デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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64話

仄暗い空間に一条の光が差し、その中に浮かぶ一人の少女。その少女に疑問の声を上げたのは蓮ではなく十香だった。

 

「鳶一 折紙、貴様!その姿は…」

 

その声を聞いた耶具矢、夕弦、美九も眉を潜めながら目を見合わせた。

 

「やっぱり…折紙よね?」

 

「確認。やはり耶具矢にもそう見えますか」

 

「ですねー…でもあの姿って…」

 

だが、そんな事も言ってられなくなる。なぜなら宙に浮かぶ折紙が右手を掲げ、その天使の名を呼んだからだ。

 

「〈絶滅天使(メタトロン)〉…」

 

折紙のその言葉に応ずるように、暗い空から折紙を囲うように光が降り注ぎ、やがて実像を帯びていく。そして、それぞれが無機的な細長い羽のような形をとる。それは折紙が掲げた右手を握るとその頭上で王冠のように円状に連なった。

 

「〈絶滅天使(メタトロン)〉…【日輪(シュメッシュ)】」

 

折紙が静かに告げると、頭上に浮かぶ王冠が回転し、周囲に夥しい量の光の粒を振りまく。それは、さっき十香と蓮のすぐ上を通過したものと同じものだった。

 

「何が、どうなってんだよ!!」

 

蓮は予想も出来ないような出来事の連続に苛立ちの声を上げると同時に右手を〈バスター〉に変貌させ、地面を殴る。すると、青い光を放つ巨大な拳が五人を包み込み、光の粒から守った。

 

「懸念。あまり無理は…」

 

「大丈夫…大丈夫だ。これくらい…」

 

夕弦の不安の声に問題ないと答える蓮。五人がいる場所以外は霊力の塊の光が降り注ぎ、破壊されていく。見慣れていた景色が一瞬で変わっていく事からその威力は想像出来た。

 

数十秒後、光による蹂躙は止まり、付近に土煙が舞う。その中で青い拳に包まれ無傷な五人を見た折紙が忌々しそうに顔を歪めるのが確認できた。それを気にせず、蓮は〈バスター〉を解除すると周りにいる耶具矢、夕弦、美九を見た。

 

「耶具矢、夕弦、美九。今度こそここを離れろ。俺と十香はあいつと戦う」

 

「反論。ダメです、蓮も一緒に連れて行きます」

 

精霊となった折紙は強大な力を持っている。夕弦もそれは理解出来たが蓮自身までこの場に止まる理由が分からなかった。どうやらそれは他の二人も一緒らしい。

 

「馬鹿!私たち以上に重傷なのに何を…」

 

「そうですよぉ!十香さんも連れてみんなで…」

 

「…多分、折紙はこのまますんなりと逃してはくれない。今、この場で勝てそうなのは十香ぐらいだ。俺はそれを手伝わなくちゃならない」

 

十香はすでに立ち上がり、手に持つ〈鏖殺公(サンダルファン)〉を折紙に向けて構えている。蓮はさっき、折紙の攻撃を防ぎきった。蓮以外にそんな事が出来るのは、この場では完全に霊力を取り戻した十香ぐらいだろう。悔しいことに耶具矢、夕弦、美九にはそんな事できる自信がなかった。

 

「理解。分かりました、…ご武運を…」

 

「…なんでこういう大事なところで…役に立てないのよ…私は…」

 

「え、ちょっと二人とも!蓮さんと十香さんを置いて…きゃっ!?」

 

さっきとは違い、今は言い争っている余裕もない。耶具矢と夕弦は納得出来ないと言った様子の美九を両脇から抱えて、そのまま身体に風を纏わせ凄まじいスピードで空に飛んで行った。折紙はそちらに興味を示さなかった。

 

「夜刀神…十香。倒す、私が…」

 

「…っ!折紙…貴様…」

 

今の折紙は、もう十香の知っている折紙ではない『精霊』という存在となった。その実力も目の当たりにして油断の出来ない相手だと理解した。『怖い』今の十香はそんな心境だった、だが…。

 

「十香、落ち着け。折紙の天使の能力が少しだけ分かった。俺がお前を守ってやる」

 

