デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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54話

「なあ、狂三。狂三は自分の人生は何と一緒だと思う?」

 

八月のある日の夜。一緒のベッドに入っている少女、精霊である時崎 狂三に蓮はそう問いかけた。それを聞いた狂三は自分の胸元にいる蓮を一瞥するとその頭を優しく撫でる。

 

「人間ではないわたくしにする質問としては、なかなか興味深いものをお聞きしますわね。自分の人生について…ですか?」

 

人間を超えた力を持つ狂三にこんな事を聞くのは、自分はただの人間と同じ尺度で測られているように感じてしまい、不快かもしれないと思ったが、幸いにも狂三はそうは感じなかったらしく素直に話してくれた。

 

「わたくしはある大きな目的のために動いていて、それを達成するにより多くの力を求めていますの。わたくしの天使、〈刻々帝(ザフキエル)〉は他者の時間を吸い上げ、それを糧とする…。故にわたくしは…他人の命を奪う(・・・・・・・)事と共にあり続けなければならない。そう思いますわね」

 

蓮はその目的が何かとは聞かなかった。どうせ聞いても正直に答えてくれるはずのないと思っていたが、本当はそれを聞いた瞬間に狂三とのこの関係が終わってしまう、それを無意識に恐れていた。

 

自分の全てを知り、全てを理解した上で受け入れてくれた狂三との関係を終わらせたくない。心を惚けさせる声、人の視線を集める美しい容姿、そして、蓮を包み込む狂三の体温がそう考えさせる。十香や士道達ももちろん蓮にとって大きな存在だ、だが、二人は自分の全てを理解しているとは言えない。

 

「…俺の人生は、人の欲望(・・・・)自分自身に対する恐怖(・・・・・・・・・・)と一緒だと思う」

 

狂三の背中に腕を回し、強く抱きしめた蓮はそう言った。その言葉に蓮の頭を撫でる狂三の手がピタリと止まる。

 

「本当は他人となんか関わりたくなかった。自分の知らない場所に行くのはいい、だが、知っている場所でも見ず知らずの人間と会うのはどうしても好きになれなかった。そう思っていたら、そのうち軽口や皮肉を言って他人と距離を取るようになったんだ」

 

顔が見えないため、どんな表情をしているのかは分からない。蓮は顔を見せぬままそれを始めに、蓮は今まで溜めていた自分の気持ちを吐き出し始める。狂三はそれを黙って聞く。

 

「自分自身が怖い奴が、他人を好きになんてなれない。俺は、自分に恐怖している。記憶の無い自分に、普通の身体じゃない自分に…」

 

人間が恐怖するもの、それは未知だ。自分と違う存在、自分の手に負えないものを人間という生物は恐れる。ASTが精霊を殺そうとするのも同じような理由だろう、精霊という未知を理解出来ず、ただ、自分達の害となる空間震を引き起こす事を理由に消そうとする

 

「狂三…もし、俺に記憶が無いのも、普通の身体じゃないのにも意味があるなら…何か大きな使命や、やらなければならない事のようなものがあったとしても、それを忘れていたり、知らなかったら、無かった事に出来るんだろうか(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

それに狂三はすぐに答える事が出来なかった。それから数秒、室内を沈黙が支配するがその沈黙の中で狂三は胸元にいる蓮の顔に触れると、優しく上を向かせ自分の顔を見させる。

 

「蓮さん、わたくしはあなたの事はあなた以上に知っていますの。そんなわたくしが言いますわ、何も不安に思うことなんてありません。自分が信じられないというのならわたくしを…わたくしの言葉を信じてくださいまし」

 

見る者を虜にさせるような優しい表情、安心させつつも力のある言葉で狂三はそう言う。それを聞いた蓮は、ゆっくり目を閉じ、再び狂三の胸元に顔を寄せ寝息を立て始める。狂三はそんな蓮をいつまでも抱きしめていた。

 

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神代 蓮の人生は、命をかけた戦いと…多くの出会いと一緒だ。

 

始まりは今年の四月十日。気まぐれと好奇心で起こした行動で、偶然出会った一人の少女。それを見ていた少年が最初だった。それから少女のような存在を救う組織に気まぐれで入り、手にしている剣と力で戦い、多くの出会いを経験して行く。

 

(なーんか、小説のあらすじのような内容だな…)

 

廊下の壁に背を預けながら、今での出来事を思い返し、蓮はそんな感想を抱く。別にふざけている訳ではない、ただ、このように思い返してみると気まぐれとはいえ自分らしくない。そう思ったのだ。

 

(昔、エレン(あの人)に他者に心を許すなっていう意味を込めて、童話を聞かされていたな。確か内容は…)

 

そこまで考えたところで目の前のドアが開き、誰かが飛び出してくる。それはぜえぜえと息を切らしながら出てきた七罪だった。

 

