デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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62話

蓮と折紙、二人に譲れない思いが…意志がぶつかり合う。それを行動に移したのは蓮が先だった。姿勢を低くし、爆発的な瞬発力で折紙との距離を縮めにかかる。しかし、それを見た折紙は魔力砲の引き金を向かってくる蓮にではなく、その上に向けて引いた。

 

その理由は分かっている。どうやら折紙も、空中から降りてこない二人(・・・・・・・・・・・・)を忘れるほど動揺してないらしい。

 

「くく、よく気づいたな」

 

「感心。さすがです、マスター折紙」

 

「二人は美九と十香の近くに!俺が時間を稼ぐ!」

 

発射された魔力の奔流を、限定霊装を顕現させ紙一重で避けた耶具矢と夕弦に十香と美九の場所に行くように言うと、〈レッドクイーン〉の柄部を捻り、折紙に斬りかかる。一方、折紙も魔力砲を可変させ巨大な刃を持つレイザーブレイドを持ち、〈レッドクイーン〉を受け止めた。

 

「お前がこんな事をした理由は分かった。だが、それと出来る出来ないは別の話だ。精霊四人に加えて俺のいる正面から来るとは流石におごり過ぎたんじゃないか?」

 

「…私はこの時のため、血の滲むような努力をしてきた。この〈メドラウト〉があれば…殺せる…。精霊を、そしてエレン・メイザースから教えを得たあなたすらも…」

 

底冷えするような冷たい声とともに折紙はレイザーブレイドを持つ手に力を入れる。それに抵抗して蓮も剣を押し返そうとするがゆっくりと押され続ける。

 

(くっ!なんて力だ…)

 

随意領域(テリトリー)で強化していると分かっていても、向かって来る力は予想以上のものだった。蓮は今持っている剣の柄部を捻り、剣にパワーと推進力を集める。そして、エンジン音のような音と共にそれを解放するが、それでも互角なだけで押し返すまでは至らなかった。

 

(この女!俺を押して来るとは…)

 

今の状況はマズイ。そう判断し、力ずくでレイザーブレイドを弾き飛ばすと後ろに飛んで折紙と距離を取る。それを見た折紙は逃さないとばかりに剣を振るったがそれは空を切った。

 

「…十香、美九、耶具矢、夕弦。急いでここから離れろ。司令官殿と合流するんだ」

 

折紙には聞こえず、近くにいる四人にだけ聞こえるような音量で蓮はそう言う。それを聞いた四人は『えっ!?』という声と共に顔が驚きに染まり、視線が集中する。

 

「質問。夕弦たちが逃げたとして、蓮はどうするつもりなのですか?」

 

「お前達がここから逃げても追いかけられちゃ意味がない。そうされないようにするんだ、殺す気でな(・・・・・)

 

「あんた!もしかして折紙を殺す気なの!?」

 

いつもの話し方も忘れた耶具矢のそれを聞いて、まだ自分たちの危機を理解してないと察する。それを愚かというつもりは無い、DEMという会社の…ましてはCRーユニットに詳しくない耶具矢にとっては気になるのはそこだっただろう。

 

「今、この場で最重要に考えるのはお前達四人の命だ。それを手加減出来ないようなレベルの奴が狙っているとなると、そうなるかもしれないな」

 

いつもと違い、ふざけた様子はかけらも感じさせない話し方だった。蓮は、今の折紙は相手のことを考えて戦えるような相手ではないと言う。その事実に四人は息を呑む。

 

「もし、そうなった場合、その時は俺を恨めばいい。だから…今だけは逃げて欲しい…早く…」

 

声を殺し、必死に頼み込む。それほど折紙が十香達を殺すなどという結末は絶対に避けたいものだったのだ。だが、そんな願いとは裏腹に四人はこの場を離れない、さらに、隣に立つ美九がクスクスと笑いだした。

 

「ふふ…蓮さんったらまるでダーリンみたいな事言うんですね」

 

「微笑。助ける人数に夕弦達以外に自分が入ってないところがそっくりです」

 

逃げろと言ったはずなのに、耶具矢、夕弦を始め、美九と十香が霊装を身に纏い前に出る。

 

「理解。今のマスター折紙が蓮にとっても油断出来ない相手だというのは分かりました。ですが、何も一人で戦う必要はないと感じます」

 

「我らの力添えが必要だと言えばよかろう。まあ、その意図を汲み取ってやるのも主である者の役目であろう」

 

「鳶一 折紙とは話したい事があるのだ。それをレン一人に押し付けたりはしないぞ」

 