隣から聞こえた冷静でありながら、聞いた十香を安心させるその声。隣でしゃがんでいる蓮の言葉だった。今の自分は一人ではない、それが十香に恐怖を吹き飛ばす勇気をくれた。

 

「レン、教えてくれ…。私はどうしたらいい…」

 

「俺はこの場から動けない。だから十香、お前に動いてもらうしかない。十香が近づいて折紙の顔をぶん殴る。分かったか?」

 

「…うむ!よく分かったぞ!」

 

元気の良い返事と共に十香は折紙に向かって飛び出していく。地面を走って向かってくる十香を見て、折紙は右手を掲げ、先ほどと同じ霊力のこもった光の粒を雨のように十香に降らす。前から向かってくるそれを見ても十香の走る速度は変わらない。

 

当然、真っ直ぐに十香へと向かうのだが、十香に当たる直前、不自然に曲がり(・・・)十香のすぐ横に着弾した。当たり前だが折紙がそうするようにした訳ではない。

 

「攻撃が曲げられた…!今のは…」

 

十香が向かってくるのも忘れ、攻撃が曲げられた事に動揺する折紙。そして、彼女は気づいた。十香の周りにキラキラとまるで見えない鏡のようなもの(・・・・・・・)が光を反射しているという事に。

 

「まさか…!」

 

折紙の頭にある可能性が浮かび、ある方向に顔を向ける。そこには、さっきと変わらない位置に蓮が膝立ちでいる。ただ、その右手に籠手を装着し、十香の事をジッと見つめている。

 

(〈絶滅天使(メタトロン)〉の攻撃を…逸らした…!)

 

十香の周りに浮かぶ光るものの正体は、蓮が空気中の水分を集めて作った"鏡"だ。蓮が折紙の〈絶滅天使(メタトロン)〉の攻撃が"光"で構成されているものだと考え、ならば反射して軌道を変える事が出来ると考えたのだ。防ぐのではなく"逸らす"。それによって自分にかかる負担を小さくするのも目的に。

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

蓮に守られた十香は光の弾幕の中を恐れる事なく進み、大きく飛ぶと手に持った〈鏖殺公(サンダルファン)〉で折紙に斬りかかる。だが、剣が触れる瞬間、折紙は光となって消え、数メートル後方で出現した。これには十香と蓮だけでなく、折紙自身も驚いていた。

 

「…怪物…!」

 

折紙は嫌悪した表情でそう吐き捨てると、右手を上空に突き上げる。

 

「【天翼(マルアク)】!」

 

その言葉で〈絶滅天使(メタトロン)〉が再び折紙の元に集結すると、背中で翼のような形を作る。そして、その翼を羽ばたかせ、後方に離脱すると同時にその先端からいくつもの光線が迸り、十香に襲いかかる。

 

(攻撃のパターンを変えてきたか…!)

 

さっきまでとは明らかに威力が違うと判断し、十香を守る鏡に対応させる。しかし、対応させても鏡が防ぎきれないものが中には出てしまいそれを十香が〈鏖殺公(サンダルファン)〉で打ち払うのだが、それでも捌き切れない数発が十香の身体に命中し、顔を歪ませた。

 

(あれは完全に防ぎきれない…。どこかで十香が攻めるチャンスを…)

 

防御しきれないのでは、守りに徹するのはまずい。そこで蓮は折紙から飛んでくる一つの光線に目をつける。それが十香に当たる直前に鏡を生成、軌道を変える。さらにその軌道の先で再び鏡を作り、光線をコントロールする。

 

この量の中で光線の一つが他と違う動きをしているなど、折紙ですら気づいてないだろう。数回の反射で光線を折紙の背後まで回り込ませると、そのがら空きの背中を狙って向かわせる。

もちろん、さっきのように身体を光にして避けられる可能性もある。しかし、その時は避けられなかったとはいえ、知覚していたのに対し、今度は知覚すらしてない不意打ち(・・・・・・・・・・・・)ならどうかという考えだ。

 

その思惑は見事に上手くいった。突然の背後からの衝撃と苦痛に折紙は呆気にとられた表情と共に身体を前に仰け反らせる。

 

(神代…蓮!!)