だが、最後に見た時の七罪と今の七罪は別人と言っていいほど違っている。癖毛で乱れていた髪は綺麗に纏まり、病人かと思ってしまうような肌は艶を持ち、化粧され綺麗になった貌と可愛らしい服で見事な変身を遂げていた。まあ、服と髪は走ってきた所為か、多少乱れてしまっていたが。

 

「可愛くなったじゃないか、やっぱり士道達に任せて正解だった」

 

「えっ…蓮!?これはその…色々あって…」

 

顔を赤くし何やらゴニョゴニョと呟く七罪を無視して、蓮は彼女の髪や服の乱れた箇所を直しにかかる。七罪が身につけている服は、触ってみるといい生地を使った高級品だというのが分かる。〈ラタトスク〉はメイクや服の用意に掛かった費用はどこから出しているのだろうか。

 

「これで良し。しかし、本当に可愛くなったな。お人形さんみたいだぞ〜」

 

あまりの可愛さに蓮は七罪に抱きつき頭を撫でる。そう行動した後、自分がまるで美九のような事をしているのと、七罪自身の気持ちを無視しているのに気づき身体を離す。

 

「わ、悪い七罪。つい興奮して…」

 

謝りながら七罪の顔に目を向ける。しかし、本人はその言葉に反応せず、依然顔を真っ赤に染めながら口をパクパクと動かしている。さすがにここまでくると、蓮も不安を感じてくる。

 

「おい!七罪、どうしたんだ?」

 

「蓮…さっき…私になんて言ったの…?」

 

そう聞く七罪だったが、彼女の目は目の前にいる蓮すら見ておらず、どこか別の場所を見ているようだった。それでも、質問に答えないのは七罪に失礼だ。心配しながらも答える。

 

「えっと…可愛いって言ったけど…」

 

「かっ!可愛いっ!?可愛いって言われ…言われっ…!」

 

七罪はその言葉を聞くと、蒸気が出ていると錯覚するほど顔を赤くし、直立の体勢のまま後ろに倒れる。彼女が床に後頭部をうつ直前に蓮は彼女の身体を支える。

 

「七罪?さっきから変だぞ、体調でもわる…」

 

「むきゅうぅ…」

 

そんな声を漏らしてそれっきり動かなくなる。一体どうしたのかと思い、七罪の顔をみるとなんと彼女は気絶していた。そんな状態で話しかけても返事が返ってこないのは当然だろう。

 

「…はい?」

 

意味もわからず七罪を抱える状態となった蓮には、疑問の声とばかりにそんな言葉が出てきた。

 

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「やっぱり、無理矢理すぎたかな?あんなに嫌がっていたし…」

 

「でも、自分に自信を持たせるにはやっぱりああするしか無かったと思うわね。問題はそれがダメだった以上、次は何をすべきか、だわ」

 

七罪を隔離スペースに連れて行くのを蓮に頼み、士道と琴里は令音と共に別室で次の対策を考えていた。具体的な課題は、『七罪が自分に自信を持たせるためにはどうするか』だ。

 

「そうは言ってもあれがダメとなると、他に何をすれば…」

 

「…いや、そういうわけでもなさそうだ」

 

口を挟んできたのはダブレット端末を弄っていた令音だ。彼女は自分の手にある端末を二人に見せた。画面には七罪の顔と様々な数値が表示されている。

 

「七罪が変身した自分の姿を見て以来、精神状態、好感度などの各数値が最悪の状態から脱している。…まあ、封印までは程遠い状態だがね」

 

「そ、そうなんですか?てっきり、嫌がっていたのかと…」

 

可愛くメイクやオシャレさせても、七罪は頭を掻き毟り、大声をあげて部屋を出て行ってしまったので士道は嫌な事をさせてしまったと思っていたが、そうでは無かったらしい。では、一体何が原因だったのか、令音がそれを説明してくれた。

 

「…彼女は、変身を嫌がっていたわけでは無い。今まで〈贋造魔女(ハニエル)〉で変身していた姿で賞賛を浴びてた為、本当の自分が褒められるのに慣れて無いんだ。どうやら七罪は他の精霊と比べて頻繁にこちら側に来ているらしい。…こっちでは本当の姿の七罪を誰も相手してくれなかったのだろう」

 

「難儀な事ね」

 

肩をすくめながら言う琴里だったが、そこ声音には若干、同情のようなものが混じっていた。同じ女である琴里には士道よりその苦しみのようなものが理解出来るのかも知れない。

 

「でも、そんな承認欲求があるならまだ手はあるわ。これからも自分に自信を持たせるような作戦で、こちらの言う事を素直に受け取ってもらえるようになってもらいましょ。そうすれば、好感度を上げるのも難しくないわ」

 

「自分に自信を持たせるって、具体的にはどうすれば…」

 

「それを今から考えるのよ。もしかしたら、また士織ちゃんの出番もあるかもしれないわね」

 

