デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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55話

「何なの…何なのよ…」

 

ベッドの上で体育座りをし、布団をすっぽりとかぶりながら、七罪はブツブツと呟く。七罪が理解出来ないのは士道達が何故自分を良くしてくれたかだった。〈贋造魔女(ハニエル)〉で変身したお姉さん姿なら分かる、現に今まで出会った人間達は、そんな自分に様々な美辞麗句を並べ立ててくれた。

 

だが、今の七罪を綺麗に変身させ、可愛いと言ってくれた人間は今までいなかった。混乱する七罪の脳裏に蓮の言葉が再生される。

 

『人間って生き物は、全てを損得で考えているのか?』

 

それを思い出し、もしかして…という考えが一瞬出てくるが、それを振り払うように頭を掻き毟る。

 

「…いや、ありえないわ。どうせ、私を笑い者にでもさせようと悪巧みしてるんだわ…そうに決まってる…」

 

七罪は、手を胸元に掲げ、『〈贋造魔女(ハニエル)〉…』と小さく呟く。すると、手のひらに鏡のようなものが出現する。それを見た七罪は、目を見張った。どうやら、天使を出せるぐらいにまで体力が回復していたらしい。

 

七罪は手にした鏡を今乗っているベッドに向け、『自分が通れるほどの穴が空いたベッド』に変身させる。続いて近くにあったぬいぐるみを自分の寝ている姿に変身させ、布団の下に置く。これは、自分が消えた事を気付かせないためのダミーだ。

 

ぬいぐるみを置いた後、七罪はベッドに空いた穴の中に潜り込み、入り口を閉じてから、まるで地面を掘るように床、壁の中を〈贋造魔女(ハニエル)〉で変身させて進んでいく。

 

その途中、七罪はピタリと動きを止める。何故なら、七罪の頭の中にある人物が浮かんだからだ。

 

(…そういえば、世話してもらったのにお礼も言ってなかったわ)

 

怪我人である自分の世話をし、優しく微笑みかけてくれた少年。彼と何も言わずに別れてしまうのを考え、一瞬、戻るべきかとまで思わせた。七罪は自分の唇に触れる。かなり時間が経っているというのに、触れられた時の熱と感触を忘れられないでいた。

 

(何なの…この気持ち…)

 

一度、彼のことを思い出すとまるで濁流のように今までの記憶が流れ出てくる。エレンに重傷を負わされ、絶体絶命の状態だった自分の目の前に現れ、戦い、救ってくれたこと。少しの時間だったが、喫茶店で二人で話して珍しく自分が笑ったこと。

そして、次に来るときは飼い猫を連れて来ると言った部屋を出て行った彼を見て、僅かな不安と心細さを感じたこと。

 

「何考えているのよ…、あの部屋にいたら何をされるか分からないじゃない…これで良い…これで良いのよ…」

 

頭をブンブンと振り、自分にそう言い聞かせた後再び進んでいく。そして数分後、七罪は人気のない廊下に出た。

 

「よし…次はどうやって移動するか…かしら」

 

出てきた壁を元に戻した七罪は、ここから脱出するためにどうやって移動するか思考する。やはり、怪しまれないように行動する事を考えたら、誰かに変身するのが一番だと考えつく。

 

七罪は誰かに変身するのか決めると、〈贋造魔女(ハニエル)〉の鏡を自分にかざす。変身する対象は、七罪自身を悩ませ、混乱させている()だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「七罪の奴、寂しがってるかな」

 

独り言をつぶやいて廊下を歩くのは蓮だ、その胸元には飼い猫であるミルクを抱いている。ミルクは蓮が一人っきりの病室で寂しいだろうと思い、遊び相手として連れてきたのだ。ミルクは、七罪と前会った時に頬を舐めている。それは七罪の事を気に入った証だ。

 

ミルクと七罪が一緒にいる絵を考えながら廊下を歩いていると、背後からバタバタと足音が聞こえ振り返る。そこには十香を始めとした琴里以外の精霊五人が立っていた。

 

「みんな勢揃いでどこに行くんだ?確か、食堂は反対側の方向だったはずだが」

 