 

何かするのを見ていたわけではない。ただ、折紙はこんな事をするのがこの場では蓮以外思いつかなかった。警戒すべきなのは、霊力を完全に取り戻した十香以上に、蓮だった。そう認識を改めると、今十香に飛ばしている光線の狙いを動けない蓮に向ける。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

十香は折紙が蓮に狙いを定め、攻撃が止まった瞬間を見逃さなかった。走った勢いのまま大きく飛ぶと、横を向いている折紙の顔面を素手で殴りつける。その衝撃で吹き飛ぶ折紙だったが、同時に〈絶滅天使(メタトロン)〉の翼から光線が放たれる。その狙いは蓮だった。

 

「レン!逃げろ!」

 

折紙が誰を狙っての攻撃か察した十香は、そう叫ぶ。だが、誰かに肩を借りなければ歩くこともままならない蓮が、急なその攻撃を身軽に避ける事など出来るはずがない。

 

「ちいっ…動け…!」

 

傷だらけで重い身体に鞭を打って這ってでも動こうとするが、なかなか言う事を聞かない。仕方なしに蓮は右腕で身体を支えると、前の方に身体を乗り出させて移動させた。動けた距離は僅かだが、どうにか急所に当たらないようには出来た。しかし、〈絶滅天使(メタトロン)〉は腹部…傷口のあった右脇腹部を抉っていった。

 

「うあぁぁぁぁ!!!!」

 

身体中を駆け巡る苦痛に、蓮は傷口を押さえて倒れこむ。痛みで視界が滲むなか、自分の右手を見てみると血でべっとり濡れていた。一度塞いだ傷口だからこそ、大量の血が出てきたのかもしれない。そのせいでついには身体に力が入らなくなってきた。

 

(十香を…守るんだ…意識をはっきりさせろ…!)

 

苦痛のせいで十香を守っていた鏡が消えてしまったのを感じ、急いで復元させようとするがまるで脳が揺れてるかのような錯覚のせいで集中出来ない。地に倒れて、その事に悪戦苦闘していると、自分の目の前の空から落ちてくる人影を見つける。

 

「ぐ…がはっ!!」

 

それは最後に見た時以上の傷を負った十香で、顔は苦悶の表情だった。おそらく蓮が鏡の防御を消してしまったせいで折紙の攻撃を防ぐ事が出来ず、落とされてしまったのだろう。

 

「くそっ…十香…!」

 

蓮は最後の力を振り絞って身体を動かすと、落ちてくる十香を受け止めた。それによって腹部に鋭い痛みが走るがそんなものは無視する。

 

「レン…お前…血が…」

 

「それより…十香は折紙を…」

 

傷口を見て心配の声を出す十香に、自分に構うなと言って顔を上に向ける蓮だったが、その視界は光に埋め尽くされた。その理由は、動けない二人に折紙がいくつもの光の雨を降らせてきたからだ。

 

(やられる…!)

 

蓮は直感的にそう理解した。彼の戦いの勘のようなものが、自分の状態、十香を抱えている事などを見て避けられないと告げていた。その瞬間、蓮の心にある思い(・・・・)が強くなる。

 

(ここで…終わるのか…?自分が何かも分からず…十香を守ることも出来ないで…。こんな無情な世界に呑み込まれて…)

 

それはある意味戦いにおいてもっとも重要とも言える気持ちだ。蓮は今までの戦いでそれを心から思う事は無かった。だが、今は違う。

 

(嫌だ(・・)まだ終わりたくない(・・・・・・・・・)!)

 

強く思った瞬間、蓮の視界は"青い光"に埋め尽くされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

絶滅天使(メタトロン)〉の光を吹き飛ばしたのは、蓮の身体から爆発のように発された青い光だった。その勢いに、空に浮かぶ折紙も腕を顔の前に出し、後ろに後退する。

 

「一体…何が…」

 

間違いなく仕留めたと思った。十香を受け止めて動けない蓮二人に向かって〈絶滅天使(メタトロン)〉の一斉掃射。霊装を纏った十香ですらひとたまりもないものだっただろう。だが、青い光によって全て防がれるのが結果だった。

 

「・・・・・!?」

 

光が収まり、腕を退けて前を見た折紙は目を見開く。そこには蓮と十香を守るようにいる"魔神"がいた。上半身だけで大きさは五メートルほどであろうそれは、蓮の背後から出現していた。

 

