誰にも人に言えない秘密というものがある。それ自体は十人十色で、皆それぞれ知られたくない事を胸に抱えて生きている。士道もそれぐらいの事は理解していた、なにせ自分の知られたくない秘密を義妹に暴露されたのだから当然だろう。
しかし、その秘密はあくまで
「本当…なのか?エレンの言っていた事…」
だが、目の前にいる友人は、その世界を巻き込んだ隠し事を秘めている人物だった。その事実が士道を困惑させる。蓮はそんな士道の様子を見てため息をした後、ソファに腰を下ろす。
「イマイチ信じられないって様子だな。…いいよ、今だけはお前の質問に全て答えてやる。何が知りたい?」
蓮にしては珍しいヤケになった言い方だ。普段なら適当に誤魔化してただろうが、この事を告げたのが世界一の
「エレンの言ってたのは真実なのか?そりゃあ、お前は普通と言える訳じゃないけど…これ以上の秘密なんてないって思ってたから…」
自分の妹が精霊だった時もとても驚いた。だが、士道が驚いていたのは蓮が抱える秘密の数と大きさだ。普通の人間では無い事、エレン・メイザースの息子、そして、世界に名を轟かせる皇帝NERO。一人の少年が抱えるには何もかもが大きすぎる、スケールも数も…。
どうもエレンの言った事が信じられてない様子だと察した蓮は、ポケットからあるものを取り出した。それは手のひらに収まる程度の大きさの水晶のようなものだった。色は半透明な水色で、正方形の形をしたそれは淡い輝きを放っている。
オブジェのように見えるそれを見て、『それは何だ』と士道が聞こうとした時、蓮は手に持った水晶を手首をきかせて軽く振る。すると、チリンと鈴のような音を鳴らせて、空中に立体ウィンドウを展開した。それに驚いた士道は『うわっ!?』と声を出す。
「これは俺が作った電子機器の一つでな。出回ってない特注品だ。これを持ってるのは俺と社長さんと、あの人だけだ。まあ、本当は別の奴を渡したんだけど、
そんな説明を聞きながら、士道は空中に投影されたウィンドウに恐る恐る指を触れさせる。すると、士道の指に反応したウィンドウがスクロールして画面が下に動いた。
「これで俺が本物だって信じてくれたか?で、次の質問は?」
再び軽く振ると、表示されてたウィンドウが消滅し、水晶をポケットに入れると投げやりな態度でそう聞いてくる。どうやら、本当に自分の質問に全て答えるらしい。そう考えた士道は、一番気になっていた事を質問する。
「…NEROってテレビとかだとその…良くない噂とか…はみ出し者だとか言われてるけど、どうして公の場に顔を見せなかったんだ。そりゃあ有名になるのは良い事ばかりじゃないって事は理解してるけど…」
自分でもかなり性格の悪い質問をしていると感じる。どうやら蓮にも都合が悪かったらしく、士道を細目で見てきた。
「お前…かなり突っかかった質問してくるな」
「わ、悪い!どうしても嫌なら答えなくても…」
「いや、全部答えるって言ったのは俺だ。キチンと全部答えるさ、ただ、二度とお前に『何でも』等の言葉は言わないからな」
そんな負け惜しみ(?)を言うと、蓮はうーんと悩み始める。それは士道に言うべきか悩んでいるのでは無く、どこから話したら良いのか分からないという様子だ。
「そうだな、世界的に知られている
世界的な大企業で、バイト感覚で働くなと言いたくなった士道だがそれは口に出さない。今、変に話の腰を折るわけにはいかないからだ。
「元々能力はあったから、DEMの出す電子部品の自分の作ったものを紛れ込ませて収入を得ていたんだけど、ある日、それが人の目に止まってな。騒がれるようになったんだ」
それを話す蓮の顔と声音が語っていた。それは自分の望んでいた事ではないことと、そこから歯車が狂い始めたことを。
「たいした物を出していたわけじゃないのに、一躍有名になってな。作った奴の顔を出せだの、他企業からの勧誘が山ほど来るようになった。だけど、俺は名を売りたかったわけでもないし、多くの人間と関わり合いたいなんて思わなかった」
「他人と関わり合いたくないって、そりゃなんで…?」
蓮は人見知りするようなタイプの人間でもないし、顔も良く万人受けすると思う。士道には他人との繋がりを拒否する理由が分からない。
「…俺は小さい頃、DEMに拾われた。会社に関わる以上、金持ちの子供やエリートが受けるような英才教育を受ける事になったんだ。それを受ける前に、あの人からある童話を話された」