皆で食事にでも行くのかと冗談混じりでそう言ったが、精霊たちは皆、戸惑いや疑問といった表情を浮かべた。その理由を口にしたのは一番前にいた十香だった。

 

「む?何を言っているのだ。さっきまで話していたレンが、急にただならぬ様子で走り出したから心配して追いかけてきたのだぞ」

 

「首肯。ヒステリックでも起こしたような様子でした。もしかしたら体調でも悪かったのですか?」

 

十香と夕弦以外にも、四糸乃、よしのん、耶具矢、美九が各々心配するような言葉を投げて来る。しかし、さっきまでも何も蓮は今来たばかりで十香達と会ってなどいないのだ。まるで自分ではない自分がいたような言い方だ。(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

そう思った瞬間、ある可能性が浮かんできた。

 

「ッ!十香、ミルクを持っててくれ!」

 

押し付けるという表現が合うかのように、胸に抱いていたミルクを十香に渡すと蓮は一直線に走り出す。

 

「レン!?いきなりどうし…おお!肉球がプニプニだぞ!」

 

「指摘。蓮がどこかに行ってしまいますが」

 

蓮が向かった先は七罪がいる病室だ。部屋に到着すると、素早くナンバー入力と手のひらを当て認証を済ませて部屋に入る。室内には七罪の姿はなく、ベッドが膨らんでおり蓮は乱暴にかけ布団を取っ払う。すると、そこには眠っている七罪がいたが、本人ではない偽物だった。

 

「…やるな。誰も気が付かないわけだ」

 

この場にいない七罪への賞賛の言葉を送ると、室内に備え付けてある電話を手に取り番号を入力する。どこに向けての電話かは言わずとも分かるだろう。

 

「…司令官殿、緊急事態だ。七罪が部屋から逃げ出した。もう外に脱出しているかと思うが念のため、施設内の捜索をしておいて欲しい。俺は外に出て七罪を捜す」

 

一方的にそう告げた後、電話を放り投げ部屋から出る。状況の詳細が分かる説明とは言えないが、して欲しい事とその理由だけは伝えることは出来た。

 

(あと、七罪はどこに行ったかだな。行きそうな場所と言ったら…)

 

「あれ?蓮じゃないか。どうしたんだ?そんな息を乱して」

 

部屋を出た蓮にそう話しかけてきたのは、七罪の着替えや日用品を持った士道だった。彼は部屋から慌てた様子で出てきた蓮を不思議そうに見ている。

 

「…士道、マズイことになった。七罪が部屋から逃げ出したんだ、きっと天使の力を使ったんだろう」

 

「七罪が逃げたって!?外に行ったらDEMやらに狙われるのに…」

 

士道の言葉には驚きと疑問の声音が混ざっていた。DEMから七罪を救った実績がある以上、どんなに嫌われていようと自ら外に出て行く事はないと思っていたのかも知れない。そんな士道に蓮は首を横に振る。

 

「どうやら七罪には、〈ラタトスク〉もDEMも大差のない存在だったらしい。施設内の探索は司令官殿に頼んである。俺は外を探してみる、けど、まあ、そんな期待しないでほしいが…」

 

蓮は七罪という少女の事をまだ詳しくは知らない。蓮が外に出ても探し方は思いつく場所を回って行く…いわゆる虱潰しとなってしまう。それでもやらないよりはマシだと考えるしかないが。

 

とりあえず今は時間が惜しい。家に一度帰り手にした日用品を置いてきた後、七罪の捜索を手伝うという士道の言葉を聞き、蓮は再び廊下を走り出す。

 

(頼むから無事でいてくれよ…)

 

エレンに七罪が殺されかけてた場面を思い出し、胸の中でそう祈った。

 

 

 

「施設内の監視カメラをチェックして、少し前に蓮の姿を見つけてちょうだい!あとはその動きを追って外に行ったかまだ施設内にいるか把握するわ」

 

〈フラクシナス〉の艦橋で、椅子に座った琴里が乗組員に指示を出していた。蓮から地下施設内の捜索を頼まれた以上、一先ずまだ七罪が中にいるかチェックするところから始まる。

 