十香は〈鏖殺公(ザンダルフォン)〉をその手に持つ。そんな四人を見て本当は"早く逃げろ"と言いたかった。しかし、今はそんな事を言い合っている暇もないのに加え、折紙の真意を知りたいのは皆一緒だ。結局、蓮は自分のいう事を聞かなかった四人に怒ればいいのか、礼を言えばいいのかすら分からない。

 

(悪いな…お前達を巻き込んで…)

 

こんな事は自分一人で片付けたかった。そう思ってもDEMは…いや、エレンとウェストコットはもはや蓮一人で止められるような存在ではなかった。その事を心の中で詫びて前を見つめる。

 

蓮、十香、耶具矢、夕弦、美九の五人は互いに目を合わせると同時のタイミングで動き出す。耶具矢、夕弦は再び空に飛び、蓮、十香は左右に分かれて折紙を挟み込む。そして、美九だけはその場を動かず両腕を大きく広げる。

 

「〈破軍歌姫(ガブリエル)〉ーー【輪舞曲(ロンド)】!」

 

美九が天使、〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の光の鍵盤を弾き鳴らす。すると、〈破軍歌姫(ガブリエル)〉から発された音が折紙の身体を縛り、動きを止めた。

 

「折紙さんの動きは止まってます!今のうちに!」

 

美九のその言葉を合図に、空中にいる八舞姉妹と地上にいる十香、蓮が同時に折紙に向かう。三方向からの同時攻撃、並みの魔術師(ウィザード)だったら碌な抵抗も出来ない状況だったが、折紙は違った。

 

折紙は自分の周囲に随意領域(テリトリー)を発生させ、四人の動きを鈍らせる。その時間はたったの三秒。その三秒の間に折紙は、空中で向かってきている耶具矢と夕弦にレイザーブレイドの一撃を食らわせて吹き飛ばした。

 

「くはっ!」

 

「痛恨。うぐっ」

 

二人を吹き飛ばした折紙は、レイザーブレイドを横に振り払い、周りにいる十香と蓮を攻撃した。二枚抜きを狙ったであろうその剣に、十香と蓮は手にした剣を前に出して防ぐ。

 

「ぐっ…!」

 

「クソッ!」

 

どうにか防御は間に合ったが、それにより二人の姿勢が崩され攻めに向かう勢いが削がれる。そして、姿勢が崩れたそのチャンスを見逃すはずなく、折紙はブレイドの剣先を十香に向けて突きを出す。

 

「っ!やらせるかよ!!」

 

蓮は自分も崩れた姿勢なのにも関わらず、〈レッドクイーン〉の刃を十香の前に出し、ブレイドを弾いた。それによって十香への攻撃は防ぎ、蓮と折紙が少しよろめく。十香を守れたことに一先ず安堵する蓮だったが、攻撃を防がれた折紙の顔にはほんの僅かな笑み(・・)があった。

 

それに蓮が気がついたのと同じタイミングで折紙は動いた。自分自身もよろめいているなか、ワイヤリングスーツの腰部に装着されている電子機器に手を伸ばす。それはまるで手錠かガントレットにも見えるもので、緑色のランプが付いている。

 

「おごっていたのはあなたの方。それが自分の足元をすくう」

 

折紙は腰についていた"それ"を掴み、投擲した。その狙いは蓮の左手首。蓮自身はなんとか避けようとするが、今の体制ではまともに動けない。投げられたガントレットは、折紙の狙い通り、蓮の左手首に命中し手錠のように装着される。それと同時に緑色のランプが赤色へと変わった。

 

「何を、ぐっ!?」

 

何をしたのか、そう聞こうとした瞬間、左手が…いや、左手首にある機器がまるで重りへと変わったように重くなり、蓮は左手首を起点に地面に縛り付けられた。なんとか動こうとしても立ち上がることすら出来ない有様だ。

 

「レン!?どうしたのだ!?」

 

「十香!こっちは気にしなくていい!前を見ろ!!」

 

後ろから聞こえてきた十香の声にこう答えると、他の三人にも『十香を助けろ』と目で伝える。今の蓮の体勢では後ろを向く事が出来ず、剣の打ち合う音だけが聞こえる状態だ。

 

(あの女ぁ…本当にやってくれる…!)