「あのエレンが童話を?」
あの無感情で冷血なエレンが話した童話は、どのようなものなのか気になる。士道のそんな気持ちを汲み取った蓮は懐かしむような顔で話し出す。
「昔、あるところに身体が大きすぎて群れから疎外されたクジラがいた。群れから追い出されたそのクジラは、孤独で長い航海の末に仲間だと勘違いして、潜水艦に恋をしたんだ」
「潜水艦に…?」
「ああ、潜水艦はクジラを追い払おうとするが完全に懐いてしまって離れない。クジラは一途にも様々なアプローチをかけ続ける」
クジラという単語から繋がれた潜水艦という異質なワード。ここまで聞いても、エレンが蓮にこんな童話を話した意図が分からない。
「大戦中でな、潜水艦は敵国の駆逐艦に発見されてしまう。潜水艦が沈められようとした時、クジラが身をもって爆雷から潜水艦を守り抜いて死ぬんだ。クジラの血で辺り一帯が赤く染まる、それでも愛する者を守れたクジラは幸せだったって話だ」
「何だよ…それ…」
幼い子供にするにはあまりにも残酷は内容の話だ。それを聞いた士道は拳を強く握る。
「勉強をサボってばかりいた俺だが、その話だけは今でも覚えている。そして、あの人は俺にこう言った『あなたは愚かなクジラにはならないで下さい、人間は騙し利用する存在で、精霊は抹殺するだけの対象ですから』てな」
それはまるで洗脳だった。蓮がこの世界を学ぶ前に、エレンは『そうあって欲しい』という価値観を押し付けて縛り付けのだ。
「人と関わろうとすると、その話を思い出す。自分を愛してもいなかった潜水艦を守って死んだクジラになるのが怖かった」
士道は、蓮の学校での様子を思い出した。休み時間中にたまに蓮に話しかけて来る生徒は数人いた、一見すると蓮もその生徒たちも楽しそうに喋っている。だが、次の休み時間から、その生徒たちが蓮のところに来る事は無かった。
今なら分かる、それは蓮自身が心の中で他人と壁を作り、拒んでいたのだ。それと比べ、十香達精霊への溺愛は異常だった。行き場のない愛情を十香達に向けていたのだろう。
「話を戻すが、どれだけ顔を出したくないって言っても、そうは言ってられない状況がいくつかあった。ボイコットしたら、会社全体に影響が出るような場面がな」
「…それでどうしたんだ?」
「仕方なしに交渉人を差し出す事にした。まあ、それは"俺"だったんだが」
「はああああああ!?」
士道は思わずそんな声を上げてしまう。今までテレビでは顔を出してないと報道されていたため、すでに素顔を出していたという言葉があまりにも衝撃的すぎた。
「代理の人間なんかを向かわせたら、金を握らされて何を喋るか分かったもんじゃないだろ。信じられるのは自分だけだったんだ、まあ、この情報すらも一般的には出回ってないけど」
本物をただの交渉人という偽物のベールで包んで姿を現わす。まさに想像の遥か上をいく考え方だ。
「初めて人目に姿を見せた時はとても騒がれたよ、そして、いろんな人間に会った。『臆病者の使いっぱしりが!』などの罵声を浴びせる奴、あるいは下心満載で褒めて来るような奴。親に捨てられた俺からしたら、人間という生物の株価が暴落した瞬間だったよ」
士道はその話を聞くだけでもでも胸が締め付けられるような感覚を感じる。話を聞くだけでこれなのだ、実際に自分だったら、今の蓮のようにまともでいられるのかすら分からない。それほどの重さだった。
「まあ、これが俺が世界から嫌われる皇帝になった経緯だ。何か他に言いたい事は?」
「それでも…それでもお前は蓮だよな?」
士道のその言葉を聞いて、蓮は顔を上げる。『どうにでもなれ』という投げやりな説明を聞いたにも関わらず、士道はいつも通りの馬鹿正直で真っ直ぐな目をしている。
「たとえエレンの息子だろうと、世界から嫌われていてもお前はお前だろ?十香達との日々が無くなるわけでもない。そうだろ?」
「ああ、そうだな」
せっかく話したのに、いう事がそれかと笑ってしまう。しかし、士道は自分と違い、過去ではなく現在を見ているというのが理解出来た。これで話は終わりだと言わんばかりにソファから腰を上げる。その時、テーブルに置かれた士道の携帯電話が再び振動し始めた。
画面を見ると、そこには琴里の名が表示されている。
(司令官殿が…もしかして七罪を確保できた知らせか?)