「うわっ!それは嫌だ!!」

 

二人で様々な計画について話す傍ら、令音は室内にあるモニターをジッと見ていた。その画面には、隔離スペースで、蓮が七罪の前でリンゴの皮を剥きながら何やら話していた。別に隔離スペースに蓮がいることはおかしな事ではない。だが、令音はそれを見て目を細める。

 

「…やはり、故障というわけではなさそうだ…。そうなると…」

 

その一言は、同室にいる士道と琴里には聞こえなかった。

 

 

 

 

「でさー、結局、その知り合いの魔術師(ウィザード)、逆上して銀行の金庫を犯人ごと吹き飛ばしちゃったんだ。そのせいで銀行の前に金庫の中身の紙幣が舞う大事態になって、警察が鎮圧するほどになったんだよ」

 

慣れた手つきでリンゴの皮を果物ナイフで剥く蓮は、懐かしむようにそんな話を七罪にしていた。待っている七罪が退屈だろうと思い、話し始めたのがきっかけだったが、思い返してみるとなかなかの笑い話だと思う。

 

だが、当の七罪は笑っている訳ではなく、相変わらずの不機嫌そうな表情で蓮を見ていた。

 

「あれ、つまんなかったか?俺の中では結構インパクトのある思い出だったんだけど」

 

「あっ!いや、別につまんなかった訳じゃないわよ…。まあ、いろいろぶっ飛んでいる内容だったけど…」

 

つまらなかったかと聞かれた七罪は、慌ててそうではないと否定する。蓮はそれを聞いて自分にも人を楽しませることが出来るのだと安心すると同時に、七罪が何か考えているのを感じた。意外にも、それを言い出したのは七罪自身だった。

 

「…ねえ、蓮はどうして私に構ってくるの?私なんか、あなたと違って見せるような顔してないし、面白い話が出来る訳もない。得なんて何もないのに…」

 

「人間っていう生き物は、全てを損得で考えているのか?」

 

顔を俯け、暗い声音で言った七罪にそう質問し返す。それを聞いた七罪が顔を上げると、一口サイズにカットされたリンゴが乗った皿を持ち、微笑んでいる蓮がいた。

 

「そんな風に考えてたら、自分と群れの事しか考えない動物と一緒だ。俺が来ているのは七罪と会いたいから、理由はそれだけさ」

 

蓮は皿にあるリンゴにフォークを刺すと、それを七罪の前まで持っていき食べろと促す。だが、七罪は口を開けず顰めっ面だ。そんな七罪を見た蓮は、クスリと笑うと『白雪姫(童話)じゃないんだ。毒なんか入ってないよ』と言う。

 

それを聞いた七罪は、疑心暗鬼になっている自分が恥ずかしくなりそれを誤魔化すようにリンゴに食らいつき咀嚼する。

 

「モグモグ…ゴクン。…本当にいい性格してるわね、学校でも人気者で大変でしょ?」

 

それは七罪の口から出るにしては珍しい内容だった。実際、七罪自身もらしくないと思いつつ口にした皮肉で、一種の照れ隠しみたいな意図を込めたものだ。しかし、当の蓮は肩を竦める。

 

「そうでもないさ。学校だと、士道達以外に友達いないし…」

 

その一言で七罪は自分が地雷を踏んだと感じた。学校という場で、くっ付く相手がいないのはかなり精神的にくる。一番最悪なのは周りがわいわいと騒いでいる中での一人。そしてペア決めのときにあぶれることだ。

 

「ご、ごめん!別にそう言うつもりで言った訳じゃなくて!その…なんて言うか…」

 

言い訳になってない言い訳を語る七罪に気にしてないとばかりに笑う。それを見て落ち着いた七罪は、なぜか悲しそうな顔を作った。

 

「私、あなたは良い奴だと思うの。別に答えたくなければそれで良いけど…なんで、たまに人間を見限ったような目をするの(・・・・・・・・・・・・)?」

 

今度は蓮が驚く番だった。七罪には優しく接し、私情を出さないようにしていたつもりだったが、それを七罪は見抜いていた。変身した人物の癖や仕草を真似る観察眼を持つ彼女を甘く見ていた。

 

「あなた、私に言ってたじゃない、自分と同じ匂いがするって。それに、私を部屋から連れ出して歩いてた時もそんな目をしてた。なんで…ムグッ」

 

そこまで言ったところで七罪の台詞は中断された。なぜなら、蓮の人差し指と中指が七罪の唇を塞いでいたからだ。

 

「俺の事情なんて知らない方がいいんだ。知ったところで何もできないし…同情なんていらないからな」

 

だが、それは自分に話せない事を隠すために誤魔化しだと七罪には理解出来た。手を伸ばせば触れられる目の前の少年、それなのにも関わらず、実際はもっと離れているように錯覚出来る。

 

だが、今、自分の唇に触れる二本の白い指。それはとても暖かった。

 

 

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