デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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63話

今まで、誰かを大切に思う気持ちなんかとは無縁だと思ってきた。自分が誰かに慕われ、想われる事はあってもその逆はあり得ない。そんな考えも気付かない内に解け、変わっていった。

 

(なるほど…セシル、お前達の気持ちがやっと分かった…)

 

折紙()が目の前にいて、左手首を切断したというのに蓮はある事を思い出していた。約半年前に、蓮と折紙のいたAST駐屯地を襲撃してきたイギリス出身の三人の魔術師(ウィザード)。セシルとはその三名の内の一人の名前だ。最初はASTの部隊と衝突していた彼女達だったが、蓮はある時三人の戦う理由を知った。

 

セシル達の親友とも言える魔術師(ウィザード)がDEMの反ウェストコット派の幹部の策略により、昏睡状態にさせられそれを目覚めさせるために駐屯地を襲撃したという。結果、蓮を含めた三人の人物の協力で、その魔術師(ウィザード)は昏睡状態から目覚め、セシル達との再会を喜び合った。

 

DEMに対してたった三人という絶望的な戦力差なのにも関わらず、戦う事を選んだセシル、レオン、アシュリー。狂信とは違う誰かを守りたい、助けたいというその思い。その美しい心を蓮はようやく理解出来た。

 

「理屈じゃないんだな…。俺の苦手なタイプの奴だ…」

 

小さく呟くと、蓮はいきなり、右手に持つ〈レッドクイーン〉を折紙に向けて投擲した。予想もしなかったその行動に折紙は珍しく表情を変え、素早くブレイドを構えをとり剣を弾き飛ばして防御する。

 

「一体何を考えて…!」

 

自分の手にあった武器を捨てる理由が分からず、疑問の声を出すがそれはすぐに理解できた。〈レッドクイーン〉が弾き飛ばされた場所…折紙の正面に蓮は剣が地面に落ちる前に、再び右手に剣を収めた。

 

「死ね…!死ねぇ!!」

 

剣をとった蓮は、守りの体勢のままの折紙に容赦のない剣撃を叩き込む。それは折紙の命を消す事が目的のものだった。

 

(さっきまでとは違う…雰囲気が変わった…!?)

 

攻撃に転じる事ができず、苦悶の表情で守りに徹する折紙。ブレイドから伝わる〈レッドクイーン〉の衝撃はさっきと比べて早く、そして重い。その剣を振るう蓮の目は、ただ折紙だけを見つめ殺意に満ちていた。

 

それはまるで野生動物に似た状態だった。野生では普段は穏便で大人しい草食動物がライオンなどの肉食動物に立ち向かう時がある、その時は自分の子を救う場面。自分の大切な存在を守る時は命を顧みず、全てをかけて挑む。

 

「消えろ!死ねぇ!!」

 

今の蓮はまさにそれだった。自分を目覚めさせてくれた光を守るため、躊躇い、恐怖、戦いにおいてマイナスとなる感情を捨て、精神の爆発とも言える力を解放させている。自分への真っ直ぐな殺意、これを感じた折紙の背筋が冷たくなるのを感じた。

 

随意領域(テリトリー)で動きを封じようと考えるが、この状態の蓮にはそんな隙すら命取りになるような気がした。その迫力に押され、折紙は後退し続け、その歩数分、蓮が進んでいく。

 

(私が押されている…!あなたは一体何者…)

 

その疑問に気を取られた事がミスを生んだ。ゆっくりと後退する折紙は、地面にあった瓦礫に足を引っ掛けその場に尻餅をついてしまう。当然、蓮はその隙を見逃すはずがなかった。

 

「死ねェぇぇぇえぇ!!!」

 

蓮は確実に折紙の息の根を止めるため、剣を大きく振り上げる。しかし、折紙も攻撃の止んだその隙を見逃さなかった。確実に攻撃の来ないと確信したそのタイミング、そこで随意領域(テリトリー)を操作、蓮の動きを止めると同じく随意領域(テリトリー)で強化した蹴りで蓮を目の前から吹き飛ばす。

 

「はあ…はあ…危なかった…」

 