青い光の粒子によって形成されたそれは、形は人型だったものの姿は全く違う。肌はまるで甲殻類の殻のような硬さを印象づけ、顔は闘牛にあるような攻撃的な一対の角がある。目は吸い込まれるような闇の中に明らかな意志を感じさせる青い光が浮かんでいた。

 

そして、腕…蓮の持つ〈バスター〉と全く同じそれには、巨大な"日本刀"のような刀が握られている。魔神が持っている日本刀は、本体である蓮の〈バスター〉となった右腕にもいつの間にか握られていた。

 

「レン…お前は…」

 

「大丈夫だ…ここで終わらせない…終わらせてたまるか…」

 

呆気にとられる十香が、疑問の声を発するのに対し、言い聞かせるようにそう言う蓮の身体にも変化があった。折紙にブレイドと光で抉られた腹部の傷口。そこが青い光で包まれると傷を負う前の健康的な肌に戻った。それは自らが絶った左手首にも起きる。

 

左袖の中が光ったかと思うと、袖から左手の形をした光が姿を見せる。それが消える頃には、切り離したはずの左腕が蓮の思い通りに動いていた。その手で十香の手を強く握る。

 

それ以外にも折紙から受けた切り傷、打撃跡などが肌から消える。そんな蓮を包むあるものを見た瞬間、折紙は全身の血が沸き立つような感覚がした。

 

「神代…蓮…!お前も…お前も!精霊だったのかっ!!」

 

十香と比べて淡く、不完全なものだったが、蓮の周りを確かに青い光を放つ霊装が包んでいた。自分の邪魔をした存在が、倒すべき敵だった事に怒りの声を出す折紙に対し、蓮は冷静だった。

 

「…そうだったらしいな」

 

自分の身体を見下ろし、まるで他人事のように言う。実際、自分の正体がどうだったなんて興味なかった。ただ、十香を守れた。それだけが何より嬉しかった。

 

折紙はまた〈絶滅天使(メタトロン)〉で十香と自分を攻撃する未来が予想出来る。ならば、この力で守る、そう心に決めた。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!!」

 

蓮の思いを理解したのか、魔神は折紙に対して威嚇とも見れる咆哮を飛ばす。向かい風のようなそれを受けた折紙は、自分の肌に鳥肌が立つのを感じた。

 

(精霊()が恐怖してる…?この殺意は…)

 

蓮が精霊だとして、あの背後に存在する魔神が十香の〈鏖殺公(サンダルファン)〉のような存在だと折紙は思っていた。だが、飛ばした咆哮には明らかな折紙への殺意があった。十香や他の精霊からは感じなかったもの、本当に自分を憎んでるような"天使"。

 

「【光剣(カドウール)】!」

 

その恐怖を紛らわすように折紙は叫んだ。同時に〈絶滅天使(メタトロン)〉散り、それぞれが独立した意志を持つかのような動きで空をかけまわり、十香と蓮に光線を放った。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

向かってくる光線に反応したのは魔神だった。大きく叫ぶと右手に持った刀で光線を一閃、攻撃全てをいともたやすく打ち払った。

 

「なっ…!?」

 

その事に折紙が驚くと同時に、魔神の周囲に青い光を放つ剣が出現する。その本数は空に舞う〈絶滅天使(メタトロン)〉の数と同じ。剣は爆発するような音と共に発射され、それぞれが光線を放つ〈絶滅天使(メタトロン)〉へと向かっていく。

 

折紙はそれらを迎撃するように〈絶滅天使(メタトロン)〉に指示するが、剣は意志を持っているかのような動きで光線を避ける。結局、一回も攻撃が当たる事なく、全ての剣が同時のタイミングで〈絶滅天使(メタトロン)〉とぶつかり、空に爆発の花を咲かせた。

 

(くっ…実力は…同じ…)

 

折紙はそう考えた、いや、精霊の折紙がそう考えさせた(・・・・・・・)のかもしれない。しかし、その予想はすぐに覆る事になる。なぜなら、爆発の中から、再び蓮の飛ばした剣が出現したからだ。その数はさっきと変わっておらず、真っ直ぐ折紙に向かっていく。

 

「何っ!?〈絶滅天使(メタトロン)〉!!」

 