「それにしても、誰かに化けて堂々と脱走するなんてやってくれるわね。ご親切にダミーまで残して時間を稼ぐなんて」

 

チュッパチャプスの棒をピコピコと動かしながら、琴里は引き攣った笑みを浮かべる。コッソリ逃げ出すならまだしも臆する事なく廊下を歩いて行ったという事にやられたという悔しさを感じていたのだ。

 

「あの…司令。ふと疑問に思ったのですが、七罪はなぜ蓮くんの姿に化けて出て行ったのでしょうか?」

 

そんなピリピリした琴里に対し、疑問の声を上げたのはクルーの一人である〈藁人形(ネイルノッカー)〉椎崎 雛子だ。椎崎の質問に琴里は眉を顰める。

 

「なぜって…蓮が私たちの仲間で施設内を怪しまれる事なく歩くことが出来るからに決まってるじゃない」

 

「それはそうですけど…でも、どうせ化けるなら司令に化けるほうが都合が良いと思うんですよ。現に一番大きな権限を持っているのは五河司令ですし…」

 

椎崎の言葉を聞いて、他のクルーも『そう言えば…』という表情で顔を見合わせる。琴里も確かにと思い、考え込んでしまった。そんな時、艦橋のドアが開き、一人の人物が入ってくる。眠たそうな目と隈が特徴的な令音だ。

 

「…その事について、ある仮説が立ったんだ。これを見て欲しい」

 

琴里達の会話を聞いていたであろう令音は端末を操作し、正面に巨大なウィンドウを展開させる。画面には七罪の顔写真と共に折れ線グラフがあり、線は表の最下部で微妙に上下していた。

 

「これって、七罪の好感度のグラフじゃない。これがどうしたのよ?」

 

「…まあ、見ててくれ。ここからが重要だ」

 

琴里の質問にそう答えると、令音は表を右に動かして進めて行く。折れ線は相変わらず下の部分を低迷していたのだが、ある瞬間、それは異様とも言える角度で上に向かって急上昇していた。それを見た琴里達の顏は驚愕に染まる。

 

「ちょ、ちょっと!何よこれ!?一体いつこんなに好感度が上がったっていうの?」

 

「…それは今から説明する。この急上昇はこの先も数回あり、最後に至っては霊力の封印可能なレベルまで達している。…これら全ては共通して、ある状況で計測されたんだ…。それは…」

 

この場にいる全ての人間の視線が令音に集中する。しかし、当の令音はそんなものを気にもかけない様子で言葉を続ける。

 

「レンと一緒にいる時。つまり、七罪はレンに恋をしていたんだ(・・・・・・・・)

 

『ええええええええええ!!!!?』

 

令音のその言葉に、艦橋が驚きの言葉で響き渡る。一番動揺しているのは琴里で、身体をわなわなと震わせ、目はせわしなく動いている。

 

「ちょっと待って令音…、七罪は蓮にデレていたっていうの?」

 

「…私はこれを見た時、てっきり機器の故障かと思っていたんだ。だが、調べても壊れているところはなく、偶然、レンと話している時だけ好感度が上がるような故障なんてあり得ないだろう…。…いつから好きになったのかは分からないが、もしかしたら一目惚れ(・・・・)という可能性もある…」

 

まさに空いた口が塞がらない思いだ。遠い道のりだと思っていたものが、すでに達成されていたと知ったらこうもなろう。そして、数秒後、この事を蓮に伝えるべきか悩む事になるのは当然の結果だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

七罪の捜索を開始して三十分後、辺りは夕陽が沈み、暗い空が広がっている。

 

「クソっ…どこにいるんだ…」

 

人気のない住宅街を歩きながら、蓮は一人、頭を悩ませていた。この三十分の間でした行動は思いつくような場所に行ってみる事だった、七罪を救った建設中のビル、学校、とにかく少しでも気になるような場所にだ。

だが、七罪は見つかる事は無かった。琴里からも『七罪を見つけた』という連絡が来てない以上、まだ確保出来てないらしい。

 

とにかく、今の自分が出来る事は七罪を探す以外に無い。もう一度思いつく場所に向かおうと思った瞬間、ポケットに入れていた携帯端末が震えてたのを感じる。

 

(まさか、見つけたのか…?)