乱れた呼吸の中、頬を伝う汗を拭う。吹き飛ばした蓮を見てみると、折紙から数メートルの場所で〈レッドクイーン〉を杖のように使い膝立ちの状態で折紙を睨みつけていた。今、蓮には膝立ちどころか十香達、精霊すら倒れ伏すほどの重力が襲っているというのにそれに屈しないその姿は、随意領域(テリトリー)で拘束してるのにも関わらず、折紙を警戒させる。

 

とはいえ、動けないようにさせているのは確かだ。折紙は立ち上がるとその視線を倒れている十香達に向ける。

 

「長かった…これでようやく始める事が出来る…。世界の精霊は私が倒す…二度と私のような人間が生まれないように…」

 

自分に言い聞かせるようにそう言うと、十香達のいる方角に歩いていく。その姿は十香には鈍色の輝きを放つ死神に見えた。だが突如、殺伐としたこの場に合わない笑い声が響き渡る。

 

「くく…はははははっ!!」

 

その笑い声は蓮が発したもので、折紙はこの状況で気が狂ったのかと思ったが蓮は自分が笑った理由を話し出す。

 

「まだそんな綺麗事言ってんのかよ…!正直に話したらどうだ?十香達は自分の親を殺した仇に向かうやる気を思い起こさせるための踏み台…道具にしか過ぎないって!」

 

折紙の理念を笑うその言葉。それを聞いた折紙は、蓮を鋭く睨みつけその方向に歩みを変えた。自分の方に向かって来る折紙を見て、蓮は内心ほくそ笑んだ。

 

(そうだ…こっちに来い…。十香達から…少しでも遠ざけるんだ)

 

自分に怨みが向けば、その間は十香達が安全になる。そう考えての発言だった。それを知ってか知らずか、折紙は蓮の前まで来ると胸ぐらを掴み、蓮を上に向かせる。その行動にゴホッゴホッと蓮は咳き込む。

 

「さっきの言葉を…撤回してほしい…」

 

「殺しあう場で嘘をついてどうすんだよ…。そんな自己犠牲の台詞も聞き飽きて…がぁ…!」

 

蓮が話している途中なのにも関わらず、折紙は蓮の喉を掴み締め上げる。それによって、蓮の表情は苦しみに染まり、まともに呼吸が出来なくなる。だが、それを見て動いた人物が二人いた。

 

「蓮を離せぇぇ!!折紙ぃぃぃ!!」

 

「激昂。マスター折紙といえどそれは許しません!」

 

全身の至る所から夥しい量の血を流しながらも、目を血走らせ、悪鬼の表情で折紙に槍先をむける耶具矢と、傷だらけで大量の痣を浮かべた痛ましい姿で珍しく声を張り上げる夕弦。その手にはペンデュラムが握られている。

 

「くっ…」

 

耶具矢と夕弦。二人の不意打ちは随意領域(テリトリー)を抜け、それぞれCRーユニットの一部を傷つける。しかし、折紙が眉を寄せると同時に二人の身体は地面に落ちた。見えない手に押し付けられるような力の中、這ってでも動こうとする二人だが、身体を持ち上げる事すら出来ない。

 

「耶具矢はともかく…夕弦は、お前の事…尊敬してたよな。そんな奴を…そうする、なんて随分と…情がない奴だな」

 

喉を絞められながらも、蓮は折紙の事を嘲笑う。それを聞いた折紙は、歯をギリィと噛みしめると蓮の顔を右手で殴る。随意領域(テリトリー)で拘束しながら何度も。

 

「黙れ…!黙れ…!黙れ!!」

 

一心不乱に殴り続ける折紙に対して、蓮はされるがままに殴られ続ける。

 

「やめろ!やめろ!レンは関係ないだろう!!鳶一 折紙!!」

 

「折紙!!蓮を離せって言ってるんでしょ!」

 

「制止。もうやめてください、マスター折紙。それは以上は蓮が死んでしまいます」

 

十香達三人の声が聞こえてないのか無視しているのか、折紙は止まる事なく殴り続けた。その腕が止まったのは、折紙も肩で息をし、蓮の白い肌が赤く染まり、口内を切ったのか口の端から血を流した時だった。