そう思いつつ、携帯電話を持ち主である士道に渡す。電話に出て、少し話した後、士道の顔色が変わった。
「なっ!?それ本当か?ああ…近くにいるよ…分かった、すぐにそうする…」
早口でそう言うと電話を切る。士道の様子からして良いニュースが知らされたとは思えないが、聞かないわけにはいかない。
「良い知らせとは思えない様子だな。それで、何を言われたんだ?」
「…今から数十分後にここに…人工衛星が落ちてくるって…琴里が…」
「冗談にしては笑えない内容だな」
今はエイプリルフールではない事を考えると、信じられない内容だが、それは真実なのだろう。さっき、慌てて出て行ったエレンもそれと同じ報告を知らされたのだろう。そう考えるとつまり…
そこまで考えた時、外に耳障りな警報が響き渡る。それは空間震の発生を知らせる空間震警報だ。それを聞いて、蓮の予想が確信に変わる。
「空間震!?こんなタイミングで精霊が…」
「いや、これは九月の時と同じ、DEMが意図的に鳴らしたものだな。恐らくは人工衛星の被害を全て空間震の所為にするための」
「でも、エレンは…!」
士道も先ほどエレンが出て行ったのを見て、知らされていなかったと予想したのだろう。それに対する答えも蓮はすでに分かっている。
「確かに、これほどの大きな作戦をするのは、DEM社、裏の執行部長であるあの人の耳に入らないのはあり得ない」
「なら、別の可能性が…」
「だから俺は、これは社長さんの命を狙ったクーデターだと予想するね」
人工衛星を街に落とし、大きな被害を出すこれはDEMという一つの枠組みの中での出来事であると言う。それを聞いた士道は困惑した様子だ。
「社長さんって、会社内で結構恨まれてるんだよ。今までは俺がそいつらを抑えてたんだけど、それが無くなって溜まりに溜まった怒りが爆発したって感じかな。それこそ、確実に殺すためにこんな事するぐらいに」
「へ、へえ、DEMの中でもそういうのがあるんだな…。て、こんな事を呑気に話してる場合じゃねえよ!〈フラクシナス〉で回収するっていうから外に…」
「悪いな、俺はパスだ。七罪を探さなくちゃならない」
その名を聞いて、士道は街にいるであろう精霊の事を思い出す。彼女は人工衛星がこの街に落ちてくる事など知らないだろう、そうなると何としても保護しなくては。
「士道、お前は〈フラクシナス〉に回収してもらえ。七罪は俺一人で探す」
七罪を探しに行こうとした瞬間、蓮のその一言で士道は足を止める。今の状況でそんな事を言われれば当然だろう。
「きっと、司令官殿は人工衛星が地上に落ちないように何かするつもりだな。そうなると、地上にその破片が落ちてくる可能性が高い、だから〈フラクシナス〉に回収しようとしてるんだ。俺ならそれから七罪を守れる手がある。ここでお別れだな」
そう言うと、士道を置いてリビングの出口に向かう。士道はその背中に声をかけた。
「お前、それ嘘だろ」
さっきまでの狼狽えた様子とは違う、正解を射抜いたそれに蓮はピタリと足を止める。振り返った蓮の目は聞いていた、『なぜ分かったのか』と。
「お前のその腕…守る範囲が広がれば能力が落ちるって言ってたよな。二人を守った状態で落ちてくる人工衛星の破片なんて防げるのか?もし、防げないってお前は判断したらきっと…」
どちらを守るかは、七罪を探しに行くという言葉から理解出来る。普段は鈍いくせに、どうしてこういう時に限って鋭くなるのか、『
「…どうやら、俺は昔ならないと決めていた、潜水艦を庇って死んだクジラになっていたらしい。今なら分かるよ、他人のために自分を犠牲にする気持ちが。ただの自己犠牲じゃない、自分がどうなってでも相手を守りたい心が」
「お前はもう一人じゃない!〈フラクシナス〉に回収されるのは俺と、お前と、七罪の三人一緒の時だ!」
絶対に譲らないという条件を言うと、士道は蓮よりも早く家を出て行ってしまう。蓮はそれを呆気にとられた顔で見ていた。
他者と違いすぎて、群れから追放されたクジラは、やがて一つの群れと出会う。その群れは、シャチ、イルカ、サメ、と纏まりのないものだった。だが、その群れはクジラを優しく迎え入れてくれる。その暖かさに触れたクジラは、いつか自分も誰かの孤独を癒したいと思うようになったのだった。
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「はあ…はあ…七罪が見つからない…どうする?」
空間震警報によって、人のない住宅街を二人で走り続けて数十分、七罪はみんなは見つからず、蓮の隣で息を乱す士道が、ぜえぜえと疲れながら聞いてくる。
「…仕方がない、こうするしかないようだな」