 

そんな期待を胸に、画面を見るとそれはメールだった。しかも、琴里からではなく士道からのものだ。メールを開くとそこにはこう書かれている。

 

『五河宅にて待っている』

 

その文を見て、蓮は違和感を感じた。士道が自分の家を示す言葉にしては妙な言い回しなのに加え、今は何を優先すべきか士道も分かっているはずだ、七罪のことでも無いことに自分を呼び出すのはおかしい。

 

一体どうしたのかと思い、士道の携帯電話の番号を入力して電話をかける。数回のコール音の後にガチャっという音が聞こえて繋がる。

 

『…さすがですね。文章から違和感を感じ、電話をかけてくるとは』

 

聞こえて来たのは士道ではない女性の声。その声の主を蓮は知っていた。思わぬ不意打ちを受け、自分の身体が震え、鳥肌がたったのを感じる。だが、動揺を悟られないように平然とした声音を意識する。

 

「…俺が電話をかけたのは士道に対してです。何であなたが出てくるんですかね…」

 

『それが知りたければ、五河 士道の自宅まで来てください。遅れては、本人の命は保証できませんよ』

 

そう言うと、電話がブツンと切れる。まるで小悪党のような事をすると内心吐き捨てながら、士道の家に走り出した。

 

 

「これ、貸してくれた事に感謝します。五分も経たずにあの子はここに来るでしょう」

 

エレンは五河宅のリビングにあるテーブルに携帯電話を置く。士道はソファに座りながらそれを忌々しげな表情で見ている。携帯をテーブルに置くと、エレンは士道の向かいのソファに腰を下ろす。

 

「…言っておくが、蓮は七罪がどこにいるかなんて言ったりしないぜ。俺が話してないんなら尚更な」

 

不器用な笑みを浮かべ、士道は言う。本当は士道はおろか、蓮すらも七罪がどこにいるかは知らない。だが、〈ラタトスク〉の庇護下にいると思わせるだけでも七罪を危機から遠ざける事が出来ると考えての言葉だ。しかし、エレンはそれを気にする様子も無く、士道をジッと見ている。

 

「かなりあの子の事を事を理解している様子ですね。となると、私との関係も…」

 

「あ、ああ、知ってるさ!あんたとは母子の関係で、本当の名前はジェイク・メイザースって事も」

 

吠えるように答える士道だったが、その心は少しの驚きがあった。親子である事を忘れてしまうような命をかけた殺し合いをして来たエレンとジェイク。そんな関係であるエレンが、蓮に興味(・・)を持っているような質問をして来たからだ。

 

「なるほど、それをあの子の口から聞いたのなら、あなたはただの他人ではないという事です。ですが、それだけではジェイク・メイザースの理解者(・・・)にはなれない」

 

「どういう事だ?何を言ってんだ…」

 

エレンの失望したような言葉の意味を、士道は分からなかった。蓮はジェイクという名を告げる時、自分と十香に『誰にも言うな』と注意されていた。士道はてっきり、それでジェイクという友人を理解できていたと思っていたが、それは思い込みだったらしい。

 

まだあるのだ、ジェイク・メイザースには他人に言うことの出来ない心の闇(・・・)が。

 

「〈ウィッチ〉の居場所に関しては、当然あの子にも聞いてみるつもりです。ですが、あなたの言う通り、〈ラタトスク〉の神代 蓮はそれを言う事はないでしょう。ですが、DEMのジェイク・メイザースなら必ず言う…そういう事です。…どうやら来たようですね」

 

混乱する士道に不敵な笑みを浮かべるエレンがそう言うと同時に、リビングのドアが開き息を少し乱した蓮が入って来る。蓮はまず、士道の無事を確認すると、素早く向かい合って座るエレンに目線を集中する。

 

「…どうやら、住居人の許可をとって入って来た訳じゃなさそうですね」

 

「待ってましたよジェイク。久しぶりに親子の会話でもするとしましょう」

 

鋭い目で見る蓮とは反対に、余裕の笑みを浮かべたエレンが挑発するかのように言った。

 

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