 

「ゴホッ…効き目のないパンチは何発も、重ねても無駄だ…。勝負は一発で決めるもんだ…」

 

そんな言葉と共に蓮は血の混じった唾を吐き出し、折紙の頬に当てる。その瞬間、折紙は我を忘れた。衝動のまま左手にブレイドを持つと、それを蓮の右脇腹に突き刺す。傷口から吹き出した血が、蓮の着ている制服を真っ赤に染める。

 

「ぐぁあああああ!!!」

 

蓮でもブレイドが身を貫く痛みを噛み殺すことは出来なかった。苦痛の声を上げ、傷口を抑えながら地面に横たわる。縦になった世界には、涙を流しながらも自分に何かを言う耶具矢と夕弦。そして涙目で必死に身体を動かそうとする十香が見える。

 

そして、ブレイドを逆に持ち、剣先を自分に向ける折紙の姿も。

 

(か……ぐ…や……ゆ…づ…る…)

 

ハッキリしない視界に映る瓜二つの姉妹。そして、自分を変えてくれた少女に目を向けようとした時、その少女の身体が目映く輝き始めた。気絶している美九以外の全ての視線がそこに向けられる。

 

(と……お……か…)

 

蓮はその少女の名前を思いながら、先のない左腕を光に伸ばす。そこには紫色の甲冑と、淡い輝きを放つスカートを纏った"姫"がいた。

 

その姿を見たのは今年の四月が最後だったと思う。先ほどまで纏っていた限定的なものとは違う、見るものを圧倒する絶対的な威容に満ちたその姿。霊力を封印される前の完全な霊装を身に纏う十香がそこにいた。

 

(ああ…そうか…。そういうこと…か)

 

十香がなぜその姿になったのか、それを理解した蓮は目を閉じ意識を闇の中に沈めていった。意識を失うその瞬間、近くに立っていた折紙が自分から離れていくのを感じながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

誰かが呼んでる気がする。はっきりしない意識の中、蓮はそう感じた。自分が気を失ってどれほど立ったのだろう、一分か、それとも一時間か。それほど時間の感覚が曖昧だった。

 

「…を…ませ…。お…る…だ!」

 

その声のおかげで、自分がどういう状態なのか思い出してくる。なんとか重い瞼を開けると、倒れている自分を覗き込むように見ている四人の少女の顔があった。その四人は共通して、傷だらけなのと、今にも泣き出しそうな表情だった。

 

「とお…か、かぐ…や…、ゆ……づ…る…、み…く…」

 

蓮が自分を見つめる少女たちの名前を呟くと、悲しみの表情から変わり、喜びの混じった顔になり各々呼びかけてくる。

 

「歓喜。蓮の意識が戻りました!」

 

「レン!しっかりしろ!私達の事が分かるか!?」

 

「気をしっかり持ってください!目を閉じちゃだめですよぉ!!」

 

「もう…心配させんじゃ…グス、ないわよ!生きてるなら…早く起きろっての!」

 

最後の耶具矢は、涙を流し、つっかえながらの言葉だった。それを微笑ましく思いながら十香に気になった事を聞く。

 

「大丈夫。意識がはっきりしてきた…。十香、折紙はどうなった?」

 

「あいつは剣の腹で思いっきり切り殴りつけてやった。だが、死にはするまい。それより!今心配すべきはお前の方だぞ!」

 

今の蓮は顔の殴打、左手首の切断、さらに右脇腹からの出血とこの場にいる誰よりも重傷だった。なのにも関わらず見る者を安心させるような笑みを浮かべる。

 

「よかった…見た感じ、俺より重傷な奴はいなさそうだな。悪い、お前たちを…守りきることが出来なくて…」

 

「何を言っているのだ!!レンは守ってくれたではないか!!こんな状態になってまで…」

 

十香の瞳から溢れた涙が、蓮の頬に落ちる。溢れ落ちるそれを一本だけとなった腕の指で拭い、頬に手を添えた。

 

「泣くなよ、十香、耶具矢も…。可愛い顔が台無しだぞ…」

 

こんなボロボロになっても軽口を言うのが何とも蓮らしかった。それに各々が安心する笑みを浮かべる。

 