出来ればしたくなかったという様子で、蓮は目を瞑り、しゃがみこみコンクリートの道路に指を触れさせる。その瞬間、二人がいる場所を中心に音が響き渡る。
『七罪、これをしっかり聞いてほしい。もうすぐ、ここに巨大な人工衛星がここに落ちてくる。だが、俺たちなら七罪を安全な場所に連れて行く事が出来る。…別に好きになってくれと言ってるわけじゃない、だが、今は俺たちの前に出てきてほしい』
聞こえる声は蓮のものだ。だが、蓮本人が口を動かして喋っているわけではなく、かといって拡声器があるわけでもない。不思議なことに言葉がまるでテレパシーのように伝わってくる。
話し終え、蓮が立ち上がって数十秒が経過した。しかし、七罪が二人の前に姿を現さない。その事実に蓮は『うーん』と声を出す。
「もしかしたら、声の届かない場所に隠れてるのか?もう少しポイントをずらして…」
「お、おい!蓮!あれを見ろ!」
士道が慌てた様子で空を指差した。そこには雲の隙間から小さな影がこちらに向かってくるのが見える。目を凝らすと、それは巨大な鉄の塊…落下してくる人工衛星だった。
「破片じゃない…司令官殿がしくじったってことか!?いや、何か不測の事態があったのか…?」
蓮は頬から汗が落ちるのを感じる。これでは事情がかなり変わる。空間震は地上、海上、空中で発生する事が多いため、シェルターは地下に設置されている。しかし、あの人工衛星が地上に落ちれば、地上だけではなく、地下にもその衝撃が伝わり、中にいる人間にも影響を及ぼすだろう。
「ッ!うおおおおおお!!!」
隣にいた士道が突如走り出す。その手には淡く輝く巨大な剣、
「ぐっ!な、なんで…」
「士道!次はタイミングを合わせる」
攻撃が曲げられた事に疑問の声を出す士道だが、今はそんな事を考えている時間はないとばかりに蓮が
一人でダメなら二人で…そう考え、士道は蓮と共に剣を振るう。人工衛星に飛んでいく二つの斬撃だったが、一回目と同じく、斬撃は逸らされ、空に消えていった。
「まさか、
もう一度、士道と共に斬撃を放とうにも、士道は
周囲に冷たい風が吹き荒れた。季節にしては異常な冷風は上昇気流のように吹き上げ、人工衛星をギリギリのところで止めてた。
「士道さん…蓮さん…大丈夫ですかっ!?」
「くく、何をしてるのかと思えば、随分と派手な事をしておるではないか」
「不満。夕弦達も呼んでほしかったです」
そんな声と共に空から降りてきたのは、巨大なウサギの人形のようなものにしがみついた四糸乃と、限定霊装を身に纏った八舞姉妹だった。
「それは悪かったな…。〈フラクシナス〉は今何を?」
「琴里なら、敵の空中艦と事を交えておる。そこで我らが助太刀にきたというわけだ」
耶具矢から、〈フラクシナス〉の今の状況を聞き終わった直後、三人に少し遅れて淡い光のドレスを身に纏った少女二人が到着した。
「シドー!レン!無事か!?」
「もう二人とも!無茶しすぎですよー!」
もしかしたら、士道達より慌てた様子の十香と美九を見て、蓮と士道は力無く笑う。十香の手には士道の持っているものと同じ剣、
あとは士道の回復を待てば良い、そう思った時、士道達のいる場所で突如爆発が発生し、道路に穴を開けた。
「今度はなんだ!?」
ただでさえこんな状況だというのに、邪魔するような出来事に蓮は苛立ちながら空を見上げる。そして、舌打ちを一つして憎々しく睨みつけた。空にはCRーユニットを装備した機械の人形、〈バンダースナッチ〉が一見五十機以上浮かんでいた。
おそらく〈フラクシナス〉が戦っている空中艦から出てきた機体だろう。人工衛星を落とそうとしている犯人は、何としても作戦を成功させたいらしい。
空に浮かぶ〈バンダースナッチ〉達は、空中で展開すると、一斉にマイクロミサイルを発射する。
「チッ!気をつけろ、数が多いぞ!」
蓮がそう叫ぶと、空に浮かんでいた四糸乃、耶具矢、夕弦がミサイルを回避しようと動く。普段なら難なく回避できる攻撃、だが、五十機以上から放たれるミサイルの数はあまりにも多い。回避しきれなかった三人にミサイルが命中し、黒煙が広がる。
「きゃっ!!」
「ぬわっ!」
「苦悶。くっ!」
霊力を十分に出せないとはいえ、彼女達は精霊だ。ミサイルごときで致命傷になることは無いが、問題はこれによって人工衛星を止めていた冷風が弱まり、再び落ちてきた事だ。
「ッ!させるかよっ!」
蓮はそう叫ぶと右腕に〈バスター〉を顕現させ、落ちてくる人工衛星に腕を伸ばす。青い光が形を作った巨大な右手は人工衛星を下から支えた。ひとまず落下を防げているのを確認すると、〈トラウィス〉を放り投げ、空いた左手で地面を殴る。
(頼む、上手くいってくれ!)