折紙は〈絶滅天使(メタトロン)〉を自分の所に戻すと、向かってくる剣に向かって光の粒を降らす。どうにか手数で勝負しようとしての考えだったのだが、剣はそれをものともせず向かっていく。

 

剣はそれらをかいくぐり、折紙に剣先を突き立てようとするのだが、その直前で折紙の身体は光と消える。その折紙がいた場所を他の剣が虚しく通り過ぎて行った。

 

そこから少し離れた場所に折紙は再び現れるのだが、折紙が消えて、攻撃が外れても剣は戦う意志を捨てなかった。直角的な動きで方向を変えると、光が集まる場所に向けて飛んでいく。そして、姿を現した折紙の目の前に剣先を見せたのだった。

 

(これでも…避けられない!!)

 

そこで右手を前に出したのは咄嗟の行動だった。折紙の前に〈絶滅天使(メタトロン)〉が盾のように連なり、剣から守る。しかし、それはその場しのぎの行動にしかならなかった。

 

次々と〈絶滅天使(メタトロン)〉の盾に剣が突き刺さっていく。二本目、三本目と重ねるたび、盾にダメージを重ねさせる。そして、四本目でそれは起きた。剣が刺さった瞬間、盾がバラバラに砕け散り、その後の攻撃を許してしまう。

 

五本目…六本目以降が霊装を砕き、折紙の身体に傷を刻んでいく。全てが通り過ぎた後、折紙は全身から血を垂れ流し、肩で息をするほどに消耗している状態だった。

 

「あなたは…私が殺す…神代 蓮!!」

 

「させないさ…お前の好きなようには…」

 

折紙は〈絶滅天使(メタトロン)〉を王冠型に戻すと、その先端を蓮達に向けてくる。それに対し、魔神は居合いのような剣先を下に向ける構えをとる。互いが勝負を決める一撃を出そうとしているのだ。

 

「折紙!私たちとお前は…本当に分かり合えないのか!?」

 

「…ッ!何をいまさら!」

 

声を上げたのは蓮の隣にいた十香だ。それを聞いた瞬間、折紙は顔を悲壮に歪めながら返した。

 

「私の意志は変わらない…。精霊は全て、私が否定する!」

 

「…十香、後ろに下がってろ。あれが折紙の答えだ」

 

もはや話し合いで解決する事は出来ない。蓮は十香を後ろに下がらせる。同時に魔神の持つ剣に光が収束し、解放を訴えるかのように刀自体が震える。これを抜いた瞬間、溜めた力が折紙に向かっていくだろう。

 

「俺の守りたいものはお前の壊したいものでもある。それが変わらない限り、和解はあり得ない。そうだろ?」

 

静かに言う蓮に、折紙は同じとばかりに頷くと、両手を前に掲げる。すると、〈絶滅天使(メタトロン)〉の先端に純白の光が集まる。天と地の二つの大きな力が放出されるその瞬間。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

場に聞き覚えのある声が響き渡る。声の聞こえた方向に目を向けた折紙、蓮、十香は、目を見開いた。

 

「士道…!?」

 

「士道…今までどこに…」

 

「シドー!」

 

そこには行方不明になっていた士道の姿があった。その後ろには四糸乃と七罪の姿も見える。

 

「なんで…なんでこんな事になってんだよ…!折紙!蓮!」

 

士道は顔をしかめて悲痛に満ちた声を上げるが、蓮はそれでも折紙が向かってくるなら、力の解放を止める気はなかった。だが、折紙は士道から顔を逸らすと、〈絶滅天使(メタトロン)〉を翼型に組み替え、どこかに飛んで行った。

 

そして、この場には折紙の名を叫ぶ士道の声だけが響き渡る。

 

(結局…こんな…終わり方かよ…)

 

飛んでいく折紙が、目視出来ないところまで飛んで行ったのを確認した瞬間、蓮の全身がとてつもない疲労感のようなものに襲われる。同時に背後の存在する魔神は霧散して消滅し、右手に持つ刀も右腕と一体化するように消える。

 

両膝をつき、地面に倒れようとする蓮を近くにいた十香が慌てて支える。

 

「おい!しっかりしろ!レン!レン!」

 

睡魔にも似た感覚に意識がぼやけてくる。最後に自分に呼ぶ十香と、こちらに走ってくる士道、四糸乃、七罪の姿が見えた。

 

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