 

戦闘の音だけが聞こえ、自分は何も出来ない。そんな状況を作り出した折紙に恨み言を述べ、蓮はこの状態を脱出する方法を模索し始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こんな筈じゃなかった。ジェイク・メイザースは今の状況を見てそう思った。

 

正体の分からない腕に剣。これを始めて手にした時、ジェイクはこれらを内心嫌い、恐れた。怖いから嫌って、分からないから怖い、そんな子供じみた理由で。だが、もしも…この力を使うとき…これらを使わざる得ない状況になった時(・・・・・・・・・・・・・・)、絶対に後悔しないと決めていた。

 

たとえ、この力で誰かを殺すことになっても、知り合いの誰かにこの腕を見られ、自分を見る目が変わっても。結果に後悔だけは絶対にしないようにしていた。その筈なのに。

 

「クソッ!クソッ!」

 

この場に縛り付けられて数分後。蓮は必死の形相で、手首に装着されたガントレット機器を右手に持った〈レッドクイーン〉で斬りつけていた。最初は回路を弄って電源をオフにしようとしたが機器の装甲を外す事が出来ず、仕方なしに力尽くで破壊しようとするが上手くいかない。

 

最初の作業で感じた事だが、今装着されているこれは外からの衝撃に強い設計になっているのだろう。現に〈レッドクイーン〉で何回も斬りつけているのに対し、少しの傷がついた程度の損傷だ。

 

(こんな事してる場合じゃないんだ…。十香達が…)

 

背後では十香達と折紙が命を懸けて戦っている。その音を自分はただ聞いているだけ。その事実が蓮の心に焦りと苛立ちを生んでいた。何も出来ないでいる、それが許せない。

 

とはいえ、このまま斬りつけていても壊す事ができるのはかなり先になる。その時にはもう戦闘は終わっているだろう。そこまで待っていられない。

 

(どうすれば…どうすればいい…)

 

顔を動かして、この状況を脱出できる方法を模索する。すると、その視界に縛り付けられている左手首が入る。それを見た瞬間、蓮の頭に一つの方法が浮かぶ、それは文字通り身を削る(・・・・)策だった。

 

(十香、お前は罪な奴だ。俺にここまでさせても守りたいって思わせるなんて…)

 

小さく笑い、蓮は〈レッドクイーン〉を振り上げると、力一杯振り下ろす。その狙いはガントレット機器ではなく、僅か横にズレたものだった。

 

 

 

 

「鳶一…折紙!」

 

正面にいる折紙の名を、十香は憎悪を込めて呼ぶ。今、傷だらけの身体で膝をついている十香の後ろには、十香以上に傷だらけの美九が倒れている。その少し右には耶具矢、反対側には夕弦が倒れていた。三人とも死んではいないものの、裂傷や打撲の痕と満身創痍な有様だ。

 

「私は取り戻す…今までの自分を…精霊を憎み、倒す事に全てを捧げていた私を…」

 

正面に立つ折紙は、十香にそう言うとレイザーブレイドを構えて飛び出す。十香は咄嗟に鏖殺公(サンダルフォン)を構える。この場を動く事が出来ない以上、そうするしかなかった。そして、折紙は手に持つブレイドのリーチまで近づいた時、視界の端に何かが自分の方に向かってくるのが見えた。

 

「ッ!?」

 

反射的にブレイドを縦に構え、防御の姿勢をとった。同時にブレイドに凄まじい衝撃が走り、折紙は大きく吹き飛ばされる。

 

「一体…何が…!」

 

受け身を取り、前を見た折紙は自分の目を疑った。そこには十香を守るように前に立つ蓮の姿があった。ただ、息は大きく乱れ、鬼の形相で折紙が睨んでいる。

 

「…あり得ない…一体どうやって…」

 

あの状態からどうやって脱出したのか、折紙はさっきまで蓮のいた場所に目を向ける。しかし、それより早く十香には理解できた。蓮の左腕…数分前には制服の裾から出ていたはずの左手が無いのを見て(・・・・・・)

 

「レン…まさか…そんな…」

 

その事実を見た十香は、目を見開き、悲しみの表情で身体を震わせる。折紙も現場に残されたもの(・・)を見てどうやって脱出したのか理解した様子だ。

 

「…私はあなた士道と同じ、この事に巻き込みたくない人物だった。だが、あなたはそんな代償を払ってでも私の前に立つ…。その痛み以上に、何を恐れているのかが私には理解出来ない…」

 

「…痛覚と出血は傷口を凍らせて止めてある。だが…折紙(・・)…お前が十香達を殺したっていう痛み(・・・・・・・・・・・・・)には慣れそうに無いな…」

 

十香達が死ぬのが最大の痛みだと蓮は言う。暗闇にいた自分に見えた、たった一筋の光。それを守りたいという気持ちは、家族を殺され、復讐心に駆られた折紙にすら理解出来ないだろう。そのためには全てを捧げる覚悟も。

 

 

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