心の中でそう願いながら、意識を集中させる。すると、蓮の周囲と、立ち並ぶ住宅の屋根に冷たい空気が集まり、人工衛星に向けて巨大な柱を作っていく。計五本の氷の柱は人工衛星の表面に突き刺さり、動きを止める。
「…はあっ!!はあ…はあ…やった…」
まるで息を止めていたかのような荒い呼吸をする蓮。これほどのものを短時間で創造するのに加え、水辺もないこの環境でやるのは目に見える疲労を残した。そんな蓮に鞭を打つかのように、視界の端にある景色が見える。
それは
今度は悪態を吐く暇すらない。後先考えず、蓮は士道のもとに走り出した。
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「大丈夫…大丈夫だわ…そうに決まっている…」
士道達七人が、落ちてくる人工衛星を止めようと戦っている。それを隠れて見ながら、七罪はブツブツと自分にそう言い聞かせた。『自分が出て行かなくても大丈夫』、『あの面子なら心配はいらない』そう思い込んでも、七罪はそれから目を離せないでいた。
「蓮が戦っているのよ…別に心配する事なんてないじゃない…」
いくら自分にそう言い聞かせても、なぜか身体の震えが止まらず、手は汗ばんでいる。それが人工衛星が落下してくることに対する恐怖ではないと七罪には分かっていた。だが、具体的に何かと聞かれれば答えられない、そんな感情だった。
見ている戦場では、蓮が巨大な青い手を伸ばして人工衛星を支え、その隙に地面に巨大な氷の柱を作って表面に食い込ませる。やはり自分は必要ない、そう思った直後、蓮が走り出す。その先には動けない士道に対して〈バンダースナッチ〉がレイザーブレイドを振り上げていた。
士道を助けるつもりだと察するが、その手に武器は持っていなかった。それに疑問を感じたのと、士道の前に蓮が立ったのは同時だった。蓮は左手に〈レッドクイーン〉を出現させ、〈バンダースナッチ〉を切り裂こうとするが遅かった。
レイザーブレイドは蓮の右肩から腹部にかけてを切り裂き、真っ赤な血を吹き出させる。そのタイミングで〈レッドクイーン〉が〈バンダースナッチ〉の腹部を届いて上半身と下半身を真っ二つにした。
(えっ………)
七罪は目の前の光景が理解出来なかった。蓮が力無く地面に倒れる。それに続いて士道の彼の名を呼ぶ叫び声、そして『美九!蓮を頼む!』という声が聞こえ、美九が蓮を守るように近くに寄る。
七罪には分からなかった、蓮が斬られたという現実が。蓮が倒れた瞬間、自分の心に大きな苦痛が走った事が。そして、その光景を自分は何かするわけでもなく、なぜ呆然と見ているのかが。そう思った時、七罪は足を動かし、一歩を踏み出していた。
目を開けると、そこには青色が広がっていた。周りには青いクリスタルが連なり、空中には青い粒子が舞っている。、なぜかそれを見ると安心した気持ちになる。
「ここは…」
蓮は、倒れていた身体を起こしてそう呟く。なぜか自分が何をしていたのかが思い出せない、自分がどういう名前かすらもだ。立ち上がり、周囲を見渡すと、自分が青い光を放つクリスタルに囲まれているのに気づく。見える地平線に永遠と連なっている光景だが、その中で目を引くほどの大きさの柱と呼べるようなものが天に伸びていた。
「これは…」
近づいて見てみると、クリスタルの中に剣が埋め込まれているのが分かった。青いクリスタルの中にあっても、白い輝きを放つその剣は…
「…〈トラウィス〉」
無意識にその剣の名を呟く。もう少し歩いてみると、同じような柱をまた見つける。その中には機械質な籠手が埋め込まれており『〈ウィトリク〉』と呟いた。
それから歩き続け、計六つの武器を見つけた。なぜか自分の名前も分からないはずなのに全ての武器の名前を全て言うことができたのだが、武器があるはずの大きさにも関わらず、何も入ってないクリスタルも無数にあったのに疑問を感じる。
無意識に歩き続け、足の裏がクリスタルのせいで血だらけになった頃、天に向けて伸びる
「何かが…
初めて見るはずのそれを見て、抱いた感想はそれだった。刀は今までの武器とは違い、光の柱の中に浮いているだけなので手を伸ばすと簡単に掴むことが出来た。蓮は右手に収まったその刀をジッと見つめる。
(もっと…もっと…力をーー)
強く願った瞬間、手にした刀が青色の輝きを放つ。その光を前に蓮は静かに目を閉じた。
「〈
七罪が手にしている天使、〈
「二人とも!タイミングを合わせて同時にやるわよ!三人の攻撃が重なれば!」
七罪のその言葉に、士道と十香は互いに頷き剣を構える。そして、七罪が振り抜いたのと同じタイミングで士道と十香は剣を抜く。しかし、そこで予想外の事態が一つ起きた。
「ぬわっ!!」
空中で耶具矢達と交戦してる〈バンダースナッチ〉の流れ弾であろうミサイルが、剣を抜く直前の十香の足元に着弾したのだ。それによって十香のバランスが崩れ、狙いから僅かにズレる。それによって、
「くそっ…もう一度…うあっ!」
もう一度だけ三人により斬撃を放とうとする士道だが、〈
「そんな…どうしたらいいのよ…」
二つの〈
(えっ?)