「提案。一先ず琴里の元へ向かうのが良いと考えます。蓮の傷は夕弦達の手に負えるものではないと思いますし」

 

「で、でもぉ…今の蓮さんを動かして大丈夫なんでしょうかぁ?まだ血も止まってないのに…」

 

蓮の腹部から出る血を見た美九が心配の声を出す。傷口からはまだ少量だが出血が続いていた、そんな状態で蓮の身体を動かす事に不安を感じたのだろう。それを聞いた蓮は右手を掲げる、すると、その手に一つの剣が握られる。薙刀のようなものの柄頭が合わさり、両剣のような形をした剣、〈トナティウ〉だ。

 

「疑問。そんなものを取り出してどうしたのですか?」

 

「強引だが…仕方がないか…」

 

蓮は〈トナティウ〉を操作、剣の柄を縮ませる。結果、剣の全長は短くなった。それと同時に刃の部分に陽炎が揺らめき始める。この場にいる蓮以外の全員がその意図を理解出来ない。

 

「誰か、腹部の傷口を見えるようにしてくれ。制服を破っても構わないから…」

 

蓮の頼みに顔を見合わせる四人だったが、十香はその頼み通り、制服を破き傷口が見えるように露出させる。そこは赤黒く染まっており見るのも痛々しい状態だった。

 

そんな状態の傷口に蓮は何を思ったのか、熱を放つ〈トナティウ〉の刃を押し付けた。

 

「うぅぅぅ!!!ぐああぁぁぁ!!」

 

「驚愕。何をしているのですか!?」

 

「みんな!やめさせるぞ!!」

 

蓮の苦しみの声と肉が焼ける音、そして、鼻に付く独特な臭いが充満する。その行動を四人は大慌てで止めさせた。十香が傷口と刃とを離し、三人が腕を抑え、剣を取り上げる。蓮の手から離れた〈トナティウ〉は光へと還り、消えた。

 

「はあ…はあ…原始的な方法だが、傷口を焼いて塞いだんだ…。消毒も兼ねてな…」

 

歯を食いしばりながら言う蓮の傷口は真っ赤だが確かに出血は止まっていた。自分が原因で動けないなら、その原因を何とかすれば良いと考えての行動だったのだが、十香達はそんなの知ったことかという様子だ。

 

「もう!蓮さんは無茶しすぎなんですよぉ!!」

 

「首肯。美九の言う通りです。血を止めるなら他の方法もあると思います」

 

そんなお説教をもらいながら、蓮は肩を借りて立ち上がる。こんな状態の身体だが、どうにか歩く事は出来そうだ。

 

「三人とも、蓮を〈フラクシナス〉に連れて行ってくれ。私は鳶一 折紙を連れてくる。一人では身動きが取れないと思うからな」

 

そう言ったのは十香だが、蓮も内心、折紙から話を聞きたいと思っていた。だが、こんな状況でそんな事を言っても迷惑な我儘にしかならないだろう。そうなると、今は大人しくして、後で聞いた方がいい。そう思った瞬間、蓮の背筋に悪寒が走った。

 

「危ない!!伏せろ!!」

 

蓮は自分を支えていた耶具矢を横に突き飛ばし、正面にいる十香に覆い被さり無理矢理伏させた。その直後、蓮が背を向けていた方向から光の粒のようなものが飛んできて、十香と蓮のすぐ上を通過、少し先の地面に着弾した。

 

「レン!?一体何が起きて…」

 

何がどうなったのかが分からない十香は、自分に覆い被さる蓮にそう聞くが蓮は答えずある方向を睨みつけていた。それにつられて他の三人もそちらを見る。そこには"天使"が浮かんでいた。

 

ウェディングドレスのような形をして、大きく広がる白いスカート。そして頭部を囲うように浮遊したリングから伸びた、光のベール。それもまた白い。目が覚めるような純白で構成されたドレスのような霊装、それを身に纏っているのは…。

 

「鳶一…折紙…」

 

灰色の雲に覆われた空に浮かぶ"天使"。その顔はさっきまで人間だった少女、鳶一 折紙だった。

 

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