。その時があなたが地に伏せる時です」

 

その宣言に不快感を感じながら、蓮は盾を前に突き出しエレンに向かう。盾が前に出されている以上、それを退かす事から始まる。そう考えたエレンは、蓮のバランスを崩す事も考えて剣で盾を大きく打つ。

 

急に来た大きな力に蓮は足を止めると予想したが、動きを止めたのはエレンだった。何故ならエレンが盾を叩いた瞬間、盾から大音量の音が発生し顔を顰めさせると同時に動きを硬直させた。そのタイミングで蓮は右手に持った剣で斬りこむがエレンは剣で受け止めて防ぐ。

 

だが、防がれても蓮は攻撃を止めない。最初の一撃を始めに鋭い連続攻撃でエレンを追い詰めていく。時には盾でエレンを押し込んだりと一つしか剣がないのにも関わらず、二つの剣を持っているような戦い方だ。

 

「不快ですね…あなたに追い詰められるとはっ!!」

 

今の流れが気に入らないエレンは、それを断ち切るかのように横に大きく振り払う。剣が薙ぎはらわれたたった一瞬、その一瞬のうちに蓮の姿は目の前から消え、宙に浮く盾と剣だけが残される。

 

「っ!?何が…」

 

消えた蓮は、いつの間にか倒れている七罪の側に立っているのが見える。だが、すぐにそれを気にする余裕はなくなった。何故なら、宙に浮いていて、誰も持ってない盾と剣がエレンに攻撃をしてきたからだ。

 

「くっ…さっきから小細工を…」

 

まるで透明人間がいるような 〈マクイル〉の連携に苛立ちを露わにするエレン。少しの間エレンの相手をした〈マクイル〉は、フィニッシュにエレンの剣を上に打ち上げて、体勢を崩したところで蓮の元へと戻っていく。

 

「…おかしな手品はここまでです。今度はこちらから行かせてもらいます」

 

剣先を蓮に向け、踏み出そうとした時、エレンの前に小さな女の子が飛び込んでくる。その少女は身の丈ほどの剣と淡く輝く霊装を纏っており、その少女の正体は子供になった十香だ。十香の乱入にエレンは背後に飛び、距離を取る。

 

「れん、いまだ!そいつをつれていけ!」

 

エレンの注意を十香が引いてくれている。その隙に、蓮は七罪をお姫様抱っこすると、人間離れした跳躍力で山から飛び出す。飛び出す瞬間、蓮の耳に勇猛な雰囲気の曲と、周囲の気温が急激に下がるのを感じた。

 

それを見て自分がいなくとも問題ないと思った瞬間、蓮と七罪が上方に引っ張られる。ふと七罪の方を見てみると目を閉じ、ぐったりとしていた。死んではいない、気を失っただけだ。それを確認すると同時に、七罪の身体が淡く発光して形を変えていった。

 

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