後ろを振り向くと、そこには光に包まれた蓮が立っていた。身体からが依然出血しており歩ける状態では無いはずなのに、痛みなど感じていないようにこちらに歩いてくる。七罪はその光景に…美しさに心を奪われた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
青い光に包まれた蓮、士道はそれを九月に見たことがあった。反転した十香に腹部を刺し貫かれ、瀕死状態だったところから蓮は光とともに復活し、十香と精霊三人を圧倒した。右手に日本刀を持ち、立つ姿はそれを思い出させる。
「っ!美九、蓮から離れろ!」
士道は慌ててそう叫ぶ。蓮を庇いながら戦っていたため、美九が蓮から一番近い場所に立っている。だが、美九は自分の方に歩いてくる蓮を見て、目を見開き、怯えていた。九月に感じた恐怖を思い出して動けないのだ。
そんな美九の目の前まで歩くと、左手を彼女に伸ばす。士道の脳裏に肩を掴まれた後、腹部を貫かれる美九の姿が浮かぶ。そうはさせまいと動こうとするが、身体が言うことを聞かない。蓮の左手が美九の右肩に触れる、そして…。
「えっ?」
なんと、美九を自分の胸元に引き寄せた。その瞬間、美九のいた場所にレイザーブレイドを持った〈バンダースナッチ〉が飛び込んでくる。もし、あのままだったら美九は斬られていただろう。それを確認して、美九はそんな声を出した。
蓮は目の前にいる〈バンダースナッチ〉の脚部に右手に持つ日本刀を突き刺し、地に張り付ける。次にレイザーブレイドを持っている右手を左手で掴むと、その剣先を〈バンダースナッチ〉の頭部に向ける。もちろん、〈バンダースナッチ〉もそうはさせまいと抵抗するが、それを無視してるかのような圧倒的な力に意味はなかった。
やがて、関節部から黒煙が上がり、ショートしてしまう。それによって、抵抗という足掻きすら奪われた〈バンダースナッチ〉の頭部に自身が持つレイザーブレイドが突き立てられ、機能を停止した。
「美九を…助けたのか?」
九月の時とは違うその行動に、士道は戸惑いの声を出す。美九を助けた蓮は再び、士道達の方に歩いてくる。その途中、青い粒子が蓮を包むと服の上に霊装が作られる。だが、それは前に見た時と比べて輝きが淡く、小さい。まるで"限定霊装"というように見えた。
そして、歩く蓮の背後に粒子が集まり、あるものを形作る。闇が覗く目元に浮かぶ、青い瞳。耳まで裂け、鋭い歯が並ぶ口。身体の表面を人間のものとは思えない、硬い甲羅のような皮膚が覆う。同じ九月の時に見た、人間ではない巨大な魔神だった。だが、こちらも前に見た時と比べて輝きが小さく、持っている武器も右手に持つ剣のみだった。
見るのはこれで二回目、だが、前回と比べると"不完全"そんな印象を受ける姿だ。
「◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーーー!!!!!」
蓮の背後に現れた魔神は、空に咆哮を飛ばす。すると、その周囲に青い光を放つ剣を発現させた。その刃先は全て外側に向いており、それは一斉に空に飛んでいく。
「まずい…!四糸乃!耶具矢!夕弦!」
剣の飛翔先である空には、〈バンダースナッチ〉と戦っている三人がいる。士道のその声に四糸乃達は飛んでくる剣の存在に気づいたらしく、各々衝撃に備える。だが、剣は四糸乃達に命中する事はなく、戦っていた全ての〈バンダースナッチ〉に正確に命中して爆発と共に鉄屑へと変えた。
「レンの奴…もしや、四糸乃達を助けたのではないか?」
九月の時を知らない十香から出た、客観的に見た感想を聞いて、士道はその事に気がつく。今の援護といい美九の時といい、間違いなく蓮は自分たちを助けたと感じた。
蓮は負傷しているせいか、足を引きずるような動きで息を乱しながら士道達の元まで歩いてくる。三人は蓮が何をするつもりか察して、左右に避けて落ちてくる人工衛星への道を開けた。
「蓮…あなたは…一体…」
「・・・・・・・・・」
七罪がそう聞くがまるで聞こえてないかのように無視する。人工衛星は、もう地上に落ちる寸前だ、それに対して蓮は姿勢を中腰にし、右手に持った刀の刃先を下に向ける居合のような構えを取る。背後の魔神もその動きにシンクロするかのように同じ構えを取った。
「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーーー!!!!」
魔神は動物が相手を威嚇するかのような声を上げると、下に向けていた剣を振り上げる。それと同時に蓮は刀を横に一閃し、十字形の斬撃が
飛んだ斬撃は、人工衛星を守る
「なんて威力なの…〈
人工衛星を容易く破壊した威力に驚きつつも、七罪は素早く天使の力を使い、落ちてくる破片全てをブサイクなぬいぐるみへと変身させる。それで被害は無く安心…そう思った直後。
蓮の背後にいた魔神が空気に溶けるように消え、右手に持っていた刀も右手と一体化するように無くなると、彼が地面に倒れたのだ。
「レン!?どうしたのだ!」
いきなり倒れた蓮に驚いた十香が駆け寄る。十香を最初に他の六人も急いで寄ってくるが、全員蓮の容体を見た瞬間、顔を青くした。何故なら、倒れた蓮の身体から血だまりが広がっており、危険な量の出血だと理解したからだ。
「蓮!おい蓮!しっかりしろ!!」
士道を含めた六人が必死に呼びかける。歯痒い事に医療の専門的な知識が無い士道達には、傷口をハンカチで押さえて意識が戻るように呼びかけるぐらいしか出来る事がない。〈フラクシナス〉が来るのを待っていては、どう考えても間に合わない状態だ。
士道の頭に、エレンが話したという童話が浮かんでくる。クジラは潜水艦を庇って死んだ、まさにその話通りの展開だ。そんな結末にさせるわけにはいかない。
皆、涙ながらに蓮に語りかける中、七罪はその中に入る事も出来ず大きな後悔を感じていた。もっと早く自分が出ていればこんな事にならなかったという思い。そして、苦しんでいるのがなぜ自分では無く、優しくしてくれた蓮なのかという怒り。
(何か…なにかしなくちゃ…助けなきゃ…)
そう強く思った時、七罪の身体が勝手に動き、士道達の中に入り込む。そして、倒れている
(お願い…!私はどうなってもいい…だから、この人を死なせないで!!)
ただひたすらに望む。すると、自分が何かと繋がるような奇妙な感覚と共に、七罪が纏っていた霊装が弾けるように消滅する。
「七罪…!お前、霊装が…!?」
隣から士道の驚きの声が聞こえるが、今の七罪は自分が裸になった事など気にならなかった。今、目の前では瀕死状態の蓮に刻まれた傷口が緑色の光に包まれ、塞がれたからだ。
「はあ…やった…やったわ…」
なぜ自分はキスしたのか、どうして蓮の傷口が塞がれたのかは分からない。だが、それによって蓮が助かったという現実が重要なのだ。最後の確認とばかりに蓮の胸に耳を当てる。すると…
ドク…ドク…と心臓が動いている音が聞こえる。それを聞いた瞬間、七罪の目から涙が溢れる。今まで流してきた涙とは違う、喜びと安堵の涙だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
人工衛星から街を救った次の日、士道達は〈フラクシナス〉の艦内を歩いており、その中には七罪もいる。
「それ本当なのか!?七罪の霊力が封印されてるって…」
「ええ、こっちで調べてみたけど、霊力が封印された時にできる
琴里は信じられないと言った様子で語るのを、七罪は黙って聞いていた。士道も七罪の霊装が消えるのを見て、まさかと思っていたが、本当に霊力が封印されているとは思いもしなかった。
「しかし、あの時はビックリしたぞ。何しろ七罪がいきなりキスをしたのだからな」
「驚きました…けど、蓮さんが治って…良かったです…」
『そうそう、これは、七罪ちゃんの愛が蓮くんを助けたって事なのかな?うーん?』
「我を呆気にとるとはなかなかよ。のう、夕弦?」
「首肯。まるでおとぎ話のような出来事でした」
「あーん!とてもロマンチックだとおもいますぅ!」
それぞれがあの時の感想を言い出し、それを聞いた七罪が顔を赤くし『いや、それはその…助けたたいと思って…』と呟く。恥ずかしがってはいるものの、嫌がってはいない。そんな様子だ。
「でも、どうして蓮が七罪の霊力を封印出来たのかは不明のままなの。士道は何か知らない?今回の事に関する片鱗を見たとか」
そう聞かれて思い出すのが、九月に精霊、狂三が蓮の能力を説明してくれた時だ。狂三はあの時、『蓮には自分の力を相手に移す事が出来る』と説明した。それが可能なのなら逆に『
「いや、特に無いな…。蓮が霊力を封印したのも初めて見たし…」
しかし、士道はその事を琴里には伝えなかった。あくまでこれは自分の予想という範疇を抜け出していないため、下手なことを言って変に混乱させたく無いと思ったのだ。琴里もやっぱりといった様子で『そう』と答える。
「それじゃあみんな、蓮はここにいるけどくれぐれも静かにね。一応怪我人なんだから」
琴里はあるドアの前で足を止め、精霊達にそう注意した。蓮はあの後、〈フラクシナス〉の中で一応の検査を受けると琴里は言っていた。検査と言っても大事に至らないかを確認する程度のものなので心配は要らないらしい。
ドアは自動らしく、士道達が近づくと勝手に開いた。室内はテレビにベッド、テーブルなど普通の病室と同じようなものだった。だが、奇妙なことにベッドに蓮の姿は無く、乱れている布団があるだけだ。
「疑問。蓮がいませんがどうしたのですか?」
「あれ?おかしいわね、トイレにでも行ってるのかしら?」
すると、ベッドの上にある布団にある小さな膨らみがモゾモゾと動き出す。それに気づいた八人の視線が集中するが、膨らみの大きさからして蓮の可能性はない。布団から顔を出したのは予想もしなかったものだった。
「ワンっ!」
布団から出てきたのは生後一年も経過してないであろう子犬だった。犬種は柴犬で柔らかそうな毛並みは思わず触りたくなる。
「い、犬?なんで病室に…?」
「おお!犬か!私も触りたいぞ!」
布団から這い出てきた子犬を見つけた十香は、頭を優しく撫で抱っこする。それを見た他の精霊の面々も触ろうと寄っていくが、士道と琴里は呆気にとられたままだ。
「おかしいわね、その子犬、どこから入ってきたのかしら?」
「確かに、そうだよなあ」
眉を顰めながら言った琴里の疑問に、士道は室内を見渡した。部屋にあるドアは自動だが子犬の大きさに反応するとは思えないし、通気口があるわけでもない。その事を疑問に思っていると、十香の腕の中にいた子犬が、腕を登って肩まで行くと隣にいる四糸乃に向かってジャンプした。
すると、空中で子犬の身体が輝き始める。それは四糸乃の肩に着地する頃には止んでいたが、その時の姿は子犬では無く小さな三毛猫へと
「ちょっと待って…。さっきまで子犬だったわよね?どうなってるの…」
まるで夢でも見てるような気分になる出来事だ。四糸乃の肩に乗る子猫は、四糸乃の頬をペロペロと舐めた後、左手にいるよしのんを踏み台にして空中に飛び出す。その際、よしのんが『ふにゃ!』と奇妙な声を上げた。
空中に飛び出した子猫の身体は再び輝き、翼のある小鳥へと変化する。そのままパタパタと飛び、驚いている琴里の頭の上に着陸した。
「もしかして、新しい新種の動物…とかは無いよな?」
「何よそれ、エイリアンの間違いじゃないかしら」
不機嫌そうに言う琴里に、士道は愛想笑いを浮かべる。それからも耶具矢、夕弦、美九という順番に飛び移り、子ウサギ、子リス、ハムスターという順番に姿を変えていった。ただ、最後の美九の時は、足を滑らせ、胸の谷間に落ちてしまい、ジタバタともがいていた。美九はそれを『くすぐったいですぅ』と笑いながら見ていた。
そして、そこから脱出したハムスターは、誰もいないベッドの方に飛んだ。そしてまた身体を輝かせるとそれは人の形へと変わって行く。光が止んだ頃、そこには白い髪の毛、白い肌、そして整った顔が特徴的な人物がいた。
「よおみんな、一日ぶりぐらいかな?」
陽気な挨拶をする少年、蓮はニッコリと微笑む。そんな挨拶を士道達は開いた口が塞がらない思いで聞いていた。そして、全員が同時に理解する、今までの動物は全て蓮だったのだと。
「今の…全部蓮だったの?もしかして、それって私の天使の…」
「ああ、目が覚めたら出来るようになってたんだ」
七罪の疑問に蓮は自分の耳にかかっている髪を上げて、緑色の宝石が埋め込まれている銀色のピアスを見せる。
〈クリームル〉
思い描いたものに変身する事が出来るピアス。
変身したものの姿形はもちろん、匂いまでを完全に真似ることが可能。
さらに、触れたものを別の性質に変えることが出来る。
「死にかけていた俺を助けてくれたのは七罪だって聞いたぞ。ありがとな」
そう言うと、蓮は七罪をギュッと抱きしめた。それに七罪は『はわわ…』と顔を赤くし、他の六人は気恥ずかしそうに見ている。ただ、美九だけは目を輝かせていたが。
「それでさ、もし、七罪が良かったらでいいんだけど、俺…と…一緒に…」
そこまで言いかけたところで、蓮はまるで眠ってしまったかのように意識を失い、七罪が慌てて身体を支える。心配そうな目で見る一同に琴里が、やれやれとという様子で説明する。
「やっぱり、まだ疲労が残ってるのよ。みんな、悪いけどベッドの上に寝かせるのを手伝ってくれない?寝かせてあげましょ」
みんなで協力して、蓮をベッドに寝かせる。ここで騒いで起こしてしまうわけにもいかないため、琴里は外に出るのを進言するが、七罪だけが椅子に座ったまま動かない。
「あの…私ここにいるわ。もちろん!うるさくしないって約束するから!」
「え?でも、待ってるんだったら外で待ってる方がいてっ!?いきなりどうし…た…?」
話してる途中の士道の脇腹を琴里が抓った。非難を込めた目で琴里を見るが、『何も言うな』という目で黙らされる。
「分かったわ。蓮が目を覚ましたら伝えて頂戴。さあ、みんな行くわよ」
「いたた、分かったから抓るのをやめてぇ!」
引きづられるような形で士道は部屋を出て行かせられ、二人に続いて六人も出て行く。琴里はドアが閉じる直前、部屋の中に視線を向ける。そこには寝ている蓮を、優しい笑みで見ている七罪がいた。
そこから数十分後、目覚めた蓮が七罪に『一緒の家に住まないか』という提案をし、七罪は恥ずかしそうに…だが確実にコクリと頷いた。